<フォロワー数5.6万人>寿限無やピカソ、円周率の印鑑がSNSで大バズり!島根県のハンコ屋さん「永江印祥堂」に聞く、企業アカウントの成長戦略とは?

東京ウォーカー(全国版)

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X(旧Twitter)やInstagram、YouTubeなど、さまざまなSNSが世にあふれる現代。個人だけでなく、企業にも販促やマーケティングのためのSNS運用が求められている。しかし、SNSを上手に扱うだけでなく、フォロワーを増やして影響力を獲得するのは至難の業だ。世の“バズっている”企業はどのようにアカウントを運営しているのだろうか。

現在、島根県のとある会社のSNSが話題になっている。それが株式会社永江印祥堂(以下、永江印祥堂)だ。主に印鑑やハンコを製造・販売している会社で、この企業のXアカウントには5.6万ものフォロワーがついていて(2024年2月時点)「バズりハンコ屋さん」として人気を集めている。

今回は、永江印祥堂のXアカウントを運営する“中の人”を直撃。SNSの運用を始めたきっかけや、企業アカウントの運用のコツ、そして“万バズ”を達成した「寿限無さん専用印鑑」や「ピカソさん専用印鑑」などの制作秘話についてインタビューを行った。

永江印祥堂にてSNS担当を務める「中の人」【提供=永江印祥堂】


SNSで多くの“いいね”が!島根のハンコ屋さんが大人気

――初めに、貴社の概要とSNSを始めたきっかけについて教えてください。
【中の人】弊社は1979年設立の会社で、印章をメインに取り扱っている会社です。主に全国の企業や官公庁に製品を納入しています。個人のお客様からの依頼に関しては、オンラインショップとイオン松江店様、イオンモール出雲店様の2カ所の実店舗にて承っています。

【中の人】現在はだいぶ回復してきているのですが、コロナ禍の影響で実店舗での売り上げが一気に下がってしまいました。そこで、「個人のお客様を取り込もう」ということになり、SNSでの展開を始めることになりました。

【写真】永江印祥堂の企業紹介ハンコ【提供=永江印祥堂】


――それがSNS戦略を始めるきっかけだったんですね。
【中の人】そうですね。ですが、始めた当初はSNSでの売り上げが月に一度あるかないかの状態だったので、SNS戦略にテコ入れを図るために、現在の“中の人”である私に白羽の矢が立ったのです。

――どのような方法でSNSを伸ばされたのでしょうか?
【中の人】コロナ禍で弊社の売り上げが低迷していたので、それに伴ってオンラインショップとSNSを盛り上げる形で始めたのですが、やはりSNS内で弊社やハンコのことを普通に紹介してもおもしろくはありませんでしたし、フォロワー数も伸ばせませんでした。

【中の人】SNSを伸ばすために「うちの強みってなんだろう」と考えた際、他者にはマネできない弊社の技術をたくさんの人に見てもらえればハンコにも興味を持ってもらえるし、弊社のPRにもなるだろうと思いました。

【中の人】そこで、まずは弊社の「細かい文字がハンコの中にたくさん彫れる」技術をPRしたほうがいいなと思い、弊社の自己紹介が87文字で刻まれたハンコの制作に挑戦しました。それをXでポストすると、1.2センチの直径の中に文章が刻まれたハンコがすごいと評判となり、22.6万いいねをいただきました。

直径1.2センチの印面に87文字が彫られている【提供=永江印祥堂】


――たくさんのいいねの数を獲得されていますね!
【中の人】このポストの反響を見て、弊社の技術がほかの企業にはマネできないものであることを実感して自信がつきました。そして、世の中にはないおもしろいものはみなさまの目を引くんだなということを感じ、さまざまなおもしろ印鑑に挑戦することをSNS戦略の要にしました。

――貴社ならではの新しい取り組みとして、どのようなことに挑戦しましたか?
【中の人】まずやってみたのは「寿限無さん専用印鑑」ですね。落語に登場する寿限無さんは「寿限無寿限無五劫のすり切れ…」という非常に長い名前を持っていますが、それをすべて小さな印鑑の面積に収めました。このように細かな文字が彫れることをアピールして、ブランディングを図っていきました。

寿限無さん専用印鑑。寿限無さんが実在しても安心だ【提供=永江印祥堂】


【中の人】寿限無さん専用印鑑は6.2万いいねをいただくほどに反響を呼び、「すごい技術だな」「ハンコ屋さんの本気」と話題になりました。すると、フォロワーさんのひとりから「パブロ・ピカソの名前も彫ってほしい」という要望があったためチャレンジしました。そうしてできたのが「ピカソさん専用印鑑」です。

