【漫画】「蓋開けたらカビてた話」を読む
私とこころは特別。そう信じていた
いおりとこころは親友同士。ただの友だちではない、特別な関係だった。教室のカーテンの裏に隠れて2人きりでたわいのないおしゃべりをする、それだけで何でもわかり合えるような気がした。委員会に出席するわずかな合間に離れることすら寂しい、ただずっと一緒にいるだけで幸せだった。高校に進学すると学科や部活が違うせいでなかなか会えなくなり、少しずつ2人の間に距離が生まれていく。いおりはそのことがもどかしい。いつのまにか、こころにとって自分が1番でなくなっていくことが悲しいのに、どうすることもできないでいる。
大人になったいおりはもう、こころと会うこともなくなっていた。お互いの誕生日にメッセージを送り合い、誰とでもできるようなどうでもいい話をして、それだけ。それでもいつかは、あの頃に戻れるんじゃないかという希望にどこかですがっていた自分に気づく。
とても大事だった関係。大事にしすぎて、いつの間にか失ってしまっていたことに気づいたときには、もう取り戻せないほどに遠く離れてしまっていた。
「大事にし過ぎてダメにしてしまう」というテーマの作品はずっと描きたいと思っていた
作者のほしさんに作品について話を伺った。――この作品を描こうと思い立ったきっかけを教えてください。
「大事にし過ぎてダメにしてしまう」というテーマの作品はずっと描きたいと思っていて、そこに実際にカビてしまったパンを見たときに頭の中でテーマとモチーフが繋がりました。
――純真無垢な友情、成長とともに関係が変わっていくなかで味わう切なさ、振り返ったときにほろ苦い気持ちになります。ご自身も経験があるのでしょうか。
あります。今回の2人のように依存性のあるような関係から、元々薄い縁だった人まで、自分がこれまで生きてきたなかでもたくさんの別れがあったなと、漫画を描くようになってからよく思います。
――こころさんもまた、いおりさんに対して同じように感じることはあったのでしょうか。
あくまでいおりの目線の作品として、あって欲しいなとは思いますよね…(笑)。このような関係性が終わるときというのは、双方が切り捨てる側、かつ、切り捨てられる側になっていることが多いのではないかなと思います。
大きな揉めごとなどのきっかけがあるわけではなく、ライフステージの変化などで徐々に必要とされなくなっていくというか。その中で思い出になっていくだけの関係かもしれないけれど、思い出してくれることがあればうれしいですよね。
――たくさんの反響、寄せられた感想について、どのように感じていますか。
今までもこういった、関係性の一つの終わり方、みたいなものを描いてきました。それぞれに共感してくださる方々がいたので、今回も伝わる人に伝わってくれたらうれしい!と思っていましたが、想像より遥かに多くの人に共感していただけて驚きました。ありがたい限りです。
作品を読んで辛い気持ちから脱せたと言ってくださる方もいて。漫画の作者というよりも、同じような経験をした1人として、恋愛に限らずみんな辛い片想いをしてるな〜、わかるよー!と、共感しています。
――今後はどんな作品を描かれていくのでしょうか?
今後も人と人との関係性に焦点を当てた作品を描いていきたいと思っています。
取材協力:ほし( @HS___Z )