岐阜市立中央図書館
 日本全国の各地にある図書館。誰もが気軽に本を借りることができるだけではなく、多種多様な企画展やおはなし会なども実施され、市民の憩いの場として愛されています。そんな図書館は、近年パブリックスペースとしての機能を高めるためにリプレイスするだけではなく、民間の企業とのコラボレーションをしたり、カフェ機能を備えたりなどさまざまな仕掛けが増えてきました。 【ダ・ヴィンチWeb図書館探訪】では、全国の特色ある図書館をご紹介。魅力的な企画展やイベントなどの取り組みにより地域を盛り上げている、さまざまな図書館の方々に取材をしていきます。本をもっと楽しめる可能性が詰まった、図書館。旅行などで近くを訪れた際には、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。 構成・文=永見薫
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回答者:岐阜市立中央図書館  島 陽子さん

――書籍の貸し借りや企画展、イベント以外にも力を入れて取り組んでいることがありましたら教えてください。  当施設は、建築家の伊東豊雄氏が設計した複合施設。岐阜県産の東濃ヒノキを使用し、金華山の山並みと呼応するようにデザインされた、木造格子屋根が特徴的です。  2階の全フロアと1階中央部には中央図書館があり、2階の天井から吊り下げられる“グローブ”と名付けられた漏斗型の傘が織りなす風景は、岐阜の新スポットとして市民に親しまれています。
岐阜市立中央図書館
 私たちは、本や人との偶然の出会いや、本をまん中にしたコミュニケーションのできる滞在型図書館として、誰もが生き生きとした表情に満ちた場所を目指して運営しています。  開館当初から「子どもの声は未来の声」を一番大切なメッセージとして掲げ、赤ちゃんから小・中・高校にいたるまで、子どもたちの成長を末永く見守る場所でありたいと思っています。  壁のない広大な空間の館内では、小さな子たちが少しざわざわしていたとしても、親御さんたちと一緒に微笑ましく見守っています。図書館は学びの場だけでなく、くつろぎや憩い、出会い、語り合いの場でもある。みんなが「お互い様」の気持ちを持ち寄るのが当施設の良いところです。
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――現在図書館では、1年を通してどのような企画展やイベントを実施していますか?  さまざまな取り組みがありますが、代表的な4つをご紹介します。

(1)みんなの図書館 おとなの夜学

「岐阜にいるのに“知らなかった”岐阜を知る」をコンセプトに、開館当初から続く地域の文化や歴史、人物、伝説などをテーマとした、トークイベントです。「岐阜提灯」「鵜飼」といった伝統から、「長良川と地形」「天ぷら中華」といった地元ならではの話題を中心に、毎回異なるテーマを掲げています。パネラーを交えた対談・鼎談形式で、これまでに42回実施しました。
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(2)子ども司書養成講座

 子ども向けのイベントも充実しています。そのうちのひとつ、「子ども司書養成講座」は、図書館司書のノウハウや図書館の仕組みについて子どもたちが理解を深める時間です。  こうした時間を通して、子どもたちが読書のすばらしさを友だちに伝えられる、学校の読書推進活動のリーダーを務めることができる、本と人とを結ぶ地域貢献者として活動する、という成長を伴えるように実施しています。  4日間16講座を受講した後「子ども司書」に認定。これまでに120名の子ども司書が誕生しました。

(3)子どもラジオ

 子ども司書となった彼らは、地域FM放送「てにておラジオ」内でレギュラー番組『小さな司書のラジオ局』の担当として、月1回放送する番組の企画立案、台本作成、取材、録音までを自分たちの手で行っています。毎回子どもたちの視点でテーマを考え、時には図書館内で利用者に突撃インタビューをしたり、街へ取材に飛び出したりして、ラジオ収録に臨んでいます。
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(4)めざせ直木賞作家 ぼくのわたしのショートショート発表会

