カプセルトイ専門店、なぜ増えた?タカラトミーアーツが思い描く「月に1回はガチャを回す世界」

東京ウォーカー(全国版)

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商業施設や駅構内で、カプセルトイ(通称・ガチャ)自販機を目にすることが増えた。多種多様な商品が並ぶ大型専門店では、どれを回そうかと迷う人や、目当ての商品を探す人でにぎわっている。一般社団法人日本玩具協会によると、2022年度のカプセルトイの市場は前年度比35.6%増の610億円。少子化が進むなか急成長するのはなぜなのか。2023年3月期の決算で過去最高益を更新した玩具メーカー、株式会社タカラトミーアーツのガチャ企画部部長・大槻淳さんに話を聞いた。

株式会社タカラトミーアーツのガチャ・キャンディ事業部ガチャ企画部部長の大槻淳さん【撮影=三佐和隆士】


コロナ禍で市場が拡大、大人向けの商品も

――現在のブームはいつごろ始まったのでしょうか?
【大槻淳】コロナ禍でいくつかのテナントがショッピングモールから撤退されて、空いた場所にガチャの売り場が入ったことで大型売り場が増えたことが背景にあり、2020年ごろからカプセルトイ市場の拡大が続いています。また、コロナ禍による行動制限で外出できる範囲も限られていたので、「身近なお店で手軽に消費できるもの」として好まれたのだと考えております。

タカラトミーアーツが株式会社タイトー、株式会社ペニイと協働で展開するカプセルトイ専門店【写真提供=タカラトミーアーツ】


――「ヒットコンテンツを使った大人向け商品拡大」も業績好調の要因だとか。どのような商品がありますか?
【大槻淳】最近では、2023年5月に最新作が公開された映画シリーズ「ワイルド・スピード」のミニカーが非常に好評でした。そのほか「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ジョーズ」など、大人の方なら誰もが知っているような名作タイトルのフィギュアも売れていますね。あとは「日産フィガロ」のミニカーなど、コレクション性の高い商品を展開しています。

――大人向けの商品にも力を入れ始めたのはいつごろですか?
【大槻淳】以前から販売はしていましたが、強化したのは2021年ごろですね。コロナ禍以降に売り場が増えたことで、大人の方にも買っていただける環境がつくり上げられました。その需要に合わせて、さまざまなカテゴリーの商品を展開しています。

売り場に展開する商品を決める代理店の声を参考に、商品展開を考えている【撮影=三佐和隆士】

――ターゲット層も変化しましたか?
【大槻淳】小学生以下のお子さんがメインターゲットであることには変わりありません。しかし、直近で実施したインターネット調査では、10代、20代で月に1回ガチャを回す方が、約2割まで増えています。それに加えて、30代、40代の子育て世代でもガチャを月に1回は回す方が一定数いらっしゃり、ターゲット層はどんどん拡大しています。

【大槻淳】私と同じ40代ぐらいの方は、子どものころにガチャを体験されているので、ガチャを回すことに抵抗感がないといいますか……もう少し上の世代になると「駄菓子屋さんの軒先にある当たり外れが激しいもの」という印象を持たれている方が多いと思うんです。

――確かに、子どもの頃に「ガチャを回したい」と言っても親は渋っていた覚えがあります。
【大槻淳】子どもの頃に何度もできなかった経験があるから、大人になって「全部そろえたい」という思いで回していただけることもありますね。商品の高品質化によって、40代以降の世代にとってガチャは、低単価で手に取りやすいキャラクターグッズです。20年後、30年後には、大人でも半分ぐらいの方が、ガチャを月に1回は回すような世界を想像しています。

今後はインバウンド需要の回復にも期待

――どのような商品に人気が集まるのでしょうか?
【大槻淳】ポケットモンスターやサンリオなど、人気キャラクターのミニチュアはよく売れますね。ガチャは、スーパーやおもちゃ売り場など、お子さんが行くような場所に設置されています。ご両親などからもらったお金を自分で入れて、ガチャを回して商品を出す。キャラクターグッズを手に入れる第一歩、エントリー商品であることが、魅力のひとつだと思っております。

近年は企業コラボのアイテムも人気。「東京ばな奈」や「超熟」シリーズのミニチュアなどを手がけた【撮影=三佐和隆士】


――やはり売り場が増えることが、売り上げに大きくつながるのですね。
【大槻淳】そうですね。また、2017年から成田空港で、インバウンド向けに設置させていただいたことも大きいです。ガチャのマシンは、国によっては硬貨の問題で置くことが難しいので、海外の方にも日本ならではのものと認識いただいています。近年の伸長は、コロナ禍による国内が中心でしたが、最近はインバウンド需要もどんどん回復しているので、好調な国内のマーケットにプラスオンして、さらなる伸びが期待できるのではないでしょうか。

