「飛ばそう、ドクタージェット」、クラファンで変わる小児救急医療の風景!

東京ウォーカー(全国版)

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現在、クラウドファンディングサービスのREADYFORにて、重症小児患者の命を救うため『「飛ばそう、ドクタージェット」救える小さな命を高度専門病院へ』が進行中。長年心臓外科医として特に小児心臓移植の分野で活動してきた福嶌教偉理事長は、法律を変え国内での小児心臓移植に可能にした。しかし、移植できる施設に子どもたちを搬送するシステムの問題に直面。全国の子どもたちが平等に医療を受けられるようにするため、今回このプロジェクトを立ち上げたという。今回は、福嶌さんに日本の小児医療現場の体制やドクタージェットの必要性やクラウドファンディングの内容、未来の小児医療などについてお話を伺った。

特定非営利活動法 日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク 理事長・福嶌教偉さん【撮影=阿部昌也】


救急医療の未来を切り開くカギに!クラウドファンディングで実現するドクタージェット

ーードクタージェットが選択肢に加わると、救える命がどれくらい変わるとお考えですか?
【福嶌教偉】まず初期段階では、すべてのケースに対応することは難しいので、年間30〜40件の搬送を想定していますが、実際には100件近くの可能性があると思います。今回は子どもの話を中心にしていますが、大人も含めた全体の救急医療を視野に入れています。ただ、大人の場合はまだ具体的な計画は進んでいません。今後、大人を含めた救急医療に拡大するとなると、伊丹だけでなく羽田も必要になるでしょうね。ただ、羽田の規模になると、約20億円の投資が必要となり、すぐに始めるのは難しいのが現状です。しかし伊丹は大阪大学と国立循環器病研究センターが近くにあり、そこの救急車が利用できるため、伊丹での運用が比較的低コストで始められる状況です。

ーーそういった条件も影響しているんですね。
【福嶌教偉】そうなんです。さらに、医療チームの組成も大阪では比較的容易で、コスト的にも実現可能です。そういった理由から、最初は大阪での運用を考えています。

ーー海外と比べて日本では、医療ジェット機を用いた患者搬送システムの規制や予算に問題があるのでしょうか?
【福嶌教偉】日本の場合、最大の障害は予算です。規制もありますが、そもそも予算がないというのが大きな問題です。

ーー現在進行中のクラウドファンディングで集められた支援金の具体的な使い道について、教えていただけますか?
【福嶌教偉】基本的には搬送費用に使われます。具体的には、飛行機を実際に飛ばして特定の距離を移動する費用ですね。それに加えて、関連する医療従事者の費用にも充てられます。可能であれば、基地の確保にも使いたいと考えています。基地があると非常に便利なんですよね。私たちはすでに本事業に使用できる基地を伊丹空港に確保しています。ただし、飛行場に入る際にはさまざまな制限があります。通常、格納庫までは一般の入口から行く必要がありますが、幸いにも使用予定の格納庫は外部からアクセス可能です。現状で効率よく患者を搬送するためには、伊丹に基地を作るのが理想的です。そのため、伊丹での運用を優先して考えています。伊丹での運用が始まり、必要な法律の変更点が明らかになれば、成人を含めた羽田での運用も考えています。

【写真】福嶌さんによると、クラウドファンディングの支援金の多くは、搬送費に充てられる予定だそう【撮影=阿部昌也】


ーー大阪がテスト事例として適しているわけですね。
【福嶌教偉】大阪が最も適しています。しかし、資金が限られている場合は、現在の名古屋空港からの運用となるでしょうね。

ーー現在進行中のクラウドファンディングと、その達成後の展望について教えてください。今後の計画はどのようになっていますか?
【福嶌教偉】2024年4月から飛行機の運用を開始し、1年間のトライアルを行います。その後、2025年に骨太の方針に取り入れることを目指しています。そうすれば、2026年には予算が確保され、子どもたちの医療移送が始められると考えています。その時点で、大人も含めた全体的な運用に移行し、羽田での運用を開始する予定です。

ーー今回のプロジェクトと伊丹空港でのトライアルは非常に重要なんですね。
【福嶌教偉】もちろんです。これが成功すれば、日本での医療ジェットの運用が可能になります。しかし、もし失敗すれば、日本でこのような医療は実現不可能となるでしょう。

