「失敗しても文句は言わぬ」が関会長の信条。社員は自由にやりたいことにチャレンジできる!
「失敗しても文句は言わぬ」が関会長の信条。社員は自由にやりたいことにチャレンジできる!

1台のトラックを相棒に、25歳で起業して55年。以来、一期も赤字を出さない経営を続け、2022年には2位以下を大きく引き離しての“9年連続売上高日本一”を成し遂げた、福岡県大川市にある日本一の家具卸会社「株式会社 関家具」。高級オフィスチェア・エルゴヒューマンや、さまざまなeスポーツ大会で公式チェアとして採用されているContieaks(コンティークス)ゲーミングチェアなどを手掛けることでも知られる同社の躍進の秘密とは?創業者である新会長・関文彦さんに詳しく聞いた。

創業者・関文彦さんに、関家具のこれまでとこれからについて聞いてみた
創業者・関文彦さんに、関家具のこれまでとこれからについて聞いてみた【画像提供=関家具】

ーー関さんは、室町時代から続く家具の一大生産地・大川のお生まれですね。どんな子ども時代を過ごされたんでしょうか?
【関文彦】父が家具製作所を営んでいて、私もその手伝いをしていたので、家具は小さい頃から非常に身近な存在でした。私の子ども時代、大川の家具産業はすでに衰退し始めていましたが、それでもうちは調子がいいほうだったんですよ、姉は東京の大学に進学しましたし。しかし徐々に業績が悪化し、私がもうすぐ高校を卒業するというころに倒産してしまいました。それで卒業後、叔父が経営する家具小売店に勤めることになったのですが、もっと学びたいという気持ちがあり、3年がかりでお金を貯めて福岡大学商学部の夜間コースに入ったんです。そして昼は家具小売店で働き、夜は大学で経営について学ぶという4年間を過ごしたあとに、ひとりで家具卸業を始めました。

ーー家業の製造業でも修業した小売業でもなく、卸業を選んだわけは?
【関文彦】私の中にひとつ「この方法で卸をやったら、絶対にうまくいくはず」というビジネスアイディアがありまして。それは“現金取引”に徹するという方法です。当時は、取引は手形で行うのが当たり前の時代。しかしそうした従来の方法だと、家具製作所が家具を納めてから実際に現金を手にするまでに半年ほどかかってしまうんです。ちょっと遅すぎますよね。それならば、家具を受け取ったその日のうちに現金を渡す卸業者がいれば、製造所は歓迎するに違いない、多少値引いてでも取り引きしてくれるだろうと見込みました。ほかより安く仕入れられるわけですから、家具小売店もよろこんで現金払いをしてくれるはず…ということは、家具小売店での7年間の経験からも、確信していました。運送を自分でやれば運送料もサービスできます。それに卸業なら、世話になった身内の小売店と競合してご迷惑をおかけすることもありませんしね。

 創業数年後の事務所の様子。左端のトラックが最初の一台
創業数年後の事務所の様子。左端のトラックが最初の一台【画像提供=関家具】


【関文彦】そこで、トラック1台とともに起業したわけです。朝、大川の製作所で家具を受け取ったあと、その足で家具小売店に売りにいき、夕方から夜までに大川に戻って現金で支払う。来る日も来る日もその生活を続けました。最初は1日18時間、働き詰めでしたよ。日中は北九州市・福岡市から始まって、そのうち近畿のほうまで足を運ぶようになったので、トラックの中で生活していたようなものです。睡眠を取るのは、片道2時間半のフェリーの中。そんな生活を2年ほど続けましたが、結婚してからは経理関係を妻が担当してくれるようになり、すこし楽になりました。しっかり社員を採用できるようになったのは3年目かな。そこから半世紀たった現在、社員は518名にまで増えました。

