新型コロナウイルスの拡大で一気に火がついた健康志向。多くの人々がジムに通い、サプリメントや健康食品を摂取するようになったことで、健康に向けた市場も拡大し、さまざまなサービスや製品が登場している。そのなかでも特に今後注目されていくと予想されるのが、個々人に合わせたサプリメントや栄養素のパーソナライズだ。

その先駆けとして、約600億通り・32の栄養成分から自分専用の組み合わせを実現し、特許取得済みの3Dプリンターで製造するサプリメントグミ「NOURISH3D」が、2023年8月に日本に上陸。2024年1月18日〜2月5日には日本初のポップアップストアを渋谷スクランブルスクエアで開催した。このサプリメントグミはイギリス初のスタートアップ起業、Rem3dy Healthが開発・提供している製品で、2020年の販売開始されて以降、累計600万個以上を売り上げるなど、欧米を中心に大人気になっている。

今回は、Rem3dy Health CEOのメリッサ・スノーヴァーさんに、NOURISH3Dのサービス立ち上げのきっかけや食の領域におけるパーソナライズの未来、そして女性起業家として大切にしていることなどについてインタビューを行った。

Rem3dy Healthのメリッサ・スノーヴァーCEOにインタビュー
Rem3dy Healthのメリッサ・スノーヴァーCEOにインタビュー【撮影=樋口涼】


イギリス発!NOURISH3Dとはどんなサプリメント?

――まずは貴社が展開する事業について教えてください。
【メリッサ・スノーヴァー】私どもの会社では、パーソナライズされた健康食品を作っています。基本的に製造に特許を取得した3Dプリンターを活用し、ユーザー一人ひとりに合わせてカスタマイズされたサプリメントグミを提供しています。

――NOURISH3Dの概要とサービス立ち上げの背景、サービスへの想いについても教えていただけますか?
【メリッサ・スノーヴァー】ユーザーに日々の生活の中でのメリットを感じていただき、普段の生活に価値を見出してほしいという考えのもとにこのサービスを作りました。一人ひとりの人間は唯一無二な存在ですので、それぞれがその日々の中でのライフスタイルや描いている目標などに向かって、よりよい生活をしていくためのサポートができるような商品を開発しようということで、このサービスを考えたわけです。

【メリッサ・スノーヴァー】渋谷スクランブルスクエアで期間限定のポップアップストアを企画し、ユーザーのみなさまと直接接するような機会を設けましたが、普段はオンラインですべてのサービスや製品を提供させていただいています。

【メリッサ・スノーヴァー】弊社サービスの公式サイトにはアンケートが設けられています。アンケートに答えていただくと、回答者が必要とする7種類の成分がレコメンドされます。成分は全部で32種類あるのですが、アンケートの結果からその人に最適な7種類が選ばれます。最後に、3Dプリンターでサプリメントグミが製造され、毎月それぞれのご自宅に発送されるという仕組みになっています。

サプリメントのパーソナライズに着目した理由を語るメリッサ・スノーヴァーさん
サプリメントのパーソナライズに着目した理由を語るメリッサ・スノーヴァーさん【撮影=樋口涼】

――そもそも、サプリメントのパーソナライズに着目した理由は?
【メリッサ・スノーヴァー】3Dの技術をパーソナライズな製品に応用しはじめたとき、ユーザーにとってより楽しめるようなものを作りたいという考えにいたりました。サプリメントや栄養関連製品に関して、楽しいアプローチが取れるほうがユーザーによりアピールできるのではないかと思い、サプリメントのパーソナライズに着目しました。

【メリッサ・スノーヴァー】私は20代のころからビタミン剤や青汁など、さまざまな栄養食品やサプリメントを大量に摂取していたので、旅先や出張先にこれを全部持っていく手間を考えると、より簡単に摂取できる形やサイズのほうがメリットがあるのではないかと考え、3Dプリンターで個々に合わせたサプリメントグミを作るという発想にいたりました。

――次に、グミという形状を選択された理由についても教えてください。
【メリッサ・スノーヴァー】常に使っていただけるようなタイプの形状でないとユーザーが継続できないと考えたのが一番の理由です。栄養を毎日摂取するためには、楽しみながらやっていただく必要があるのですが、錠剤を飲むのは必ずしも楽しいことではありません。見た目や味わいに楽しさがある製品のほうがいいと思ってグミを選択しました。その結果、ユーザーの9割の方に製品を毎日食べていただいております。

「常に使っていただけるようなタイプの形状でないとユーザーが継続できないと考えた」ことがグミにした一番の理由
「常に使っていただけるようなタイプの形状でないとユーザーが継続できないと考えた」ことがグミにした一番の理由【撮影=樋口涼】