――94文字もあるピカソの名前を、印鑑の小さな面積に彫れるのはすごい技術ですね。
【中の人】ちなみに、「ピカソさん専用印鑑」ははじめてXに投稿したところ全然伸びませんでした。悔しかったので「こちらが『彫れたら絶対にすごいしおもしろいから見てみたい』と乗せられて彫ったのに全くと言っていいほど反響がなかった“ピカソのハンコ”です」という文章とともにポストして、3万いいねをいただきました。

【中の人】また、フォロワーさんから「円周率の印鑑も売ってほしい」という要望があったので「円周率の印鑑」も作ったのですが、当初は1本も売れなくて…。これをネタに「“円周率のハンコ売ってほしい!”と言われ販売開始したのに1本も売れてないって嘘みたいだよね」とツイートしたら反響を呼び、7.3万のいいねがつきました。

ピカソさん専用印鑑。アートを感じるあなたへ贈る一品【提供=永江印祥堂】

円周率の印鑑。数学や科学の領域に興味がある人にピッタリ【提供=永江印祥堂】


――細かな文字を彫ることができる技術は、どのように磨かれてきたのでしょうか?
【中の人】企業様が注文される印鑑の中には、非常に長い部署名が入っていることがあります。また、最近の企業様ではソリューション営業やサステナビリティなど、カタカナで長い文字が入っている部署もあったりするので、そのような印鑑を作るために、細かな文字を彫る技術を取り入れてきました。

【中の人】文字の編集においては細部にまで気を配り、彫刻時にきれいに取り除けるよう工夫しています。また、文字や画数が多い場合などを考慮して、適切な針の使用や適切な深さや彫刻速度を定めています。これらの細かな点にまで気を配り、彫り上がりがきれいで、押印した際にも鮮明に映るよう、最終的な仕上げにも細心の注意を払って制作しています。

“中の人”がSNS運用で大事にしていることとは?

――SNSを運用するうえで、どのようなことを意識していますか?
【中の人】そうですね。やっぱりユーザーの方たちの気を引くというか、ちょっとかまいたくなるような投稿を心がけています。シンプルでおもしろい投稿が注目される傾向にあるので、フォロワーの興味を引きやすいものやトレンドを参考にポストしていますね。

【中の人】ただ、愚痴や率直に感じたことなどをそのまま載せているときもあるので、それはそれでフォロワーさんと会話しているような気持ちで運用していることが多いですね。ユーザーのみなさまの日常に溶け込むようなポストをしています。

百人一首印鑑。文字だけでなく絵も彫れる【提供=永江印祥堂】


――始めた当初はフォロワー0人からのスタートだったと思いますが、SNSを伸ばすうえでどのような点を工夫されましたか?
【中の人】やはり、最初はフォロワーさんもすごく少なかったですし、普通にハンコや商品の紹介をしても誰も反応してくれなかったので、まずはフォロワーのみなさんから親近感を得られるような日常的なことを投稿しました。そこから徐々にフォロワーが増えていきましたね。

【中の人】時には、「フォロワーがほしいです…!」と困りながら投稿したポストを見てお情け感覚でフォローをしてくれる人もいましたね。また、フォロワー数が全然なかったときに、上司がフォロワー数を「3000人」と間違えて発表してしまったことがありました。そのときには「そんなにいません…」と困りながら投稿したら、同情でのフォローも多くありました(笑)。

【中の人】このようなことを繰り返しながらフォロワー数を増やしていき、ある程度の人数になった段階で寿限無やピカソの印鑑といった、バズるネタを投稿していきました。今でこそフォロワー数が増えましたが、それでもSNSは難しいですね。投稿に全然反応がないこともありますし、私がおもしろいなと思っていてもタイミングが悪いと伸びないということもよくあります。

――やはり計算通りにはいかないのがSNSの難しさであり、おもしろさでもありますよね。
【中の人】そうですね。2021年から運用を始めて2年半ほど経過しますが、それでも難しいなと思う毎日です。

――また、フォロワーが増えるとアンチも多くなると聞きますが、そのあたりはいかがでしょうか?
【中の人】アンチから売られたケンカは買う、が弊社の方針です(笑)。以前「ハンコ買ってください」といったツイートをしたら、「この時代にハンコは時代錯誤だから売るな!」というアンチコメントがつきました。そのときに私は「じゃあ“言う”のはやめます」と宣言して「ハンコ買ってください。」という印鑑を作りました。

