森永ラムネやハイチュウなど、子どもにも大人にも愛されるお菓子を製造・販売する森永製菓株式会社(以下、森永製菓)で一番古くからあるお菓子をご存じだろうか。それが「ミルクキャラメル」だ。この商品は2023年で110周年となるロングセラーで、森永製菓の創業とともに歴史を歩んできた商品だ。
 
仕事の合間やお散歩の休憩中、お出かけのお供といった場面で食べられているミルクキャラメル。ほどよい甘さとミルクのコクで、ココロとコバラを満たしてくれるのが特徴だ。1913年(大正2年)にブランドが誕生してから、箱も中身もほとんどそのままの形を現在まで保ち続けているため、パッケージを見たり実際に食べたりすると、小さいころの思い出がよみがえる人も多いのではないだろうか。
 
今でこそ誰しもが知るミルクキャラメルだが、開発当初は失敗続きでヒットとなるまでにさまざまな苦労を重ねてきたという。今回は森永製菓 マーケティング本部 菓子マーケティング キャラメル・キャンディカテゴリーマネジャーの糸岡潤さんに、商品の誕生秘話やブランドが110年続いている理由などについて聞いた。

森永製菓 マーケティング本部 菓子マーケティング キャラメル・キャンディカテゴリーマネジャー の糸岡潤さん
森永製菓 マーケティング本部 菓子マーケティング キャラメル・キャンディカテゴリーマネジャー の糸岡潤さん【撮影=福井求】

 

最初は波瀾万丈だった…ミルクキャラメル誕生秘話

ミルクキャラメルが登場したのは1913年だが、その前身となるキャラメルの発売は1899年。森永製菓の創始者である森永太一郎はアメリカで西洋菓子製法を習得した人物で、日本に帰国後に東京・赤坂の2坪ほどの土地に「森永西洋菓子製造所」を設立し、キャラメルの製造・販売を開始した。
 
「おいしくて栄養価の高い菓子を日本に広めたい、という強い気持ちでキャラメルをはじめとした西洋菓子の販売を始めました。創業者はアメリカで学んだレシピや製法を使って、日本初の国産キャラメルを発売したと言われています。当時の日本では西洋菓子がほとんど売られておらず、とても珍しかったそうです。今で言うタピオカみたいな感覚だったのでしょうね」

1913年以前のキャラメル。このころはワックスペーパーで一粒ずつ包まれていた
1913年以前のキャラメル。このころはワックスペーパーで一粒ずつ包まれていた【画像提供=森永製菓】

 
しかし、このころのキャラメルはバターやミルクを多量に用いていたため、当時の日本人にとっては乳くさく味が濃厚すぎるものだった。また、多湿の気候によってべとべとに溶けたり糖化して口当たりがざくざくになったりするなど、品質の保持性も高くなかったという。そこで乳製品を減らして柑橘系の香りをつけたり、煮詰め温度を高くして保存性を高めたりなどの工夫を行った。

1913年に発売したバラ売りキャラメル
1913年に発売したバラ売りキャラメル【画像提供=森永製菓】

 
だが、製法の改良を重ねたものの根本的な解決はできなかったそう。このころは現在のような箱売りではなく、衛生面への配慮からひと粒ずつワックスペーパーで包み、それを10ポンド缶に入れて1粒5厘でバラ売りしていたそうだ。また、1908年には「持ち運びに便利なポケット用の容器に入れてみてはどうか」というアイデアから、ブリキ印刷の小缶を発売。しかし容器代がかさんでバラ売りよりも高価になってしまい、なかなかヒットまでにはいたらなかった。
 
「1899年以降はキャラメルに使うミルクを減らしていましたが、1913年ごろになると日本でも乳製品が普及して栄養価が注目されはじめたため、思い切ってミルクの量を増やし『ミルクキャラメル』という名前で販売を始めました。これが今に続く黄色い箱の商品のスタートだと考え、1913年がミルクキャラメルの誕生年と設定しています」

1913年に誕生した「ミルクキャラメル」
1913年に誕生した「ミルクキャラメル」【画像提供=森永製菓】

 
そして1914年、東京の上野公園で開催された東京大正博覧会で、初めてポケットサイズの紙サック入りの「ミルクキャラメル(20粒入り)」を土産用として販売すると爆発的な人気に。これに自信を得て本格発売すると爆発的な売れ行きになった。また、当時は高級品だったこともあり、主なターゲットは大人。タバコの代替品としてのPRを行い、売り上げを伸ばしたそうだ。

煙草代用ミルクキャラメルの広告
煙草代用ミルクキャラメルの広告【画像提供=森永製菓】

ミルクキャラメルの歴史について話す糸岡さん
ミルクキャラメルの歴史について話す糸岡さん【撮影=福井求】

 

「110年間変わらないこと」が一番の価値

ミルクキャラメルの一番大きな特徴は、味や主な原材料、そしてパッケージが発売当初からほとんど変化していないことだ。そんなミルクキャラメルの商品価値について、糸岡さんは「変わらないこと」だと答える。
 
「誕生した大正時代からさまざまな時代の荒波を越え、令和までずっとデザインや形が変わっていないこと、これが一番の価値だと思っています。親から子へ、子から孫へと3世代の思い出と一緒に食べ続けてもらうのを何度も繰り返していただいた結果として、今のミルクキャラメルのブランドがあります。なので、時間というのはすごく価値がありますね」

現在販売されている「ミルクキャラメル」。ほどよい甘さとミルクのコクが、優しくココロとコバラを満たしてくれる
現在販売されている「ミルクキャラメル」。ほどよい甘さとミルクのコクが、優しくココロとコバラを満たしてくれる【画像提供=森永製菓】

 
実は、過去に100周年記念や110周年記念などのタイミングで「今の時代のキャラメルにチャレンジしよう」という話が出たこともあったという。その際にパッケージを少し変えたりアクセントを入れたりしたものを作成して消費者調査をしたところ、オリジナルのデザインのものに比べて評価が低かったそうだ。
 
「現在のメインユーザーは60代以上の方々です。その世代の方々にとってミルクキャラメルは『自分の人生を一緒に歩んできた存在』です。そのためにパッケージや味が変わってしまうと思い出が壊れてしまう、という反応をされていました。おもしろいのは60代以上の方々だけでなく、20~40代の方でも同じような感覚を抱くところです。みなさんそれぞれがミルクキャラメルに対して完成された思い出を抱いているからこそ、このような反応になるのだと思います。変えないことの難しさを感じた瞬間でしたね」

食べやすくシェアしやすい「ミルクキャラメル袋」
食べやすくシェアしやすい「ミルクキャラメル袋」【画像提供=森永製菓】

 
糸岡さんはミルクキャラメルを「消費者の思い出と一緒に育ってきたブランド」と位置づけ、決して変えてはいけない存在だと話す。この商品の消費者インサイトは、絶対に裏切らない甘さとミルクのコクが心と小腹を満たし、懐かしい思い出をよみがえらせてくれること。だからこそ新しいことをするのではなく、これまでの形を守り抜くことがブランドの正しい形だと森永製菓は考えている。

カスタードやバニラアイスの様なミルキーな味わいを楽しめる「ミルクセーキキャラメル」。かわいらしい6種類のレトロパッケージに仕立てたミルクキャラメル110周年限定の商品
カスタードやバニラアイスの様なミルキーな味わいを楽しめる「ミルクセーキキャラメル」。かわいらしい6種類のレトロパッケージに仕立てたミルクキャラメル110周年限定の商品【画像提供=森永製菓】