直営店で先行導入してバージョンアップへ。今年度中にFC店舗にも導入予定

ーーこれまでも、こういった教育アプリの開発をされていたのですか?
【小坂景】店長の握り方を見よう見まねで覚えていくアナログ的な部分もあったので、AIを使ったデジタルシステムに関しては、『mibae』が初めてですね。5年ほど前に、マニュアルを動画化することは始めていたのですが、それまで15年ほどはずっと紙のマニュアルでした。

ーーお寿司って、見て学ぶというか、師匠・弟子みたいな文化もありますよね。開発途中でベータ版を試してみたりしたのですか?
【小坂景】直営店舗が108店舗あり、全店舗で『mibae』を導入しています。さらに、弊社にはフランチャイズの店舗が250店舗ほどあるのですが、こちらは今年度中の導入を目指してまだ試作段階というところです。まずは、一昨年から直営店で試して、日々改良を繰り返し新しいバージョンを試験運用しているところですね。

「フランチャイズの店舗にも、今年度中の導入を目指して、『mibae』をアップデートしています」と語る小坂さん
「フランチャイズの店舗にも、今年度中の導入を目指して、『mibae』をアップデートしています」と語る小坂さん【撮影=樋口涼】


ーー実際に使用した従業員の方からの反響はいかがですか?
【小坂景】各直営店で、写真を撮って『mibae』の採点が一番高かった店舗に賞品を贈るキャンペーン施策を行っています。一般の方には見えない部分でもあるんですけれども、社内で盛り上げることが大事だと考えています。点数化されることで、ゲーム感覚で楽しみながら頑張って覚えますし、綺麗に作ろうという気持ちになりますよね。そういう好奇心+商品力という部分で、影響が出ることを期待しています。実際にアルバイトを始めたばかりの方には、基礎導入としていい教育ツールだと思います。楽しんでもらえているようですし、これから広がっていけばと思います。

ーー『mibae』導入前後、お寿司の並び方に対してお客様からプラス意見が増えたなど、反響はありましたか?
【小坂景】まだ導入から日が浅いので具体的には把握できていませんが、美しさに気がついてもらえるとうれしいですね。これまでも、寿司が届いたときの見栄えから来る「ワーッ」という感動は、SNSなどを通してお声をいただいていました。見た目の喜びも『銀のさら』のひとつの価値になっていて、多くのファンに支持されている理由なので、そういった声が増えるように努力していきます。

ーー導入後に気づいたことなど、もし感じているところがあれば教えてください。
【小坂景】『mibae』が採点する寿司と、人の目で採点する寿司の基準が、どうしても完璧には一致しないところがあるので、「何をもってして美しいのか?」という感覚の追求は永遠のテーマでもあり、日々改良を重ねているところでもあると、担当チームからは聞いています。

商品力とサービス力に磨きをかけるために、チラシとオンラインを併用。将来的にオンライン化を目指す宅配寿司『銀のさら』のこれから

ーー飲食業界でのAIの可能性について、貴社ではどのように考えていますか?
【小坂景】AIに限らず、飲食業界がデジタル技術に頼る機会が、すごく増えてくるだろうなと考えています。例えば、大手ファミレスチェーンでは、ロボットが配膳をするようになりましたよね。弊社においても『mibae』もそうですが、商品に端末をかざすと対象の伝票が表示されて、伝票管理がしやすくなるなど、まだまだ可能性はたくさんあるのではないかと思います。

「AIに限らず、飲食業界がデジタル技術に頼る機会が、すごく増えてくるだろうなと考えています」と小坂さん
「AIに限らず、飲食業界がデジタル技術に頼る機会が、すごく増えてくるだろうなと考えています」と小坂さん【撮影=樋口涼】


