トイレやバスルーム、システムキッチン、洗面化粧台などを開発・製造する住宅総合機器メーカー、TOTO株式会社(以下、TOTO)が毎年開催している「トイレ川柳」。この企画は、自宅や学校、勤め先、街中などのトイレでの面白話や失敗談など、トイレにまつわるエピソードや思いを川柳形式で募集するというものだ。

2005年に第1回が始まり、2023年で19回目の開催を迎えたトイレ川柳では、過去最高となる4万692句が集まる盛況ぶりだった。そして、10月16日に結果発表が行われ、最優秀賞であるネオレスト賞に「トイレまで 追ってきた子が 出ていく日」の一句が選ばれた。

来年2024年に20周年を迎えるこのトイレ川柳は、どのようなきっかけで始まったのだろうか。そしてこの企画が多くの人に愛されるのは、どのような理由からなのだろうか。今回はトイレ川柳の発起人である、TOTO 販売統括本部 メディア推進部 企画主査 後藤久美さんにインタビューを行った。

TOTO 販売統括本部 メディア推進部 メディア推進グループ 企画主査 後藤久美さん
TOTO 販売統括本部 メディア推進部 メディア推進グループ 企画主査 後藤久美さん【撮影=福井求】


「トイレを身近に感じてもらいたかった」トイレ川柳誕生秘話

ーーまずは、トイレ川柳が始まったきっかけについて教えてください。
【後藤久美】トイレ川柳が始まったのは2005年です。ちょうどこの時期に、弊社商品のウォシュレット(R)の累計販売台数が2000万台を突破したんです。その記念として、「何かニュースになりそうな企画をやってみよう」ということになり、いろいろ考えた末にトイレ川柳という企画を発案しました。

【写真】第1回トイレ川柳集。最優秀賞は「一生で 最も世話に なる小部屋」
【写真】第1回トイレ川柳集。最優秀賞は「一生で 最も世話に なる小部屋」【提供=TOTO】


ーー後藤さんがトイレ川柳を企画されたのは、どのような理由だったのでしょうか?
【後藤久美】そうですね。日々の生活の中で、トイレの話を口にすることってあまりないと思います。家族や友達同士といったくらい近しい仲の人とでも、そこまで頻繁に話す話題ではないですよね。トイレという空間はパーソナルスペースすぎるのと、いまだにトイレに対する不浄感を抱いている人も多いことが、話さない理由ではないかと思います。

【後藤久美】ですが、当時の私は「もっと気軽にトイレのことを考えたり、話したりしてほしい」と思っていて、そのような話題の機会創出に何かできればいいなと思っていました。そして、家族や友達と一緒に川柳を作ってコミュニケーションを図るのはどうかと思い、トイレ川柳を発案しました。

第17回トイレ川柳集。最優秀賞は「トイレから 立ち上がるまた 生きていく」
第17回トイレ川柳集。最優秀賞は「トイレから 立ち上がるまた 生きていく」【提供=TOTO】


ーートイレ川柳の企画を提案したとき、周囲の反応はいかがでしたか?
【後藤久美】当時、私は広報部に所属していたので「ニュースになるくらい話題になればいいな」という思いで、担当部署や上司に提案しました。すると「いいんじゃないか?」と言ってもらえ、思った以上にすんなりと企画が通りました。今だったら「一句も集まらなかったらどうしよう」といった心配を抱いてしまうかもしれないのですが、当時はそのようなことは一切考えずにやらせてもらいましたね。

ーーすごいですね。2005年に第1回を開催された際、メディアや消費者の反応はいかがでしたか?
【後藤久美】第1回は、全国から合計1万3493件の川柳が集まる結果となりました。このおかげで私は社長賞をもらうことになりまして(笑)。当時、トイレ川柳をニュースに取り上げてくれたメディアの方たちから「トイレだからおもしろいんですよ」と言われたのが、すごく印象に残っています。

【後藤久美】当時の応募者の声については拾えていないので、みなさまがどのように感じられていたかはわからないのですが、毎年聞くのは「川柳がトイレットペーパーになっているのがおもしろい」という声です。入賞句はトイレットペーパーに印刷し、トイレットペーパー型の川柳集として、11月10日のトイレの日に発売しています。弊社のショールームをはじめ、全国の書店さんで販売していただいています。

第18回トイレ川柳集。最優秀賞は「生きている だから僕らは トイレする」
第18回トイレ川柳集。最優秀賞は「生きている だから僕らは トイレする」【提供=TOTO】


トイレ川柳の魅力は「共感」と「クスッと笑えるおもしろさ」

ーー2023年でトイレ川柳は19回を迎えました。後藤さんはトイレ川柳の魅力をどのようにお考えですか?
【後藤久美】一番の魅力は、やっぱり共感ではないかと思っています。今回、最優秀賞の「トイレまで 追ってきた子が 出ていく日」という句の作者に、どのようにこの句を思いついたのかを聞きました。

