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“たのしさ”の総量を増やしたい!森永製菓の歴史と知見が生んだ新規事業とは?

2023/04/21 17:30 | 更新 2023/05/10 18:50
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「おいしく、たのしく、すこやかに」のコーポレートメッセージでお馴染みの森永製菓は、120年以上にわたり数々の商品を生み出してきた。『チョコボール』も人気のロングセラー商品のひとつだが、そのマスコットキャラクターであるキョロちゃんがコラボした客室が2022年12月にオープンしたとのこと。食品メーカーである森永製菓が、なぜホテルのプロデュースをするにいたったのか?また、事業を通して目指す未来とは?プロデュースを手がけた「PLUS BUTTON LABO(プラスボタンラボ)」の佐々木春(ささき・しゅん)さんに話を聞いた。

今回お話を聞いた新規事業開発部の佐々木春さん
今回お話を聞いた新規事業開発部の佐々木春さん【撮影=三佐和隆士】


“たのしさ”を生み出す森永製菓の新規事業「PLUS BUTTON LABO」とは?

――体験価値創造支援サービス「PLUS BUTTON LABO」とは、どのようなサービスなのでしょうか?
【佐々木春】「PLUS BUTTON LABO」を一言でいうと、人が集う空間すべてを対象にコミュニケーションを活性化させるための、“たのしさコンサルティング&プロデュース”サービスです。森永製菓が120年以上にわたりお菓子やアイスを通じて提供してきた「たのしさ」という情緒的価値を生かして、これまでモノで提供していた「たのしさ」をサービスで提供することにチャレンジしている事業です。

――人が集う空間すべてが対象ということは、ホテルのプロデュースに特化したサービスではないということですね。
【佐々木春】人が集まる場所はどこでも私たちのサービスの対象だと思っているので、内装を作るだけではなく、例えば研修の場に関するサービスをしてみたり、アイディエーションのファシリテーションをしてみたり、とにかくいろいろな切り口でコミュニケーションを活性化させるサービスを模索している状態です。幅広くいろいろなことをしているので、「体験価値創造支援サービス」と名乗っています。

――では、事業が誕生した背景を教えてください。
【佐々木春】コロナ禍やテレワークといった社会の変化によって、コミュニケーションが以前と比べてすごく減ってしまったことが私のなかでは大きな社会課題だと感じました。これをなんとかしたいと思ったときに、森永製菓ってどんな会社だっけ?とあらためて考えてみたんです。森永製菓は「おいしく、たのしく、すこやかに」を世の中に提供してきた会社で、「たのしく」というのが他の食品会社にはない特徴であり、私たちらしさだと思い、“たのしさ”にフォーカスして世の中に新しい価値を提供できないかなと思ったのがきっかけです。

【佐々木春】加えて、森永製菓は2021年5⽉に2030ビジョン『森永製菓グループは、2030年にウェルネスカンパニーへ⽣まれ変わります。』を制定しました。このなかで「⼼の健康、体の健康、環境の健康」という3つの提供価値を掲げており、特に「心の健康」価値の提供をサービスを通じて実現したいというのが「PLUS BUTTON LABO」です。

「泊まる」から「遊ぶ」へ。こだわったのは、子どもが主役になれるストーリー

【写真】体験型客室「DREAM SWEETS HOME」の一室
【写真】体験型客室「DREAM SWEETS HOME」の一室【画像提供=森永製菓株式会社】


――第一弾である東急リゾーツ&ステイ株式会社が⻑野県信濃(しなの)町で運営するホテルタングラムでの、体験型客室「DREAM SWEETS HOME」プロデュースについて、具体的にどのような支援をされたのでしょうか?
【佐々木春】東急リゾーツ&ステイ様とのプロジェクトが生まれた背景からご説明すると、共通の課題があったからなんです。もともとスキーもお菓子も、子どものころにすごく楽しい体験として思い出に残ることで大人になっても楽しんでくれていたんですね。それが社会変化により、価値観の多様化や洪水のように生まれるコンテンツ、効率重視のビジネスなど、可処分所得と可処分時間が奪い合いになった結果、お菓子や余暇の過ごし方の競争相手が増え、一番たのしさを感じていただきたいお子様たちの体験が減少しているという課題を両社で持っておりました。

【佐々木春】課題は一緒ですが、スキー旅行は年に1、2回くらい行く特別な思い出で、逆にお菓子はスーパーやコンビニで買える毎日の喜びというところで、日常と非日常という別の強みを持っています。その異なる強みを合わせたら課題解決できるのでは、ということで共創することになりました。

――全く異なる業種ですが、どのように進めていったのですか?
【佐々木春】コロナ禍での集客策を強化するために、「リゾートホテルってなんだろう?」という再定義から始めました。ホテルを泊まる場所だと考えるのであれば、部屋の広さやベッドのブランドなどスペック勝負になりがちですが、それでしたらビジネスホテルで十分満足できます。リゾートホテルである意味とは、ということをディスカッションして、泊まるだけではなくその空間で遊べること、しかも子どもが主役になれることが必要だということで「体験型客室をやりましょう」となりました。そこから実行までに、価値を見える化して、カスタマージャーニーを設定して――と、いろいろ過程はあるのですが、コンサルティングから企画立案・実行まで行うためコンサルティング&プロデュースと名乗らせていただいています。

