機械じかけのマリー
『機械じかけのマリー』(あきもと明希/白泉社)

 うまく感情を表に出せないことで誤解を招き、周囲から人が遠ざかってしまう。人と仲良くなれない。そうした悩みを抱えている人も少なくない。だが、ときには無表情が求められ、役に立つこともある――のかもしれない。『機械じかけのマリー』(あきもと明希/白泉社)は、無表情であることが買われ、人間嫌いな主のメイドをすることになった女の子の物語。花とゆめコミックスとして刊行されている単行本は全6巻で、先日2023年9月5日に最終巻が発売されたばかりだ。

 本作品の主人公は、天才格闘家として幼少期を過ごしたものの家の事情でお金がなくなり、工事現場で働いていた無表情な少女マリー。マリーにとって、無表情であることはずっとコンプレックスでしかなかった。しかしある日、唐突に転機が訪れる。国内一の大企業“ゼテス”の跡継ぎアーサーの、専属住み込みメイドになってほしいと頼まれたのだ。承諾すれば、親の借金を返済し、学校へも通わせてくれるという。

 突然降ってわいた幸運に、二つ返事で「超やります」と答えたマリーだったが、この仕事にはある条件があった。それは「ロボットメイドとして働く」というもの。主となるアーサーは、冷酷かつ超ド級の人間嫌いで人を寄せつけない。

 しかし、実はアーサーはとことん人が嫌いなだけ。ロボットである(と思い込んでいる)マリーに対してはとても優しかったのだ。少年のようなキラキラとした笑顔を向け、マリーを気遣い、マリーの言ったことなら何でも信じてしまう。マリーはそんなアーサーのギャップに驚きつつ、騙していることに後ろめたさを感じながらも真摯にメイドとして働いていくが――!?

機械じかけのマリー

 アーサーが人間嫌いであるのには、彼が愛人の子どもであることが関係している。彼は幼いころから、自らの存在をよく思わない親族に幾度となく暗殺されかけてきたのだ。おまけに外へ出れば財産目当ての女たちが寄ってきて、周囲に人がいる限り心休まる時間など微塵もない。

 そんなアーサーも、心の底では信頼できる、心を開ける相手を欲していたのだろう。だからこそ、自分の命を狙うことも、すり寄ってくることもないロボットメイドを前にして、素の自分をさらけ出した。一方、感情表現が乏しいことで悲しい思いをしてきたマリーは、それを良しとし笑顔を向けてくれるアーサーに惹かれていく。最初こそお金のためだったが、彼の無邪気さや優しさに触れて、本気でアーサーに仕え、守りたいと感じ始める。

 こうして、初めは偽りの関係だった2人は、次第に互いにとって特別な存在となっていく。でも、マリーが人間だという事実は隠さないといけない。このやきもきしてしまう距離感がたまらなく、続きが気になりすぎて最後まで一気読みしてしまった。

 先日発売された最終巻6巻では、ついに2人の関係に大きな進展が訪れる――かと思いきや、ここでアーサーがまさかの記憶喪失に。これまで培ってきたマリーとの関係も思い出も何もかもを忘れ、初めて会ったときのように「機械メイドスッゲェ~~」とはしゃぎまくるアーサー。そんなアーサーを見て、一時は「何も変わらないならこのままでも…」と思ったマリーだが――。

機械じかけのマリー

 アーサーの記憶がなくなっても、マリーにはすべての記憶がある。だからこそ、出会った頃には気づけなかったアーサーの孤独、時折見せる寂しそうな顔が彼女の胸に突き刺さる。それにもう、嘘は重ねたくない。そう感じたマリーは別れを覚悟し、アーサーの記憶を取り戻して彼に真実を伝えるべく奔走する。

機械じかけのマリー

機械じかけのマリー

 アーサーの記憶は無事戻るのか、アーサーとマリーの関係はどうなっていくのか、物語の結末は――? 2人の笑いあり胸キュンありドキドキありの展開を、ぜひとも最後まで見届けてほしい。

文=月乃雫