博報堂テクノロジーズってどんな会社?マーケティングとテクノロジーの融合でかなえたい“広告の未来”とは

東京ウォーカー(全国版)

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博報堂DYグループの新会社『博報堂テクノロジーズ』。生活者インターフェース市場の予想を超えるスピード拡大により、広告業界でもIT化が急務となった近年の状況に対応すべく、2022年の4月に誕生した。博報堂DYグループの中で、マーケティングとテクノロジーの力で価値を創造することを目的に、新たなマーケティングビジネスを推進している会社だ。今回は、取締役執行役員でありテクノロジー戦略センターのセンター長・神部昌彦さんに、会社の組織や今後の課題などを中心に、ご自身の仕事への取り組み方などについても語ってもらった。

取締役執行役員 テクノロジー戦略センターセンター長の神部昌彦さん【撮影=阿部昌也】


IT人材を集結しマーケティングとテクノロジーを融合した新たなマーケティングビジネスのイノベーションを牽引

ーー博報堂テクノロジーズの特徴や事業領域について教えてください。どういった会社なのでしょうか?
【神部昌彦】博報堂DYグループには、博報堂DYメディアパートナーズ・DAC・博報堂などといったシステム開発を活用した、マーケティング施策を行う組織が個々に存在していました。その開発体制を集結し、体制強化・進化を目的とする、博報堂DYグループのテクノロジー戦略会社として、博報堂テクノロジーズは2022年4月に設立されました。マーケティングとテクノロジーの力を融合させることで、マーケティングビジネスのイノベーションを推進し、新たな「マーケティング×テクノロジー」の社会実装をリードしています。そのため、IT人材を多く集めていて、基幹システムを担当するチームから外販するプロダクトのチームまで、IT系の業務に関して幅広くやっています。

【神部昌彦】現時点では、社内で使うツールや基幹システムを比較的に手掛けることが多いですが、会社設立以前から進めていた、マイカー乗り合い公共交通サービス『ノッカルあさひまち』のような、社外での実績も今後さらに増えていくと思います。『ノッカルあさひまち』は、富山県朝日町、博報堂と博報堂テクノロジーズでやっている取り組みでして、昨年(2022年)12月にPRアワードグランプリ2022のグランプリを受賞、さらに2023年5月には日本マーケティング大賞の奨励賞を受賞しました。

マイカー移動を活用した、住民同士が助け合う新しい交通サービス『ノッカル』のロゴとイメージ図


ーー社員構成について教えてください。職種としてはエンジニアの方が多いのですか?
【神部昌彦】そうですね。コードを書く人間もいれば、プロデューサーやプロダクトマネージャーの人間もいます。それから、業務の領域によっては、もっとビジネスサイドの人間も在籍しています。幅広い職種の人が集まっていますね。

ーー新たに会社の設立にいたった背景、その狙いについても教えてください。
【神部昌彦】業務のなかで、ほとんどの接点がデジタル化してきていることを感じていました。そこで、デジタル化された業務に博報堂のクリエイティビティをうまくはめ込めれば、もっと新しいブランド体験を創れるのではないか、すごくワクワクするような、生活者とブランドの出合いの場を創出できるのではないか、この考えが発想の原点になります。世の中に新しい体験を創り出せる会社、それが博報堂テクノロジーズ設立の狙いです。

【神部昌彦】もちろん、デジタル面の強化という狙いもあります。広告のデジタル化が進むにつれ、業務量の増加という課題がありました。社員ひとりあたりにどのくらいIT投資がされているか、情報装備率を数値化したところ、博報堂DYグループの数値はそこまで高くないという結果が出ました。正直、それまで人力でなんとかやってきた面もありましたが、今後さらに増えるであろう業務にどう対応していくかという意味において、「ITをより強化すべき」「テクノロジーをもっと味方にすべき」と判断したんです。こうした2つの観点から、テクノロジーに特化した会社を作ろうと2020年ごろから動き出しました。

