半世紀以上も愛される大塚製薬の「オロナミンC」。変化する「元気ハツラツ!」の“情緒的価値”に即したマーケティング戦略に迫る

東京ウォーカー(全国版)

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大塚製薬株式会社(以下、大塚製薬)が販売するオロナミンCは、2023年で発売58年のロングセラーだ。もうすぐ還暦を迎えるこの商品は、登場時から変わらない味と茶色のボトルデザイン、そして「元気ハツラツ!」のキャッチコピーで、多くの日本人の元気を支えてきた。

今や知らない人がいないほどの知名度を誇るオロナミンC。現在はテレビCMや店頭での販売において、「情緒的価値」を全面に出したマーケティングや訴求を行っているのが特徴だ。最近では、想いを届けることを目的にした「ワンアクション」活動や、商品を手渡すことで人と人がつながる、がコンセプトのCM「言葉より伝わる 号泣」篇を放映するなど、消費者のコミュニケーションを促している。

今回は大塚製薬 ニュートラシューティカルズ事業部のオロナミンC担当者に、オロナミンCの誕生秘話や商品の持つ情緒的価値の概要、そして情緒に即したマーケティング戦略についてお話を聞いた。

現在のオロナミンC【提供=大塚製薬】


他社にはない独自の強みを…オロナミンC誕生秘話

オロナミンCの歴史は、今から60年以上前の1961年にさかのぼる。大塚製薬初のドリンク剤「グルクロン酸ビタミン内服液」を発売。その翌年には「キングシロー」「クインシロー」という2つのドリンクを同時発売したが、競争が激化したことで苦戦を強いられていたという。そこで大塚製薬は、他社にはない味やおいしさにこだわった商品開発に乗り出した。

「同業他社から栄養ドリンクが多数発売されて、弊社の製品が埋没してしまいました。そこで、当時の経営者が『他社にはない独自のものを作りたい』と決断し、新製品の開発が始まりました。そこで、栄養ドリンクに炭酸を入れてみてはどうかという発想にいたり、4年の歳月を経てオロナミンCが誕生しました。今ではドリンク剤に炭酸を混ぜるという発想は当たり前にありますが、それまで誰も思いつかなかった革新的なアイデアでした」

発売当初のオロナミンC【提供=大塚製薬】


発売にあたり、大塚製薬はオロナミンCを医薬用ドリンク剤として厚生省(現:厚生労働省)に申請したが、炭酸入りは清涼飲料水の扱いになってしまい、医薬品の許可がおりないことが判明。当時のルールにより、薬局での販売が不可能となってしまったオロナミンCをどのように販売していくかが課題となった。

「当時の経営層は炭酸を抜いて医薬品にする判断はせず、炭酸入りで清涼飲料水として販売することにしました。そのほうがオロナミンCの独自性を保てると考えたからです。そこで、新規販売ルートである小売店の開拓に乗り出しました。当時、薬局は全国で4万軒だったのに比べて、小売店は160万軒と、その市場規模は40倍でした。そこに新たな可能性を感じて、小売店や交通機関、遊技場、浴場などいった販売ルートを一軒ずつ地道に開拓していきました」



また、営業ではホーロー看板での宣伝を行い、消費者に向けての認知度向上を目指した。大塚製薬のグループの中に看板の製造技術を持つ会社があったこともあり、10年間で約42万枚もの看板を作成。1日50枚を目標に全国に貼って回ったという。このような地道な営業活動の結果、オロナミンCの知名度は徐々に伸びていき、またこのときに開拓した販路が、後のポカリスエットの販売ルートにつながった。

オロナミンCのホーロー看板【提供=大塚製薬】


変化する「元気ハツラツ!」とオロナミンCの情緒的価値

オロナミンCのキャッチコピーといえば、「元気ハツラツ!」だ。このコピーは発売当時からホーロー看板やテレビCMに使用されている、いわばオロナミンCの代名詞だ。この言葉どおりオロナミンCはおよそ60年もの間、日本人の元気を支えてきており、現在でも変わらず宣伝に使用されている。

「オロナミンC発売当時の1965年は高度経済成長期の真っ只中でした。東京オリンピックが1964年にあったので、このころは本当に日本が元気になっていた時期で、集団就職などでたくさんの人が働きに出ていました。そういった時代にこの飲料が当てはまったことも、ヒットの理由ではないかなと思います」

1960年代前半は栄養ドリンクが群雄割拠するほど、日本人が元気を欲する時代だったという。しかし、担当者は「時代とともに『元気ハツラツ!』の意味が変わってきているように感じます」と話す。およそ60年間販売されているこの商品は、元気を与える炭酸栄養ドリンクとして人気を博してきたが、時が経過するにつれて「情緒的価値」をさらに持つようになっていき、それに伴って人々の「元気」の捉え方も変化してきたのだという。

