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レザーやデニムなど厚手の生地が縫える「TOKYO OTOKO ミシン」今の時代にあえて“OTOKO”と名づけたワケとは?

2024/02/22 19:00
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かつては家庭内での衣類修繕や手づくりの衣料が一般的であり、ミシンは家庭必需品のひとつとされていた。ただ、ファストファッションの台頭や衣類の低価格化により、今や衣類を新しく購入するほうが経済的で便利と考える人が増えてきている。

そんななか、ミシン専門メーカー・株式会社アックスヤマザキが2022年11月に発売した「TOKYO OTOKO ミシン」は、レザーやジーンズといった厚手の生地を縫えるミシンとして業界内外から注目を集めている。それにしても多様性が叫ばれる昨今、あえて「OTOKO」という名を冠している理由とは一体?

今回は、株式会社アックスヤマザキ 代表取締役の山崎一史さんに、TOKYO OTOKO ミシンの誕生秘話と製品名に込めた想い、さらに今後のブランド展開について聞いた。

今回取材に応じてくれたのは、株式会社アックスヤマザキ 代表取締役の山崎一史さん
今回取材に応じてくれたのは、株式会社アックスヤマザキ 代表取締役の山崎一史さん【撮影=大塚翔平】


普段ミシンを使わない人が使えるように!TOKYO OTOKO ミシンの開発秘話

――まずはじめに、TOKYO OTOKO ミシン誕生の経緯についてお聞かせください。
【山崎一史】弊社を含めミシン業界は、長い間縮小傾向にありましたが、コロナ禍で手作りマスクの需要急増に伴い、市場が一時的に活性化したんです。とはいえ、かつてはほぼすべての家庭に一台はミシンがあったのに、現在では使わない家庭が増えているのが現状です。

【山崎一史】こうした状況に対応するため、弊社は従来のユーザーだけでなく、これまでミシンをほとんど使ってこなかった方々に向けた製品づくりを心掛けています。たとえば、子どもがいる家庭や子育て中の方から意見を聞いたり、シニア層であればデイサービスに出向いて直接ヒアリングを行ったりして、ミシンに興味を持ってもらえるよう製品の研究と開発に力を入れています。ちなみに私は、フラット目線で開発するために、普段はミシンを使わない生活をしています。

ミシン業界でもTOKYO OTOKO ミシンほど振り切ったネーミングはないという
ミシン業界でもTOKYO OTOKO ミシンほど振り切ったネーミングはないという【撮影=大塚翔平】


――その一環として開発したのが、TOKYO OTOKO ミシンなのでしょうか?
【山崎一史】そうですね。男性からは「ブルーシートやレザーを縫いたい」といった、女性とは異なる要望が以前からありましたが、従来の家庭用ミシンでは対応が難しく、申し訳ないながらもお断りしていました。ですが、普段ミシンを使わない私が使いたくなるようなミシンこそ、こうした声に応えられるのではないかと思ったことがきっかけで、TOKYO OTOKO ミシンの開発がスタートしました。

――では、TOKYO OTOKO ミシンという製品名をつけた理由についてお聞かせください。
【山崎一史】「性別を問わずに誰でも使ってほしい」というのが、私たちの願いです。そして製品名に“OTOKO”を入れたのは、男性にだけでなく、あらゆる方に使ってもらいたいという想いからです。今、性別による役割分担が曖昧になってきていますよね。これはミシンも同じで、古いイメージを変える必要があると思ったのです。そんな私たちの想いを「TOKYO OTOKO ミシン」という製品名に込めました。

針が左右にぶれずきれいに直線縫いができるよう「直線専用垂直半回転釜」を採用している
針が左右にぶれずきれいに直線縫いができるよう「直線専用垂直半回転釜」を採用している【撮影=大塚翔平】


【山崎一史】正直、もっと抽象的な名前にする選択肢もあったんですが、そうしたらこれまでミシンを使ってこなかった方の関心は引けないと感じました。とはいえ、とても勇気がいりましたね...(笑)。特に手芸に関しては、いまだに女性の趣味というイメージが強いため、どうしてもハードルが高くなりがちです。そのためTOKYO OTOKO ミシンでは、従来のイメージを覆すような、たとえばレザー加工ができるなどの機能を取り入れ、男性を含む多くの方々が、ミシンでの手作りに興味を持てるような製品づくりを目指しました。

