夜間頻尿(ひんにょう)は睡眠中にトイレに起きることで、加齢とともに増える傾向にあります。これは生活の質を低下させる原因となります。適切な治療とセルフケアで改善が見込めるため、「年のせい」と放置せず、原因を知り対処することが重要です。今回は桜十字病院上級顧問 泌尿器科医長の吉田正貴(よしだ・まさき)先生にお話を伺いました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年1月号に掲載の情報です。
主な原因
・夜間多尿
・ 膀胱(ぼうこう)容量の減少
・ 睡眠障害
主な治療・改善法
・夕方のウォーキング、夕方の足上げなどのセルフケア

夜間頻尿はなぜ起こる?



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夜間多尿
水分の摂りすぎ、抗利尿ホルモンの減少、心不全、腎機能低下などによって、夜間に作られる尿の量が増えてトイレの回数が増える。

膀胱容量の減少
加齢によって筋肉組織のしなやかさが失われて、膀胱があまり広がらなくなり、膀胱内にためられる尿の量が減る。

<正常な膀胱>
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膀胱がゆるんで尿がたまり、尿が一定の量に達すると膀胱が収縮して尿道が広がり、排尿へ。

<弾力性のなくなった膀胱>

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尿が少ししかたまっていないのに強い尿意が急に起こり、膀胱が収縮してしまう。

睡眠障害
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睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害があると、眠りが浅くなり、トイレに起きてしまいやすくなる。

夜間睡眠中に1回以上トイレに起きることを「夜間頻尿」と呼び、加齢とともに増加する傾向にあります。
夜間頻尿になると慢性的な睡眠不足によって生活の質が下がる他、暗い中トイレに行くことで転倒して骨折するリスクも増加します。
「年のせいだから」と放置せず、原因を知ってしっかりと治療することが大切です。
原因として特に大人世代で多いのは、夜間多尿です。
その一因で意外に多いのが「水分の摂りすぎ」です。
また加齢に伴い下半身の筋肉が衰えたり、心臓や腎臓の機能が低下したりして血液の循環が悪くなり、下半身にたまった水分(特に下肢のむくみ)が夜間に尿として出てくることも夜間多尿に関与しています。
尿量を抑える「抗利尿ホルモン」の働きが悪くなることも夜間多尿を来します。
通常、睡眠時は抗利尿ホルモンが多く分泌されて、夜間の尿量が減りますが、加齢とともにホルモンの分泌量が減ると、夜間につくられる尿の量が増えて、夜間多尿を引き起こします。
他にも塩分の過剰摂取、アルコール、カフェイン、服用薬の影響、高血圧や糖尿病などの病気など、夜間多尿は原因が複雑に絡み合っています。
受診するタイミングは本人がつらいと感じるかどうかです。
特に下腹部や膀胱・尿道などに痛みや不快感がある場合や、血尿が出た場合は、重大な病気が隠れていることもあるので、すぐに泌尿器科を受診しましょう。
治療は、原因ごとに適切に行います。
夜間多尿の場合、以下のセルフケアが有効です。
効果を感じるまでには1〜2カ月かかるので、根気よく習慣化することが大切です。
原因が膀胱容量の減少の場合は、膀胱の筋肉を緩める作用のあるβ(ベータ)3作動薬や、膀胱が収縮するのを抑える抗コリン薬が使われます。
原因が睡眠障害の場合は、睡眠の専門医の受診をおすすめします。


あなたの夜間頻尿はどのタイプ?


・夜トイレに3回以上起きて、昼間と同じくらいの量の尿が出る
・夕方になると足のすねやふくらはぎがむくむ
・1日に1.5ℓ以上の水分を摂っている(食事に含まれる水分は除く)
→夜間多尿によるもの

・過活動膀胱や、前立腺肥大症(男性の場合)と診断されている
・突然、我慢できないほどの強い尿意が起こることが週1回以上ある
→膀胱容量の減少によるもの

・眠ってから3時間以内にトイレに起きる
・夜、トイレに起きた後、1時間以上眠れない
→睡眠障害によるもの

セルフケアで夜間頻尿を改善!


夜間多尿が原因の場合はセルフケアが効果的。目的は、日中に下半身の血管から漏れ出した水分を血管に戻し、就寝までに尿として出すこと。尿をつくるのには4~5時間かかるので、(1)や(2)は夕方に行うのがポイント。

(1)夕方のウォーキング
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午前中ではなく夕方に行う。目安は30分程度。歩幅を少し大きくすると、ふくらはぎの筋肉の動きが活発になり血行が促されて効果的。

(2)夕方の足上げ
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仰向けになってクッションなどの上に足を乗せ、その姿勢を30分程度維持する。10~50cmくらいの高さが理想。壁などを使って足を上げる方法でも。
※腰や股関節、ひざなどに痛みのある人は無理のない範囲で

(3)弾性ストッキングの着用
下半身に水分がたまらないように足首からふくらはぎにかけて段階的に圧迫するストッキング。朝起きてから夕方まで着用し就寝時は脱ぐ。着用が適さない人もいるので、まずは医療機関で相談を。適切な着圧やサイズ、使い方がポイント。

(4)水分摂取量の見直し
体重1kgあたり20~25mLが1日の水分摂取量の目安。利尿作用のあるカフェインやアルコールの夕方以降の摂取は避ける。水分を多く含む野菜サラダやフルーツは朝・昼食で摂るのがおすすめ。塩分も控えめに。
取材・文・構成/古谷玲子 イラスト/片岡圭子