「赤ちゃんのいる暮らしを知りつくす」赤ちゃん本舗の社長が考える専門店の価値

東京ウォーカー(全国版)

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妊娠・出産・子育てにまつわる商品・情報・サービスなどを提供、サポートする「赤ちゃん本舗」。全国に126店舗(2023年10月現在)を展開し、ベビー用品の専門店としてワンストップでさまざまなアイテムを買いそろえられることが強みで、2022年には創業90周年を迎えた。2007年にセブン&アイ・ホールディングスと資本業務提携を行い、同年に経営再建のためイトーヨーカ堂から出向、コロナ禍で代表取締役社長に就任した味志謙司さんに、経営者としての仕事観などを語ってもらった。

「うちの社員は赤ちゃん好きが多い」と胸を張る代表取締役社長の味志謙司さん【撮影=福羅広幸】


事業リストラで経営不振の赤ちゃん本舗を甦らせた

1000坪ある大規模店を閉め、500坪程度の中型店をショッピングセンターや総合スーパーなどにテナントとして入れた【撮影=福羅広幸】


ーー初めに、味志社長が赤ちゃん本舗に入社されるまでのキャリアを教えてください。
【味志謙司】1993年に大学を卒業し、イトーヨーカ堂に入社しました。その後4年半は店舗で勤務し、本部に移り10年間にわたって経営企画関係の仕事に携わりました。2007年の春ごろから親会社の「セブン&アイ・ホールディングス」(以下、セブン&アイ)で業績不振の赤ちゃん本舗を買収するプロジェクトが立ち上がり、そこで赤ちゃん本舗の審査を担当していました。その後、無事に買収することになった際にご縁があり、2007年8月に赤ちゃん本舗での勤務がスタートしました。それから2013年までは引き続き経営企画や管理本部などの仕事をしていまして、2013年に営業に移り、8年間ほど営業関係の責任者として働いていました。

ーー赤ちゃん本舗に入社した際は経営不振だったと。業績回復・黒字化への取り組みはどういったものだったのでしょうか?
【味志謙司】赤ちゃん本舗という会社名どおり、ベビー用品を卸売するところからスタートしましたが、成長規模に応じて大人のアパレルから化粧品や薬、一部の店舗では加工食品や弁当までを販売し、多角化するようになっていました。これはロードサイドや流通団地といったトラックが行き来するような立地に大きな店を構えて商売をしていたためで、ベビー用品だけでは大きな店舗を維持できないため、結局、多角化するしかなかったんですね。赤ちゃん本舗の代表取締役となった河邉(司郎)と相談しながら取り組んだのが、無駄に広がっている事業をやめる「事業リストラ」。赤ちゃん本舗なのだから、赤ちゃん用品に特化する、赤ちゃん用品以外はやめるんだということです。

ーー赤ちゃん用品に完全に絞ったのですね。ロードサイドの大型店はどうしたのでしょうか?
【味志謙司】大きい店は赤ちゃん用品だけでは店内の面積が空いてしまうため、そういった店舗は閉めましたが、ちょうど資本業務提携を行ったイトーヨーカ堂など、GMSと呼ばれる業態がベビー用品からどんどん撤退していた時代だったんです。その空いた面積に赤ちゃん本舗を出店させてもらいました。大きい店舗を閉めて、近くのイトーヨーカ堂に出店する、ということを繰り返しました。なので、ひとつは事業リストラで得意ではない領域に手を出さないということ、もうひとつは大きいお店を閉めてテナント出店という身の丈にあったサイズに置き換えたこと。このふたつを行ったことで売り上げは当然落ちますが、収益性は改善していきました。

ーー人を切るということはしなかった?
【味志謙司】「人に対するリストラはしない。それはその後、企業が成長していく際に、その体力を奪ってしまうことになる」ということが河邉と私の共通認識でした。ただ、お店は閉めていたので地域のパートさんはやめてもらうしかなかった店舗もありましたが、GMSに出店できていたのでなんとか正社員にはリストラを行わず、維持することができました。

赤ちゃん本舗の看板商品「水99% Super 新生児からのおしりふき」。発売から現在まで何度も改良を加えているそう【撮影=福羅広幸】


「赤ちゃんのいる暮らしを知りつくしていること」が赤ちゃん本舗の強み

ーーその後、河邉前社長とともに、ミッション・ビジョン・バリュー・ウェイを新たに設定し、リブランディングに取り組まれたと聞きました。
【味志謙司】6年ほどで経営再建を果たせたと思っているのですが、それまでは創業者が提唱し、75年続けてきていた立派な経営理念や思想を継承して経営再建に取り組みました。その先、企業として成長しようと思うと、いろいろなことを変えていかなければならないというタイミングがきまして、行き着いたのがリブランディング。

【味志謙司】これを行うにあたり、ミッションを「私たちは、幸せな出産・子育てを応援します。」、ビジョンを「子育て総合支援企業」と置き、提供価値のうち機能的な価値を「スマート」、情緒的な価値を「スマイル」と表しました。バリューは「私たちは信頼される誠実な企業でありたい」。ウェイは河邉の希望で入れたもので「お客様の気持ちに寄り添って考えよう」「失敗を恐れずチャレンジしよう」といった6つを掲げました。また、ロゴマークも変更しました。

ーーリブランディングを行う際に意識したことや工夫されたことはありますか?
【味志謙司】未来やグローバル展開に向けてもう一度やり直していこうと、詳しい中身と実現に向けた具体策を記した手帳サイズの「ブランディングノート」を作成し、当時の正社員約800人、パート約3000人に配布しました。全員に意識改革を周知するためですね。

ーーリブランディングは成功しましたか?
【味志謙司】2014年にブランディングノートを配り、2015年には売り上げが初めて1000億円の大台を突破し、3%ほどの利益率も出せるようにはなりました。しかしこのリブランディングによってもっと成長していきたいと思っていましたが、悪化はせずともよくもならず、残念ながら業績そのものが停滞しました。我々は小売業なので毎日の売り上げ、客数などが日々の仕事のウエイトを占めてしまい、将来を見据えて業務に取り組むといったことが置き去りになりました。ですので、成功したかと言われると、初期としては成功とは言えない結果になりました。

ーー業績が停滞し、次に打った手はなんだったのでしょうか?
【味志謙司】2020年に、ブランディングノートに書かれていることがこの先どうなっていくんだということを修正し、「ブランディングブック」というものを再度全社員に配布しました。ウェイという考え方の部分を別冊にし、そこに何が書いてあるのかを理解し、もう一度みんなで取り組んでいこうということです。具体的には赤ちゃん本舗の強みを「赤ちゃんのいる暮らしを知りつくしていること」に置き、この言葉について考えていこうと、仕切り直しのような形になりました。

2020年に配布した「ブランディングブック」。新たな理念、目指すべき方向性が細かく記されている【撮影=福羅広幸】


ーー「赤ちゃんのいる暮らしを知りつくしていること」を具体的に教えてください。
【味志謙司】我々はずっと赤ちゃんのことを考え、商売をし、商品を作り、仕入れ、提案してきました。しかし、長い歴史のなかでわかっていることはあるのだけれども、「知りつくせているか?」というと、実は知りつくせてないのではないかという思いがありました。そこで、専門店を目指すにあたり、知りつくすという究極のレベルにならないといけないということを言葉にしました。赤ちゃんのいる暮らしを知りつくしたうえで商品を仕入れる、販促活動するにしてもお客様一人ひとりの子育ての状況を理解したうえで、いろいろな提案や接客をするのとでは雲泥の差です。あらゆる場面で知りつくしているということをもとにした商品・サービスを提供していこうということです。

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