救え!小さな心臓!!ドクタージェットで繋ぐ笑顔と命。「飛ばそう、ドクタージェット」救える小さな命を高度専門病院へ

東京ウォーカー(全国版)

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現在、クラウドファンディングサービスのREADYFORにて、重症小児患者の命を救うため『「飛ばそう、ドクタージェット」救える小さな命を高度専門病院へ』が進行中。このプロジェクトを立ち上げた、日本重症患者ジェット機搬送ネットワークの福嶌教偉理事長によると、このプロジェクトの背景には、日本国内で小児心臓移植が可能になったものの、適切な治療施設への搬送が間に合わないケースがあるという。福嶌さんは、心臓外科医としての豊富な経験と、アメリカでの治療経験を活かし、この問題を解決するために奔走し、このプロジェクトを立ち上げた。今回は、福嶌さんに日本の小児医療現場の体制やドクタージェットの必要性、クラウドファンディングを立ち上げる経緯、国の対応などについてお話を伺った。

特定非営利活動法 日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク 理事長・福嶌教偉さん【撮影=阿部昌也】


重症小児患者のためのクラウドファンディングとその背景

ーークラウドファンディングを始めるきっかけになった出来事や背景を教えていただけますか?
【福嶌教偉】はい、私は長年、心臓外科医として活動してきました。特に、小児心臓移植の分野で、日本での取り組みを推進してきたんです。以前は、日本国内で移植が難しいため、子どもたちをアメリカやドイツに送ることが多かったんですね。幸いにも、日本の法律が変わり、国内で子どもたちの移植が可能になりました。しかし、まだ移植施設に届かない子どもたちがいることが課題でした。私自身、アメリカに子どもを連れて行き治療した経験があったので、その経験を日本での子ども搬送に活かせないかと考えました。システム構築の知識と行政や法曹界との交渉経験、チーム作りの経験もありましたので、これらを活かしてクラウドファンディングをしたらいいのでは?ということで始めました。

ーーずっと心の中で考えていたことを実現されたのでしょうか?
【福嶌教偉】そうですね。実は30年前から、日本国内での小児心臓移植について考えていました。当時は、海外であれば助けられる子どもたちがいたんです。日本でも助けられるようになったのはよいことですが、次に問題となったのは、これらの子どもたちが移植施設に辿り着けるか、という点です。

ーー適切な治療を受けるための場所はあるのに、そこへ行けないということですね?
【福嶌教偉】その通りです。実際に、秋田や鹿児島から移植施設へ搬送しようとしたけれど、間に合わずに亡くなってしまった子どもたちもいるんです。ですから、これをなくすために、私たちは取り組んでいるんです。

ーーご自身のキャリアについてもう少し詳しく教えていただけますか?
【福嶌教偉】大阪大学を卒業後、心臓血管外科にて小児心臓血管外科の分野で活動していて、せっかく治療を行っても亡くなってしまう子どもたちがいる現実に直面していました。ちょうどそのとき、アメリカで赤ちゃんの心臓移植が成功し始めたんですね。これまで世界的に成功事例がなかったことでした。それで、その先生が来日した際に講演を聞いて、日本でも子どもたちを助けられるのではないかと考え出したわけです。

【福嶌教偉】その後、私はその先生の元へ留学し、心臓移植の研究と実践に携わりました。そして、日本に戻ってきたときに、法律が整備されていることを期待していたのですが、実際はそんなことはなく、法律を作る過程にも関わらなければならなかったんですよ。ただ、作られた法律では、生前の本人による書面での意思表示が必要とされていましたが、これは実質的には遺言に相当し、民法上15歳以上でないと認められないため、子どもたちは移植ができない状況だったんです。

【写真】小児心臓血管外科医としていた福嶌さん。心臓移植を成功させた米国医師の講演を聞いたことが、心臓移植の研究と実践に取り掛かるきっかけとなった【撮影=阿部昌也】