ーー体を張った働き方ですね!そんな精力的なビジネススタイルが、創業以来赤字のない経営や9年連続売上高日本一を達成した秘訣ですか?
【関文彦】いえ、私の商売のスタイル、それに経営者としての考え方は、当時とは大きく変わっています。業績好調の理由はむしろ、常に変わってゆく時代に合わせた進化を目指し、実行してきたことにあると思います。関家具のあり方が一番大きく変化したのは、創業して10年ほどたった頃です。その頃の私はまだ30代で、若さに任せたワンマン経営を行っていたのですが、ある時、社員が大量に辞めてしまうという非常にショッキングな出来事がありまして。上位下達では人はついてこない、楽しく働ける環境が一番なのだと痛感したことから「楽しくなければ仕事じゃない、やりたいことを任す、失敗しても文句は言わぬ、責任は全て社長が取るから思いっ切りやってください」という私の信条が形作られました。関家具ホームページにも掲載している「関家具経営の心得13か条」の第一条ですね。

関家具大川本店の原点とも言える場所
関家具大川本店の原点とも言える場所【画像提供=関家具】


ーー自由に動けて、失敗しても責められない。理想の職場ですね。
【関文彦】そう、この第一条は関家具のリクルートに大きく役に立ってくれていましてね。今年度の新卒採用では、うちのような地方の小都市にある会社に、200名を超える方からの応募があったんですよ。しかも、何かしら具体的なアイディアを持った熱意ある人が集まってきますね。だから面接では皆さん「失敗しても文句は言わないって本当ですか?」と聞いてくるんですよ。私は「はい、よかったらその辺にいる社員をつかまえて、聞いてみてください。本当ですよと答えるはずです」と返しています。だって、実際そうなんですから。まあ、社員に自由に任せた結果、大きな損失を生むこともザラで、1億くらいの損害を出すことだってあります。でもね、損失が出ても「もう一度チャレンジしてね」って言って終わり。私の信条は「KKD」、すなわち「経験と勘と度胸」。もちろん、プラン・ドゥ・チェックありき、過去に収集したデータの分析・研究を踏まえたうえでのKKDですが、そのKKDで前もって腹の中で「もしこれが失敗したら5000万円の損で済むかな」「これは1億くらいの損かな」と見積もるようにしていて、そのくらいの損なら赤は出ないとわかっているから、失敗しても平気なんです。

ーー社員に任せて大成功した企画の例は?
【関文彦】いろいろあります、関家具「クラッシュプロジェクト」なんかもそう。これはインダストリアルなテイストを取り入れたニュービンテージ家具を展開している自社ブランドのプロジェクトなんですが、森というひとりの社員のアイデアから生まれました。森くんははじめ営業部に配属されたんですが、大学で美術を専攻していたこともあって、とても素晴らしい絵を描くんですね。それで、営業の合間に想像の家具の絵を自由に描いていたようなのですが、それを見た上司がおもしろがって、開発してみようと声をあげたのが始まりです。今では自社製品を取り扱うインテリアショップ「クラッシュゲート」を全国に出店しています。

クラッシュプロジェクト
クラッシュプロジェクト【画像提供=関家具】


【関文彦】今話題の「コナズ珈琲」(株式会社トリドールホールディングス)様にもうちの家具を使っていただいているのですが、このご縁も、クラッシュゲートが結んでくれました。クラッシュゲート広島店と、トリドールホールディングスが展開する「丸亀製麺」の支店とが同じショッピングモールに入居しているのですが、あちらの社長が支店を訪れた際にうちの家具が目に留まったことがきっかけです。

【関文彦】近頃のヒットだと、イヌ・ネコ用をはじめとするペット用家具「PETTO(ペットと)」かな。特に人気なのが、インテリアに合わせやすいペットの仏壇。これらはある女性社員の発案なのですが、経営陣は全く持ちあわせていない視点からの提案でしたね。女性の活躍という点から言えば、女性社員だけで開発したブランド「nora.」も大成功しています。しかし、社員に自由に任せているというのは家具の開発だけの話ではなく、海外家具の視察がやりたいと希望してもう83回渡欧した社員もいます。また、ある釣り好きの社員は、釣り具の収納家具ブランド「ANGLIGHT〈アングライト〉」を提案して実現させ、なんと釣具店にまで販路を新規開拓しました。まさに「楽しくなければ仕事じゃない」。それぞれが、好きなことを生かして売上に貢献してくれています。