【山崎一史】それこそ最初は漠然と、単に男性向けとして開発を進めていましたが、意見を聞いてみるとあまりいい反応が得られませんでした。ですから視点を変え、高級ブランドで使われるような特別な素材を使用し、自分自身がワクワクするようなユニークなアイテムを作ることで、ミシンに対する興味を引き出せるのではないかと考えたんです。それに加え、ミシンの魅力だけでなく、キャンプやDIY用品が作れる点を前面に押し出したんです。すると、これまでミシンに興味がなかった方から「ミシンを使ってみたい」「この素材で何か作ってみたい」という声が寄せられるようになりました。

【写真】TOKYO OTOKO ミシンで作られた1点もの。高級素材を使用したものは値段が高いが、自身で作ることによってコストを抑えられるのも魅力だ
【写真】TOKYO OTOKO ミシンで作られた1点もの。高級素材を使用したものは値段が高いが、自身で作ることによってコストを抑えられるのも魅力だ【撮影=大塚翔平】


インテリアアイテムとしても最適!デザインに施された工夫とは?

――TOKYO OTOKO ミシンの開発にあたって、こだわった点についてお聞かせください。
【山崎一史】まずデザインは、樹脂素材では難しい重厚感を出すことに特にこだわりました。目指したのは、バイクの「ハーレーダビッドソン」のような、見るだけで魅力を感じられるデザインです。その存在感だけで、手入れをしたくなるような世界観をTOKYO OTOKO ミシンにも落とし込みたかったんです。そこで部屋に置いてもインテリアアイテムとして映える、男性的でスタイリッシュなミシンにしました。

――性能面では、どのようなところを意識しましたか?
【山崎一史】最近のミシンは樹脂を使用しているので軽量化が進み、手軽に使えるものが多くなっていますが、TOKYO OTOKO ミシンはその流れに逆行して、重厚感のある鉄製のボディを採用しています。そしてレザー加工や厚いものを扱う必要があったため、特に針板の部分に注目し、普通のミシンでは対応できない厚い生地でも縫えるように強度を高めました。また、モーターは業務用に匹敵する強力なものを採用し、厚い布地もスムーズに送れるように工夫しています。

【山崎一史】加えて、従来のミシンにあるジグザグ縫いなどの機能は省き、直線縫いに特化しています。その結果、重量は11.6㎏と弊社の小型ミシンの約5倍にもなり、重厚感が特徴的な見た目となっています。家庭用ミシンとしては珍しいですが、弊社は以前から鉄製ボディのミシンを開発しているので、その経験とノウハウを活かすことで、TOKYO OTOKO ミシンのような独自の製品を生み出せたのです。

TOKYO OTOKO ミシンの開発時、職人さんたちは「自分たちもこのミシンを使いたい!」と自分ごとのようにテンションを上げて取り組んでいたそう
TOKYO OTOKO ミシンの開発時、職人さんたちは「自分たちもこのミシンを使いたい!」と自分ごとのようにテンションを上げて取り組んでいたそう【撮影=大塚翔平】

縫いはじめによくある糸絡み(鳥の巣)を防ぐ機能が搭載されている
縫いはじめによくある糸絡み(鳥の巣)を防ぐ機能が搭載されている【撮影=大塚翔平】


主なユーザー層は60代!家族とのコミュニケーションツールとしても活躍

――TOKYO OTOKO ミシンに対するユーザーからの反響はどうですか?
【山崎一史】発売から驚くほど多くのご注文をいただき、一時は最長で4カ月もお待ちいただくことになりました。特に60歳以上のご夫婦が、共通の趣味を見つけたいと来店されたケースが印象に残っています。奥さまは普通のミシンを、ご主人はレザー加工ができるミシンを希望されたんです。このようにTOKYO OTOKO ミシンを通して、ともに楽しむ時間を過ごしたいと話すお客さまが多いですね。

【山崎一史】ほかにも退職された方々からは、セカンドライフの趣味として新しいことに挑戦したいといった理由で購入する方もいますね。いろいろな年代の方から支持していただいてますが、おそらく60代のユーザーが最も多いですね。発売当初は、お届けまでお時間をいただいてしまいましたが、こうして多くの方々からの想いを感じることができ、大変ありがたく思っています。

【山崎一史】一方で、30代や40代のお客さまからも、男女問わずにご購入いただいており、趣味の時間をより充実させたいといった声を多くいただいています。さらに若年層からは、古着のリメイクやジーンズの加工に使用したいという声だったり、ある大学生からは「TOKYO OTOKO ミシンに感動しました!」という手紙をいただくなど、さまざまな反響がありましたね。

「クオリティーは、低くてもいいんですよ。作ることそのものがおもしろいんです」と話す山崎さん
「クオリティーは、低くてもいいんですよ。作ることそのものがおもしろいんです」と話す山崎さん【撮影=大塚翔平】