ーー年齢が問題だったわけですね。
【福嶌教偉】はい、その通りです。子どもを助けたいという私の願いとは裏腹に、子どもだけが移植できない法律を作ってしまったんですね…。

ーーその後、どのように対応されたのですか?
【福嶌教偉】当時は本当に失望しましたね。これだけ子どもの心臓移植のことが理解されないなら、まずは大人の心臓移植をから始めることにしました。まず、国民の理解を深めてから、子どもたちの移植も進めようと。しかし、やはり心臓移植をしなくては助からない子どもたちにも出会うわけですよね。彼らを助けるためには、アメリカに連れて行くしかなかったんです。最初は民間機で運んでいましたが、安全上の問題や人工心臓をつけている子どもたちの状況を考慮し、やがてチャーター機での搬送に切り替えました。この「搬送する方法」を知っていたことが、後々のプロジェクトに繋がってくるんです。そして、約6年間、国会に陳情し続けて、ようやく2009年に法律が改正されました。やっと法律が変わり、子どもたちが日本国内で心臓移植を受けられるようになったんです。実際に、今年だけで既に20人の子どもたちが移植を受けています。ただ、問題は移植可能な施設が東京、大阪、福岡にしかないことです。つまり、これらの施設に運ばなければ助けることができない。そこで、子どもたちを運ぶための飛行機とシステムを構築することが、私の次なる仕事となったのです。

ーーその3つの地域に加え、病院がこれから増える予定はありますか?
【福嶌教偉】いえ、実は心臓移植を行うためには、非常に多くの専門チームが必要になるので、そう簡単に新たな施設を設立することは難しいんです。ですから、現時点では、東京、大阪、福岡以外で新たに移植施設を作る予定はありません。最近、埼玉に施設がひとつ増えましたが、基本的には同じ地域です。そうした背景の中、子どもの心臓移植の7割以上が大阪で行われているんですよ。

ーーそうなんですね。
【福嶌教偉】実は、子どもの心臓移植には特別な人工心臓が必要なんです。子どもは体が小さいため、植込型の人工心臓を使用することが難しい場合もあります。そのため、体の外にポンプの駆動装置がある人工心臓を使用するのですが、この装置は1台につき3、4千万円と非常に高価なものなんです。日本全体でこの機械は30数台しかなく、実はその半分が大阪にあります。でも複数台購入しても、最低1〜2台は常に予備として保持する必要があるんですよ。大阪大学と国立循環器病研究センターは、それぞれ8台ずつ持っているので、大阪だけで12から14人を助けられるんですね。他の施設では、1人か2人しか助けられません。結果として、大阪での移植が多くなる傾向にあるんです。ですから、今後もこの3地域に子どもたちを運ばざるを得ないんです。

ーーそれは全く知りませんでした。
【福嶌教偉】これでも今はかなり増えたほうです。1999年に初めて心臓移植が行われたとき、東京女子医大、大阪大学、国立循環器病研究センターの3つの施設しかなかったんです。それが今では大人の心臓移植ができる施設が11カ所まで増えました。北海道や仙台にもできたんですが、子どもの施設を増やすのはチーム作りが難しいため、現状では限られた地域に留まっています。

25年前は、大人の心臓移植ができる施設でさえ東京女子医大、大阪大学、国立循環器病研究センターの3つの施設しかなかったという【撮影=阿部昌也】


命を救う空の架け橋に!ドクタージェットと医療システムの改革へ

ーー搬送のためのジェット機についてですが、具体的にどのような重篤な状態の子どもが対象となるのでしょうか?
【福嶌教偉】まず、心臓移植の対象となる子どもたちは、自分の心臓だけでは生きていけない状態です。点滴だけでは不十分で、人工心臓などの機械を必要とする状態の子どもたちですね。これらの子どもたちは移植施設に運ばなければなりません。また、生まれたばかりで先天性の心奇形がある子どもたちもいます。中には、数日以内に手術しなければ生存が難しい病気を持つ子どもたちもいるんです。これらの子どもたちは手術が可能な病院に運ばなければなりません。さらに、気管狭窄という病気の子どもたちもいます。これは、肺から空気を出し入れする管が生まれつき非常に狭くなってしまっている状態です。胎盤と繋がっている間は問題ないのですが、生まれたあとは呼吸が必要なので、やはり迅速に手術しなければならない状況にあります。この病気の子どもたちも、生後2、3日以内に手術しないと生存が難しいんです。

