教育支援サービスを提供する株式会社アフレルが、女子のプログラミング教育の活性化に多方面から働きかけている。その中心的な存在となるのが、「KIKKAKE(きっかけ) ガールズプログラミングフェス」の運営に携わる、経営戦略室リーダーの谷口花菜子さん。その取り組みや、テック分野の現状についてお話をうかがった。

株式会社アフレルで女子教育推進に携わる谷口花菜子さん
株式会社アフレルで女子教育推進に携わる谷口花菜子さん


「女性はプログラミングが苦手」なわけではない

「現在、大学の工学部での男女比は約8:2、テック分野の就職率も8:2。民間のプログラミング教育にスポットを当ててみても、やはり数値的に男女比は8:2なんです。子どもに好きな習い事を選ばせてみると、多くの女の子はプログラミングを選びません。プログラミングスクールが小学校の近くなどでチラシを配っても、集まるのは8割程が男の子だそうです。なぜだと思いますか?」

谷口さんの問いかけに、つい偏見を持った回答が浮かんでしまう。女の子は理系より文系。プログラミングのような理系的習い事は、女子には難しすぎる……?

「我々アフレルは、2020年に民間のプログラミングスクールと工学部の女性教授にお越しいただいて座談会を実施しました。そこで上がったのが、プログラミングを体験するコンテンツや環境が女の子向けではない、という実態でした」

「現状、プログラミングスクールで提供する定番の教育コンテンツの傾向としては、宇宙ロケットや車型のロボットを走らせて競争したり、作ったものをぶつけ合って相撲したり。このようなコンテンツに興味を持てない子どもは一定数いて、数値的に見るとそのほとんどは女の子なんです」

例えば、男は青、女はピンクといった先入観は、子どもたちに偏ったジェンダー規範を形成する要因にもなり得るもの。とはいえ、子どもたちが好むものには、性別的な違いが歴然と存在する。プログラミングスクールで「ロケットや車を走らせよう!」と呼びかけても、女の子の気を引くのは難しい。また、子ども同士の関わり方にも、男女の違いがある。

「女の子はどちらかというと、競争する雰囲気よりも共感したり、一緒に見せ合って『いいね』と言い合う環境に居心地のよさを感じることが多いです」

「さらに、スクールの男女比が8:2ということはつまり、教室にいるのはほとんどが男の子。女の子にはアウェー感があり、男の子ばかりの環境では、女の子は意見を言いづらく、自分の作ったものを発表しづらいんです」

女の子も一定数いるという、近い感性の仲間も集まる環境であれば、のびのびとプログラミングを学ぶことができるはず
女の子も一定数いるという、近い感性の仲間も集まる環境であれば、のびのびとプログラミングを学ぶことができるはず


教育だけに関わらず、テック分野に男性が約8割を占めるという状況は、世界的にみても日本で顕著なのだという。谷口さんはかつて、海外のエンジニアを採用する会社の状況を聞き、驚かされたと語る。

「海外では、女性エンジニアは珍しくありません。日本の企業でも海外からスタッフを集めると、男女比が大きく変わるのだそうです。そういった企業では会社の中で女性が少数派にならず、『女性が少ないと感じたことさえない』と。偏った男女比は、向き不向きが原因ではないとあらためて感じました。決して、女性はプログラミングが苦手というわけではないんですよね」

「もっといえば、社会的にも女性の作り手が求められているんです。ものを使う側は男女同数にも関わらず、作り手のほとんどは男性に偏っていますよね。ものづくりはどうしても作り手の価値観や観点が反映されますから、開発に女性の視点が入ることは重要です。女の子が小さなころから関心を持ってその道へ進むこと、技術を活用する観点を違和感なく持てることは、意義があると思うんです」


「KIKKAKE ガールズプログラミングフェス」とは何か


女の子が学びやすい環境で、興味を持てるコンテンツを提供すること。女性エンジニアが増えていく未来に向け、アフレルはプログラミング教育ポータルサイト「コエテコ byGMO」とタッグを組み、2021年から年に一度、「KIKKAKE ガールズプログラミングフェス(以下、KIKKAKE)」の運営を手掛けている。その名のとおり、女の子がプログラミングを始めるきっかけを提供するイベントだ。