「人によって元気の捉え方や感じ方は違うと思います。昔は多くの人が一丸となって日本を元気にしていく、みたいな感じがありましたが、現在は人それぞれの元気の形があるのではないでしょうか。『よし、いくぞ!』といった元気もあれば、ほっとするような元気もあって、一人ひとり感じ方が違うのが、現代の元気の形だと感じています。それぞれの時代のいろいろな人の元気に寄り添ってきたのが、オロナミンCの培ってきた価値だと思いますし、これからも引き続きその人ならではの元気に寄り添っていきたいです」

ホーロー看板は営業担当者によって全国の小売店などに設置された【提供=大塚製薬】


元気の種類がたくさんあるように、オロナミンCが飲まれるシーンもさまざま。コンビニエンスストアでは朝の8時〜9時あたりが一番売れているようで、仕事や勉強を頑張りたいという人からの支持が高い。そのほか、仕事や家事の疲れが出てくる夕方に「もうひと頑張り!」とリフレッシュとして飲用したり、夜のお風呂や銭湯上がりに飲んだりする人も多いそうだ。また、オロナミンCは老若男女問わず幅広い世代の人にも飲用されている。

「なかには100歳を超えるファンの方もいますね。あるとき、一通のお手紙をいただいたのですが、オロナミンCが大好物の102歳の女性のご家族からでした。オロナミンCを綿棒に浸して吸わせるようにしてあげたら、日に日に元気になって車椅子で外に出かけるようにまでなった、という内容が書かれていました。ほかにも、当時最長寿だった119歳の女性が健康の秘訣として毎日オロナミンCを飲んでいるという話も聞きました。このように、ご長寿の方々の元気を支えられているのも、オロナミンCに情緒的価値があるからではないかと思いますね」

手渡すことで、元気を伝えられるオロナミンC

オロナミンCが現在力を入れているのが、情緒的価値を前面に出したマーケティングだ。そのきっかけとなったのがコロナ禍での出来事だった。2020年4月〜5月ごろの全国的にソーシャルディスタンスや外出自粛が叫ばれた時期、オロナミンCの担当者たちは生活を支えてくれているエッセンシャルワーカーを応援するため、得意先であるいくつかのスーパーに責任者を通じて、感謝の気持ちを添えて従業員に配付したそうだ。

「コロナ禍で頑張っている人を応援できないかなと思って、スーパーの店長さんにお話をして、従業員のみなさん一人ひとりに『ありがとう』という言葉とともにオロナミンCを配ってもらいました。その後、従業員のみなさんから『とてもうれしかった』『頑張りが認められた気がした』というお言葉をいただき、これをきっかけに、メッセージを書いてオロナミンCと一緒に元気を届ける『ワンアクション』という活動を始めました」

大塚製薬が促進する「想いを届ける、ワンアクション」【提供=大塚製薬】


そのほかにも、2023年にコロナ禍が落ち着きを見せたことで運動会や文化祭といった学校行事が再開。それを受けて大塚製薬では、イベントで頑張った子どもたちにオロナミンCをプレゼントするというキャンペーンを小学校に向けて実施。全国でおよそ150の小学校が参加し、子どもたちにサプライズを行った。すると先生からは「子どもたちがとっても喜んでいた」という感謝の声が届くなど、キャンペーンは大成功だった。

「ブランドとして生活者の体験作りをすごく大事にしています。身近な人からご褒美や差し入れとしてもらったものは、とても記憶に残りますよね。このように情緒面の取り組みを行うことによってみなさまに喜んでいただくのはもちろん、新たなユーザーや将来のファンを開拓することも目標にしています。子どもたちが成長した時に思い出の味としてオロナミンCを手に取ってもらえるとうれしいですね」

エッセンシャルワーカーの応援や子どもたちへのサプライズとしてオロナミンCが活躍できるのは、ひとえに商品が発売より培ってきた情緒的価値の賜物と言えるだろう。最後に、今後のオロナミンCの展望について聞いた。

「この先100周年を目指して、誰にでも愛されるブランドにしたいですね。頑張る人を応援する存在でありたいし、誰かの元気や笑顔を作ることに役に立てるものとして、価値を高めていきたいなと思います。そして、頑張っている人が認められる社会であるように、オロナミンCもあり続けていきたいです。言葉では伝わらないことでも、オロナミンCを通じて伝えられる気持ちもあるかもしれません。人と人が繋がる瞬間に寄り添えるような存在になっていきたいです」

オロナミンCは半世紀以上も人々を支え、時代に即した「元気ハツラツ!」を届けてきた。多様性が重要視される今では、一人ひとり感じ方の違う元気に応えている。2025年に誕生60周年を迎えるオロナミンCは、これからもたくさんの人たちに愛飲されていくだろう。そして、今後の情緒的価値を追求したマーケティングやキャンペーンの展開が楽しみだ。

この記事のひときわ #やくにたつ
・商品がもつ信頼と歴史は、情緒的価値を生み出す
・コミュニケーションを促す商品は、消費者の喜びを生みやすい
・「変わらないこと」が商品価値を生み出すことも

取材・文=福井求(にげば企画)

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