【福嶌教偉】このような手術ができる病院は非常に限られています。消化管の問題、例えば胃破裂や腸管壊死など、大きな手術が必要な症例もあります。こうした状況の子どもたちも、数日の間に亡くなってしまうことがあるので、速やかに運ばなければなりません。また、重度のやけども同様です。重症のやけどを負った子どもたちは気道閉塞なども問題になるので、迅速な搬送が必要です。さらに、大きな事故による溺水など、すぐにECMO(体外式膜型人工肺)を用いる必要がある症例もあります。そして、肝不全の場合も、すぐに移植しなければならない状況ですが、赤ちゃんの心臓移植や肝臓移植ができるのは国立成育医療研究センターだけなんですね。ですから、すぐに飛行機が手配できれば、命を救うことができるというわけです。

ーーそれは、国立成育医療研究センターだけなんですか?
【福嶌教偉】はい、その通りです。他にも少しできる施設はあるのですが、規模が違いすぎます。重症の子どもたちには、すぐに対応できる能力が必要です。その点、国立成育医療研究センターはすぐに対応できるため、東京に搬送しなければならない状況があります。重症度の判断は難しいのですが、集中治療学会が統計を取っています。年間約1万人の子どもが重症で、子ども専門のICU、小児集中治療室(PICU)に入る必要があるとされています。そのうち5000人はPICUを持つ病院に運ばれます。残りの半分は一般の病院です。PICUに運ばれた重症の子どもの死亡率は2%から3%ですが、一般の病院は5%です。この差は、もしこれらの子どもたちがPICUに運ばれていれば、約100人から150人の命が救われる可能性があることを意味します。多くの地方では、「限界です」と言われて子どもが亡くなっていますが、実際には限界ではありません。飛行機を用意することで、限界を超えることが可能です。各県にひとつこうした病院を作ることが理想ですが、そのような施設を作るためには200〜300億円が必要です。また、医療はチームで行うもので、1人の医者だけでは不十分です。

ーー病院には適切な設備が必要ですね。
【福嶌教偉】その通りです。適切な設備と専門のチームがそろわないと、十分な治療はできません。各県にそういった病院を作るのは予算的に非現実的です。200億円を47都道府県にわたって投資するのは膨大な額です。しかし、1回の飛行機による搬送に200〜300万円かかるだけで、慣れた施設で治療できるため、結果的にはコストを抑えられます。

各県に施設を作ると200億かかるが、ドクタージェットで搬送すればコストが抑えられると福嶌さんは訴える【撮影=阿部昌也】


ーーそれは各施設の専門性の違いからですか?
【福嶌教偉】そうです。例えば、国立循環器病研究センターのPICUは心臓が得意です。普通の県立中央病院では、小児科医が6人か7人しかいないことが多いです。ただ、これは普通の疾患を診る小児科医であって、集中治療ができる医者ではありません。しかし、PICUには10人程度の集中治療ができる医者がいるので、全く違います。看護師の質も異なるんですよ。PICUがない場合、子どもは大人のICUに運ばれることになりますが、これには問題があります。例えば、室温。大人は25度を超えると暑く感じますが、子どもは27度まで暖める必要があるんですね。子どもに適した環境で重症患者を診ることは、日本ではなかなか難しいのです。42年前、私が医者になったころ、日本にはまだPICUがなくて、外科医がICUの傍らで見ていた程度でした。さらに、集中治療室を担当する麻酔科医が全国にできてきたのは35年から40年前。それも大人専門で。やっと小児科医が集中治療に手を挙げたのは15年から20年前です。それからようやくPICUが整備され始めたんですね。日本でPICUが少ない理由がこのような点からも理解できますよね。

