豆100%麺が1400万食を突破、成長の理由とは?ZENBが目指す「新しい食生活」

東京ウォーカー(全国版)

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原材料は豆だけ。うす皮までまるごと使った「ZENBヌードル」は、たんぱく質や食物繊維といった栄養素が含まれ、豆のほのかなうま味と、もちもちとした食感が特徴だ。累計販売数は1400万食を突破した。手がけるのはミツカングループの株式会社 ZENB JAPAN。ヌードルのほかにも豆粉のパンや野菜バーなどを展開し、健康や美容に関心の高い人や、小麦粉を取らない「グルテンフリー」の食生活を取り入れる人を中心に注目を集めている。

食酢最大手の同グループが、新ブランドを立ち上げたのはなぜなのか。株式会社Mizkan Holdings執行役員でZENB事業マーケティンググループリーダーの佐藤武さんに商品のこだわりやマーケティングについて話を聞いた。

株式会社Mizkan Holdings執行役員でZENB事業マーケティンググループリーダーの佐藤武さん【撮影=山本晴菜】


既存事業の「延長線上」にない新しい食生活

ZENBがスタートしたのは2018年のこと。その発端は5年ごとに行われる次期中期経営計画だった。「当時、オーナーの中でイメージとしてあったのが『サステナブル』や、添加物を極力使わない『クリーンラベル』といったことでした」と佐藤さん。それをベースとして議論した結果、人と社会と地球の健康への貢献や、おいしさと健康の一致などを掲げた「未来ビジョン宣言」を発表。新しい食生活をつくりあげることを目指した。

「ミツカングループではいろいろな技術開発を積み重ねてきましたが、日の目を見なかった技術もたくさんあります。それらをすべて棚卸しした結果、普通なら捨ててしまうような皮や芯も含めて可能な限りまるごと植物を食品として食べられるようにする技術をピックアップしました」

黄えんどう豆のほか、ビーツやコーンなどさまざまな植物をまるごと使った商品を展開【撮影=山本晴菜】


調味料や加工食品を展開する同グループだが、現在の延長線上で事業を行っていては食生活を変えることはできないと考えた。「添加物に頼らない味づくり」や「動物性原料は使用しない」といった約束事を決めて、当初から「主食の創造」を目指して商品開発を行った。

また、事業として立ち上げる前には、野菜をまるごと使った新しい食生活や、新しいおいしさを作っていくことに共感してくれるシェフや有識者、インフルエンス力のある人など「仲間」を集め、コミュニティを形成する期間を設けた。

生活者とともにブランドを育てる

ZENBを始めるにあたり、あえて「ミツカン」という名は前面に出さずに、社内のスタートアップとして会社を設立した。

「ひとつはミツカンの既存事業の中で立ち上げると、発想がこれまでの延長線上に留まってしまい、未来ビジョンを実現するというイノベーションが起こせないと考えたこと。もうひとつは、『なじみのある』『身近な』など、変わらないことへの安心感のようなミツカンのイメージです。ZENBは新しい価値を生活者のみなさんと一緒に創造する革新性を掲げて立ち上げましたので、そんなイメージとアクションのギャップを考慮し、最初はミツカンと少し距離を置いたほうが良いのではないかと考えました」」

また、スーパーなど小売店を通して商品を届ける「B2B2C」という形態では、生活者のニーズを拾いきれないことを課題に感じていたという。「ZENBが成長していくうえで、我々メーカーと生活者の方がダイレクトにつながり、コミュニケーションをとりながらブランディングをしていこうという話が出ていました。そのための手段として、ECで直接販売するD2Cを選択しました」

おいしさにこだわり3年かけて開発

第一弾として発売したのは、野菜をまるごと使ったペーストとスティック。2020年に3年かけて開発したZENBヌードルを発売した。ブランドとして初の主食となる商品だ。1食分が束ねられ、パスタのような見た目をしているが、和洋中さまざまな味付けに合い、小麦粉を使った麺よりも糖質を30%抑えられる。ヌードルを発売したことで、プラントベースだけでなく、グルテンフリーというニーズを持つ層からも支持されるようになった。

