累計13億個も売れた看板メニューの「モスバーガー」をはじめ、「テリヤキバーガー」や「モスライスバーガー」など、独創性のあるオリジナルメニューを世に送り出してきた、人気ハンバーガーチェーンのモスバーガー。近年では多様化する世の中のニーズに対応。主要原材料に動物性食材を使用せず、野菜と穀物を主原料にした「グリーンバーガー<テリヤキ>」や、パティの代わりに大豆由来の植物性タンパクを使用したソイパティを使った「ソイモス野菜バーガー」など、新たな商品を発売している。そんなモスフードサービスを牽引する代表取締役社長の中村栄輔さんに、商品のキャッチコピーのネーミング方法や、新たなブランドの新店舗、自身の仕事への姿勢について話を伺った。

株式会社モスフードサービス 代表取締役社長 中村栄輔さん
株式会社モスフードサービス 代表取締役社長 中村栄輔さん【撮影=阿部昌也】


マーケティングの方向性を決定する場が、忖度なくフラットに意見の言える経営会議に

ーーキャッチコピーが、めちゃめちゃエッヂが効いていると思うのですが、どのようにして決定されているのかちょっと気になりました。
【中村栄輔】数年前に、マーケティング本部長が交代したことがひとつの理由です。中途採用で入社した本部長が、ずっとやってきたことと違う視点を入れようとしたんです。それから、代理店からの提案施策もいろいろ考えて選んだりしました。マーケティングのコピーやテレビCMも、経営会議で決めています。この場合は、7人の役員だけでなく部長、課長クラスのリーダーも一緒に入っているんです。どうやって決めるかというと、うちでは“じゃんけん方式”と呼んでいますが、選択式の多数決ですね。

【中村栄輔】A案がいいと思う人は「1」、B案がいいと思う人は「2」を出すんです。まず余計なことは言わず「今回の商品の狙いは、これこれこういうことで、こういうCMを作りました」と、企画案だけプレゼンテーションをします。そのプレゼンを聞いてから、各々がいいと感じた案に対して、「最初はグー、じゃんけんぽん!」と投票するんですよ。そうすると、当然「1」を出す人と「2」を出す人に分かれますよね。そこで少ないほうから選んだ理由を聞いてホワイトボードに書き出すんです。理由は、たいていの場合、少数のほうが多くの意見が出るから。そして、両者の意見を踏まえたうえで、再度じゃんけん投票をして決定します。多数のほうに動く場合もあるし、逆の場合もあるんですね。

画期的な採択方法で、忖度なく物事を決定できる場をつくった
画期的な採択方法で、忖度なく物事を決定できる場をつくった【撮影=阿部昌也】


【中村栄輔】だいたい10人ぐらいでやるので、結果は7:3とか8:2とか6:4になります。このポイントは、グループリーダーも部長も平等に意見を言えることにあるんです。グループリーダーや部長とその上司の役員の意見が違ったり、おもしろいことがあるんですよ(笑)。

ーーその方式ですと、起こり得ますよね。
【中村栄輔】私は、それがいいと思うんです。今までのやり方だと絶対その役員の意見が強いわけじゃないですか。でも、この方法は、制作担当者も入っていて自分の意見が言えるので、これはけっこういい仕組みだと思っています。

【中村栄輔】なぜこの仕組みを思いついたかというと、私が社長になったときに、会長が「栄輔さん、A案がいいよね」って最初に言われると、B案だと思っていても、なかなか「いや、B案がいいですよ」って言い難くて(苦笑)。「会長、確かにA案もいいですけどね、B案もこれよくないですか?」って、どうしてもこういう言い方になるんです。

【中村栄輔】「これどう見てもB案がいい」って、堂々と言えないなと思ったのがきっかけです。じゃんけんすると、私が「1」で会長が「2」になるわけです。すると、「栄輔さん。Bですね」となって、ほかを見てもB案が多かったりするときもあるんです。

「会長に遠慮しながら採択をしていた」と、以前の会議の様子を振り返る中村社長
「会長に遠慮しながら採択をしていた」と、以前の会議の様子を振り返る中村社長【撮影=阿部昌也】


