「投資をしないこと」がリスクになる時代の、リスクとの正しい向き合い方

東京ウォーカー(全国版)

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新興国の経済成長、バブル崩壊以来の円安、じわじわと家計を圧迫する物価上昇……。以前より日本円をただ貯金しているだけでは、その価値は減少してしまうことが叫ばれてきたが、近年はそれをありありと実感できる状況となっている。いま、「投資をしないリスク」と「投資によるリスク」についてどのように考えていくべきだろうか。米国株専門の投資系YouTuberであるロジャーパパさんに、リスクに対する考え方を伺った。

投資系YouTuber・ロジャーパパの「相場の格言から学ぶ株式投資」


平和ゆえに「リスクを取らずとも生きていける」と思ってしまう

私の愛読書なのですが、堀古英司さんの『リスクを取らないリスク』(クロスメディア・パブリッシング刊)という書籍をベースに、「投資とリスク」について考えていきたいと思います。

この本は「適正なリスクの取り方」について、投資や金融のビギナーでもわかりやすく説明してくれる本です。著者の堀古さんは、日本のメガバンクを退社後、30代前半でニューヨーク大学のMBAを取得し、自身のヘッジファンド「ホリコ・キャピタル・マネジメント」を立ち上げて経営者兼ファンドマネージャーとして活躍されています。

テレビ東京の「Newsモーニングサテライト」で株式の解説をよくされているのですが、ポジショントークを展開することなく、一般の人にもわかりやすい言葉で、金融や株式投資を解説しています。

その背景には、堀古さんの「正しい金融知識を身につければ、誰でも資産形成を実現できる」という考え方があり、「日本人の金融リテラシーを高めたい」という思いがあるのです。投資ビギナーの人はもちろん、ベテランの人にもおすすめしたい一冊です。

では、この『リスクを取らないリスク』から、「格言」とは少し違うかもしれませんが印象的なフレーズを紹介します。

「日本の人があまり理解していない、又は理解を避けている世界標準のルールがある。それは、リスクを取った人にもご褒美を与えるという事実だ」<br />——『リスクを取らないリスク』 堀古英司

人間は、鋭い爪も牙もない、基本的に弱い生き物です。頭脳を武器に生きる生物ですから、リスクに対して敏感で、回避するようにできています。

それでも、日常的にリスクに晒されるハードな環境に生きていれば、「リスクを回避することが逆に危険になる」「あえてリスクを取って活路を得る」といった判断をする機会もあるでしょう。しかし、そういった仕事でもしていない限り、普段の生活のなかで強いリスクを感じることはあまりないはずです。それほどに、日本は安全で平和であり、これから先も無事に生きていけそうに思えてしまいます。

ですが、国際情勢はどんどん変化し、日本より高い成長率で世界経済はふくらんでいます。自分の資産を日本円で貯金して持っているだけでは、日本経済の成長が鈍化しているため価値が高まっていきません。むしろ、インフレや増税によって減少するばかりです。20年後に、自分たちが想定していたよりも価値の低い資産しか残らず、途方に暮れる可能性があるわけです。

ですから、資産形成しないことはもちろん、ただ貯金することも含め、「なにもしないこと自体がリスク」になる時代なのです。

低い投資リテラシーの原因は「ローリターン」への失望

「なにもしないことがリスク」ではあるのですが、リスクに対して鈍感であると、簡単な煽りにだまされて不利なリスクテイクをしてしまいがちです。「このチャンスに乗らないと損!」といわれると、急に損(リスク)を恐れて判断を誤るのです。特に、投資の世界では、こういった煽りは多いと思います。

『リスクを取らないリスク』では、「リスクを取るなら、それと同等のリターンを得よう」と伝えています。つまりリスクテイクをするなら「ローリスク・ローリターン」か「ハイリスク・ハイリターン」であるべきであって、「ローリスク・ハイリターン」なんてあり得ないということです。

そんなものがあったら、世界中の人が投資をしようと殺到するでしょう。でも、そんな話は聞きませんし、隠されてもいません。つまり、「ない」のです。だから、逆にノーリスクやローリスクでハイリターンを謳うものがあれば、それはほぼ間違いなく詐欺です。それでも、ローリスク・ハイリターンの甘美な響きにみんな踊らされてしまうので、ポンジ・スキーム(※)のような古めかしい詐欺が、いまなお成功します。「リスクとリターンは、つねに同等」と意識すれば、こうした詐欺に引っかかることはないはずです。
※ポンジ・スキーム……運用益を配当するといって出資金を募り、実際には運用せずに出資金を配当金として払いながら出資金を集め続ける詐欺。破綻を前提とし、スキームが回らなくなった時点で詐欺師は巨額のお金を持って逃げる。

