かつて堺正章さんが悟空を演じたテレビドラマ『西遊記』。この11月から、舞台で上演されます。その孫悟空を演じるのが、片岡愛之助さん。当時テレビドラマを夢中だったそうで、その舞台への思いや転機となった作品についてお伺いしました。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年11月号に掲載の情報です。
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"時分の花"で培ったものが、真の花として開く。
そこを目指して精進していきたいと思います。


――11月から上演される舞台『西遊記』で孫悟空を演じる片岡愛之助さん。1978年から放送された『西遊記』(日本テレビ)で堺正章さんが悟空を演じた、ドラマを懐かしく思う方もいると思います。
子どもの頃、夢中で見ていましたからね。
まさか、あの悟空を自分がやらせていただくとは。
子どもの目にはおもしろさと同時に、怖くてハラハラした記憶があります。
実は何年か前にあのドラマのDVDを見つけまして、全巻持っているんです。
大人になって見直したら、怖いと思っていた妖怪のメイクが案外おもしろかったり、岩がハリボテだったり、味わい深いんですよ。
いま見ても楽しいです。
――夏目雅子さんの三蔵法師、今回は小池徹平さんです。

神々しく愛らしい、永遠の美少年。
ぴったりですよね。
実はDVD付属の本に、当時の「西遊記」の三蔵法師役を坂東玉三郎さんに依頼したと書いてあったんですよ。
歌舞伎が忙しくて出られなかったそうなのですが、8月に玉三郎兄さんと歌舞伎の舞台をやらせていただいたとき、楽屋になぜか今回の『西遊記』のチラシが置いてありまして。
「お兄さん、三蔵法師を依頼されたんでしょう」とお聞きしたら、「そう、やりたかった。小池くん、いいですね。(今回の西遊記を)私もやりたいぐらいです」とおっしゃっていました(笑)。
――松平健さんとのご共演も、華やかで見栄えがしそうです。
もう20年ぐらいプライベートでも存じ上げていて、作品でご一緒するのは2度目なんです。
今回の記者会見でも舞台裏で話し込んで盛り上がりました。
松平さんの殺陣(たて)は美しすぎて、どの作品を拝見しても「待ってました」と手を叩きたくなる。
今回の共演は光栄ですし、とてもうれしいです。

年齢を重ねたいまだから分かること


――今年9月は歌舞伎が3公演。相当な体力を使われます。
演目によってはジムに行くよりハードだったりします。
それに向けて体力をつけておくために、朝に結構歩いたりしています。
何時に寝ても、ぱちっと6時に目覚めるんですよ。
最近、いいものを発見したんです。
耳の穴を塞がず使えるイヤホン。
車や自転車の音も聞こえて安全ですし、音楽や落語を聴きながら飽きずに歩き続けられます。

――転機となった作品などはありますか?
大きかったなと思うのは2002年に旗揚げした「平成若衆歌舞伎」の舞台。
一般の方を募って上方の歌舞伎俳優を養成する上方歌舞伎塾の塾生の方々との舞台でしたが、初めて座長を経験させていただいたんです。
当時30歳。
歌舞伎は演出家がいないですから、主役があらゆることを考えます。
座頭がどれだけ大変かを知った貴重な経験でした。
その公演で古典のさまざまな大きい役をつとめさせていただいて、それからですね、大きな役をやらせていただくようになったのは。
「四十、五十は、洟垂(はなた)れ小僧」と言いますが、51歳になって、やっと洟垂(はなた)れ小僧になれたのでしょうか。
若い頃は体力も余っていますから、殺陣も最初から最後まで全力でやりますが、年を重ねるにつれ、千穐楽までいかにすべての公演で最高の状態をキープするか、その配分が分かってくる。
お客様も全てが全力だと疲れてしまうと思うんです。
亡くなった父の秀太郎が「よい加減」とよく言っていましたが、そういう緩急が舞台にも人生にも大事だなと思う今日この頃です。
世阿弥の「時分の花と真(まこと)の花」という言葉の通り、若い頃は見た目の美しさで喜んでいただけますが、年を重ねていくと、そういうわけにはいきません。
いかに劇場でお客様に楽しんでいただけるか。
時分の花で培ったものが徐々に開いて真の花になっていく。
そこを目指して精進していきたいと思います。

取材・文/多賀谷浩子 撮影/吉原朱美 メイク/青木満寿子 ヘア/川田 舞