ーーその歴史自体が、まだ新しいんですね。
【福嶌教偉】はい、その通りです。日本で集中治療医を名乗る小児科医の数も非常に限られています。つまり、子どもを適切な施設に運ぶのが難しいわけです。そのため、私たちは搬送を重視しています。患者が一時的に安定したら、できるだけ早く地元の病院に戻すことを考えています。これにより、高度な治療を必要とする患者を受け入れられる病院の数が増え、医療レベル全体の向上につながります。

【福嶌教偉】これは日本の医療システム全体を変革する可能性があります。PICUの必要性についても、最初は疑問視されていましたが、今では不可欠な存在となっています。しかし、問題はPICUへのアクセスです。現在のドクターヘリは県を越えることができず、PICUのある県に運べない子どもたちが多くいます。行政は県の中央病院で十分だと考えているかもしれませんが、実際にはそこでは救えない命が多いのです。そういった子どもたちを運ぶために、今回のプロジェクトが必要なんです。私自身、心臓移植の専門家として、このプロジェクトに特化していますが、これは心臓だけの問題ではありません。

ドクタージェットで地域を越える救急医療体制の確立へ!医療搬送の未来の可能性

ーードクターヘリの使用が増えていると思いますが、その運べる距離や条件に違いはありますか?
【福嶌教偉】ドクターヘリはようやく昨年、全ての県に配備されたばかりです。各県に1機か2機しかなく、年間約3万件の搬送を行っています。つまり、ほとんど常に稼働している状態なんですね。ドクターヘリは、まず県を越えることができないんです。さらに、200キロ以上を飛行することも難しいです。

ドクターヘリには、搭乗人数や騒音、移動距離の限界など、ドクタージェットと比べると問題点が多いという【撮影=阿部昌也】


ーー知らなかったです。距離の問題もあるんですね。
【福嶌教偉】そうなんです。それに、ドクターヘリは狭いので多くの人を乗せられませんし、患者に治療を施すスペースも限られています。それに、プロペラの騒音によって、治療していいかどうかも含めて、患者さんに話をしたり聞いたりして治療の判断ができません。結局、搬送がメインになり医療機器も限られたものしか載せられないんですよ。でも、飛行機なら会話ができますし、患者さんともコミュニケーションが取れますよね。ですから、治療が可能なんです。私たちが飛行機を使用する理由は、搬送中に患者の状態を悪化させず、むしろ改善することを目指しています。日本ではまだそのような医療がないので、搬送中に状態をよくしないと意味がないじゃないですか。

【福嶌教偉】さらに、飛行機の場合はスペースが広いため、家族が同乗できる可能性があります。重要なのは、病院で治療を始める際に、代諾(同意)をする人が必要だということです。緊急で手術が必要な場合でも、代諾者がいないと手術ができないんですよ。以前、私が県境を越えて防災ヘリや消防ヘリで子どもを運んでいたときは、親を先に車で搬送先に向かわせて、必要な手続きを取ったあとに子どもを運んでいました。しかし、これでは予期せぬ事態が発生した際に治療ができないリスクがあります。親がいないと、子どもの治療に必要な同意が得られないんです。飛行機の場合と比べると大きな違いですよね。ヘリではほとんどの場合、家族は同乗できませんから。

