「健康で文化的な生活を提供する」をテーマにトイレやバスルーム、システムキッチン、洗面化粧台などを製造・販売する水まわりの住宅総合機器メーカー、TOTO株式会社(以下、TOTO)。今では当たり前に使われている「ウォシュレット(R)」や「音姫(R)」などを開発し、独自のトイレ文化を生み出して世の中に貢献してきた。

そんなTOTOが現在「令和の文化を創る」を目標に掲げて取り組んでいるのは、女性ならではの健康課題に目を向け、ビデ洗浄が女性のフェムゾーンケアの選択肢のひとつとなっている状態を目指す「ビデプラスプロジェクト」だ。今回は、このプロジェクトを始めるきっかけを提示したTOTO 特販本部 市場開発第二課の丸山智美さんにインタビューを行った。

TOTO 特販本部 市場開発第二課の丸山智美さん
TOTO 特販本部 市場開発第二課の丸山智美さん【撮影=後藤巧】


プロジェクトのきっかけは「社内懸賞論文」

TOTOが推し進めるビデプラスプロジェクトとは、あらゆる世代の女性が健やかに、どんなライフステージにあっても前向きに、日々の暮らしを謳歌するために、ウォシュレットやビデを通して何ができるか考えて行動するといった思いのもと、女性が抱く健康課題をビデでサポートしようという社内プロジェクトだ。

【写真】ビデプラスプロジェクトに関わるメンバーたち。販売プロモーション推進部や商品営業推進部など、それぞれの所属はさまざまだ
【写真】ビデプラスプロジェクトに関わるメンバーたち。販売プロモーション推進部や商品営業推進部など、それぞれの所属はさまざまだ【画像提供=TOTO】


ビデの起源は諸説あると言われるが、フランス語で「bidet」という女性の身体に合わせた洗浄機能のこと。主に月経時や、産前・産後などに女性器を清潔に保つために使用されることが多い。今回のプロジェクトでは女性の体調やフェムゾーンケアを正しく理解し、世の女性たちにビデの有用性を伝えていくことにも取り組んでいる。このプロジェクト発足のきっかけになったのは、丸山さんの提出した懸賞論文だった。

「弊社には社内懸賞論文という制度があり、私は2019年度にビデについて執筆して優秀賞を獲得しました。当初はビデについて書く予定はなかったのですが、『上位に入賞して社内を巻き込んだプロジェクトを立ち上げたい』という思いと、私自身が妊娠や出産などを意識し、女性の身体について考えるようになった時期であったことが、テーマの根本にありました」

論文を書き始めたころ、女性の体調や身体の変化に向き合う機会が多かったという
論文を書き始めたころ、女性の体調や身体の変化に向き合う機会が多かったという【撮影=後藤巧】


丸山さんの論文が優秀賞に選ばれたことで、論文を読んで共感した社内のさまざまな部門の社員たちが集まってメンバーを結成し、社内でのプロジェクトがスタートした。現在、プロジェクトではビデの正しい知識を広める『ビデガイドブック』の作成・配布や、建築主やデベロッパーへのセミナー開催、Webサイト、SNSでの情報発信などを行い、ビデを広めるための活動を続けている。

ビデの使い方を説明している『New Beginning ビデガイドブック』
ビデの使い方を説明している『New Beginning ビデガイドブック』【画像提供=TOTO】


論文で目指したのは、ビデを通した健康管理

丸山さんが懸賞論文を書こうとしたきっかけには、自身の体調の変化に加えて、顧客のトイレに対する潜在的な需要を読み取ったことにあった。普段、丸山さんはオフィスビルや商業施設などを手掛ける大手デベロッパーなどへの営業をしていて、「健康管理に役立つトイレ」への期待が高いことを実感していた。そこで「女性ならではの困りごとに役立つトイレがあったらいいな」と考えたことが、論文執筆のスタート地点になった。

「論文を書き始めたころ、ちょうどフェムテックという言葉が話題になっていました。フェムテックとは、女性が抱える健康の課題をテクノロジーで解決できる商品やサービスのことです。女性がフェムゾーンをケアするといった女性の健康の話をオープンに話してもよい雰囲気ができてきたと感じ、このタイミングで『フェムゾーンケアがウォシュレットを使ってできないか』と思ったことが論文の基礎になっています」

ビデガイドブック内の「みんながビデを使うワケ」
ビデガイドブック内の「みんながビデを使うワケ」【画像提供=TOTO】

ビデガイドブック内の「ビデで洗うと?」のコーナー
ビデガイドブック内の「ビデで洗うと?」のコーナー【画像提供=TOTO】


しかし、これまでTOTOはウォシュレットのおしり洗浄については機能や用途を詳しく説明して販売してきたものの、ビデについてはほとんど説明などを行わず、その存在に触れることも少なかったという。そこで、ビデの必要性に説得力を持たせるために丸山さんが執筆の際に行ったのは、ウォシュレットの使用率を分析したデータの提示だった。

「都内のオフィスや学校、商業施設といった代表的なトイレのデータを出しました。なんとなくですが、ビデは1カ月のうち生理中の5日間から7日間ぐらいしか使われておらず、使用率が低いのではないかと思っていました。ですが、いざ調べてみると使用率が40%程度と想定より高かったので、生理以外でもフェムゾーンを清潔に保ちたいと考えている方は、私たちが想像している以上に多いのではないか、という仮説を立てて論文を執筆しました」

ビデについての調査結果を提示する丸山さん
ビデについての調査結果を提示する丸山さん【撮影=後藤巧】


また、論文では世の中の動向や、海外でのフェムゾーンケアの話なども絡めて、世界中にウォシュレットを広めるにはどうしたらいいかという観点で執筆したという。海外は日本以上にフェムゾーンケアの考え方が普遍的になっていることが多いものの、ウォシュレットの技術の最先端を走るのは日本というギャップが存在する。そこで、世界中にTOTOファンやビデユーザーを増やすために、丸山さんはじめTOTOの社員たちが今何をすべきかを提示することも目的のひとつにあったという。

ビデガイドブックにイラスト付きで書かれた「ビデの使い方」
ビデガイドブックにイラスト付きで書かれた「ビデの使い方」【画像提供=TOTO】