リスキリングを経営課題としている企業は8割弱、そのうち取り組み開始企業は2割未満。注目度が高いスキルとは?

東京ウォーカー(全国版)

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企業が抱える経営課題を明らかにし、これからの経営指針となるテーマや施策の方向性を探ることを目的に、1979年から「当面する企業経営課題に関する調査」を実施している一般社団法人日本能率協会。今回は、「組織・人事編」と題し、企業の人事部門の責任者を対象として、組織運営・人事分野の課題にフォーカスを当て、対応の実態や施策の検討状況を調査。ここでは、社員のキャリア開発・リスキリングに関する調査結果について取り上げる。

「当面する企業経営課題に関する調査 日本企業の経営課題 -組織・人事編-」概要
・調査時期:2023年1月17日~2月10日
・調査対象:JMAの法人会員ならびに評議員会社、およびサンプル抽出した全国主要企業(計4000社)の人事部門の責任者
・調査方法:郵送調査法(質問票を郵送配布し、インターネットにより回答)
・回答数、回答率:回答数596社・回答率14.9% 

社員の自律的なキャリア開発のための取り組み状況や仕組みは?

リスキリングを経営課題としている企業は8割弱だが…

1. 8割超の企業が社員の自律的なキャリア開発のために取り組みを実施・検討。大企業では9割にのぼる

はじめに、社員の自律的なキャリア開発のための取り組み状況を尋ねると、「取り組んでいる(そのための施策がある)」が47.1%、「検討中、または予定がある」が34.6%と、合計で8割超の企業が、自律的なキャリア開発のための取り組みを実施、もしくは検討していた。従業員規模別でみると、大企業では「取り組んでいる」が70.6%、「検討中、または予定がある」が23.5%と、取り組みを実施・検討している企業は94.1%にのぼった。

【画像】社員の自律的なキャリア開発のための取り組み状況


次に、取り組みを行っている企業に対して、自社で取り入れている仕組みを尋ねた。最も多かった仕組みは「定期面談での将来の希望の確認」で、74.0%の企業が取り入れていた。従業員規模別でみると、大企業は、取り入れていると回答した仕組みの数が中堅・中小企業と比較して多いという結果になった。なかでも、「社内公募制(ジョブポスティング)の導入」「グループ企業や外部の企業、NPO法人などへの出向、研修出向等」「大学院など学校への派遣、留学」は中堅・中小企業と比べ、大企業では取り入れているとの回答が多くなっている。

自社で取り入れている仕組みは?


リスキリングを経営課題として位置付けているものの…

2. リスキリングを経営課題として位置付けている企業は約8割

経営課題としてのリスキリングの重視度について尋ねたところ、リスキリングを重要な経営課題として位置付けている企業は、全体の45.6%だった(「取り組み優先度が高い重要な経営課題」(7.9%)「重要な経営課題」(37.8%)の合計)。「経営課題ではあるが、それほど重視していない」まで含めると、経営課題として位置付けている企業は76.7%にのぼる。従業員規模別でみると、大企業は中堅・中小企業と比較して経営課題としての重要度が高い傾向があり、64.7%の企業が「重要な経営課題」と位置付けていた(「取り組み優先度が高い重要な経営課題」(16.9%)「重要な経営課題」(47.8%)の合計)。

経営課題としてのリスキリング重視度


3. リスキリングを経営課題に位置付けている企業のうち、取り組みを始めている企業は2割未満。「AI、IoT、などのデジタル関連」スキルへの注目度が高い

リスキリングを経営課題に位置付けている企業(n=457)に対して、リスキリングに対する現在の取り組み状況を尋ねたところ、会社(組織)として既に取り組みを行っている企業は16.8%と高くはなかったものの、検討中(28.0%)の企業も含めると44.9%の企業が会社(組織)としての取り組みを実施・検討していた。

従業員規模別でみると、大企業は、既に取り組みを行っている企業が26.5%と、全体と比較して約10ポイント高く、検討中(36.3%)も含めると62.8%の企業が取り組みを実施・検討していた。

リスキリングに対する取り組み状況


想定されるリスキリングの内容は?