ーースタートは2020年なんですね。
【神部昌彦】2022年4月の立ち上げは決まっていたので、かなり無理をして奔走しましたね(苦笑)。

ーー短い準備期間で立ち上げられたんですね。ビジョンやミッションについても教えていただけますか?
【神部昌彦】“世界一級のマーケティング×テクノロジー会社になる”というビジョンを掲げ、“マーケティング×テクノロジーによって社会と生活者に新しい価値・体験を提供する”というミッションに取り組んでいます。さらに、“プロフェッショナルであること”、“オーナーシップを発揮すること”、“新しい価値を生み出すことに果敢にチャレンジすること”という3つのバリューを制定して、行動指針の礎としています。

ーー広告会社からテクノロジー戦略会社を立ち上げる難しさや、生じた課題はありましたか?また、その課題をどのように乗り越えられましたか?
【神部昌彦】広告会社の難しさというより、人材を博報堂DYグループ内の8社から集めたので、出自の会社も違えば業務の領域も異なっていて、最初はすべてがバラバラでした。「8社JV(共同企業体)」と言われていたので、まずは、ひとつにまとめることが課題だと感じていました。

博報堂テクノロジーズの立ち上げにも携わった神部さん【撮影=阿部昌也】


【神部昌彦】会社は4月1日に立ち上げて、営業開始が8月1日とわずかな期間だったので、準備期間の間に「一丸となるためにどうしたらいいか」という話を繰り返し、執行役員が二度の合宿を行いました。社長と役員全員が「私たちは何のために存在し、どんな価値を提供する会社になるべきか」というテーマについて徹底的に議論したんです。そして、先ほどのビジョンとミッション、バリューが生まれ、そのおかげで相互理解を深めることができました。「自分たちは今こういう仕事をやっていて、この会社に来た」「こういう仕事をやっているから、この会社にこういうことを期待する」というところから始まり、「じゃあ、自分たちが目指すものはなんだろう?」という議論をして、結果その過程を通じて、一丸となっていく道のりができたと感じています。

ーーやっぱり、言葉を交わした数が大事だったりしますよね。
【神部昌彦】どんな仕事をやっているのかわからないまま、概念的に理解しただけで集まった部分はあったので、そういったところをお互いが知る機会にもなったと思います。

ーー初めての領域へのチャレンジ、一歩前進するためのコツはありますか?
【神部昌彦】学習し続ける力、これが大切だと思います。でも、それってどうやったら身につくのかと聞かれると、実はまだわからないんですよ(苦笑)。

「挑戦してみることで、新たな発見もある」と語る神部さん【撮影=阿部昌也】


【神部昌彦】でも、やっぱり飛び込んでみて、手を動かしてみて、発見があることがいいのかなと思っているんです。一昨年、新入社員が受ける研修に出させてもらったんですよ。その流れでSQLの初級とか、そういうところも学ばせてもらって、そうすると「あっ、それは時間がかかるわけだ」と理解が深まりました。その道のプロにはなれませんが、自分なりの理解ができると、他人に説明するときの説得力が増したり、目の前のモヤが晴れてちょっとだけ光が差してくると、違う角度から物事が見られるようになると思うんです。そうすると人に聞けるようにもなるので、さらに知ることができます。幸いこの会社には、わからないことを聞ける人が周りにたくさんいるので助かります。

ーー確かに一定の知識がないと質問すらできないですよね。
【神部昌彦】SQLの初級を受けるだけでも違いますよ。丁寧に構造を教えてくれるので、「全然知らなかった。知らずに使っていた」みたいなことも学べるんです。

