佐藤日向 / ※提供写真
【写真】読了小説を手に微笑む佐藤日向

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。

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自分の好きを貫くというのは、実は難しかったりする。

好きなことやものを声に出すと、なぜか周りが意味もなく否定する可能性があるからだ。

それは本当に些細なことだけど気付かないうちにトラウマになっていたりする。

今回紹介するのは原田マハさんの「〈あの絵〉のまえで」という短編集だ。

本作は6つの短編で人と美術館の思い出が温かく描かれている。

人は生活をしていく上で変化が必ずあり、そのたびに人は望まずとも強くなっていく。例えば受験や就職というのは分かりやすい人生の変化だろう。中にはたまたま立ち寄った美術館で出会った絵に惹かれて人生の選択をする人だっている。

私はあまり人前で言ったことがなかったが美術館という場所がすごく好きだ。それぞれが目の前にある絵に没頭をし、絵に含まれている時代背景や感情を各々の解釈で絵に対しての解像度をあげているあの瞬間が特別に感じる。

こう考えられるようになったのも大学の授業がきっかけだ。

Art Historyの授業を何気なく選択をし、どんな授業か分からず受講していくと、ただの絵でしかなかった存在が歴史を学ぶことで立体的になり、その時代の流行りと個性が合わさって絵の雰囲気が出ることを知り、絵画というのは絵ではあるけど、小説や歴史書くらい絵だけでさまざまな情報を残している面白さを学んだ。

だが、私自身は子どもの頃から自分で絵を描くことがものすごく苦手で絵の具を触ったり色を想像すること自体がそもそも得意ではなかった。そんな私が人前で「美術館で絵を見ることが好き」と発言をするとどうしても「絵が下手くそなのに?笑」と言われてしまう。

好きを一度でも笑われてしまうと人前でもう一度好きを伝えるのは勇気が必要になる。

佐藤日向 / ※提供写真
だが本作を読んだ時、美術館という場所は絵に限らず沢山の人に色々な思い出をくれて、

"誰かの居場所"として各地に存在してくれているのだと思う。

作中に登場する地方の美術館に私は訪れたことはないが、原田さんの文章から温かさが伝わってきて想像だけでなくリアルで私自身がその場所を訪れたらどう感じるのかがとても気になった。美術館に行くというのは意外とハードルが高く、地方へ行ったり、それこそ海外に行く時にあまり選ばない選択肢かもしれない。

それでも絵に込められたあれこれを気にしすぎず、周りに流されない自分だけの時間を、自分と絵との対話を楽しめる場所を原田さんから文章を通して教えてもらえた、そんな気持ちになれる作品だった。

絵の具の種類や、絵の技法、芸術家のすごさ、私はまだまだ知らないことが多いが、絵の中に込められた時の流れや作者の感情をゆっくり読み解く時間を私も作ってみようと強く思った。本作に登場した地方の美術館もいつか必ず、訪れたい。

美術館という空間に想いを馳せる…佐藤日向が『〈あの絵〉のまえで』から感じた言葉を綴る / ※提供写真