【中の人】やはり、アンチにとっても弊社にとっても無視をするのが一番おもしろくないので、手玉にとって反撃し、最終的に一緒にアカウントを盛り上げる仲間になることを目標にしています。ユーザーのみなさんにとって、「最初嫌いだったのに、気づいたら好きになっている」みたいな心情の変化を起こしたいですね。

ハンコ買ってください。の印鑑。文字が小さいのは拡大させるための戦略でもあるそう【提供=永江印祥堂】


――現在は5.6万フォロワーを獲得されていますが、アカウントを始めた当初と比べて、どのような変化がありましたか?
【中の人】毎度ですが「やっぱりSNSの力ってすごいんだな」とあらためて痛感させられています。特に、アカウントが大きくなって定期的に製品がバズるようになったことで、テレビや新聞をはじめとしたメディアさんからの取材が増えたことが一番の変化でした。そのおかげで弊社や商品が紹介される機会が増えたので、とてもありがたいです。

【中の人】また、今後はほかの企業様と一緒に何かしたいと思っているのですが、印鑑は他商品とのコラボ企画が難しいプロダクトですので、なかなか実現できていません。ぜひ、弊社とコラボをしたい企業様は弊社までご連絡ください。DMお待ちしています!

これからも印鑑の魅力を伝えるSNS活動を

――昨今は電子印鑑が徐々に普及してきていますが、デジタル化における印鑑の今後のあり方をどのように考えていらっしゃいますか?
【中の人】日本政府が推進する「脱ハンコ」の方針により、2021年4月から約1万5000種類の書類への押印義務がなくなりました。ですが、これらのほとんどは認印であり、実印が必要となる手続きについては現在も83種類の押印が義務付けられています。ですので、個人の実印をはじめ、銀行印や会社印の重要性はこれまでとは変わっておらず、役所や銀行などではまだまだ印鑑が必要とされています。

【中の人】また、アナログの印鑑には便利な点も多くあるんです。そのひとつがサインでして、実際に名前を書くよりも印鑑を押したほうが早いですし、なにより何回でも押すことができます。そのため、たくさん書類があっても問題ありません。また、セキュリティ面においてもデジタルとアナログの両方のよさがあるので、双方を取り入れたセキュリティの形が求められています。

【中の人】弊社としましては、デジタルに頼り切るのではなくアナログのよさも残して、双方のいいとこ取りができることがこれからの時代には大事になると思います。そのため、印鑑の市場がデジタルに全部取られてしまうといったことはありません。

QRコードを彫った印鑑【提供=永江印祥堂】


――アナログかデジタルかのどちらかに傾くのではなく、両方のいいところを活かすことがこれからの印鑑に業界に求められているのですね。
【中の人】そうですね。だからこそ、今後も印鑑は重宝されていくと思いますね。

――最後に、今後のSNS運用での野望について教えてください。
【中の人】SNSについては、今後もフォロワーさんたちに「おもしろい」と感じていただけるような取り組みを行っていきたいです。これからもいろいろなことをやるので、フォロワー数やいいねの数、そして売り上げも後からついてこい!みたいな感じでアカウントを運営し、印鑑に興味を持ってもらえる投稿をしていきたいと思います。

「焼肉定食」の印鑑【提供=永江印祥堂】


――では、会社全体の野望としてはいかがでしょうか?
【中の人】弊社の展望としましては、印鑑は「名前を彫る」という概念があると思うのですが、これからは表現を彫る・表現を形にするという概念に変えて、新しい市場をどんどん広げていき「唯一無二」の会社を創り上げていきたいです。

【中の人】また、弊社はSDGsに取り組んでいて、鳥取県の智頭杉や島根県の神楽檜の間伐材や端材を活用し、環境に配慮した国産材料を使用した印鑑作りを行っています。かつては象牙などの印材もありましたが、現在は国産材への転換を進めています。今後もこのような取り組みを進めていき、地球に優しいハンコ屋さんを目指していきたいです!

――ありがとうございます。貴社の今後の活躍、並びにSNSの展開を楽しみにしています。

取材・文=福井求(にげば企画)

この記事のひときわ #やくにたつ
・SNSでの発信は、会社の知名度を世界に広げる
・企業アカウントはフォロワーと一緒に育てるのがコツ
・デジタルとアナログのいいとこ取りが社会には大事

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