最近ではリスキリングやリカレント教育が話題ですが、あなたには何か学んでみたいことはありますか?『ただの主婦が東大目指してみた』(フォレスト出版)は、昼寝ばかりしていたズボラ専業主婦の著者・ただっちさんが、夫の言葉をきっかけに東大を目指す姿を描いたノンフィクションの受験奮闘記です。「ただの主婦」は一体なぜ「東大主婦」を目指すことになったのか―。笑いあり涙ありのエピソードを厳選してお届けします。
※本記事はただっち著の書籍『ただの主婦が東大目指してみた』から一部抜粋・編集しました。


東大でマジで恥かく1時間前   6月2日


夫も一緒に東大の説明会に? 配偶者同伴とか、彼氏同伴で東大大学院の説明会に行くなんて、前代未聞じゃないか。
どんなこんなで、説明会の日になり、新幹線で東京へと向かった。夫がいてくれたおかげで、迷わず東大の本郷キャンパスまで向かうことができた。
これが、テレビでよく見る、あの赤門かぁ。未来の私の母校なんだなぁ、なんて呑気な感想が湧いてきた。
やっぱり日本一の大学(諸説あるけど)! 建物がすごい。自然がすごい。広い。何これ、国立公園か何か? それから、知の集合体って感じがして、とってもワクワクする。
説明会までの時間つぶしに、安田講堂前で写真を撮ったり、お土産屋さん? に行ったり、夫と一緒にキャンパスをうろうろした。今思えば受験生というより、完全に観光客って感じだったな。
そうこうしていると、あっという間に説明会の開場時間になった。会場に入って、空いた席を探していると、受験生たちからこんな声が聞こえてきた。
「研究計画書持ってきた?」
「当たり前だよ~! 研究室説明会でゼミ生とか教授に診てもらえるかもしれないし! まだ途中だけどね」
研究室説明会......? ああ、そういえば説明会後に研究室個別説明会があるとか書いてあったなぁ。
研究計画書って、出願のときに一緒に提出するやつだよね? えっ出願の2ヵ月前なのに、もう東大の教授に見せられるレベルに仕上がってるの......?
えっ、ちょっと待ってよ。個別説明会って、大事なアピールの場だったりする? やばい、何も用意してない。私はすごく焦りだした。まだ受験するとか、何も考えてないのに。
そして約1時間後、思い出しただけで、あーっ! って言いたくなるような、失態を犯すことになる。

知能レベルの違いに愕然とする   6月2日


説明会に来ていた学生たちは、研究室個別説明会に向けてしっかり準備をしてきたようだ。
私は、配布されたパンフレットを見ながら、必死に希望する研究室を探しまくった。
興味のある分野は、あらかじめ決まっていたから、該当する研究室を見つけるのはとてもたやすかった。
だけど、そもそも学問の基礎すら何も知らないから、何が研究したいとか、そういう大事なことはまったく思い浮かばなかった。
それからしばらくして、大学院入試説明会がはじまった。
プロジェクターで現役の学生紹介があった。そこに出てくる学生たちは、気絶しちゃいそうなくらい高い志を持っていた。特にすごい人をピックアップしてたんだろうけど、やっぱり日本一の大学はすごい。世界の~とか、平和の~とか、普通の生活をしてきた私にとっては、ファンタジーみたいなワードがたくさん出てきた。
東大に行って、研究者になるなんて、顔から火が出そうなくらい高い志を持っちゃった!......なんて考えていたけど、東大院生たちは人間というスケールを超えて、国や社会、そして世界という単位で物事を考えているよう。私が突然同じことを言ったら、周囲の人からは面白くないギャグだと思われてしまうだろう。
それほどのことを、ガチで語ることができる東大って、本当、ものすごい環境だ......! 学生紹介を見て東大への気持ちがものすごく高まった。
それから、入試や学生生活など、具体的な説明があった。どうやら事前に希望する研究室には、自分からアポをとって研究室訪問をすることが望ましいらしい。それから、研究計画書に書く研究は、「研究の新規性」が必要とされるらしい。
研究の新規性って......そもそも先行研究を把握していないと、何が新しい研究なのかわからないじゃないか! どんだけ大量の論文を読まなきゃいけないのだろうか......。
ああ、他の受験生たちがすでに研究計画書を教授に見せられるレベルにまで完成させてる理由がわかったよ。早めに行動しなくちゃ、まともな研究計画書にならない。
......やっぱり私には、大学院受験は厳しそうだ。


そして説明が終わると、別の場所で研究室個別説明会がはじまった。就職活動の合同説明会みたいに、狭い空間にたくさんのブースがぎゅうぎゅう詰め込まれているような感じだった。各教授や院生の前には、受験生の長蛇の列ができていた。
「ただっちは行かないの?」
「うーん、いやぁ、何も準備してないから聞きたいことが思い浮かばないし。そもそも受けるかどうか決めかねてるし」
「自分の研究の話はしなくても、パネルとかを見て質問したり、院生にどんな研究してるか質問してみたら? せっかく関西から来たんだしさ」
「うん......」
正直めちゃクソ気が進まなかった。そもそも私はえげつないほど人見知りでコミュ障だし。行ってもどうせ挙動不審な奴って思われるに違いない。
「それに、研究者を目指すんでしょ?」
......は! そうだった!
ここは、私の母校(仮)で、私は今、研究者になる道を歩みはじめているのだった! 人見知りだからってこんなところで、もじもじ蚊帳の外にいて一体なんになるんだよ! 行くぞ、行くぞ、私は行くぞ。当たって砕けろ! 飛んで火に入る夏の虫!
夫の一言で、思いっきりエキサイトしてしまった私は、なんの武器ももたずに戦場へと向かってしまったのであった。あーめーん。
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