 岐阜県出身の直木賞作家・朝井リョウさんをお招きし、中高生の自作短編小説を自らの朗読で発表し、朝井さんからコメントやアドバイスをいただく公募型の発表会です。これまで7回開催しました。 「朝井リョウさんに読んでもらいたい」「小説家になりたい!」と熱意あふれる意欲的な学生たちが全国から集まります。実は、この発表会をきっかけに、その後プロ作家も誕生しています。 ――司書のみなさんが手掛けた、企画展やイベントで手応えを感じたものについてと、その際に参加者や来場者からどのような反応があったか、印象的だったことについて教えてください。  特に印象的だったイベントは、児童コーナー書架の「としょかん商店街」展示です。児童エリアの書架と書架の間にあるスペースに、郵便局や銭湯、映画館、プラネタリウムなどをモチーフにしたディスプレイ展示を常設で行いました。
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 館内の図書分類を「地番」に見立てて館内にひとつの商店街を形成、どんなお店をつくるかは司書たちが考え、お店の屋号も司書の名前に由来して作成。  子どもたちに気軽に本に親しんでもらいたい、楽しんでもらいたい、という司書たちの創意と工夫が盛り込まれた飾りつけはすべて手作り。リアルなケーキや、レーンが回る回転ずしなど、思わずごっこ遊びをしたくなる空間づくりで、訪れる人からはとても楽しかったというお声をいただけました。
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――日頃、みなさんならではの独自の配慮や工夫、環境づくりなど、こだわっていることは何かありますか?  主に交流を促すという環境づくりや、配慮、工夫に力を入れています。その中でいくつか特徴的な点についてご紹介します。

(1)心の叫びを聞け! 掲示板

 まずひとつ目は、中高生が学校や進路、恋愛や性の悩みなどを投稿し、その質問に司書がウィットを交えて答える交流掲示板です。中央図書館開館以来、投稿数は3000件を超えています。中高生とのやりとりをSNSではなく、手書きで交わすことで、人柄や気持ちが互いに見えやすく伝わりやすいと感じています。10代の多感な時期は親や教師に本音をなかなか語れないもの。掲示板が自宅や学校以外のサードプレイスとして、心休まる場所として、開館以来の人気スポットになっています。
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(2)まちライブラリー

 多くの世代の交流スポットとして特徴的なのは、まちライブラリーです。あまり図書館に来たことがない人、本に触れる機会のない人に向けて、図書館と出会う機会を増やすアプローチをしています。図書館が自ら外へ出て「本と人とまちをつなぐ」活動を行ってきました。

(3)シビックプライドライブラリー

 さらに、岐阜の暮らしについて楽しむための情報発信スポット作りにも力を入れています。このシビックプライドライブラリーは、自分の住んでいる地域への愛着だけでなく、これから先も積極的に関わっていくシビックプライドの醸成を目的に、「自分らしい暮らし」の実践から地域社会がもっと面白く豊かになる情報の提供や発信、出会いやつながりのきっかけの場として機能することを目指しています。  専用コーナーには、暮らしやまちをつくるための情報発信の場として、市民が自分たちの手で選んだ本や雑誌、フリーペーパーなど約800点を所蔵しています。
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――紙の本が少なくなっていき、また地域の図書館の減少や、衰退といったことも懸念されている昨今ですが、この状況を図書館のみなさんはどう感じていますか?  過去・現在・未来をつなげて見つめるという役割を持っているのは、図書館だと思います。街の風景は変わり、失われていく人も建物もある中で、コミュニティの脆弱化や人々の暮らしの記憶の風化が進んでいます。  書物は人が作り出したもの。本のある世界とは、人の日常に近いものです。日々変わりゆく時代の中で、本は大事な役割を担えます。  図書館は「本の貸出をするだけの施設」から、本だけでなく古書、絵地図、写真、録音などを通して文化的に資産をアーカイブし、それを現在・未来に生きる人たちへつないでいくこと、人と人、人とまちが交わる交差点としての機能、そしてサードプレイスとしての役割を大切にすることで、地域社会をより豊かにするためのお手伝いができると思っています。 〈施設概要〉
岐阜市立中央図書館 みんなの森ぎふメディアコスモス
岐阜県岐阜市司町40-5
TEL:058-262-2924