阿部寛 / ※2022年ザテレビジョン撮影
【写真】長身で小顔…!メンノンモデル時代もカリスマ的人気を誇った阿部寛の全身ショット

阿部寛主演のドラマ25「すべて忘れてしまうから」(毎週金曜深夜0:52-1:23、テレビ東京系/ディズニープラスのスターで配信中)が、10月13日にスタートした。同作は作家・燃え殻の同名エッセーを岨手由貴子、沖田修一、大江崇允といった国内トップクリエーターがドラマ化した作品で、阿部演じるミステリー作家が“消えた彼女”を捜す中で巡るミステリアスなラブストーリー。「MEN'S NON-NO」のカリスマモデルから押しも押されもせぬ日本を代表する名優の一人となり、これまで演じてきた役柄は多岐にわたる阿部が、今作では“新たな一面”を見せている。

公安刑事から自称天才物理学者まで…

最近では7月期の日曜劇場「VIVANT」(TBS系)でのひとクセもふたクセもある公安刑事・野崎や、大河ドラマ「どうする家康」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)での“戦国時代最強の武将”武田信玄役で熱演を繰り広げたことも記憶に新しい阿部。

そんな阿部は過去、ドラマ「下町ロケット」(2015年ほか、TBS系)シリーズでの夢に向かって進む熱い町工場の社長、ドラマ「新参者」(2010年ほか、TBS系)シリーズでの無口なキレ者刑事、さらにさかのぼればドラマ「結婚できない男」(2006年ほか、フジテレビ系)では偏屈な独身男性、ドラマ「ドラゴン桜」シリーズ(2005年ほか、TBS系)では元暴走族のリーダーで弁護士という異色の経歴の男性、ドラマ「HERO」(2001年ほか、フジテレビ系)シリーズでは野心家の検事、ドラマ「TRICK」(2000年ほか、テレビ朝日系)シリーズでは自称天才物理学者の教授などを演じ、いわゆる「代表作」を挙げるだけでも枚挙にいとまがない。しかも、いずれも続編が作られるほどの人気作ばかりだ。

数々の濃いキャラクターを演じ上げてきた阿部にとって、さすがにこれ以上新たな顔は見られないだろうと思うなかれ。「すべて忘れてしまうから」でもこれまでにない役者としての“新しい一面”を見せてくれている。

阿部寛 / ※2022年ザテレビジョン撮影

10月期ドラマでは“少し”変わったキャラクターに

「すべて忘れてしまうから」で阿部が演じるのは、ミステリー作家として生計を立てている“M”。5年間付き合っている恋人“F”(尾野真千子)がいたのだが、あるハロウィーンの夜に「渋谷駅がすごい人なので遅れます」というメッセージを最後に連絡が途絶えてしまう。締め切りが重なり、“F”となんとなく連絡を取らないまま3週間が過ぎた頃、“F”の姉と名乗る女性(酒井美紀)が現れたことで、“F”の行方を捜すことになる。

決して前述した代表作で演じたような“キャラの立った役”ではないのだが、飲み屋の常連たちと付かず離れずのいい距離感を保ち、恋人にもそれほど依存していない、周りに振り回されることも多い、少し変わった男性。だが、本が売れればうれしいし、無茶な依頼にも抵抗感を覚えながらも引き受けてしまうという優しい性格の持ち主だ。

ここで取り上げたいのは“少し”という点。一見普通の男性でありながら、ちょっとした節々に変わったところが“少し”見え隠れするのだ。この“少し”変なところを見え隠れさせる芝居の絶妙な加減が、作品にそこはかとない違和感をまとわせ独自の世界観を構築している。それは原作の持つ雰囲気に通ずるものでもあり、阿部だからこそ出せる表現ともいえる。一度見てしまうと阿部以外の配役が思いつかないほど“いびつな役柄”にぴったりハマっているのだ。

阿部寛 / ※2022年ザテレビジョン撮影

“俳優としての懐の深さ”に畏敬の念

偏屈で変わった役から真っすぐで熱い役まで、右から左、上から下と極端な役柄にも対応しながら、ストライクゾーンから少し外れる“魔球”のような役柄までもこなす“俳優としての懐の深さ”に畏敬の念を抱く方も少なくないだろう。

加えて、持ち前の圧倒的な表現力も顕現。今作では主人公でありながらせりふが多くない中で、所作や表情が雄弁に感情を語っている。中でも、ト書きの部分をCharaがナレーションしているのだが、その部分との親和性が抜群で、ト書きの部分をどう演じるのかまでもプランニングして芝居をしているのが分かる。圧倒的でありながら一見して圧倒的に見えないという、ドラマ愛好家にも刺さる味わい深い演技を披露しており、名優たるゆえんを思う存分堪能させてくれる。

恋人捜索を経て少しずつ変化する独身男性の内面の変わりようと共に、阿部の“名優”たるゆえんを感じさせてくれる味わい深い演技と役者としての懐の深さに今期も酔いしれたい。

◆文=原田健