世界中から予約が殺到!「忍者体験カフェ」のコミュニケーション戦略と“特別な体験”が日本の観光業を切り開く!

東京ウォーカー(全国版)

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日本文化のアイコンでもある“忍者”をテーマにした「忍者体験カフェ」が、今国内外の観光客から注目を集めている。日本の伝統とエンターテインメントを融合させたユニークなコンセプトで、特に忍者のコスチュームを纏うことができるサービスは、来日外国人にとって魅力的な体験となっている。

忍者カルチャーとエンターテインメントを融合させたビジネスモデルが成功した理由には、ひとつのストーリーがあった。実は、もともと忍者をコンセプトにしていた浅草の店舗を、大企業やファンドにコンサルティングを提供している株式会社Nilgramが、買収して事業を継承。「忍者体験カフェ」の将来性を見込み、1号店の浅草店に加えて、昨年(2023年)5月から新たに原宿、祇園、道頓堀に、新たな店舗を開設し事業を拡大させていったのだ。コロナ禍という特殊な状況のなかで、一風変わった投資に手腕を振るった、代表取締役社長の齊藤雅大さんに「忍者体験カフェ」の買収とその後の店舗展開、今後の展望について語ってもらった。

昨年(2023年)5月にオープンした原宿店の店内。都会の地下に忍者ワールドが広がる【撮影=三佐和隆士】


コロナ禍でスタートした「忍者体験カフェ」の成長ストーリー

ーー購入時期がコロナ禍の初期だと伺いましたが、将来的に成功する光が見えていたんですか?
【齊藤雅大】はい。そう信じて(笑)。でも、賭けでもありましたね。ただ以前のオーナーの方の努力もあって、国内のお客様だけでも、経営としてはうまくいっていたんです。ですから、これはいけるだろうと感じていました。

ーー日本人の観光客も、忍者体験をしてみたいという方が多かったということですか?
【齊藤雅大】そうですね。100%の確率で、忍者体験をしたいっていうお客様しか来店されないですね。観光ついでに休憩がてらのカフェとして利用される方はいないです。なかでも特に多いのは、家族連れの方です。未就学児から小学校高学年ぐらいまでのお子さんを持たれている方がメインといった感じです。あとは、たまに学生よりもちょっと上の若い大人の方も。遊び感覚で忍者になって手裏剣を投げてみたいと、来店されることもありますね。

コロナ禍が終息を見せてきたころから観光客が戻り始め、すぐに予約がいっぱいとなったのは誤算だったそう【撮影=三佐和隆士】


ーーコロナ禍が収束して、人の流れが増えてきましたが、何か実感するような出来事はありましたか?
【齊藤雅大】ありがたいことに、2月ぐらいからインバウンドの需要が徐々に戻り始めて、浅草店は昨年(2023年)3月中旬ぐらいからゴールデンウィーク明けぐらいに、すべて事前予約だけで満席となりました。そのころは新規の予約は断っていて、予約の時点で数日先まで予約をクローズしていました。

ーーそれはうれしい誤算でしたね!
【齊藤雅大】いきなりこんなに来るか?っていう感じでしたね。あまりにも想定外だったので、スタッフもフル回転でしたから、申し訳なかったなと思っています。スタッフを増やして、支店を増やしていったので、今では予約を少し分散することできるようになりました。でも、もし原宿店がなかったら、この半分ぐらいのお客様が浅草店に流れていたと思うと、正直ゾッとしますね。

ーー出店場所を決めたり、苦労されたことはありました?
【齊藤雅大】本業がコンサルティング業なので、その知見も活かして出店戦略は考えました。ただ、これまで我々は、大企業やファンドの事業計画に携わっていて、カフェのような店舗を作る経験がなかったので、想定外のことはたくさんありました。

「スタッフ総出で内装を手がけたのも、振り返ってみればよい思い出です」と語る齊藤さん【撮影=三佐和隆士】


ーーたとえばどんなことがありました?
【齊藤雅大】最初の支店となった原宿店でのことですが、工事終了予定日になっても完成が見えなかったんです。「これまだ、ぜんぜん店開けられないよね?」みたいな工事の進捗で(笑)。施工会社さんへの発注は初めてだったので、物件特性の理解や我々のコミュニケーションが不十分だったんです。それで、完成を早めるために、自分たちでペンキを塗ったこともありました。