社員参加型の行動指針づくりから1年のストーリー

ーー会社設立から1年数カ月が経過、グループ内における博報堂テクノロジーズの位置付けは設立時と比べて変化されましたか?
【神部昌彦】まだ1年ちょっとしか経っていないんですよね。業務の密度的には、この会社がもう5年ぐらいある感じがします(笑)。私が「うれしかった」と言うとおこがましいのですが、合宿中にバリューについて議論をしているなかで、エンジニアの役員が「テクノロジー会社において、より重要なのは行動指針なんですよ」と、ポロっと口にしたのがすごく頭に残っていて。行動指針が本当に重要なんだとしたら、「それは社員参加型でつくったほうがいいのではないか?」という話に広がっていったんです。その結果、「行動指針をつくりたい」というメンバーを公募して、社員の自主性に任せることにしました。

【神部昌彦】その過程のミーティングに私も参加したことがありますが、「こういう会社にしよう!」と意欲が滲み出るプロジェクトとして進んでいました。議論を繰り返すうちに、「行動指針は執行役員や社長にも課さないとダメでは?」という意見もプロジェクトのメンバーから出てきました。今でも鮮明に覚えていますが、そのおかげで、執行役員・取締役に対して最終答申をするときに、「本当この人たちに頼んでよかったな」という行動指針が完成しました。社内での発表は、2023年の4月1日。社員が自らつくった行動指針によって、社員が行動を変えていくというサイクルが生まれました。すごくいいことだと思っています。

【写真】博報堂テクノロジーズの根幹となる7つの行動指針は社員が一丸となってつくったもの【撮影=阿部昌也】


【神部昌彦】行動指針のなかの“Heart Beat First”や“Be Proactive”、“Be Open”について「自分は守れているか?」と、いつも自問自答しています。何かしら決定しなければいけないときに意識します。常に意識のなかに置いておかないと、忘れがちだったりするんですよね。ですから、私の席の横には、この行動指針のポスターが貼ってあるんですよ。すぐ見られるようにしています。

ーー“Be a Two-way Pro”、この“二刀流”というのも今っぽいですね。
【神部昌彦】この和訳はちょっと意訳してあります。唱和したりはしませんが、「これを大事にしよう」という共通認識があります。例えば、“Be Open”でいうと、毎週、社長と執行役員が集まる経営戦略ミーティングがあるのですが、その議事と結論を執行役員が持ち回りで、毎回、全社員に出しています。こういうことが社員中心にできるようになってきたこと、これが1年の成長かなと思っています。

ーーこれだけの方針を固めていくのは大変な作業ですよね。
【神部昌彦】うちの社員は、みんな喋るのが大好きなんですよ。「自分はこう思っている」「自分は逆にこう思う」みたいな議論が放っておいても湧き上がってくる会社でして、ですから、どちらかというと収束させる、まとめていくほうが大変だったとも感じています(笑)。

ーー広告会社の「クリエイティビティ」と、エンジニアの「合理性」は、ある意味相反する部分もあると思います。どのように融合・共存していく考えですか?
【神部昌彦】融合できているかを判断するのは、正直、これからかなと思っています。社内活動のひとつに、8つのグループ会社の社員が集まり、「どういう会社にするか?」をカジュアルに意見交換する『知的コンバット会議』という活動があるのですが、その2回目、3回目のテーマが「エージェンシー文化とエンジニア文化をどう融合させるか?」というもので、質疑に近い形で議論しました。私も見にいきましたが、博報堂テクノロジーズの根幹に関わるテーマなので、2回に渡り開催され、非常に盛り上がっていました。

博報堂テクノロジーズの社員が集まって開催される『知的コンバット会議』の様子【撮影=阿部昌也】


【神部昌彦】(博報堂DY)ホールディングス社長の水島(正幸)とよく話をするのですが、博報堂DYグループ全体がものすごくチーム文化を大事にしているんですね。ですから、博報堂のチーム文化を博報堂テクノロジーズに根づかせることが、融合への近道になると考えています。多様な人間が集まり、いいアイデアを出すことが文化になっているので、多彩なメンバーが集まって、いいアウトプットを出していく、その過程をつくっていくことが答えになるのかもしれません。チームの作り方、これがやはり博報堂DYグループの特徴だと思いますので。

