マッサージの効果から湿布の貼り方、薬の飲み方まで、私たちの日常には多くの医学知識が必要とされています。しかし、それらを正しく実践できている人は意外と少ないかもしれません。X(旧Twitter)で医療情報を発信し、フォロワー数12万(2024年2月時点)を有する話題の整形外科専門医・おると先生による『整形外科医が教える 家族の身体を守る医学的ライフハック』は、勘違いしがちな日常の中の医学知識を、丁寧に解説してくれます。自分の習慣は問題がないのか、一度チェックしてみましょう。
※本記事はおると著の書籍『整形外科医が教える 家族の身体を守る医学的ライフハック』(KADOKAWA)から一部抜粋・編集しました。

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湿布をうまく使うために知っておくといいこと



<Check>
・湿布に患部を冷やす効果はないので、冷やす場合は冷シップの上から氷水で冷やす
・湿布にも副作用はあるため、使い方は注意事項をよく確認してから使おう!

肩こりや腰痛、ねんざや腱鞘炎(けんしょうえん)など、筋肉や関節の痛みが出たときに湿布を使ったことがあるという方は非常に多いと思います。
医療機関のみならず、ドラッグストアなどでも販売されており、幅広く使われているのですが、使い方を覚えたり工夫したりすればもっと使いやすくなります。
ここでは、湿布に関してのよくある勘違いに触れつつ、上手な使い方をまとめておきましょう。
湿布は「外用鎮痛消炎薬(消炎鎮痛剤)」と呼ばれる薬で、パップ剤とテープ剤があります。パップ剤は水溶性高分子を主な基剤成分とした膏体が塗られたもので、テープ剤に比べると比較的厚みがあります。
一方、テープ剤は親油性高分子を主な基剤成分とした膏体が塗布されたもので、パップ剤と比べると薄くて伸縮性があり、粘着性も高いという特徴があります。
よくある勘違いとしてまず挙げられるのが「湿布は副作用がない」というものです。
この勘違いは外来でも非常によく見られ、使用すべき枚数をはるかに超えた枚数を使用したり、貼ってはいけない場所に使用されたりなどは、ほぼ毎日遭遇するレベルです。
例えばNSAIDsと呼ばれる消炎鎮痛剤の副作用として有名な胃潰瘍や腎機能障害は「湿布では起こらない」と考えている人も多くいるのですが、実際には起こりえますし、大量不適切使用での症例報告も見受けられます。最近では、内服と同等の効果が見込める湿布なども出てきており、適正枚数を超えた使用による副作用報告はさらに多く出てくる可能性があります。
また、貼る場所に制限がある湿布はいくつかあります。その中でも処方する量が多いモーラステープ(ケトプロフェンテープ)は、消炎鎮痛成分のケトプロフェンが含有されており、光線過敏症という副作用が出ることがあります。症状としては、発疹・発赤、紅斑、かゆみなどが初期症状として挙げられ、ひどくなると水ぶくれなどになる場合もあります。多くは手首・手部・大腿・ひざ・下腿など、紫外線に当たりやすい場所に発現し、多くは使用中または使用後1週間以内に紫外線にさらされることにより発現していますが、使用を中止後3~4週間後に発現した症例も報告されています。これらのことから、パッケージには「戸外に出るときは天候にかかわらず、濃い色の衣服、サポーターなどを着用し、貼付部を紫外線に当てないこと」「剥(は)がしたあと、少なくとも4週間は注意すること」などの記載があります。
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湿布に冷やす・温める効果はない


また、次にありがちな勘違いとしては「ねんざ部位を冷やすために冷湿布」や「寒いから温めるために温湿布」というものです。
冷湿布のひんやりとした冷感をもたらしているのはメントールです。つまり、実際に患部が冷却されているわけではなく、メントールの成分によってスースーする感覚を冷えていると感じているにすぎません。これは温湿布についても同様で、温湿布のぽかぽか感は、カプサイシンやノニル酸ワニリルアミド(合成トウガラシ)の刺激によって皮膚がぴりぴりする感覚を温かいと感じているだけで、実際に患部が温められているわけではありません。どちらも消炎鎮痛に関する有効成分は含有されているので、好きなほうを貼ればよいと筆者は考えます。
では、冷湿布や温湿布にその名のとおりの効果がないとすれば、湿布を貼りつつ患部を冷やしたり、温めたりしたいときはどうすればよいでしょうかという質問を受けることがあります。
非常に単純な話で、患部を冷やしたいときは湿布を貼った上から、氷を入れた袋や保冷剤などをタオルに包んで当てればよいですし、温める場合も湿布を貼った上から使い捨てカイロなどを低温やけどにならないように注意しながら当てましょう。
最後にありがちな間違いとして「剥がれてすぐダメになる(から大量にくれ)」という点について話します。
確かに湿布は粘着剤でただ貼り付けているだけなので摩擦などには強くはありませんが、ある程度貼り方に気をつけるだけで剥がれにくくすることはできます。湿布に限りませんが、正しい効果をもたらすために添付文書などに記載されている注意事項を必ず守るようにしましょう。