ーーそれはいい方法ですね。採用したい企業もたくさんあるんじゃないでしょうか?
【中村栄輔】ほめていただけるとうれしいです。小さいことかもしれませんが、すごく大事だと思うんです。昔、『失敗の本質』という本を読んだんです。そこに、なぜ第二次世界大戦で日本が負けたかについての考察が書いてあって。その理由が、大将が言ったことに対して、誰も何も言えなかったから。優秀な参謀を抱えていたのだから、素直に意見を出させて決めておいたら、負けなかったかもしれませんよね。ですから私は、みんなの言動や考えを尊重しているんです。それがチームのいいところだと思っています。

ーーおっしゃるとおり、世のあらゆる社長に聞かせてあげたいですね(笑)。ヒット商品の話ですが、2022年3月に「モスバーガーとヤマザキパンでじっくり考えた濃厚なチョコ食パン」や「バターなんていらないかも、と思わず声に出したくなるほど濃厚な食パンで作った『フレンチトースト』」を発売されました。この長いネーミングも今のお話に紐づくのでしょうか?
【中村栄輔】わかりやすいように説明したらどうなのか?と、あえてインパクトを狙った商品です。普通は、いかに短く、ポイントを押さえるかがネーミングの王道でしょうけど、逆をいきました。ただ、ここでネーミング以上に価値のあることは、モスのハンバーガーはテイクアウトしても15分以内には食べてもらいたい“即時性の食べ物”です。それが翌日でも翌々日になっても、モスの味を楽しんでもらえるという、新しい価値を生み出している商品であること。だから、やってみようと。私のスタンスはすべてそんな感じなんです。

モスバーガーとは異なるコンセプトを持った、地域に求められるものに対応した限定店舗も展開

ーー2022年11月には新業態としてチーズバーガー専門店「mosh Grab’nGo(モッシュグラブアンドゴー)」をオープンされました。チーズバーガーにフォーカスされた理由と反響について教えてください。
【中村栄輔】とことんシンプルさを追求した結果、チーズバーガーにたどりつきました。ですから、そのシンプルさを大切にして、そこに特化したコンセプトにしました。野菜やソースを一切使用しない、従来のモスバーガーとは正反対のハンバーガー店です。

【中村栄輔】将来の人手不足などいろいろなことを考えて、作業性を少しでも軽減しておいたほうがいいというのもシンプルさの理由のひとつです。それから、広尾は我々が出店したかった立地で、モスバーガーとは違うコンセプトのハンバーガーを出してみるのもいいのではと考えました。ただし、モスバーガーという名前ではないですが、モスが出す以上はおいしさにはこだわりたいと話していました。

新業態として誕生したチーズバーガー専門店mosh Grab’nGo
新業態として誕生したチーズバーガー専門店mosh Grab’nGo【画像提供=株式会社モスフードサービス】


【中村栄輔】また、立地としても、今まで出店の機会がなかったエリアで、広尾が「一等立地」という表現が適切かはわかりませんが、今まで私たちがチャレンジできなかったエリアにという意味も含め、モスバーガーとは対極にあるようなハンバーガーを出してみるのもいいんじゃないかということで決めました。

【中村栄輔】ただし、我々が出す以上は、おいしさには徹底的にこだわりたいということです。その後の反響については、オープンした当時は大変な混み合いでした。今は少し落ち着いてきていると思いますが、認知を含めてまだまだのびしろがあると考えています。

ーー確かに、「モス」という部分を全く打ち出していないですしね。
【中村栄輔】そうなんです。「これってモスがやっているの?」という声も聞きます。でも、モスって気がつかなくてもいいので、おいしいハンバーガー店ということだけでも、しっかり認知してもらいたいと思います。ブランドに頼らず、そういう部分も大切にしなくてはいけないと思っています。

#Burger01〈2種のチーズ〉600円
#Burger01〈2種のチーズ〉600円【画像提供=株式会社モスフードサービス】

#Burger02 〈ふわとろチーズ〉800円
#Burger02 〈ふわとろチーズ〉800円【画像提供=株式会社モスフードサービス】

#Burger03〈クワトロチーズ〉900円
#Burger03〈クワトロチーズ〉900円【画像提供=株式会社モスフードサービス】


ーー静岡駅のなかに、モスバーガーがプロデュースした「カフェ山と海と太陽」がありますが、今後そういったコンセプトのお店は増えるのでしょうか?
【中村栄輔】「カフェ山と海と太陽」も、最初からモスバーガーと打ち出さず、モスとのコンセプトが違う形、違う立地で出した店舗になります。駅の構内の店舗の場合、どういう商品構成でオペレーションすればお客様に喜んでもらえるか、カフェとして出せるのかを検証する“実験店のひとつ”として出店しています。