“フェス”と聞くと大規模展示会場で行われるようなイベントをイメージしてしまうが、「KIKKAKE」はひとつの場所で開催するのではなく、1カ月にわたり全国規模で一斉に行っているのが特徴。期間中は、全国各地の民間プログラミングスクールが、ブランドの垣根を越えて無料の体験クラスを提供する。

【写真】アフレルとコエテコ byGMOが運営しているのが、「KIKKAKE(きっかけ) ガールズプログラミングフェス」だ
【写真】アフレルとコエテコ byGMOが運営しているのが、「KIKKAKE(きっかけ) ガールズプログラミングフェス」だ


「昨年2023年は12月に開催しました。我々アフレルは日ごろからさまざまなスクールへ活動の支援を行っています。こうしたつながりをもとに『KIKKAKE』への参加をお誘いしていますが、経験のない女の子向けコンテンツへの戸惑いや集客方法への不安など、実施に向けて課題があることがわかりました。そこで事前に、事業者や民間スクールを対象にしたオンラインセミナー『KIKKAKEカンファレンス』を実施したんです。女の子のプログラミング教育の現状、スクールに通ったうえでの将来の進路、女の子向けコンテンツの企画事例をお伝えしたほか、集客方法についてはイベント・コミュニティプラットフォーム『Peatix』さんにご指導いただきました。ちなみに、全部無料です」

ノウハウを無料で提供するとは太っ腹。だが、ここがおもしろいところ。

「プログラミングに興味のある子は、すでにスクールに通っています。そんな状況でスクールが今までと同じ属性の生徒だけを集め続けるのみでは、少子化もありスクールの発展は望めません。そうしたなかで、どうやって新たな生徒を獲得するのか、という観点が必要です。となれば、現状2割にとどまる女の子に向けたアプローチは、事業を発展させていくためにもチャレンジすべき領域なんですよね」

「KIKKAKE ガールズプログラミングフェス」2023年の様子
「KIKKAKE ガールズプログラミングフェス」2023年の様子


女の子たちにプログラミング教育の場を与え、スキルを身につけた女の子たちがやがて大人になり、社会で活躍の場を広げるはじまりです。長期的な取り組みになることは、覚悟の上だ。民間の教育者を巻き込み、従来のスクールが取りこぼしていた女の子を獲得していこうと説く。

「今の子どもたちが就職するころには、デジタル技術はもっともっと発展を遂げているでしょう。そうなったとき、デジタルに苦手意識を持たないことは、選択肢を広げるためにも重要となるはずです。こうした未来を見据え、2020年から小学校でプログラミングが必修化されたわけですが、まだ教科化にはいたっていません。専門の指導者がいない場合もあり、大学や民間など外部とうまく連携することも重要です」

「何より大事なのは、デジタルに触れる機会を作ること。プログラミングスクールは習い事のひとつとして認識されてはいるものの、実際に何を学んでいるのかイメージが持てない親御さんもいらっしゃるようです。体験会に参加させたうえで『うちの子はプログラミングに興味がなさそう』と見切りをつけるケースも目立ちますが、スクール側が提供するコンテンツは日々進化しています。子どもが関心を持つスクールはきっとあるはずです。自宅にデジタル環境を整えたり、オンライン教室を利用してみたり、保護者向けの情報をキャッチアップしたり、子どもの進路につなげられる選択肢を検討してもらえたら」

プログラミングを書く際に必要となるプロセスを体験
プログラミングを書く際に必要となるプロセスを体験


プログラミング教育、とりわけ女の子に向けた取り組みに注力するアフレルの谷口さん。多方面の問題点や課題をあぶり出し、仲間を増やして、お互いの事業として成立させる。その先にあるのは、女の子が活躍する未来だ。

取材・文=原西香