とぼけた表情がかわいい“チョン・ジフン”ナムグン・ミン / (C)2022 Disney and related entities
【写真】イメージがらり!クールな表情がカッコいいナムグン・ミン

毎回役柄を完璧に演じて視聴者を満足させ、数々の賞を受賞。“信じて見る俳優”と呼ばれ、ときには“演技の神”と称されることもあるナムグン・ミン。このところ重い作品が続いていたが、「わずか1000ウォンの弁護士」で約5年ぶりにコミカルな役に挑戦し、つかみどころが無くひょうひょうとしたキャラクターで魅了している。

検事から報酬1000ウォンの弁護士に

この作品は、1000ウォン(=約100円)で弁護を請け負う敏腕弁護士・チョン・ジフン(ナムグン・ミン)が社会的弱者の味方となって奮闘する、痛快リーガルドラマ。9月23日より韓国SBSで放送開始となり、日本でも「ディズニープラス」内「スター」ブランドで、同じく9月23日から毎週金曜土曜に、韓国での放送終了タイミングでエピソードが追加されている。

チョン・ジフンは、以前は検事で、捜査が上手く相手が誰でも引き下がらない、と有名だったが、ある事件のせいで検事を辞めて、現在は弁護士として働いている。弁護料はなぜか1000ウォンしか受け取らず、弱い立場の依頼人のために法廷で全力で戦っている。だが、“熱血漢の正義の味方”という感じではなく、何を考えてるのかわからない、ひょうひょうとした得体の知れない人物だ。ひと言で言えば“変わり者”。ナム・グンミンも「“変わり者ヒーロー”といった姿が、チョン・ジフンの最大の魅力」と語っている。

ナムグン・ミンのアイデアでできあがったチョン・ジフン像

最近、韓国のドラマは「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」に代表されるように、弁護士モノが多く、今期も「弁論をはじめます。」が放送中。ナムグン・ミンがこの作品の台本を受け取ったときには、想像できなかった状況だ。それで、撮影に入る際、他と差別化するのではなく、どうすれば面白く表現できるかに焦点を置いて、“チョン・ジフン”というキャラクターを作っていったんだそう。

当初ジフンは、いかにも1000ウォンで弁護を請けそうなルックスの設定だった。が、視聴者に「この人はどうして1000ウォンで弁護をしてるんだろう…」と好奇心を持ってほしくて、チェック柄のスーツに行きすぎたパーマヘア、サングラスという姿を思いついたんだとか。それで、前作の「黒い太陽」の役作りで17kg増量した体をまた減量し、人生初のパーマもかけたという。

もちろん役作りは外見だけではない。演技的な面では「愉快さと慎重さの間で極端にどっちかに偏らないように、真ん中のラインを維持するように努力した」とのこと。

このようにナムグン・ミンは、毎回、与えられた役にとことん向き合って、役と自身を同化させる。だから視聴者は、どんなときも「ナムグン・ミンが演るなら間違いないだろう」と期待し、その期待は外れることがない。「信じて見る俳優」と言われる所以だ。

度を越したサイコパス演技で大ブレイク

これほどまでに変幻自在な姿を見せ、役に対してストイックで、「演技の神」と呼ばれることもある彼だが、高校や大学は芸術系ではなく、演技を習ったことはない。自分とは合わないと思いながらも大学の機械工学部に通っていたとき、TV局のタレント公募の告知をたまたま目にして「これは、やらなくちゃ」と思ったのが、俳優になるきっかけだった。オーディションは落ちたが、演技しながら生きていることを実感したそうだ。

その後、数多くの作品で経験を積んで力を付け、「ホジュン~伝説の心医~」でのホジュンのライバル・ドジや、「匂いを見る少女」のサイコパスなカリスマシェフ・ジェヒなど、物語の核を担う重要な役をまかされるようになったが、なぜかもう1つメジャーになり切れないもどかしさがあった。

しかし、2015年に「匂いを見る少女」に続いてサイコパスを演じた「リメンバー~記憶の彼方へ~」のナム・ギュマン役で、ついに大ブレイク。ギュマンは、ささいなことにもすぐ腹を立て、怒りがコントロールできずに暴れまくる財閥御曹司。毎回トラウマになりそうなほどのキレっぷりで視聴者を恐怖に叩き落とし、憎まれまくったが、皆、彼から目が離せなくなった。

秘書にも当たりまくり、秘書役のイ・シオンはプライベートでもナムグン・ミンと親友だったが、「このドラマのせいで溝ができた」と冗談交じりに語っていた。またナムグン・ミンも当時、「もう悪役はやりたくない」とコメントするほどの思いで演じていた。

ピンハネ経理課長役のコミカル演技で不動の人気に

その後、2017年に初の主演となったコメディ「キム課長とソ理事」で人気を不動のものに。彼が演じたキム課長は、ピンハネで大金を得ることを期待して大企業に経理課長として中途採用でやってくる人物。だが会社の不正を知り、それを暴いていくことになる。ひょうひょうとしながらも仕事ができ、ライバルのソ理事(イ・ジュノ)をからかったりやりこめていく姿が痛快で、視聴者は彼に夢中になった。

開始当初は、裏番組が超話題作だったため、ほとんど期待されてなかったが、口コミで視聴率はぐんぐん上昇。初回の6%台から18%台まで上がり、同時間帯1位に。続編を望まれるほど人気を博した。彼はこの作品で「KBS演技大賞」の最優秀演技賞と、ジュノとの絶妙のコンビネーションから、男性同士ながらもベストカップル賞を受賞した。

2017年は、「キム課長」の後に主演したサスペンス「操作」でも「MBC演技大賞」で最優秀演技賞を受賞し、彼にとって大当たりの年となった。

そして、「ストーブリーグ」では「2020 SBS演技大賞」でついに初の大賞を受賞。役は、4年連続最下位で身売り寸前の野球チームに、野球未経験ながらも手腕を買われてGMとして採用される人物。無愛想で選手や同僚から誤解を受けることもあるが、常に球団のことを考え、強い意志でリーグ優勝に導いていくペク・スンスを好演し、ふだんドラマを見ない男性の支持も多く得た。

彼の快進撃はまだまだ続き、自身が巻きこまれた過去の陰謀を暴いていく国家情報院のエリート要員を演じた「黒い太陽~コードネーム:アムネシア~」で、「MBC演技大賞」で大賞を受賞。8カ月に及ぶ肉体改造をして挑戦したアクションが話題となった他、失くした記憶を辿りながらの内面の葛藤の表現が素晴らしく、俳優・ナムグン・ミンの底力を見せつけた作品となった。

2年連続の演技大賞受賞で次回作に注目と期待が高まる中、彼が選択したのが今回の「わずか1000ウォンの弁護士」。作品選びの確かさでは定評のある彼が選んだのだから、単純な痛快法廷コメディーではないはずだ。事実、ナムグン・ミンは「愉快さの中に隠されたジフンの過去の姿が徐々に明らかになり、1000ウォンを受け取る理由と事情を知って感動も満喫できると思う」と語っている。

ジフンが検事を辞めた理由は何なのか、採算度外視で弱者を助けるきっかけは何だったのか―これから笑いと感動の中で私たちは知っていくことになるようだ。