ーー博報堂テクノロジーズが今後、取り組んでいくべき課題やテーマについては、どういうところだと考えていますか?
【神部昌彦】やはり先ほどの共通認識、“Be a Two-way Pro”ですね。テクノロジーとマーケティングの二刀流をどう実現できるか、先ほどのエンジニア文化とエージェンシー文化の融合と、根幹はほぼ同じ気がするんですよね。博報堂テクノロジーズにいるからには、もちろん技術力を上げたり、それぞれの職種のレベルを上げたり、その能力の幅を横に広げる必要があるのですが、そのなかで、やっぱりマーケティングを重視してほしいと思っています。これが実現できたとき、本当にワールドクラスの会社になれると心底感じています。その背景には、広告やマーケティングをテクノロジーの力で進化させたいという想いがありますし、そこが一番の課題だと考えています。

【神部昌彦】最近、「広告が不人気だ」という声をよく耳にします。「Z世代は広告嫌い」だと、常識のように言われるんですよね。私が子どものころは、テレビで“CM特集”が放送されるぐらい親しまれる存在だったのに、そう聞いてビックリです。「なぜ、そうなったのか?」というところに興味があったので、アメリカの資料を調べてみたんです。そこで、「なるほどな」と思ったのが、媒体ごとにCall To Actionという行動喚起の広告と、ブランドをつくるブランドビルディングのための広告に広告費を分けているんですが、Call To Actionの広告料が圧倒的に伸びていたんですよ。

「広告が不人気」という昨今の傾向を危惧する神部さん。Call To Actionとブランドビルディングの両立を目指す【撮影=阿部昌也】


【神部昌彦】私自身、マーケティングで売れるための仕組みづくりは、ユーザーと企業がいい関係を築き、そのなかで売れる状況をつくっていくことだと思っていました。その際に広告がどんな役割を果たしているのかというと、憧れなども含めて「いい商品ってこういうものだよね」という“意味をつくること”だと、ずっとそう考えてやっていたんです。でも、Call To Actionは、どちらかというと“今だけ”の瞬時的なものですよね。「この商品が今だけ大特価ですよ」みたいな。こういうやり方は、当然、費用対効果としてはいいんです。そしてその背景には、やっぱりテクノロジーがあると思っています。ただ、この行動喚起の側面でうまくいったテクノロジーに、もう一度、意味を持たせたり、ブランドをつくりあげたりすることって難しいんですよね。

【神部昌彦】もちろん、Call To Actionを否定しているわけではありません。テクノロジーがもたらした素晴らしい市場ですから。ただ、Call To Actionが成功したんだから、きっとブランドビルディングでも、もっとエンジニアが活躍してくれるでしょう。そのためには業務をどんどん効率化させて、「ユーザーにとってうれしい広告って何だろう?」と、社員に考える時間をつくってあげるのも、私は博報堂テクノロジーズの重要なミッションだと考えています。

【神部昌彦】この両立が、私の目指す“Be a Two-way Pro”ということでもあるんです。そうなれたときに、博報堂テクノロジーズは世界トップクラスの、日本を代表する会社になるんじゃないかと考えています。

ーー広告収益に直結する反面、ユーザビリティの観点からすると課題も少なくないと思います。Call To Actionとブランドビルディングの両立に向けて、どのような取り組みを行っていきますか?
【神部昌彦】まずは、マーケティングや広告に興味を持ってもらうことが、やはり大事だと思っています。社内でも「マーケティングの部分を、もう少し大事にしよう」という議論が始まり出したところなので、まだ実例を挙げられる段階ではないのですが、会社としての形もできてきたので、両立に向けての考え方の部分にも力を注ぎたいと考えています。そもそもマーケティングの研修が、博報堂DYグループには山のようにありますから。弊社のHR戦略センターも頑張ってくれています。単にエンジニアに興味があるだけでなく、コミュニケーション強化や広告に興味があるとか、マーケティングに興味がある人を人的資源として重要視してくれています。そこに応えるような活動を、会社として今後さらに増やしていければと思っています。

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