 キュートが過ぎる!「PETTO(ペットと)」
キュートが過ぎる!「PETTO(ペットと)」【画像提供=関家具】


ーー関家具の次の一手は?
【関文彦】一手と言わずいっぱいありますよ。今の時代ならではの家具もどんどん出しています。日本人の体格や使用環境を研究し尽くして本気で開発したゲーミングギアブランド「Contieaks(コンティークス)」からも新商品が続々登場予定です。すでに、Contieaksゲーミングチェアは、さまざまなeスポーツ大会や組織で公式チェアとして採用していただいているんですよ。また、オランダのKOPLUS社製の防音ブース「Kolo」のように、これからのオフィスで必要とされるであろう家具もどんどん展開予定です。

日本eスポーツ界の精鋭たちを影で支えるContieaks(コンティークス)ゲーミング チェア
日本eスポーツ界の精鋭たちを影で支えるContieaks(コンティークス)ゲーミング チェア【画像提供=関家具】

オランダのオフィス家具ブランド「KOPLUS」の防音ブース「Kolo」
オランダのオフィス家具ブランド「KOPLUS」の防音ブース「Kolo」【画像提供=関家具】


【関文彦】まさに今一番期待している、日本産家具を日本で売ることにこだわった「NIPPONAIRE(ニッポネア)」も今後が楽しみな自社ブランドとして名前をあげたいですね。これも若い社員の発案によるプロジェクトで、現在、大きく売上を伸ばしております。しかし、輸入ものが多い今の時流に逆行するブランドともいえ、正直、私自身は当初、ここまで売れることになるとは思っていませんでした。社員の自由な発想に任せる方針の正しさを、改めて実感した次第です。

【関文彦】今は、ミサイルが日本の上空を飛んでいく時代。時流は目まぐるしく変化しています。ひとつ先を読み、いろいろなパターンを想定しておくことがとても重要です。ですから、ときどき私は、本社のある大川に地下シェルターを作りたいなんて思うこともあるんですよ。社員の命はどうしても守りたいという思いがありますから、あると安心して仕事に臨めるかな、などと考えたりしています。

ーーでは、最後に、会長ご自身の、これからの展望を教えてもらえますか?
株式会社関家具は、2022年10月1日から、新社長・関正のもとで、さらなる発展を目指していきます。私自身は、2022年10月1日に代表取締役社長から代表取締役会長になりました。というのも、そろそろ私もこの大川という地域ですとか、日本全体に対して、お手伝いをしたいと思っておりまして。公的な役職を目指すという意味ではないですよ。縁の下の力持ちとしてやりたいことがたくさんあり、まずは、室町時代から続く地元の神社「風浪宮」の百年の杜記念事業のお手伝いに力を尽くしたいと思っています。毎日の筋トレのおかげで、20代の頃と同じスリーサイズを維持するほど体には自信がありますから、これからもどんどん、皆さんのお役に立てればうれしいです。

関会長の持論「楽しくなければ仕事じゃない!」「常に変化してきたことが業績好調の秘訣」は、時代や業界を超えた、万人にあてはまるビジネスの真理だろう。自由な発想を持つ人材が集まる関家具が、今後、どのようなビジネスで世間をあっと言わせるのか?聞き手としてもワクワクが膨らむインタビューだった。

【写真】黒スーツ×赤ネクタイは40年間変わらないトレードマーク。「集合写真の中でもすぐに自分だとわかります」
【写真】黒スーツ×赤ネクタイは40年間変わらないトレードマーク。「集合写真の中でもすぐに自分だとわかります」【画像提供=関家具】


この記事のひときわ#やくにたつ
・起業時は、経験に基づく、自分の中のビジネスアイデアを貫き通す
・常に変わりゆく時代に合わせ、自身の考え方も進化させ、かつ実行する
・上位下達では人はついてこない
・楽しくなければ仕事じゃない、社員は仕事を楽しむ
・仕事の基盤は「経験と勘と度胸」
・業績好調の秘訣は、常に変化すること

取材・文=仁田茜