ーー伊丹での成功が重要ですね。ジェット機の常備を成功させるためには、どの点が最も重要ですか?
【福嶌教偉】結局のところ、資金です。クラウドファンディングで1億円を目指していますが、実際には5億円が必要です。依頼する会社がどれだけ協力してくれるかがカギとなります。今、ドクタージェットに使っている飛行機は、専用機ではなく兼用機なんです。大阪で行われた心臓移植の約60例のうち、約40例が心臓が伊丹空港に運ばれてるので、伊丹に基地があることは有利なんです。ですから、置いたらいいのでは?という話も出てきています。さらに、現在のパートナーである中日本航空が協力してくれれば、格納庫をより安価に確保できる可能性がありますが、これは会社が決めることですので、私からはあまり言及できません。現在は北海道や他の地域から心臓を運ぶのにも苦労しており、飛行機を増やす必要があります。ただ、中日本航空にはその資金がないため、別の事業や医療ジェットの購入資金が必要です。このプロジェクトが成功しなければ、医療ジェットの導入は難しいと考えています。

ーー事業をしっかりと確立し推進することが必要ですね。
【福嶌教偉】このプロジェクトは国の事業ではないので、入札が不要なんです。そこで、私たちが中日本航空に依頼している形になっています。ですから、中日本航空に医療ジェットを持たせることが私たちの願いです。ただ、中日本航空は小規模な会社なので、大きなリスクを背負うのは難しいです。でも、HAMN(北海道航空医療ネットワーク研究会)として道内の重症患者を運んでいるのも中日本航空なので、彼ら以外に適した会社が日本にはないんですね。こうして、この事業は中日本航空に依存する形になっているんです。

【福嶌教偉】ただ、資金調達には反対意見も多くあるんですよね。病院名を出すことにも反対が多いのです。国立循環器病研究センターと国立成育医療研究センターがクラウドファンディングに取り組むと言ったら、「なぜ国の費用を使わないのですか?」「これはセンターのための募金なのですか?」「国立循環器病研究センターがクラウドファンディングをするの?」といった反対意見が多くあったり、クラウドファンディングを医療機関が行うのは問題があるとされています。だから、病院側からも名前を出すことに反対意見があるんです。これは本当に理解し難い状況です。

病院スタッフに意識改革を!国立循環器病研究センターでの革新的変革

ーー国立循環器病研究センターの役割は、福嶌さんが担当するようになり、どのように変化しましたか?
【福嶌教偉】私自身、長年子どもの心臓移植を担当してきました。大阪大学で心臓移植を始めてから、EXCOR(小児用補助人工心臓)を導入し、その後国立循環器病研究センターに移りました。国立循環器センターでは、2台しかなかった機器を7台に増やしました。これにより、両病院での対応が可能となったんです。それで昨年は国立循環器センターで10例の子どもの心臓移植を行い、大阪大学を上回りました。

福嶌さんの改革がスタッフの意識を変え、国立循環器病研究センターの移植件数がトップになった【撮影=阿部昌也】


ーーこれまでの慣習を変えるのは、相当大変ですよね?
【福嶌教偉】はい、非常に大変です。小児心臓センターは本来、先天性心疾患のためのものですから、違うタイプの心疾患の子どもたちを受け入れるのは難しいです。加えて、体外式の人工心臓の看護は手間がかかります。当時はよく「まだ増やす気ですか?」と言われましたが、それをやるのが国立循環器医療センターの役割だと主張し続けました。ICUが満床だと言われても、「それを診るのが国立循環器病研究センターでしょう!」と関係者にお願いし、徐々に状況を変えていったんです。

ーーその常識を変えるために、特別なことを言われたりしたのですか?
【福嶌教偉】どの病院でも変革は容易ではありませんよ。ただ、大阪大学や国立循環器病研究センターのようなトップレベルの病院であれば、それが可能です。なぜならトップであるがゆえの意味があるからです。スタッフには「この病院で働く意味は何か」ということを考えてもらいました。「日本でトップの病院なら、すべての患者を助けるべきだ」という考え方を伝え、それにより国立循環器病研究センターが本当の意味でトップの病院になるための変革を実現しました。周りの病院だけでなく、全国からの患者を受け入れる必要があることを強調して、実現できましたね。

ーー言葉がきっかけで、スタッフの考え方が変わったわけですね。
【福嶌教偉】スタッフはもともとそのような意欲を持っていましたが、気づきが必要だったんです。忙しさや重症患者の多さに押しつぶされがちですが、他の病院と比べても能力があり、もっと多くの患者を助けることができる。それに気づいてもらえると、状況は変わると信じていました。なかなか大変なんですよ。