ーードクターヘリのほうが先に整備されたのはコストの問題ですか?
【福嶌教偉】整備されたというよりは、意識して整えたんです。阪神大震災のとき、まだ日本の各県にはドクターヘリがなかったんです。当時は消防ヘリが使われましたが、これは単に搬送専用で隣の県にも飛べない状態でした。その後、各県に1機ずつのヘリコプターを配備し、予備機も用意する制度に変わり、東日本大震災のときにはより多く飛べるようになったという経緯があります。その過程で、医療対応が不足していることが明らかになり、ドクターヘリが生まれたわけです。ドクターヘリを実現するだけでも7、8年かかっているんですよ。特別措置法を作ったりしながら、現在は約60機ほどが配備されています。各県に1機の配置が可能になりました。しかし、現状はギリギリの運用で、1日に何度も飛んでいる状況です。遠い県まで搬送するのは燃料の問題もあって物理的に無理ですし、特定の病院間の搬送は飛んでくれないんですよ。

ーーなぜ病院間でドクターヘリが使えないのでしょう?
【福嶌教偉】単に余裕がないからですね。ドクターヘリは緊急の患者を迎えに行ったり、小さな病院から大きな病院へ患者を運ぶ必要がある場合に限られています。現状では、もうギリギリで運用されているので、そのような緊急以外では飛ばすことができません。

ーーそれだけでは対応が追いついていないわけですね。
【福嶌教偉】今回のプロジェクトは、病院から病院へ直接搬送することを目指していますが、現在のドクターヘリの体制ではそれができないんです。たとえば、救急車やドクターヘリの予約をしようとしても、「タクシーではないので予約はできません」と断られることが多いんです。何回断られたことか…。直前に連絡しても、空いていなければ患者は救えない。まだ日本って“こんな国”だったのかと実感しました。それが現在の日本の患者搬送の現状です。私たちは、患者を専用の飛行機で搬送するシステムを作り、もっと多くの命を救えるようにしたいと考えています。そうでないと助けられないので。

ーー命の危機に直面している人とそうでない人では、考えが全く異なりますね。
【福嶌教偉】その通りです。外国に送る必要がある場合、「明日救急車で迎えに来てください」と言っても、「何を言っているんですか」と言われる状況です。だから、私たちは民間の救急車で患者を飛行場まで運んでいます。しかし、救急車のバッテリーは限られているので、人工心臓などを載せることができません。重さや電力、酸素も不足しています。ですから、国立循環器病研究センターや大阪大学では、自前の救急車を2台購入し、人工心臓が使えるように対応しています。これは、自力で整えてきたもので、決して国が支援してくれるわけではありません。

ーードクタージェットが選択肢に加わると、どれくらい救える命が変わるとお考えですか?
【福嶌教偉】まず初期段階では、すべてのケースに対応することは難しいので、年間30〜40件の搬送を想定していますが、実際には100件近くの可能性があると思います。今回は子どもの話を中心にしていますが、大人も含めた全体の救急医療を視野に入れています。ただ、大人の場合はまだ具体的な計画は進んでいません。今後、大人を含めた救急医療に拡大するとなると、伊丹だけでなく羽田も必要になるでしょうね。ただ、その規模になると、約20億円の投資が必要になります。しかし、現在は大阪大学と国立循環器病研究センターが近くにあり、そこの救急車が利用できるため、伊丹での運用が比較的低コストで始められる状況です。

ドクタージェットが使えるようになると、多くの命が救えるようになる。まずはコストが抑えられる伊丹空港から開始することを見込んでいるそう【撮影=阿部昌也】

ーーそういった条件も影響しているんですね。
【福嶌教偉】そうなんです。さらに、医療チームの組成も大阪では比較的容易で、コスト的にも実現可能です。そういった理由から、最初は大阪での運用を考えています。

ーー海外と比べて日本では、医療ジェット機を用いた患者搬送システムに、規制や予算の問題があるのでしょうか?
【福嶌教偉】日本の場合、最大の障害は予算です。規制もありますが、そもそも予算がないというのが大きな問題です。