メリッサさんが考える、パーソナライズの将来

――食の領域でのパーソナライズというものが、今後私たちの生活をどう変えていくと考えていますか?
【メリッサ・スノーヴァー】今後5年間でサプリメントと栄養食品の分野が今以上にさらに拡大していくと私は予想しています。機能性食品や栄養食品が、私たちの日々の食事の中により組みこまれていく形になるのではないかと考えています。

【メリッサ・スノーヴァー】現在、パーソナライズされた商品はまだまだ少ないですが、パーソナライズの市場はどんどん広がっていき、将来的には3Dプリンターが各家庭にあるような環境になるのではないかと思います。たとえば、ウェアラブル製品が個々の健康状態や心拍数、血圧などといったデータを集積し、3Dプリンターがそのデータをもとにその人のニーズに合わせた食品を作る。そういったことができる未来を期待しています。

【メリッサ・スノーヴァー】ストレスレベルが高い人にはビタミンBやプロテインが提供されたり、よく眠れない人にはそれをサポートするための栄養素が提供されるなど、私たちの普段の食事にパーソナライズのテクノロジーが組み込まれ、健康を管理するような社会になっていくのではないかと予想しています。

――貴社は創業4年目を迎え、今回は日本でのサービス展開に踏み切られましたが、急成長を続けている企業のCEOとして、今後の成長戦略、ビジョンについて教えてください。
【メリッサ・スノーヴァー】ミッションとしては、パーソナライズヘルスソリューションをより多くの人に、より多くの形態で提供すること。弊社ではNOURISH3D以外にも、プロテインやペットフード、オーラルケア、スキンケアの商品なども提供しています。また、別のブランドでは、パーソナライズされた医薬品の提供も行っています。多様な製品をさまざまな形で提供することによって、より多くの人の助けになるようなビジネスに成長させていきたいと考えています。

【メリッサ・スノーヴァー】今のところ、21個の特許取得済みの技術を開発しています。多くのことを成し遂げられたと感じる一方で、同時に、より大きな責任も感じています。今後、事業をさらに拡大していきたいと思っていますので、目標を達成できるように努力しています。そのために、現在も毎日4時半に起きる生活をしています。

――毎日4時半ですか…メリッサさんのさらなるご活躍を応援しています。日本でのサービススタートから半年ほどが経過しました。日本市場での今後の展開や、ユーザーへの印象について教えてください。
【メリッサ・スノーヴァー】2023年8月にベータテストを実施し、ユーザーからすごくいい反応、大きな反響をいただきました。そこから6カ月をかけて、ユーザーからのフィードバックをもとにオンラインのシステムを改善し、2024年1月から正式ローンチという形で提供させていただいています。

【メリッサ・スノーヴァー】2024年には、日本市場でサブスクライバーを1万人獲得することが目標です。あとは、今回のポップアップストアのような店舗をセットアップするのにほかのロケーション候補がないかということで、現在ロケハンをしている最中です。あとはコンビニエンスストアやスーパーマーケットといったメインストリームの小売店で販売可能かどうかを模索しているので、それが成功すればいずれは日本にも工場の拠点を構え、日本国内での製造を検討しています。

2024年には、日本市場でサブスクライバーを1万人獲得することが目標
2024年には、日本市場でサブスクライバーを1万人獲得することが目標【撮影=樋口涼】

女性起業家が考える、リーダーに必要な資質

――メリッサさんは大学時代に起業し、以降さまざまな事業を手がけていますが、起業家として大切にしていることがあれば教えてください。
【メリッサ・スノーヴァー】23歳のときに初めて自分で会社を立ち上げて、Rem3dy Healthが4つ目の会社になります。大学時代にウェイトレスをしていたことを除くと、一度も雇われの身になったことがないので、起業家精神というものがもともと自分の中にあったのだと思っています。起業家精神とは、何もないところから何かをつくり上げて、常に何かを変えていきたいという思いだと考えています。市場がどういうものを求めているか、消費者が何を求めているのかを考えながら進んでいく、それが私のしていることです。

【メリッサ・スノーヴァー】おそらく、今後も雇われの身になることは決してないと思います(笑)。これまで会社をいくつか経営し、会社を売却して起業するという道を進んできましたが、いくつかの企業や組織からオファーを受けることもありました。ですが、企業に勤めるよりも、やはり自分の道を自分でつくっていきたいという思いが強く、そこに大きな価値を感じています。