ーーなかなかって、だいぶ大変そうな気がします。
【福嶌教偉】嫌われながらも変化を起こしてきました。一度助けたという結果が見えたら、次はもっと変えることができると思います。「準備ができていないと重症患者を受けられない」というのは、一瞬まともな答えに聞こえますが、実はその子が他の病院で死ぬことを許容することです。だから、準備ができていなくても、できるようにする努力が必要です。まだまだ日本の多くの施設では、急に来た患者を断ることが多いんですよね。人工心臓の管理には特別な資格が必要です。資格を持つ看護師や臨床工学技士が不足していると、適切な治療ができませんから。ただ、私が人工心臓の資格認定に関わる研究会の代表幹事を務めているので、そういった変化を実現できました。これは前代表幹事の北村惣一郎先生の代から本研究会が長年にわたり取り組んできたからこそ、成し得た結果なのかもしれません。

福嶌さんは、「準備ができていなくても、できるようにする努力が必要」と、嫌われるのを覚悟して訴え続け、改革を成功させたのだそう【撮影=阿部昌也】


ーーそうですよね。
【福嶌教偉】気持ちだけでは難しいことも多いです。子どもたちが長期間にわたって心臓移植を待つ際には、精神的なケアも非常に重要です。日本では、まだあまり知られていないチャイルドライフスペシャリストという専門家が必要なんです。これは、子どもの心理を理解し、適切なケアを提供する保育士のような役割を持っていて、大阪大学と国立循環器病研究センターでは、このような専門家を雇用しています。そのため、千里金蘭大学ではこの資格を取得できる大学院を設立しようと動いています。日本ではまだこのような専門家も不足していますね。

ーー日本にないものも生み出されているんですね。
【福嶌教偉】日本では新しい取り組みに対して、しきたりやルールがないという理由で反対されることが多いんですよね。国立循環器病研究センターでチャイルドライフスペシャリストを雇用したときも、新しいことをすることに対して疑問を持たれました。給与体系や役割についても、多くの交渉が必要だったので、大変苦労しましたよ。

ーーまるでドラマのようです。
【福嶌教偉】現実のほうが、ドラマよりも奇抜ですね。現実はフィクションを超えるんですよ。

命を救う医療の未来へ!福嶌教偉が想い描く将来の医療ビジョン

ーー福島さんは、なぜそんなにも折れずに、変化をもたらすチャレンジを続けられるんですか?
【福嶌教偉】亡くなった子どもたちがいるからです。私が医者になったのは、実は心臓を造ることが目的でした。

悲しい実体験があったからこそ、信念を貫き通すことができるそう【撮影=阿部昌也】


ーーそうなんですか?
【福嶌教偉】はい、そのために大阪大学の医学部に入学したんですよ。当初は、子どもの患者をきっちり診て必要性を感じてからと思っていたのですが、心臓を造る前にどれだけの子どもが亡くなるのか?と気づき、まずは子どもたちを助ける必要があると感じました。当時は再生医療という言葉がなかったので、「なに馬鹿なこと言ってんだ」って言われましたね。小学校のときに心臓を造ろうと思ってから50年経ちましたが、まだ心臓を造ることはできていません。でもその間、何も動かなければもっと多くの命が失われていたでしょう。心臓移植で800人が救われたことを考えると、その800人は私が動かなければ助かっていなかったと思います。そのうち子どもは100人近くいますが、少なくともあの子たちは絶対に助かっていません。

【福嶌教偉】また、豚の心臓を猿に移植する実験もしていましたが、WHOなどの国際的な倫理観では、同意が取れない人から始めることは許されませんでした。大人から始めるべきだと言われましたが、大人のほうが免疫力が強いため拒絶反応が出やすいんです。でも、大人に豚の心臓移植を成功させてからでないと、子どもへの移植ができないんです。論理的には矛盾していますよね。さらに、子どもの場合は体が小さく、植込型の人工心臓の適用が難しいです。でも、豚の心臓なら、体の成長に合わせて、一緒に成長していくんです。ですから、豚の心臓を使う研究を進めていました。しかし、WHOからの指摘でそれは許されないとわかり、研究を諦めました。その後、アメリカから帰国して、日本には適切な法律がないことに気づき、法律を作成しようとしました。でも、できた法律(※)では子どもだけが救えないものになってしまった…。
※日本での心臓移植には生前の本人による書面での意思表示があれば可能となったが、これは実質的には遺言に相当し、民法上15歳以上でないと認められないため、実際には子どもたちの心臓移植はできない法律となった