ーー宅配という業種において、アフターコロナの課題として感じていることはありますか?
【小坂景】コロナ禍において、既存の競合他社だけでなく、大手のファミレスやファストフード店も宅配サービスを行うようになり、宅配というものが当たり前になりました。もともと弊社は宅配のプライオリティを高く考えていましたが、宅配が世間的にもよりフラットなサービスになったと思います。

ーー逆に参入された側とも言えますね。
【小坂景】そうなんですよ。古参ではありますが、他社も宅配をする時代になったので、「うち宅配していますよ」ということに、何の優位性もなくなってしまいましたね。「お届けします」が普通になってしまいました。ですのでこれからは、『mibae』の活用のように、商品力やサービス力といった本質の部分をより向上していくことが大切だと考えています。

ーー貴社の今後のビジョンについても教えてください。
【小坂景】まずは、商品力とサービス力を、今後も底上げすることですね。サービス力の部分に関しては、弊社ではチラシを多く配布していますが、オンラインへの移行も進めています。各ご家庭に配布させていただいているチラシは、ずっとこだわりを持って作らさせていただいているんです。家に保管していただけるように紙質を厚めにして、寿司の写真がより鮮やかに見えるようにしているので、お客様の中には、チラシでないとダメという方もいらっしゃいます。ただ、我々としては徐々にオンラインのほうに移行していきたいと考えているところがあります。

各家庭に配布されているチラシ。根強いファンに支持されている
各家庭に配布されているチラシ。根強いファンに支持されている


ーーオンラインに移行したほうが、ユーザーの好みなど、データのストックやその活用が当然しやすいですよね。
【小坂景】そうなんですよ。ポイントが貯まるシステムも導入していて、Webで注文していただくと“デリポイント”という形でポイントが貯まります。結果的に安く頼んでいただけますし、デジタルに移行していただくと、もっとお得に『銀のさら』をご利用していただけると考えています。LINEでの注文対応やアプリでも展開をして、新規で注文していただいたお客様には「次からはWebが便利でお得ですよ」というアナウンスもしています。

お得なクーポンが使えたり、デリポイントも貯められる『銀のさら』公式アプリ
お得なクーポンが使えたり、デリポイントも貯められる『銀のさら』公式アプリ


ーースタートはチラシだったとしても、Webへと促しているわけですね。
【小坂景】はい。次に商品力に関してですが、地方でしか味わえない希少性の高い魚を数量限定でWebのみで販売したりするなど、差別化を図っています。Web上でのキャンペーンに力を注ぎ、「『銀のさら』は地方の魚、希少性の高い魚も取り扱っているんだな」というイメージづけをしていきたいという狙いもあります。

【小坂景】それから、日本の水産資源は非常に枯渇していますが、日本人にとって魚はなくてはならない食糧資源のひとつです。ですので、天然物だけに頼らず、国産で養殖している地方の水産業者さんと手を取り合って、養殖魚の販売にも力を入れていきたいと思っています。

オンラインで注文するとWeb限定の希少なネタも頼めるという
オンラインで注文するとWeb限定の希少なネタも頼めるという【撮影=樋口涼】


ーー最後に、これから『銀のさら』を利用しようと思っているユーザーに向けて、メッセージをお願いします。
【小坂景】『銀のさら』は、ご注文をいただいてから1貫1貫、見栄えよく作らせていただいています。よく「出来合いのものでしょう?」と思われがちですが、その日に入荷したものを丁寧に握り配達しているので、ご安心ください。また、ただ単純にお寿司をお届けするだけでなく、綺麗なお寿司を届けて食卓を華やかにして、その時間を楽しんでいただきたいと考えています。ご家族や仲間とご一緒の日常からハレの日まで、さまざまなシーンでご注文いただけるとうれしいです。

この記事のひときわ#やくにたつ
・他業種の事例を自社のサービスに置き換えてみる
・リアルからオンラインへの導線・特典を設計する
・AIなどテクノロジーの活用ポイントを見極める

取材=浅野祐介、取材・文=北村康行、撮影=樋口涼