また、それとは逆に「ハイリスク・ローリターン」な投資商品をつかまないことも大切です。残念ながら、ハイリスク・ローリターンは詐欺ではなく合法であり、それこそ駅前の銀行でも投資商品として売っています。

投資信託を呼びかける銀行が、みなさんを騙そうとしているわけではありません。ただ、手数料が非常に高額であるケースが多く、それに見合ったリターンではないため、結果としてハイリスク・ローリターンになってしまうのです。メガバンクの信用と安心感から、古くから投資リテラシーの低い高齢者を中心に需要があるのですが、実際にそれで「儲かった」という人は、あまりいないでしょう。

仮に儲かっていたら、みなさんのおじいちゃんやおばあちゃんも「必ず投資をしなさい」と家族に教えるでしょう。しかし、ハイリスク・ローリターンでたいして儲からないから、すすめないのです。ここが、日本の投資リテラシーが育まれなかった原因のひとつであると思います。一方、アメリカでは、月々5万円をS&P500のインデックスファンドに30年間投資して、1億円近い資産を築くようなご年配が意外と身近にいたりするので、彼ら彼女らの成功を見て、若い人たちも投資リテラシーを高めようとするのです。

近頃は、2024年の新NISA制度のスタートもあり、それまで投資に関心がなかった人も、投資をはじめる契機となっています。NISAでは金融庁が定める条件をクリアした投資信託が対象となるため、詐欺まがいのものをつかまされることはありませんが、リスクとリターンについて学び、投資リテラシーを高めることで、よりよい投資判断ができるはずです。その意味でも、この『リスクを取らないリスク』はおすすめしたい一冊なのです。

「リスクプレミアム」で、適正なリスクとリターンを見定めよう

『リスクを取らないリスク』では、「リスクプレミアム(※)」という概念にも言及しています。
※リスクプレミアム……リスクのある投資資産の期待収益率から、リスクのない投資資産の収益率を引いた差分のこと。

どんなものであれ、株式投資にはリスクがあります。個別銘柄株なら、企業が潰れてしまえば株の資産価値はゼロになります。インデックス投資は価値がゼロになることはありませんが、値下がりするリスクはあります。

一方、リスクのない投資は存在します。それは国債です。国債は「10年債」であれば10年後に約束通りのリターンが保証されます。経済事情によってあとから増減することもなく、先進国であれば国家が潰れる心配もほとんどありませんから、必ず履行されるのでノーリスクなのです。

ということは、リスクをとって株式投資をするのなら、リスクのない国債より高いリターンが得られないとおかしいですよね? この「あるべきリターンの差分」がリスクプレミアムです。

米国株の投資でいえば、例えば米国債の利回りが10年債で3%なら、手数料を差し引いたうえで、それ以下のリターンしか期待できないインデックスファンドやETFは意味がありません。仮に8%のリターンが期待できる投資商品なら、国債の3%を差し引いて、5%のリスクプレミアムがある商品だと考えることができます。

このリスクプレミアムが正しく得られるかどうかで、買うべき投資資産を考えれば、ハイリスク・ローリターンをつかむことなく、適切なリスクテイクができます。

具体的な例を挙げれば、S&P500のインデックス投資なら、安定して5%程度の利回りが期待できます。100年にわたってアメリカ経済が成長し続けてきたことを踏まえれば、リスクプレミアムの収益が得られる期待は大きい商品です。

ただし、2023年11月25日現在、米国債の利回りは10年債で4.47%と、この10年でもっとも高い利回りになっているため、S&P500を含む多くの投資商品でリスクプレミアムは低い状態です。

もちろん、個別銘柄株や高配当ETF、新興国株など、よりハイリスク・ハイリターンな投資を行えば、高いリスクプレミアムを期待できます。でも、そこで考えなければいけないのは、「ハイリスクな投資で成功する根拠が、自分にはあるのか?」ということです。

ハイリスク・ハイリターンで正しい選択をするには、知識と経験が求められます。失敗したと思えば早々に損切りをしないといけませんが、そのための情報収集や検討をする時間と労力、判断力があるでしょうか? 参考として、機関投資家でさえ8割がS&P500の利回りを超えられないというデータもあります。

それだけの知識と労力を持ち合わせないのであれば、おとなしくS&P500のインデックス投資を行うか、あるいは株式投資より国債を買うほうが正しい選択といえます。ただ株式投資がしたいだけで、ハイリスク・ハイリターンな投資を行うのなら、少なくとも勉強代として失敗しても痛くない少額でとどめておくほうが賢明でしょう。つねに冷静に、リスクに見合う投資判断を行っていきましょう。

構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム)、取材・文=吉田大悟

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