【山崎一史】最近だと、お父さんがTOKYO OTOKO ミシンを使って息子さんのためにカバンを作ったものの、失敗してしまったというエピソードもありましたね。ただ、息子さんにとっては「お父さんが作ってくれたもの」として価値を感じるわけで、ある種親子とのコミュニケーションツールにもなっているそうです。

――では、ユーザーに向けたアプローチとしてどのようなものがありますか?
【山崎一史】「レザークラフト初心者キット」作成などの体験会を開催していますが、それ以外にも「TOKYO OTOKO ミシンに触れたい、見たい」という方が、毎日のように弊社(大阪市・生野区)に訪れます。これは弊社が募集したわけではなく、興味を持った方々が自発的に来てくださっています。来訪されたお客さまとは、その場で製品を見たり体験したりしながら、直接フィードバックをいただいています。このような日々の交流を通じて、お客さまのニーズや好みなどの貴重な意見を聞き、それを新しい製品開発や既存製品の改善に反映していますね。

株式会社アックスヤマザキは、老若男女問わず、誰でもミシンを使える製品を展開している
株式会社アックスヤマザキは、老若男女問わず、誰でもミシンを使える製品を展開している【撮影=大塚翔平】


海外展開も視野に!?TOKYO OTOKO ミシンの今後のブランド展開とは

――TOKYO OTOKO ミシンの発売以降、ミシン業界にはどのような変化がありましたか?
【山崎一史】以前はレザークラフトを手縫いでするなど、ミシンでの手作りまでたどりつかなかった方が多かったのですが、TOKYO OTOKO ミシンの登場で手作りを始める人が確実に増えました。私たちの製品が新たな市場を開拓しているのを、お客さまとのやり取りから実感しています。

山崎さんいわく、現在TOKYO OTOKO ミシンのユーザーの男女比は6:4で、発売から1年余りで目標達成が間近に迫っている
山崎さんいわく、現在TOKYO OTOKO ミシンのユーザーの男女比は6:4で、発売から1年余りで目標達成が間近に迫っている【撮影=大塚翔平】


――そんな、TOKYO OTOKO ミシンの今後のブランド展開について教えてください。
【山崎一史】弊社は家庭用ミシン専門メーカーとして創業し、2024年で78年を迎えます。私たちの役割は、ミシンを通じて何らかの形でみなさんの役に立つことです。自分で使うだけでなく、楽しんだり、困っていることがあればミシンを通して貢献できればと考えています。

【山崎一史】上記を踏まえ、TOKYO OTOKO ミシンの今後のブランド展開について、キャンプやDIY、アウトドアなど、これまでミシンが関わってこなかったジャンルにも挑戦していきたいですね。もしキャンプ好きな方であれば、自分だけのアイテムを作りたいというニーズに応えることで、ミシンに興味を持っていただけるきっかけになればと思っています。そのためには、ミシンとは直接関連しない分野とどう結びつけていくかが、とても重要なポイントになってきます。その点、TOKYO OTOKO ミシンは弊社でも販売しているので、訪れたお客さまに直接お話を聞けるのが大きな強みと言えます。これからもヒアリングを積極的に行い、反映できるアイデアを形にしていければと思います。

【山崎一史】さらに、TOKYO OTOKO ミシンの子ども版と言える「毛糸ミシンふわもこHugクラフトマシーン」も展開中です。この製品を開発する際、子どもたちの声を直接聞きたくて、空手道場にも足を運びました。弊社としては子どもたちが小さいころから男女関係なくミシンに触れる機会を持ち、将来的にはTOKYO OTOKO ミシンを使ってもらえるようになることが理想です。そうなれば、家庭用ミシンのユーザー層が広がり、弊社としてはうれしい限りですね。

小さなころから遊びながら楽しくミシンを使ってほしいという想いで開発した「毛糸ミシンふわもこHugクラフトマシーン」
小さなころから遊びながら楽しくミシンを使ってほしいという想いで開発した「毛糸ミシンふわもこHugクラフトマシーン」【撮影=大塚翔平】


この記事のひときわ#やくにたつ
・あえて「OTOKO」と名づけ、性別問わずミシンを使ってもらえるきっかけを作る。
・機能性だけでなく、インテリア性を兼ね備えたスタイリッシュなデザインで、これまでミシンを使ってこなかった人の興味を引く。
・キャンプやDIYなど従来とは異なる分野でのミシンの活用を提案し、新規ユーザーを獲得する。

取材・文=西脇章太(にげば企画)
撮影=大塚翔平

公式サイト:https://www.axeyamazaki.co.jp/products/om-01/

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