2023年に行われた第19回トイレ川柳にて、最優秀賞に輝いた作品
2023年に行われた第19回トイレ川柳にて、最優秀賞に輝いた作品【提供=TOTO】


【後藤久美】すると、作者の方は「私は50代の母親で成人した息子がいます。子どものころは甘えん坊で、私がトイレに入るとついてきたり探したりする子でした。2年ほど前、その子が社会人になって家を出ていきました。出ていく日、息子の前では泣きませんでしたが、息子がいなくなった家に戻ったとき、涙が止まりませんでした」と答えてくれました。

【後藤久美】私の場合は弟が先に実家を出たのですが、そのときに親が泣いていたことを思い出しました。そのときのことを思い出して、なんか胸にグッときましたね。

最優秀賞の受賞者に贈られる「ネオレストLS」
最優秀賞の受賞者に贈られる「ネオレストLS」【提供=TOTO】


ーー5・7・5の17文字に感動エピソードが詰め込まれていますね。
【後藤久美】先ほどのエピソードのように、共感を得られるのが最大の魅力だと思います。19回目はインスタグラムをはじめとしたSNSで告知をしたことにより、過去最高の4万692句が集まりました。今回初めて作品を送るという方もいれば、過去に何回も参加したこともあるベテランさんもいて、性別や世代を問わずさまざまな方に応募いただきました。

ーーその中から入賞作を選定するのは楽しそうであり、大変そうでもありますね。
【後藤久美】そうですね。作品の選考は毎日新聞連載の川柳コーナーの選者としても知られ、ウォシュレット(R)の発売キャンペーン広告「おしりだって、洗ってほしい。」のコピーを制作した、コピーライターの仲畑貴志さんが審査員として行っています。集まった川柳は仲畑さんが全部見られたうえで、受賞作品を決めます。

【後藤久美】集まった川柳を見ていると、開催した年の社会情勢が垣間見えるのがおもしろいですね。今回はコロナ禍の落ち着きやウクライナ戦争などがあった年なので、そのような時勢を反映した句が多かったです。

イラストやデザインは毎年異なり、第19回トイレ川柳のコンセプトはサッカーのレフェリー
イラストやデザインは毎年異なり、第19回トイレ川柳のコンセプトはサッカーのレフェリー【提供=TOTO】


ーー開催年によって内容や傾向が変わるのがおもしろいですね。
【後藤久美】話が飛ぶかもしれませんが、2005年の第1回トイレ川柳の入賞作のひとつに「ケータイで 愛を語って いるトイレ」という句がありました。このころはちょうど携帯電話が普及し始めたころだったと思いますが、この作品をあたらめて見直したときに、まさに当時の時代背景を語っていると思いました。

「クスッと笑えるのがトイレ川柳の魅力です」と後藤さん
「クスッと笑えるのがトイレ川柳の魅力です」と後藤さん【撮影=福井求】


トイレ川柳開催20年に向けて、今後の展望は?

ーー2024年でトイレ川柳開催20周年を迎えますが、ここまで企画が続いた理由はどこにあると思いますか?
【後藤久美】なんでしょうね。先ほど申し上げたトイレならではの共感や、クスッと笑えるおもしろさが社会に認められたからではないかと思います。実際にトイレって誰もが利用するものですし。だからこそみなさんに受け入れられて、20年近くも続くことができたのではないかと思います。企画当初、こんなに長く続くなんて思いもしていなかったですからね(笑)。

第19回トイレ川柳集。現在、全国の書店などで購入可能だ
第19回トイレ川柳集。現在、全国の書店などで購入可能だ【提供=TOTO】


ーー19年も続けば、もはやひとつの文化ですよね。来る20周年に向けてトライしたいことはありますか?
【後藤久美】そうですね。まだどのようなことをするかは決まっていないのですが、ぜひみなさんが楽しめるような企画を立案したいと思います。

ーー個人的な要望ですが、過去20年分の川柳をセレクトした書籍の出版をお願いします。
【後藤久美】可能かどうかは定かではありませんが、持ち帰って検討します(笑)。

「これからもトイレ川柳をよろしくおねがいします!」と話す
「これからもトイレ川柳をよろしくおねがいします!」と話す【撮影=福井求】


ーー最後に、今後のトイレ川柳の野望について教えてください。
【後藤久美】今のコンセプトをぶらさずに今後30年、40年とトイレ川柳を続けていきたいですね。今後もみなさまに愛される企画であり続けたいなと思います。そして、お客様にとって、弊社が身近な存在であり続けていきたいと思っています。そもそものトイレ川柳の発案のきっかけでもありますが、トイレの話も気軽にしていただけるようにこれからもがんばっていきたいです。

この記事のひときわ#やくにたつ
・衣食住など、誰もがすることはビジネスや企画になりやすい
・「共感」と「面白さ」が、続くコンテンツに育つための条件
・ユニークな企画はコミュニケーションを生み出す