ーーコロナ禍の影響はいかがでしたか?
【中村栄輔】影響はありました。通行する方の数が当初見込みの半数くらいでしたから。ようやく見込みの8割、9割くらいまで戻ってきて、事業計画を達成し、「これはイケる」と判断したら、同じような立地で2店舗目を出す可能性はあると思います。

ーー出店場所は、駅など人が集まりやすい場所を選んでいるのですか?
【中村栄輔】やはり立地によって、お客様の求めるものは違いますよね。「早く出してほしい」など、お客様のニーズに応えられるように工夫しているところです。そういう意味で、mosh Grab'nGoも同様です。もともとモスバーガー自体も、ドライブスルー、フリースタンディング、ビルトイン、フードコートなど形態も違いますが、郊外型、住宅地型、繁華街型といったさまざまな店舗があります。ここに加えて、従来のモスバーガーだけでは解決できないニーズに対し、ブランドストアを変えながら、いろいろな試みをしている最中です。

おいしいコーヒーとハンバーガー、クラフトビールも楽しめる「カフェ山と海と太陽」
おいしいコーヒーとハンバーガー、クラフトビールも楽しめる「カフェ山と海と太陽」【画像提供=株式会社モスフードサービス】


ーー「カフェ山と海と太陽」も、ぱっと見、モスバーガーとはわからないですね。
【中村栄輔】それだけ商品構成も違いますし、やり方も違っています。ブランド、ストアロゴを変えてやったほうがいいだろうと判断しました。モスを全面に推し出すと、どうしてもお客様から「モスバーガーないの?」と、定番メニューを求められてしまうので。先ほどお話ししたmosh Grab'nGoは、モスバーガーだとは全然わからないぐらい振り切っています。店作りも、全く違いますし。

リーダーとしての姿勢、51年目に突入したモスバーガーの未来

ーーお話を伺っていて、すごくポジティブな方という印象を受けました。中村社長のキャリア観、仕事観について教えていただけますか?
【中村栄輔】私にとって仕事は、人生そのもの。キャリアというのは、自分で作っていくものだと私は考えているんです。自分が席を置く組織で、ほかの人よりも秀でている部分を2つくらい持っておいて、それを生かしながら自分のキャリアを作っていくべきじゃないかと思っています。昔は1つでもいいと言っていましたが、今は2つくらい持っていたほうがいいと思います。

【中村栄輔】私がずっと心がけてきたのは、「与えられた仕事は、与えてくれた人の期待値を超えるような、少なくともその努力だけはしなくてはいけない」ということ。“期待値の分だけ”ではなくて、「おっ!ここまでやるか」みたいなプラスαの部分を大切にしています。

ーー期待値を超える、とても大事なことだと思います。仕事において、また、リーダーとして大切にしていることも教えていただけますか?
【中村栄輔】仕事に関しては、とにかく「誠実に仕事をする」ということ。そして、モスの大切な創業の心でもあるのですが、「感謝される仕事をする」こと。このスタンスでいます。リーダーとしては、「真摯さ」を大切にしています。

【中村栄輔】この真摯さは、創業者の言葉をもとにした“モスのDNA”に紐づいています。私は、モスのDNAを手帳に書いているんです。具体的に言うと、創業者から「嘘をつくな」「約束を守れ」「デタラメをするな」「ごまかしをするな」「人を裏切るな」と言われたんですよ。私が社長になったときに、この表現を変えました。以前の表現は、親からの説教みたいな言葉なので。それで、「正直に話そう」「約束を守ろう」「丁寧に仕事をしよう」「誠実に仕事をしよう」「信頼に応えよう」としたんです。

【写真】「ちゃんと大事なことを書いているんです」と見せてくれた、中村社長の大切な手帳。中を撮影しようとすると、「ダメ〜」と引っ込めるお茶目な面も持ち合わせていた
【写真】「ちゃんと大事なことを書いているんです」と見せてくれた、中村社長の大切な手帳。中を撮影しようとすると、「ダメ〜」と引っ込めるお茶目な面も持ち合わせていた【撮影=阿部昌也】


ーー軸は同じまま、表現を変えたんですね。
【中村栄輔】目線を対等にしただけです。私は創業者でもないし、もともとみんなと同じイチ社員として働いていて、たまたま役職上そういう責任を担っただけ。だから表現を変えました。創業者の言葉は忘れてもいいから、こういうスタンスで、同じ目線で話そうよと。そういうのが大切な真摯さじゃないかと私は思っています。