ーー全然気がつきませんでした!全く違和感ないですよ。
【齊藤雅大】入り口にある階段の赤色は、私が担当した場所なんですよ。すごく慎重になりましたね。

ーー空間デザインは、どなたかにお願いをされたのですか?
【齊藤雅大】してないです。基本的に私がしました。橋のアイデアも自分で考えました。仕掛けの数は、道頓堀店が一番多いんですけど、そこは施工会社さんも一緒に考えてくださいました。

国内外の客層に合わせた「忍者体験カフェ」のサービス術と新米忍者の募集&育成術

ーー忍者に対する憧れ方は、全世界共通なんですか?
【齊藤雅大】そうですね。海外の方の場合だと、忍者が店にいて、それで忍者のコスチュームを着たり手裏剣を投げるだけでも、特別な体験になるのでテンションが上がるんですよ。一方、忍者に馴染みがある日本人のお子さんの場合は、スタッフの忍者と一緒に遊んだり、手裏剣を習ったりしたことが、思い出に残ったりするんですよね。

ーー子どものリアクションは、外国の人も日本人も一緒ですか?
【齊藤雅大】子ども同士を比べると、実は日本人のお子さんのほうが大はしゃぎしてくれるんです。私も最初は意外だなと思いました。でも、考えてみると、日本人の子どもは忍者に慣れ親しんで育っているから、大興奮して騒いでくれるのは当たり前なんですよ。だけど、海外のお子さんの場合は、異国の地で黒い衣装と覆面をした忍者が出てきてくるので、キョトンと驚いている感じです。ですから、外国人の子どもを盛り上げるほうが大変なんです。大人同士を比べると、やはり海外からのお客さんの方が盛り上がりやすいですね。

ーー外国人の子どもを楽しくさせるため、工夫したことはあります?
【齊藤雅大】とにかく話しかけてあげて、“距離を縮める術”を使うんです(笑)。海外のレストランに行くと、突然ウェイターが「どう?おいしい?」とかって話しかけてきたりするじゃないですか。私自身、海外に行った際に話しかけられたことが思い出に残ることが多かったので、積極的に話しかけるスタイルにしています。話す内容で多いのは、「どこから来たか?」、「日本ではどこに行くのか?」、「どれくらいの期間滞在するのか?」とかですかね。なかには、好きなアニメを教えてくださるお客様もいるんですよ。やはりナルトは多いですね。

「日本人だからこうしなきゃいけないとか、海外のお客様だからこうしなきゃいけないっていうのは、特別ないですね」と、接客する姿勢を明かしてくれた【撮影=三佐和隆士】


ーーでも、そういうコミュニケーションが取れたら、困っている人にも躊躇なく声をかけられるようになりそうですね。
【齊藤雅大】まさに、そのとおりなんですよ。ですから絶対に話しかけるようスタッフの忍者には伝えています。手裏剣が投げられなくても、英語を話せなくても、とりあえずいいです。とにかく忍者になりきって、お客さんと盛り上がることができることが大切ですね。

ーースタッフさんは、特別な忍者修行をしているのですか?
【齊藤雅大】忍者って何が正解かわからないじゃないですか。真面目に研究されている方もいらっしゃいますけど、それが本当なのかどうかわからない。どっちかっていうと、みなさんが思い描いている忍者像って、水の上を走れたり、姿をくらませたり忍術を扱う忍者ですよね。だから、そっちを盛り上げてあげるほうが、エンターテインメントとしてはいいのでは?と思うんです。だから特別な忍者修行は特にはないです。ただ、手裏剣を投げられないとカッコ悪いんで、きちんと刺さるようになるまでは、手裏剣と吹き矢、刀の修行(トレーニング)をしていますよ。でも、なかにはどうしても不得意なスタッフもいるので、不得意な人には、それ以外のところで何とかお客さんを楽しませようねっていう感じにはなっていますね。

ーー忍者不足と伺いましたが、新米忍者はどのように募集されていますか?
【齊藤雅大】おかげさまで、忍者はある程度、充足してきてはいます。ただ、隠密にはぜんぜん集められなかったので、そこは浮き世になぞらえてリクルート(大手求人会社)に頼っています(笑)。