黄えんどう豆100%の麺「ZENBヌードル」【画像提供=株式会社 ZENB JAPAN】

豆のうま味が溶け出したゆで汁はスープとして活用できる【画像提供=株式会社 ZENB JAPAN】


おいしく、カラダにも環境にもやさしい「新しい主食」を目指すなかで豆類に目をつけたのは、食物繊維やたんぱく質などの栄養が豊富であるということだった。しかも豆類は、同じたんぱく源である畜産より少ない水で栽培することができ、環境汚染につながる窒素肥料も不要なことから、環境への負荷が少なくて済む。豆類の中で、ひよこ豆や緑豆、大豆なども候補に挙がったが、黄えんどう豆にたどり着いた一番の理由はおいしさ。主食として毎日たべるためには、味そのものが最も重要だと考えた。

「ZENBヌードルは小麦を使っていないので、弾力のベースとなるグルテンが含まれていません。たとえば、卵などの動物性原料をつなぎに使って、粘りを出すことはできなくはない。しかしそれは、後から何かを加えるのではなく、素材そのものの力を最大限活かすという約束事に反します。約束事の中でやれることをやっていこうと、熱のかけ方や、水分の入れ方など、おいしくするための調整にかなり時間がかかりました」

普段の食生活に高い頻度で取り入れられるよう、パスタやラーメン、焼きそばにも活用できる“万能麺”として開発した【撮影=山本晴菜】


発売後も改良を重ね、味のほかに、歩留まり率を高めて食品ロスを減らす取り組みも行っている。ZENBヌードルは2022年に約3年をかけて累計900万食を売り上げ、現在は1400万食を突破。成長の背景を尋ねた。

「事業を始める前にコミュニティを形成するというプロセスを踏んだことが一番の要因です。集まってくださったファンの方の中には、僕ら以上に商品について語れるような人もいらっしゃいます。そういった方たちを我々なりに全力で大切にしてきました。技術や生産体制が整っていなかったからというのもありますが、むやみに商品を出したりはせず、ZENBとしてブレないブランドのイメージを形成できたというのが土台としてあると思います」

「そのうえで、口コミなどで商品を広めてくださり、その文脈をお借りしたコミュニケーションを広告でも使い、さらにそれに共感して買ってくださる方がどんどん増えていった、というのがマーケティングの構造としてあります。また、グルテンフリーというニーズを持っている方からは『今までいろいろ商品を試したけど続かなかった。ようやく出合えたのがZENBヌードルです』というお声を多くいただきます。定期便の継続率も高く、商品のおいしさに妥協しなかったことはすごく大きいですね」

社内全体でビジョンを共有

2023年11月には「ZENBヌードル」と同じ黄えんどう豆を使った「ZENBブレッド」を発売。「新しい食生活」をつくるために、今後も主食となる商品を開発していく予定だ。また、主食をよりおいしく、飽きることなく食べられるようなパスタソースや調味料などもプラントベース、添加物に頼らない味づくりを守りながら展開していくという。

商品を開発するなかで「生活者起点で、よりおいしいものを」と考えると、添加物を加えたいという話が出ることもあった。「おいしいものができれば、もっと売り上げが伸びるのではないか?」という意見もあった。それでもZENBが掲げる約束事のひとつ「添加物に頼らない味づくり」を忠実に守ってきた。

「『まるごと野菜を使っているからおいしい』という、生活者の方が便益を感じられるラインナップが必要だと思っています」と佐藤さん【撮影=山本晴菜】


「こういうことって妥協しがちで、たとえば1年以上かけて一生懸命やってきた人の仕事を全否定することにもなりかねません。でも、そこはZENBの約束事やミッション・ビジョン・バリューにそぐわないので手を止めてもらいます」

企業内スタートアップの「小さな組織」であることも、ビジョンの共有に役立っているという。「半年に1回、全社員でタウンホールミーティングを行っていて、毎回しつこいぐらいミッション・ビジョン・バリューや約束事の話をするんです。また『Coffee with CEO』という、部門も職種も関係なく人を集めて、社長と社員が率直な意見を交換し合う場も設けています。そうすることで、少しずつではありますが確実に目線を合わせられています」

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