ーー常にプレッシャーを感じる立場でもあると思います。プレッシャーや重圧はどう克服されているのですか?
【中村栄輔】社長は責任というプレッシャーからは逃れられません。仮に、もし部下が失敗をして「何やっているんだ!」って指を指すとします。でも、結局その部下の上司は私なので、責任を取るのも、尻拭いをするのも自分なんです。部下に向けた指先は、一周して自分に返ってくるんですよ。それは子会社で初めて社長に就いたときに実感したんです。「何をやっているんだ!」と思ったときに「あっ、私の指導が悪いからこうなったんだ。つまり責任は自分にある」と。それが、社長と、副社長や本部長との違いなんです。語弊があるかもしれませんが、社長は、仕事の手を抜こうと思えばいくらでも抜けますから。でも、妥協せず、常に次のことを考えていれば、やることはいくらでもある。それが社長という仕事だと思います。

ーー中村社長は仕事で苦手なことはありますか?
【中村栄輔】仕事に関しては、苦手なことはないですね。人から求められたりすると、今までやったことがないことでも、自分の経験が増えたり、自分が大きくなるチャンスをもらったと思うんです。今までやった仕事のなかで、うまくいかなかったことや失敗したことでも「これは苦手だな」と思ったことはありません。知らないこと、初めてのことでも、それは本を読んだり、勉強すればいいだけの話なので。

ーーおっしゃるとおり、スタンス次第だと思います。そんな中村社長にとって、落ち込んだときのリフレッシュ策や立ち直り方法はありますか?
【中村栄輔】失敗や挫折したときは、3分くらいだけ反省して、次のことを考えます。「まずい!んん〜これは間違ったな」とか言いながら、3分だけ。これはなぜかというと、過去を変えることはできないから。もう、ぐだぐだ言っても仕方がないなと。

【中村栄輔】リフレッシュ方法としては、ジムで走ったり、意識的に汗をかくことはあります。運動して汗をかくと、すっきりしますね。あと、昔は元気の出る映画を観ていました。『ワーキング・ガール』や『摩天楼はバラ色に』とか。気分転換になるし、英語の勉強にもなりました。

【中村栄輔】もうひとつ大事にしているのは、自分で変えられないことには固執しないことです。相手に対しても、その人の性格を変えられるわけではないので「ダメだこりゃ」とあきらめます(笑)。こちらの表現方法を変えるか、やり方を変えるしかないと思っています。

中村社長の反省は3分で終了。その理由は失敗しても過去は変えられないから。すぐ次に向き合うそう
中村社長の反省は3分で終了。その理由は失敗しても過去は変えられないから。すぐ次に向き合うそう【撮影=阿部昌也】


ーー今のご自身から、20代、30代の自分にアドバイスを送るとしたら、何を伝えておきたいですか?
【中村栄輔】20代のころは司法試験の勉強をしていました。もう少し緊張感と危機感を持って勉強しておけばよかったということだけは反省していますね。

【中村栄輔】周りで一緒に勉強していた仲間は、みんな司法試験に受かって、法曹界で活躍しています…私だけですね、受からなかったのは。当時の自分は危機感がなかったなと思います。もともと本を読むのが好きで、司法試験にだけ集中して本を選んで勉強すればよかったんですが、その周辺の本まで読んでいました。ただ、結果的に、その周辺の本を読んでいたことが今この仕事に生きているんですけどね。

ーーそれが今、血肉になっているわけですね。
【中村栄輔】シェイクスピアの作品にも法律の考え方がけっこう入っているんです。有名な『ヴェニスの商人』の“肉1ポンド”、「約束どおり肉1ポンドは切り取ってもいい。でも血までは契約していない」とかね。「よく言うな」とか「肉を切るとき血は出るだろう」とか思いながら、そういう周辺の本を読んでいました(笑)。

【中村栄輔】もしあのとき司法試験に合格して、弁護士とか検察官になっていたら違う人生でしたね。でも、一切後悔はしていません。違う人生だったら今のモスの仲間と出会えていないですし、弁護士や検察官ではできないことを、幅広く経験できていると思いますから。

シェイクスピアなど、司法試験受験時代に脱線して読んだ本の知識が、今の役職には役立っているそう
シェイクスピアなど、司法試験受験時代に脱線して読んだ本の知識が、今の役職には役立っているそう【撮影=阿部昌也】


