シバタリアン
『シバタリアン』(イワムロカツヤ/集英社)

©イワムロカツヤ/集英社

“シバタの、シバタによる、シバタのための物語。上映開始です”

 上記のような触れ込みがあるこの『シバタリアン』(イワムロカツヤ/集英社)というマンガ、「上映開始です」とあるように、「映画」との関連が面白い。タイトルの時点で1985年公開のゾンビ映画「バタリアン」を想起している映画ファンもいるかもしれない。

 本書は、簡単に言ってしまえば、黒目の大きく表情のない不気味な男、シバタが増殖し、かつての同級生を皆殺しにしていくマンガだ。ただ、そのストーリーだけを追うのはあまりにもったいない。随所にちりばめられた映画ネタを拾うと、より楽しめるだろう。

 まずは簡単なあらすじから紹介する。

桜の木の下に、首まで埋まっていた男「柴田」との出会いと別れ

 主人公の佐藤は、中学3年生の春に、桜の木の下に首から上を残して埋まっている柴田という男を発見し、彼を地中から救い出した。佐藤は、柴田の大きすぎる家についていき、一緒に2本の映画を観て泊まる。その後も、佐藤は毎日柴田の家に行き、映画を観るようになる。文化祭で、映画を撮って上映しようという話になるのだが、なぜか、佐藤以外の同級生には柴田の姿は見えていないらしい……。

 その後、「一人で喋っていて怖い」など罵倒された佐藤は、例の桜の木の下で、柴田に「世界中の人間が…全部柴田になったら良いのにな…」と言う。そして学校の奴らを殺して復讐することを提案するが、柴田とは意見が合わず、喧嘩別れしてしまう。

 それから5年間、佐藤のもとから姿を消した柴田を見つけることができなかったのだが、あるきっかけで再会し、一緒に映画館で映画を観ることに。しかし上映後、明るくなった映画館の中には、大量の柴田がひしめいていた! 大量発生した柴田は、かつて佐藤が提案したように、同級生たちを殺し始める……。

 これだけ聞くと、かなりぶっ飛んで聞こえるかもしれない。しかし、本書は緻密に計算された、ただぶっ飛んだだけの空想マンガではないと僕は考える。

本書に隠された謎と、映画との関係に迫る

 今も連載中だが、「次の話で最終話だろう」という予想コメントが毎回ついているというこのマンガ、どのように終結するのかがまったく予測不能なのだ。

 どういう結末になるのか、その謎を解き明かすには、本書に隠された違和感をチェックしておく必要があるだろう。そのひとつに、映画のような作りをしている本の作りがあると思う。

 まずは「目次」の位置。一般的に目次は表紙の次のページや、遅くとも10ページ以内に出てくるだろうが、本書の目次は、なんと62ページ・63ページになってようやく出てくるのだ。

 そして164ページになぜか挟まれる、エンドロールのようなページ。ここに、絵のアシスタントや単行本編集、デザイン、担当編集などが唐突に挿入されているのだ。

 このマンガが映画と強い関連があることを示す部分なのではないだろうか。

名作映画4本との関連性から探る『シバタリアン』

 名作映画との関連性が一つのポイントになっている。まずは、柴田の家で佐藤が一緒に見た2本の映画についてだ。

①「バタリアン」

 1985年公開のゾンビ映画で、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」のオマージュ作品といわれており、薬品によって不死者となった人間ことバタリアンが、人間に襲い掛かり脳みそを食べるというホラーコメディ映画だ。

②「マルコビッチの穴」

 1999年製作の映画で、ある会社のキャビネットの裏に隠された小さな扉を開けると、俳優のマルコビッチという男の脳に繋がっていて、15分間だけマルコビッチになれる、という空想映画だ。この仕組みを発見した男は、200ドルでマルコビッチになる体験を販売し、大行列ができる。

 シバタが増殖していることから、「マルコビッチの穴」に入ってマルコビッチになる人が同時多発的ではないが増えている、という見方もできるかもしれない。また、「バタリアン」のように人間を襲っている点も類似しているが、しかし、脳みそを食べるわけではない……。もしかしたら今後の流れで、脳みそが重要な意味を持つのかもしれない。

③「グレムリン」

 6章の前に著者イワムロカツヤ氏の名前で小学校6年生の文集のようなものが差し込まれている。題名は、「僕の好きなもの」。この文章の中に、「グレムリン」が出てくる。「グレムリン」は、水に触れると増殖してしまい、太陽光を嫌い、12時を過ぎて食事をすると狂暴になってしまう生物を描いたパニック映画である。実際に、シバタは水をかけられた後、くしゃみをして別のシバタを増殖させている。

 ただし、太陽光を特別嫌う描写はなく、食事のシーンもない。今後の展開に重要なヒントになるかもしれないので覚えておくと良いだろう。

④「ゴーストバスターズ」

 見開きの58ページ・59ページで描かれた大量のシバタの私服を見ると、右中段に「ノーゴースト」の柴田バージョンの服を着ているシバタがいるのだ。
※「ノーゴースト」とは、赤色の円形に斜めの1本線の入った禁止標識から、白いオバケが出てこようとしている「ゴーズトバスターズ」に出てくるマークのこと
※このページに「GIZMO(ギズモ)」というデザインの服を着ているシバタもいるが、これは、映画「グレムリン」で主人公がグレムリンにつけた名前である。

 もしかしたら、学生時代、佐藤以外には見えていなかった柴田の存在が、実は幽霊だったから、ということに繋がっているのかもしれない。

 と、妄想が止まらない本書『シバタリアン』は、今後いったいどういう展開を見せてくれるのだろうか、どんなエンドロールを迎えることになるのだろうか。随所に隠された謎や映画のヒントから、今後の展開を予測するのも楽しそうだ。

文=奥井雄義