オウンドメディアは必要ない?キリンが考えるブランドの理想形とは

東京ウォーカー(全国版)

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飲料メーカーとして長い歴史を持つキリンホールディングス株式会社。2019年より公式noteを軸に「人」や「社会課題」に焦点を当てたさまざまなメッセージを発信している同社だが、そのオウンドメディア戦略に大きな注目が集まっている。そんなコーポレートコミュニケーションの最前線に立ち、ステークホルダーを巻き込む企画を生み出し続けているのが、コーポレートコミュニケーション部に所属する平山高敏さんだ。前編では、立ち上げの背景やオウンドメディアの役割を中心に伺ったが、後編となる本記事では、メディアを続ける秘訣や共感を呼ぶコミュニケーション企画の作り方、今後の展望について話を聞いた。

公式noteを立ち上げ、現在も責任者として運用を担当しているキリンホールディングス株式会社コーポレートコミュニケーション部の平山高敏さん【撮影=三佐和隆士】

伝えるべきことを丁寧に。あえてバズを狙わない情報発信

ーーオウンドメディア自体はさまざまな企業が自社情報の発信に活用してきましたが、キリンは成功例として語られることが多いですよね。「公式note」がここまで注目を集めた理由、その成功要因は何だと思われますか?
【平山高敏】トヨタさんの「トヨタイムズ」やユニクロさんの「LifeWear magazine」も時期を同じくして誕生したオウンドメディアですが、そのころくらいから、“社会的な課題を踏まえたうえでの企業としてのミッション・ビジョンを伝えなければいけない”といった機運が出てきたように思います。我々キリンの場合はnoteというプラットフォームから小さく始めましたが、とにかく丁寧に、軸をぶらさず、伝えなければいけないことを伝え続けたことにあるのかなと感じますね。目先の結果だけ追い求めるとコンテンツって大味になるので、「バズろう」とか「このほうがPVが伸びるかも」とか、そういったところとあえて距離を置くように意識していました。

ーーどうしてもPV数などのわかりやすい結果を求めてしまいがちですよね。キリンのコンテンツ作りにおいて、大切にしているポイントはなんでしょうか?
【平山高敏】私が第一義にしているのが、“取材された人にとって、代名詞となる記事なのか”ということですね。後世に残るコンテンツ、すなわち社内的な資産を作っていくこともオウンドメディアの役割だと考えています。今やキリンのコーポレートサイトTOP、コーポレートブランディング、またコミュニケーションの一丁目一番地のところに、公式noteの転載記事が並んでいるんですが、キリンのカルチャーやDNAをアウター・インナーに伝えていくためのコンテンツを真っ当に作り続けた結果、ありがたいことに今の評価につながっているのかなと。中の人間は毎日のように、「全然PV伸びてないな」とへこんでいたりもするんですけどね…(笑)。

ファンやクリエイターとともに語り合う。共感の輪を広げるコミュニケーション企画の作り方

ーー読者を企画に巻き込み、まさしくコーポレートコミュニケーションを体現していらっしゃいますよね。ファンコミュニティや共感の輪が広がったと実感した出来事について教えてください。
【平山高敏】2021年に公式noteで展開した、「キリンラガービール(以下、キリンラガー)」という商品を軸にしたコミュニケーション企画でしょうか。キリンラガーは130年以上の歴史があるブランドなんですが、広告を一切打っていません。逆を言えば、広告を打ってないのに、それだけ長きに渡ってロングセラーを続けているということは、おそらくお客さまや従業員のなかに“マイキリンラガー”という愛着のようなものがあると思ったんです。そこで、お客さま、例えば料理家さんなどのクリエイターや実際にうちのビールを提供してくださっている飲食店と、キリンの従業員、それぞれのキリンラガーにまつわるエピソードをnote上で往復書簡のように見せる「#今日はキリンラガーを」という特集を立ち上げました。

【写真】SNS上で発話が増え、1600万を超えるリーチを獲得したコミュニケーション企画「#今日はキリンラガーを」


【平山高敏】noteの記事をきっかけにTwitter上でもUGC的にどんどん広がってくれて。3~4カ月に渡って実施したんですが、ハッシュタグの総リーチ数は1600万を超えました。我々自ら「ブランドを愛しています」と発信することと、我々以外のブランドを愛してくださっている方に語っていただくことでシナジーが生まれ、さらに共感が伝播していった特別な企画となりましたね。

ーーキリンにはさまざまなブランドや商品がありますが、そこに愛着を感じ、支持してくださっているファンやクリエイターと手を組んでコンテンツを発信していく、というのがコミュニケーションのひとつの手法になっているんですね。
【平山高敏】個人的に「インフルエンサーを使う」という言い方がとても嫌いで…。その方とコラボレーションをすることによる影響力を数字で見て判断するというのは広告マーケティング的にはアリなのかもしれないんですけど、キリンでやっているようなストーリーや想いを伝えていく読み物では通用しないので。本当にブランドや商品を好きでいてくれる方、共感してくれている方に、私たちのほうから手を伸ばしていって、握手をさせていただいて、一緒に語り合うことができると、その先にいる人たちにもじんわりと熱が広がって、シェアをしてくれる。そんな同心円状に広がっていくような企画が公式noteでやっていくべき、本質的なコンテンツなのかなと思いますね。


ーーちなみにオウンドメディアと言うと、コンテンツを作り続けるのはもちろん、その後ユーザーに届けることの難しさもあるかと思います。この点、キリンではどのようにデリバリーをしているのでしょうか?
【平山高敏】コンテンツのデリバリーは、実はずっと課題に感じている点ですね。メルマガや公式Twitterアカウントなど社内のリソースを活用して届ける、noteのプラットフォーム上で記事がピックアップされる、SmartNewsやGunosyなどnoteから記事が配信された先でリーチさせる、そして、クリエイターさんとのコラボを通じて、コラボ先から広げてもらう、主にこの4パターンです。これまではTwitterでのシェアを狙うことが最も効果的だったんですが、今やTwitterの仕様や取り巻く状況がどんどん変化していますよね。これまで通用していたことが通用しなくなってきて、オウンドメディアのコンテンツデリバリーが一層難しい時代になったなと感じます。

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ーーそこで重要視されているのが、クリエイターとのリレーションなんですね。
【平山高敏】そうですね。一緒に組んでいただいたクリエイターの方が、「この企画、とてもよかったから読んでね」と発信してくださることが本当にありがたいですし、共感の輪が広がっていくという点でも重要だと考えています。

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