原宿店で隠密行動をするスタッフの中山さんは、パフォーマーとしての経歴を持つ忍者だ【撮影=三佐和隆士】


ーー忍者の募集をして、面接に応募する人は忍者になりたい人が多いんですか?
【齊藤雅大】もともと、忍者アクターの経験者とか。あと、舞台俳優をやられている方とか、殺陣の師範代とかもいるんですよ。「忍者体験カフェ」なのに侍って…!!という(笑)。たまに海外からも、忍者志望の問い合わせもあります。前のオーナーのときも、海外からお客さんとして来店して、そのまま働いた人がいたそうですよ。

検索場所を意識した出店とSNSを利用した認知拡大。マーケティング戦略も徹底した「忍者体験カフェ」の経営術

ーー浅草店と原宿店が近く、祇園店と道頓堀店もわりと近いですが、店舗同士でお客さんを取り合うことはないですか?
【齊藤雅大】今のところ、ほとんど取り合うことはないと考えています。ダイレクトに忍者体験というワードで検索すれば、その可能性もあるかと思いますが、スポット、スポットで遊び場所を探すために検索して、来店される方が多いので。ですから、下町界隈で検索すれば浅草店に来店されますし、渋谷、新宿あたりで検索すれば、原宿店が選ばれるわけです。

ーー何ごともスマホで検索する時代ですもんね。
【齊藤雅大】そうなんですよね。浅草店は海外でも有名なので、ピンポイントで来店される方も多いのですが、それ以外は地域で検索してたどり着く方がわりと多い印象です。

ーー浅草店は、前のオーナー時代から、海外では有名だったんですか?
【齊藤雅大】比較的そうですね。認知の経路としては、お客様が遊びに来た際に、動画を撮ってYouTubeやインスタなどにアップされるケースが多いので、SNSを通して自然と知っていただくことが多いんですよね。忍者ってやっぱり海外では目立つじゃないですか。「忍者がいる!」って。

訪れた外国人がYoutubeやSNSに動画をアップしてくれるので、全世界に情報発信ができているそう。「SNSのリールに忍者が出てきたら目立つじゃないですか」と、その効果は大きいという【撮影=三佐和隆士】


ーー今後、新しいメニューや仕掛けなど、考えていらっしゃることがあれば、言える範囲で教えてください。
【齊藤雅大】もちろん、ありますよ。体験のバリエーションは確実に増えます。ただ、具体的なことはまだ明かせないんですよね。メニューに関しては、スタッフの忍者からも「こういうのをやったほうがおもしろくないですか?」と意見を言ってくれますし、本部のほうで考えていることもあるので、タイミングを見計らいながら充実させていきます。

忍者グッズが出てくるオリジナル忍者ガチャも人気。そのほかにも鉄製手裏剣など、お土産のグッズも販売している【撮影=三佐和隆士】


ーー新メニューを出すタイミングは、何か決まりとかあるんですか?
【齊藤雅大】新メニューを提供するのは早いに越したことはないのですが、スタッフの忍者たちにあまり負担がかかり過ぎないようにしています。どんどん新しいことに挑戦しても、現場が追いつかないですし、現場が混乱すればお客様の満足度の低下につながるので、それは避けなければなりません。

ーー最後に、ビジネスとして今後展開したい希望などはありますか?
【齊藤雅大】私たちは、大企業やファンドにコンサルティングを提供しているというバックグラウンドがあるので、エンターテインメント業界において、相当異色な会社だと思います。忍者というコンテンツで何かしたいとか、インバウンドや日本の文化で何かしたいって思ったら、他の会社とは違う企画力と実行力を併せ持っているのが強みでもあります。以前、大手オンラインゲーム運営会社さんと、忍者のゲームで浅草店から配信撮影をしてコラボレーションしたことがありました。そういうビジネス的な広がりは、ぜひお声がけいただければと思います。

ーー確かにバックグラウンドの会社の存在も大きいですよね。ありがとうございました。

重量感のある鉄製手裏剣は、的にサクっとうまく刺さると、忍者ならではの快感が味わえる【撮影=三佐和隆士】


コロナ禍という逆境のなかで、広告に頼らずに成功へと舵を取った「忍者体験カフェ」。店舗の拡大という難題を見事に解決し、独自の魅力と口コミを最大限に活用し達成した成果は、運営会社であるNilgramがもともと持つ能力と齊藤さんの卓越した経営手腕が大きいだろう。アフターコロナの観光業における可能性も示唆する、革新的なビジネスモデルのさらなる躍進に注目したい。

取材・文=北村康行、撮影=三佐和隆士

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