――海外からの旅行客には、どのような商品が人気ですか?
【大槻淳】先ほどお話ししたようなポケットモンスターやサンリオキャラクターは、やはり人気がありますね。刀や神社の鳥居など、いわゆる“日本っぽいもの”は意外と売れません。海外の方も自分たちに向けて用意されたものではなく、日本で実際に人気があるものを買いたいんですよね。我々が海外に行ったときに、地元スーパーのお菓子を買って帰るような感覚に近いのだと思います。

毎年約500アイテムを展開

――プロモーション方法について教えてください。
【大槻淳】基本的にプロモーションはしていません。というのも、ガチャの商品の多くは売り切り型で、商品が毎月のように切り替わっていくシステムになっています。弊社だけで年間約500アイテム発売しておりまして、どんどん新しい商品を展開して、お客さんが売り場に行くたびに新しい商品があるという状況をつくることが最大のプロモーションです。

【大槻淳】一方で、弊社は「ガチャ」というブランドを持っておりますので、そこはしっかりと訴求していきたいですね。その一環として「しょいガチャ」という、ガチャマシンの形をしたリュックを作ったり、2023年10月には、延々とガチャのハンドルを回しているような感覚を味わえる商品を発売する予定です。

2023年10月発売の「THE!ガチャハンドル」。回すとカチカチと音が鳴る【撮影=三佐和隆士】


――商品のラインナップには、どのような特徴がありますか?
【大槻淳】我々はグループ会社であるタカラトミーの安全基準に則して商品を開発しています。通常の玩具に求められる基準は厳しく、尖っていないかどうか、踏みつけたときに傷がつかないかなど、さまざまあります。さらに、食品のミニチュアは間違って食べてしまわないように、サイズを小さくして、袋から取り出せないようにしています。厳しい自社基準で商品を開発するのは苦労する点ではありますが、これだけ市場が拡大しているなか、安全な物をお届けすることは、非常に大切なことだと考えております。

パンになったヘビのマスコット「へびにょろベーカリー」(写真左)とチーズをモチーフにした動物のマスコット「チーZOO図鑑」(同右)【撮影=三佐和隆士】


――ひとつのアイテムを開発するのに、すごく時間がかかるのでは?
【大槻淳】だいたい10カ月ぐらいかかります。ですから、ほぼ1年後に、何が流行っているのかわからない状況で開発しなければなりません。

サメをモチーフにしたメジャー「ぱくもぐ!サメジャー」【撮影=三佐和隆士】


――そのような状況で、企画にGOサインを出すときに大事にしていることは?
【大槻淳】お客様が店頭でたくさんのガチャが並ぶなか、買いたいと思うかどうかは、マシンの前面に入っているPOPの印象だけだと思うんです。だから、提案資料をひと目見たときに「おもしろそう」「自分でやってみたい」と心に引っかかるかどうかが、一番重要だと思っています。

「企画担当が好きなものを作らないと、いい商品は生まれないと思っています」と話す大槻さん【撮影=三佐和隆士】


ーー最近はどのような商品がヒットしましたか?
【大槻淳】サメの腹側にキャスターが付いていて、走らせるとメジャーを巻き取ることができる「ぱくもぐ!サメジャー」は、けっこうヒットしましたね。サメとメジャーのかけ合わせが斬新だということと、サメがエサを食べているようなデザインになっていて、細部までこだわっている点がよかったので商品化を進めました。実際のところ、サメがメジャーである必要性は全くないわけですが、第一印象や、企画者がその商品に対して、どれだけ想いを込めているのかを見るようにしています。

メジャーの目盛り部分には、それぞれのサメが主食としている魚がデザインされている【撮影=三佐和隆士】


――今後さらに力を入れていきたいことは何ですか?
【大槻淳】お子さん向けの価格帯の商品はしっかり維持していきたいですね。100円の商品はあまり多くはありませんが、毎年8月に「こむしちゃんのかんづめ」という100円の商品を発売しています。現在のガチャは半分ぐらいが300円。最近は為替の影響で、価格が少しずつ上がっていますが、ガチャマシンの特性上、100円刻みでしか値上げができません。お子さんが自分のお金を握りしめて買いにいけるような商品を販売して、楽しみを届けていくことが玩具メーカーとしての責任と考えております。そして、そんな原体験を持つ子どもたちが、大人になっても継続してユーザでいてくれるといいなと思います。

この記事のひときわ #やくにたつ
・ユーザ層の広がりに合わせてラインナップを増やす
・高品質な商品は業界のイメージを変える
・商品開発は消費者と同じ目線に立つ

撮影=三佐和隆士

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