ーーなるほど。
【福嶌教偉】実はそのころ、私は猿の実験もしていて、人間への応用が可能だとわかっていました。猿の心臓をヒヒに移植して、それを育てていました。実際に、ある子どもの患者の血液型がO型だったので、猿の心臓移植に親も同意していましたが、他の人たちからの反対で実現できませんでした。重要なのは、目の前にいる子どもを助けたいということです。他の選択肢はありません。だから、私は続けるんです。助けを求める子どもが目の前に現れるので、それに応えるために努力しています。

ーーそれが叶えられる世界になっていないから、努力を続けられるんですね。
【福嶌教偉】そうですね。秋田や鹿児島から患者を運ぼうと会いにいきましたが、連れてくることができずに亡くなられた子がいるんです。助けられる技術はあるのに、助けるシステムがない。さらに、システムがないために救うを諦める医者が多いのも、変えたいと思っています。本当は助けられるんですから。

ーー確かにシステムが整備されて、医者の考え方が変われば、さらに多くの命が救われるでしょうね。
【福嶌教偉】はい、私たちはECMO(体外式膜型人工肺)という機械の開発にも関わっています。これは体外循環を行う機械で、体の中の血を抜いて体に返す機能があります。ただし、体中に血液を送るだけで心臓に負担をかけ続けてしまうので、心臓自体は治りません。そこで人工心臓が必要になるんです。それで、私たちは人工心臓を導入してそのシステムも作り上げてきました。こうやって、ステップを踏みながら命を助ける方法をすべて作ってきて、残った問題が搬送する飛行機なんです。

ーーこの取り組みが実現したときに、福島さんが描く理想の未来像を教えてください。
【福嶌教偉】この最後のピースが叶うことで、日本の医療レベルがさらに上がることを期待しています。もちろん、すべての患者を救うことは難しいですが、可能な限り多くの命を救えるようになることが理想です。患者が増えることによって、医療システムも改善され、よりよい医療提供が可能になると考えています。

「最終的にシステムが改善され、より良い医療が適用できるようになっていると嬉しい」と、笑顔で目指す将来を語ってくれた【撮影=阿部昌也】


ーーありがとうございます。最後の質問ですが、このクラウドファンディングを通して、支援者や読者に伝えたいメッセージがあれば教えてください。
【福嶌教偉】結局のところ、現在のシステムの不備によって、子どもたちが生まれた場所や住んでいる場所によって不公平が生じています。私たちは、それを平等にしたいと思っています。この不平等な状況を理解していただきたいです。皆さんの子どもでなくても、他の子どもたちを助けるため、少しのご支援をしていただけるとありがたいです。

ーーみんなが平等に生まれてくる社会を目指して。
【福嶌教偉】そうです。どこで生まれても、どこで育っても安全な環境を保証することが政治の役割です。現在の地方創生政策で、生まれる場所の安全性が保証されていないのはおかしいと思います。

ーーそれをフラットにしていこうということですね。
【福嶌教偉】はい、当たり前のことなのに、多くの人にそれが浸透していないのが不思議です。移植のときも大変でしたが、常識を変えるのは本当に難しいです。当たり前のことが常識になっていないので、もっと浸透してほしいと思います。

福嶌さんが推進するクラウドファンディング『「飛ばそう、ドクタージェット」救える小さな命を高度専門病院へ』は、日本中の子どもたちに平等な医療を提供するための重要な取り組み。しかし、最近の閣議決定で、福嶌さんが提案していた「ジェット機を用いた重症患者搬送支援事業」への5600万円の予算が削除され、国から見放されたという。この状況は、福嶌さんの活動にとって大きな障害となってしまった。そんな厳しい現実が突きつけられた中、私たち一人ひとりがこの活動を応援することと、福嶌さんの情熱と専門知識が、子どもたちに明るい未来を提供する希望の光となっている。ドクタージェットの実現へ向けた活動と救急医療体制の改善に向けた活動が、今後どういった広がりを見せていくのか?日本の医療の将来を左右する事案として注目しておべきだろう。

取材=浅野祐介、取材・文=北村康行、撮影=阿部昌也

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