ーー一番進んでいるのはアメリカですか?
【福嶌教偉】いいえ、スイスが最も進んでいます。スイスでは1952年から医療ジェット機を利用しています。国からの支援がなかったため、民間の寄付によって資金が集められたんです。国民一人あたり1000円ずつのような形で集めて、それで全国民をカバーしています。スイスでは、もしインドネシアで事故に遭った場合でも、スイスに帰りたいと言えば飛行機で迎えに行くシステムまであるんですよ。スイスでは1414という電話番号にかけるだけで、すべての手配がされます。そこにドイツ南部の人々も寄付を始めていて、今ではドイツ南部でもこのシステムが適用されています。自賠責保険に加入するような形ですね。でも、日本にはそのような仕組みがありません。本来ならこの制度で賄えるはずですが、制度がないので国が何とかしてくれないと。ただ、国からは「今回やってもいいけどお金はないよ」っていう話で、資金面でのサポートが期待できないので、クラウドファンディングを検討しなければなりません。1人あたり年間1000円なら、多くの人が貢献する可能性があると思います。そうすれば、クラウドファンディングをする必要もなくなるでしょう。

ーー生命保険や自動車保険に加入しているような感覚で考えれば、それもひとつの選択肢ですね。
【福嶌教偉】そうですね。ドクターヘリとドクタージェットの両方で年間1000円から2000円を支払うというのもひとつの手です。ただ、日本にはそのような制度がないので、これを作るのは簡単ではありません。スイスは非常に賢いと思いますね。

国民の支援で成り立っているスイスの制度は理想的だと福嶌さんは言う【撮影=阿部昌也】


ーー現在、日本国内での民間による医療ジェット機の利用は、北海道のみということですね。
【福嶌教偉】はい。北海道の場合は、僻地医療事業の一環として北海道航空医療ネットワーク研究会(HAMN)によって行われています。総費用の約5億円のうち半分を北海道が、残りの半分を国が負担しているんです。北海道は広いため、こういった事業を実施しやすい状況にあります。北海道には患者を札幌に運ぶシステムがあり、最近は戻す費用も含めたバックトランスファーの制度が議会で決まりました。北海道はこの分野で進んでいますね。

ーー大義名分がなければ難しいということですね。
【福嶌教偉】でも、実際に移植が必要な場合は、北海道に小児心臓移植施設がないため、その飛行機で大阪に患者を運んでいるんですよ。大阪大学とセンターで合わせて6人が心臓移植を受けており、日本全体で約80人のうち、10%が北海道からというのは異常です。

ーー整備されていないためにその比率になっているわけですね。
【福嶌教偉】そうです。大阪や東京の人たちは、実は自分たちが恵まれていることを、あまり知らないかもしれませんね。

ーー今の話を聞いていると、だいぶ恵まれていますね。
【福嶌教偉】特に吹田市は非常に恵まれています。吹田市には二つの移植施設があるので、全国から患者が吹田に来るんです。そして、吹田市に住所を変更した場合には、吹田市の補助を受けて移植手術を受けるわけです。市民にとっては、その負担を多少は我慢してもらうことになりますが、それでも尊いことだと思います。

ーー確かに、尊い市ですね。
【福嶌教偉】はい、そう思います。

地域間の医療格差があるのが 日本の医療システムの現状。特に重症小児患者の救命において、適切な治療施設への迅速な搬送が不可欠であると、福嶌さんは強調する。この問題を解決するためドクタージェットを導入し、これらの患者を迅速に専門病院へ搬送することで、命を救う「空の架け橋」となることを目指している。しかし、厚生労働省の令和6年度の概算要求に5600万円の「ジェット機を用いた重症患者搬送支援事業」も含まれ、光が見えかけていたが、先日の閣議決定で削除されてしまったという。この『「飛ばそう、ドクタージェット」救える小さな命を高度専門病院へ』は、医療技術だけでなく、今後の医療支援の方法においても革新をもたらす可能性を秘めた、注目すべきクラウドファンディングである。

取材=浅野祐介、取材・文=北村康行、撮影=阿部昌也

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