ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙
『ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙』(ヨースタイン・ゴルデル:著、須田朗:監修、池田香代子:訳/NHK出版)
 私は小学生の時、『週刊少年マガジン』で連載されていた「MMR マガジンミステリー調査班」のノストラダムス特集で大予言を知って命に限りがあることをリアルに感じて絶望し、ビル・マーレイ主演のファンタジー映画『3人のゴースト』の主人公が生きながらに棺桶の中で焼かれるシーンで死ぬことの恐ろしさに震えた。小中学校の間、毎夜遅くまで、自分の命や意識が永遠に失われてしまったときのことを想像し、何度も夢に見た。  そして、中高生のときは人間関係に悩み、自分なりに最善の解を毎夜、問うてみた。  命とは何なのだろうか、どのように生きるべきなのだろうか、と問い続けるじめじめした青春時代だったのだろう。
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 そんな私は、学生時代に遅まきながら太宰治を知り、じめじめうじうじ、それでいて破壊的な…今でいう中二病の先駆けなどとも言われる太宰に惹かれた。そして、作品を読むなかでショーペンハウエルやニーチェを知り、哲学に興味をもった。  哲学にはどうやら、命とは何なのか、人はどのように生きるべきかについてのヒントがあるようだ。そう思った私だが、哲学のての字も知らない。そこで、哲学の入門書を探していたとき、『ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙』(ヨースタイン・ゴルデル:著、須田朗:監修、池田香代子:訳/NHK出版)と出会う。子ども向けのファンタジー小説で、さまざまな哲学者や哲学がやさしく語られるらしい。本書ではショーペンハウエルやニーチェについてこそ多くは語られていないが、古代から現代にいたるまで、時代を追ってどのような哲学が登場して進化、変容していったのか、さまざまな哲学者の紹介を読みながら、哲学の歴史を面白く学ぶことができた。  なにしろ、主人公である少女ソフィーに、正体不明の人物から手紙が次々に届き、その手紙によってソフィーが哲学者一人ひとりを知っていく、というわかりやすい構成が哲学素人にとって良かった。また、手紙の主は誰なのか、哲学を学んでいくことでソフィーがどう変わっていくのか、というミステリー要素も、純粋に読み物として面白かった。  本書を読むと、古代からさまざまな哲学者が、命、人生、人間とは、世界・宇宙とは…などについて、人生をかけて多様に考察してきたことがわかる。多くの古典作品を知れば、最新作品は「この名作とこの名作から影響を受けているな」とわかるように、多くの哲学者を知れば自分の悩みや考えを客観的に分析できたのにな、と昔の自分を振り返って思った。哲学は人生の航海図や羅針盤になる。  私は本書で多くの感銘を受け、気づきを得た。ソクラテスからは、自分が知らないことを知ることで、自然体で生きやすくなるだろうこと。プラトンからは、イデアの世界観があまりに美しく、人の目に見えていることがすべての真実ではないのかもしれないこと。ヘーゲルからは、歴史も人間も川の流れのようなものであり、人間関係も川の流れのように捉えることで悩みが減るかもしれないこと。キルケゴールからは、3段階の人の生き方「審美的実存」「倫理的実存」「宗教的実存」の、自分はどこを目指すべきか。  航路図や羅針盤がない白紙の状態で悩むことも大切なのかもしれない。しかし、私は自分の息子が小学校低学年のときに本書をすすめた。より良く生きられる可能性が広がるのなら、早いほうがいい。そうして、食卓で哲学について会話する機会が増えた。哲学は生き方を考えることだ。問い続けることが、自分の人生をきっと豊かにする。 文=ルートつつみ