ーー30代はいかがですか?
【中村栄輔】30代は、スポーツに熱中していました。入社して2年目にモスFCを私が作りました。野球もやって、モスFCでサッカーもやって、仕事も勉強も一生懸命やっていました。野球は中学時代もやっていたし、サッカーは高校・大学でやっていたので、もう少し違うジャンルの趣味を広げておけばよかったかなとも思ったりします。大学時代は生け花も少しやっていて、この経験も今の経営に生きていると思います。

ーー生け花も?趣味、十分に広がっていると思います。
【中村栄輔】一方、仕事面では、若いころは法律の知識しかなく、経営の知識がなかったので、管理職になったときに夜間の大学院に通いました。経歴では大学卒業になっていますが、実は夜間の大学院も出ています。とてもいい経験になりました。やっぱり足りない知識は、学ぶしかないですよ。学びの場で学ぶ、これは「ちょっと本を読んだだけ」という付け焼き刃とは違うと思います。

ーー1日24時間では足りないような生き方をされていますね(笑)。次に、経営者の目線で、どういった若手が欲しいか、若手ビジネスパーソンへのアドバイスをいただけますか?
【中村栄輔】私が欲しいのは、誠実な人。さらにモスの場合ですと、明るくて、元気で素直。やっぱり、飲食業なので明るくないといけないです。そうでないと、お客様が喜んでくれないじゃないですか。特に、素直さはすごく大切だと思います。それから先ほどお話しした、「正直に話そう」や「約束を守ろう」など、モスのDNAを持った人ですね。そして、最後にもうひとつ。大切なのはアントレプレナーシップを持った人。「起業家精神」と訳されることが多いのですが、本当は「起業家活動」と訳すのが正しいと聞いたことがあります。私はこのアントレプレナーシップを、「自分自身で一生懸命考えること」「自分自身で意思を決定すること」「自分自身でリスクを負って仕事をすること」、そして「必ず一歩踏み出して行動すること」だと理解しているんです。

誠実で素直な人。それにモスのDNAとアントレプレナーシップを併せ持った人が、中村社長が求める人材だそう
誠実で素直な人。それにモスのDNAとアントレプレナーシップを併せ持った人が、中村社長が求める人材だそう【撮影=阿部昌也】


ーー行動するところまでが必要なわけですね。
【中村栄輔】そうです。「一生懸命、考えます」という人って、それは悩んでいるだけなんですよ。私に言わせると、その結果、行動するところまで大切だと考えています。

ーー最後に中村社長の今後の野望について教えてください。
【中村栄輔】野望というほど貪欲ではないですが(笑)、夢はあります。社長に就任したときに「ハンバーガー界のイチローになりたい」と発言したんです。ただ、起こしてはならない食中毒の問題や、その後のコロナ禍もあり、まずは足元を固める作業と組織変革に集中したので「ハンバーガー界のイチローになりたい」というセリフは封印していました。残念ながら、その間にイチローさんは引退。ですが、イチローさんや野茂(英雄)さんがパイオニアとして活躍して、そのプレーを見た後輩たちがたくさん出てきましたよね。モスバーガーもそういう存在になれたらいいなと考えています。「ハンバーガー界のイチロー」として、世界に踏み出す一歩を作っていきたいと思っています。

【中村栄輔】それからもうひとつ。「M-Mountain(山)、O-Ocean(海)、S-Sun(太陽)」という、人を愛して、自然を愛してというのがモスバーガーの創業者の思いです。「心の安らぎ」、「ほのぼのとした暖かさ」というものを大切にしようと考えているので、そういう思いを世界の人々に感じていただき、「やっぱりモスっていいよね」と思われるようなことができたらいいなと考えています。

ーー人を愛して、自然を愛して。SDGsともすごく親和性がありますね。人類が進んでいく方向と方向性が一緒というか。
【中村栄輔】そう言ってもらえると、うれしいですね。それが私の夢です。

この記事のひときわ#やくにたつ
・みんなの言動や考えを尊重すべく、忖度なく物事を決定できる場をつくる
・ブランドに頼らず、商品の質で勝負する場面にトライする
・仕事は、与えてくれた人の期待値超えを目指す
・自分で変えられないことには固執しない
・考え、決定し、リスクを負い、行動する

取材=浅野祐介、取材・文=北村康行、撮影=阿部昌也