社員の失敗を“褒める”「大失敗賞」を導入する、太陽パーツ株式会社の革新的な社風に迫る

人間誰しも“失敗”を経験したことはあるだろう。特に仕事の場面では責任が伴うため、「失敗したら怒られる」「社内で非難される」といったリスクから、できるだけ避けたいと思う人は少なくないかもしれない。

しかし、失敗から学べることがあるのも事実で、自身の成長やスキル向上の貴重な機会と言い換えることができる。そして、そんな失敗を怒らず“表彰”しているのが、大阪府堺市美原区にて各種部品の加工・販売を行う、太陽パーツ株式会社だ。

同社では「大失敗賞」と題した社内コンベンションを開催しており、多くのメディアに取り上げられている。では、一体どのようなことがきっかけで導入にいたったのか。今回は、太陽パーツ株式会社(以下、太陽パーツ)取締役会長・城岡陽志さんに、大失敗賞が誕生した経緯や発足後の変化などについて聞いた。

5000万円の損失を経て「大失敗賞」を導入！しかし、当初は一度限りのはずだった

1990年代後半ごろ、下請け事業を主体としていた太陽パーツは、自社商品の開発を構想していた。そんなとき、ある2人の社員が「カー用品を自社商品にしたいです！」と城岡さんに持ちかけた。そこから企画・開発がスタートし、誕生した商品は次々に企業から採用され、軌道に乗りつつあった。

「半年くらいしてから、大量の返品があったんです。そこで、売れる場合は継続して販売するが、売れなければ返品する仕組みがあることを知りました。そうして瞬く間に、当時の年間利益の半分くらいに匹敵する、5000万円ほどの損失が出てしまいました。直後の社内の雰囲気はとても暗かったので、何とかしなきゃいけないと思い、ピンチをチャンスに変えるべく一念発起。失敗しても怒るのではなく、笑い飛ばせる社風にするため、1998年に第1回大失敗賞を開催しました。ただ、当初は一度限りの予定でした」

しかしあるとき、城岡さんが東京で雑誌の記者をしている友人と電話で話している際、「何かおもしろネタない？」と言われたという。そこで大失敗賞の話を持ちかけたところ、とても興味を持った友人は取材のために来阪したそう。記事の掲載直後はそこまで反響がなかったようだが、記事を見たNHKの番組に取り上げられたことで状況は一変した。

「番組の反響が想像以上でして、以降、いろいろな雑誌や新聞に取り上げられるようになりました。文部科学省が作成する学校教員に向けた『教育小景』にも掲載されたこともありますよ。ちなみに、今でも年間に3、4回は取材依頼がありますね」

過去には“社長”が入賞!?社風づくりは1日にしてならず

5000万円の大損失を負いながらも、大失敗賞を導入したことで、今やチャレンジすることが当たり前の社風になっている太陽パーツ。それにしても、経営が傾くほどの大きな失敗でありながら、それらを笑い飛ばす大胆不敵な判断をくだした、城岡さんのルーツが気になるところだ。

「私はサラリーマン時代に営業をしていまして、チャレンジすると当然失敗するんです。来る日も来る日もチャレンジしては怒られるんですよ。対して同僚はチャレンジしていなかったので全く怒られていませんでした。ただ、そうした環境で感じたのは『チャレンジなくしてこれ以上の発展はないな』ということでした。だからもし自分が社長になったら、絶対にそんな会社にしないと心に決めていたんです」

そして城岡さん自身も、社長時代の2007年に受賞経験がある。内容は、ある案件のために2000〜3000万円ほどの設備投資を行っていたが、キャンセルになってしまったとのこと。城岡さんは「その回は受賞者がいなかったので『じゃあ私がもらおう！』となりました」と話す。社長自らが見本を示すことで、社員たちも物怖じすることなくチャレンジできる社風が生まれていくのだろう。

「時々『うちでも大失敗賞を採用したいです！』と相談がありますが、一朝一夕で成り立つものではありません。単に取り入れただけでは、仮に社長が失敗を容認しても、部長や課長は納得していないといったおかしな状態になってしまいます。5年、10年と長い時間をかけて、ようやくチャレンジできる環境が誕生していくのです」