――23歳からずっと起業家としてキャリアを積み重ねられたのですね。メリッサさんが仕事において、そしてリーダーとして大切にしていることを教えてください。
【メリッサ・スノーヴァー】私にしかできないビジネスによって、社会に大きな影響を与え続けられる間は、決して歩みを止めないというのが私の信条です。「私がやらなければこの事業はダメだ」と思える間は事業を継続しますし、自分が「まだまだこの会社を成長させられる」と考えらる間はリーダーとして活動します。自分が会社の成長の妨げになると感じる瞬間が来るまでは、やり続けようと思っています。

【メリッサ・スノーヴァー】リーダーをしていて一番いいなと感じるのは、さまざまな人を自分の事業に取り込んで、互いに企業のビジョンをシェアしながら、みんなで企業の成長を進めていけることです。会社に関わるすべての人が、事業を通して自分の限界を乗り越え、「もっとできるんだ」ということを実感できるようになることが理想ですね。

――お話しさせていただいて、とてもエネルギッシュでポジティブな方だと感じます。メリッサさんは仕事で失敗したり、落ち込んだりするときはありますか?
【メリッサ・スノーヴァー】誰もしたことがないことに挑戦するとき、そこには必ず失敗もあります。ですので、チームのメンバーには「失敗は決してマイナスではなく、本来そこに必要なかったことが取り除かれたと考えればいい」と言っています。失敗を経てほかの方法に切り替えることができますし、より速く目標に到達できると考えています。私もたくさん失敗していますが、できるだけポジティブに捉えるようにしています。

「失敗は決してマイナスではなく、本来そこに必要なかったことが取り除かれたと考えればいい」
「失敗は決してマイナスではなく、本来そこに必要なかったことが取り除かれたと考えればいい」【撮影=樋口涼】

NOURISH3Dの今後と、起業家としての野望は?

――女性活躍の面で、日本は課題の多い国だと感じます。メリッサさんのように女性がリーダーとして活躍するためには、日本社会にどのような変化が必要だと思いますか?
【メリッサ・スノーヴァー】リーダーシップ的な観点でいえば、イギリスやアメリカもまだまだギャップはあります。特に大企業や技術系・テクノロジー関係の企業だと女性のリーダーはものすごく少ないのが現状です。弊社のように技術系の企業の創業者が女性であることはとても珍しいケースだと思います。

【メリッサ・スノーヴァー】イギリスでは現在、若い女性に対して起業家としてのリーダーシップ精神などの教育を行っています。人生のオプションとして起業という選択肢があることを知らないと、ロールモデルが育ちません。ですので、極端なことを言えば小学生ぐらいのときから女の子たちにリーダーとしての教育をしていけば、10年後には今とは違う社会になっていくのではないかと思います。

――ありがとうございます。最後の質問になるのですが、NOURISH3Dをはじめとしたメリッサさんの今後の展望、叶えたい野望について教えてください。
【メリッサ・スノーヴァー】NOURISH3Dの事業に関しては、今後もできるだけ拡大を図り、グローバルな企業に成長させていき、パーソナライゼーションの製品ラインと各分野の製品のレンジを大きくしていくことが事業としての野望です。個人的な野望としては、この会社をすべての従業員にとってより意味のあるものにして、より大きな影響力を与えられるような企業として従業員の役に立ちたいと思っています。

【メリッサ・スノーヴァー】チームに所属する一人ひとりの人生を変えられるくらいの経験を与えられる、そんな会社にしたいと考えています。弊社では従業員それぞれが会社の株を持っています。つまり、会社が成長すれば従業員の利益にもなるので、会社を今以上に大きくしてみんなの人生を支えていき、よりよい方向へ変化させていきたいと思っています。

――メンバーのためにも、これからも毎日4時半に起きなければいけないですね(笑)。
【メリッサ・スノーヴァー】4時半に起きるのは、個人的な理由でもあるんですけどね(笑)。4時半から7時半までの3時間だけが個人的に使える時間で、それ以外はずっと仕事をしています。7時半になると仕事関係の電話やメールがどんどんくるような生活なので、4時半からの3時間だけは好きな本を読んだり、何かを書いたり、ランニングをしたりといった過ごし方をしています。まさに、私にとって貴重な時間です。

――ありがとうございます。メリッサさんの今後のさらなるご活躍を期待しています。

Rem3dy Healthのメリッサ・スノーヴァーCEOにインタビュー
Rem3dy Healthのメリッサ・スノーヴァーCEOにインタビュー【撮影=樋口涼】


この記事のひときわ#やくにたつ
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取材=浅野祐介、文=福井求、撮影=樋口涼