次に、リスキリングを経営課題に位置付けている企業に対して、想定されるリスキリングの内容について尋ねた。技術、IT、研究開発部門の社員に対して広く推奨しているリスキリングの内容は、「AI、IoT、などのデジタル関連」(67.2%)、「現在の研究・開発に隣接する分野の知識・スキル」(56.5%)、「データ解析などの統計、分析スキル」(48.1%)と、いわゆる「理系」スキルが中心となっている。

「技術、IT、研究開発」部門の社員に広く推奨しているリスキリングの内容として考えられるもの


一方、技術、IT、研究開発以外の部門の社員に対しては、「現在の専門に隣接する分野の知識・スキル」(61.7%)、「AI、IoT、などのデジタル関連」(42.5%)が上位となった。

「技術、IT、研究開発以外」の部門の社員に広く推奨しているリスキリングの内容として考えられるもの


「技術、IT、研究開発部門」「それ以外の部門」を統合すると、「現在の研究・開発・専門に隣接する分野の知識・スキル」とともに、「AI、IoT、などのデジタル関連」が高く、社員の現在の所属部門を問わず、デジタル関連のスキルは優先度が高く位置付けられていることが見てとれる。

広く推奨しているリスキリングの内容として考えられるもの


リスキリングを始めている企業が2割未満の要因は?

今回の調査について、一般社団法人日本能率協会の担当者に話を聞いてみた。

「(今回の調査の目的は?)日本企業が当面ならびに中長期的に対応を迫られている重要な経営課題や、その具体的な対応実態や特性を分析することにより、小会の法人会員をはじめとする企業・団体等の経営活動に資するとともに、今後の小会の事業の参考とすることを目的としています。2022年度は第43回となりました。なお、組織・人事領域における経営課題を『組織・人事編』として設問を増やし、2023年1月~2月に第43回とは別に実施しました。これを『当面する企業経営課題に関する調査 -組織・人事編2023-』としています」

「(リスキリングを始めている企業が2割未満の要因は?)リスキリングを『経営課題として位置付けている』企業が76.7%ですが、『優先度が高い重要な経営課題』『重要な経営課題』として位置付けている企業は45.6%にとどまっています(31%は経営課題ではあるが、それほど重視してはいない)。これは、調査報告書の『組織・人事領域における経営課題』(一般社団法人日本能率協会のWebサイトにアップされている)で『リスキリング』と回答された企業は4.5%にすぎず、ほかに緊急または重要な課題があることがうかがえます。リスキリングについての取り組み状況については、組織として取り組んでいる企業・団体は検討中を含めて44.9%ですが、『社員の自律的な取り組みを支援』が39.4%となっており、組織的にリスキリングに関与するか、社員の自律性を重視するかで取り組みスタンスが分かれているようです」

調査のまとめ

今回は、企業の人事部門の責任者を対象に実施した「当面する企業経営課題に関する調査 -組織・人事編2023-」について、社員のキャリア開発・リスキリングに関する調査結果を紹介した。

まず、社員の自律的なキャリア開発のための取り組み状況をみると、8割超の企業が自律的なキャリア開発のために取り組みを実施、もしくは検討していた。特に、大企業ではその割合が高く、実に94.1%にのぼった。ビジネスモデルの変化やデジタル分野での技術革新が進むなかで、昨今キャリア開発・リスキリングの必要性は高まっているが、大企業を中心に企業側においても施策を実施・検討している様子が見てとれる。

また、経団連や経済産業省が推奨したことで注目が集まっているリスキリングについては、76.7%の企業が経営課題として位置付けていた。一方で、リスキリングを経営課題と位置付けている企業に限っても、実際に会社(組織)として既に取り組みを始めている割合は2割に満たないのが現状だ。

リスキリングは特にデジタル関連スキルの取得についての文脈で語られることが多いが、実際に企業が社員に推奨しているリスキリングの内容としても「AI、IoT、などのデジタル関連」が7割超と高い傾向にあった。特に、「技術、IT、研究開発」部門の社員に対しては、デジタル関連のスキルを推奨している企業が多いとの結果になった。ただし、デジタル関連スキルとともに「現在の研究・開発・専門に隣接する分野の知識・スキル」を推奨している割合も高く、デジタル関連の知識にとどまらず、現在の業務に隣接する知識やスキルを広く身につけていくことを望む企業側の意識が見てとれる。

現状、自律的なキャリア開発・リスキリングの取り組みは大企業が先行している状況だが、同会では、経営環境の急速な変化から、今後は企業規模を問わず、より多くの企業において、経営課題としての重要性が高まってくると見ている。

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