――リゾートホテルの再定義から一緒に考えていったというのはすごいですね。
【佐々木春】ありがたいことに最初の段階からお声がけいただいたので、内装のイメージを相談したり、現地のホテルへ行き、支配人と「タングラムの魅力とは?」というお話をしたり、いろいろお話をさせていただいたうえで、客室での体験内容やそれを実現するための内装をご提案して進めていきました。初めから最後まで、ワンストップでお任せいただいたプロジェクトになります。

――どのような客室ができあがったのでしょうか?
【佐々木春】「森のお菓子屋さん」ルームと「森の探検隊」ルームという2つのコンセプトでお部屋を作りました。まず「森のお菓子屋さん」ルームでは、森の中でキョロちゃんがお菓子屋さんを営んでいるという設定で、パティスリーを模した内装になっています。フロントでアクティビティに使うセットを受け取っていただくのですが、なかにエプロンと帽子といった変身セットが入っており、お子様はそちらに着替えてお菓子の家を作ったり、食べ放題のアイスやお菓子を堪能したりしていただけます。同じように「森の探検隊」ルームも、探検隊に変身できるセットをご用意しており、こちらは宝探しのアクティビティとなっております。

【佐々木春】最後にフロントでお土産をお渡しするのですが、こちらにもお菓子が詰まっており、かつフォトフレームにもなる仕様で、お部屋での思い出を飾っていただくことで日常と非日常の架け橋になる、そんな設計になっています。

フロントで受け取るアクティビティセット。「キョロちゃんからのミッションレター」にお部屋での楽しみ方が書いている。持ち帰り用のトートバッグもイチからデザインしたそう
フロントで受け取るアクティビティセット。「キョロちゃんからのミッションレター」にお部屋での楽しみ方が書いている。持ち帰り用のトートバッグもイチからデザインしたそう【撮影=三佐和隆士】


フォトフレームにもなるお土産。今回のプロジェクトのために、タングラムとおかしなおかし屋さんでしか手に入らない限定商品を作成。「頑張って社内交渉しました(笑)」と佐々木さん
フォトフレームにもなるお土産。今回のプロジェクトのために、タングラムとおかしなおかし屋さんでしか手に入らない限定商品を作成。「頑張って社内交渉しました(笑)」と佐々木さん【撮影=三佐和隆士】

――お菓子やアイスが食べ放題は夢のようですね。
【佐々木春】そうですね、アイスは特に大人の方が喜んでくださいます(笑)。お部屋のクッションも、お菓子屋さんのほうは食べ物にまつわるもので統一したり、探検隊のほうは冒険っぽくなるように木や世界地図のクッションにするなど内装設計のデザイナーさんと一緒にこだわりました。

――衣装があるとより世界観に入り込めてテンションも上がりますし、親御さんが写真をたくさん撮りたくなりそうなお部屋ですね。
【佐々木春】家族旅行の思い出をたくさん残せるように、というところも考えながら内装を作りました。「泊まるお部屋から遊ぶお部屋へ」というコンセプトを実現するために、最初はさまざまなバリエーションのキョロちゃんがお部屋にいたら楽しいんじゃないかと思ってデザイン案も考えたのですが、よく考えたらそれだけでは大して楽しくないのでは……?となりまして(苦笑)。

【佐々木春】壁にいっぱいキョロちゃんがいるからテンションが上がるかというとそうではなくて、やはりお子様が主役になって体験できることが重要だと気がつきました。ちゃんとストーリーを設定して、お子様が主人公になれる内装やアクティビティを考えていった結果、客室内にはあえて大きいキョロちゃん一体のみ、壁紙もストーリーに基づいたデザインにしています。

――実際に宿泊されたユーザーからのお声などがあれば教えてください。
【佐々木春】お部屋にアンケート用の二次元コードを設置しており、そちらからお答えいただいた感想としては「子どもたちが部屋での時間をより楽しむようになりました」「アクティビティがあることでいつもより部屋を楽しむことができた」といったお声や、やはり「お菓子とアイスが食べまくれて最高!!」というお声も多かったです。またお部屋に絵本もご用意しているのですがラインナップにもけっこうこだわったので、「そういうところもよかったよ」と言っていただけたのはうれしかったですね。

【佐々木春】アンケートを取るなかでマイナスのご意見がほとんどなく、すごくプラスなご意見をいただいています。実際、東急リゾーツ&ステイ様からの声としても「平均の客単価も稼働率も上がり、ご一緒させていただいてよかった」と言っていただいたので、宿泊のお客様からもクライアント様からも両方喜んでいただけて、プロジェクトとしてはかなり大成功だったと感じております。

1967年に発売されたロングセラー商品の『チョコボール』。マスコットキャラクターのキョロちゃんも世代を問わず親しまれている
1967年に発売されたロングセラー商品の『チョコボール』。マスコットキャラクターのキョロちゃんも世代を問わず親しまれている【撮影=三佐和隆士】


プロジェクトメンバーは自分ひとり。社内外を巻き込み進める秘訣は「目的の共有」

――ほかにはどのようなサービスがありますか?
【佐々木春】二つ目の事業として、研修サービスを実験的に始めています。サイコロを転がしていただくとお題が書いてあり、例えば「最初に食べたおやつは?」といった話題を喋ることによって、初対面同士でもお菓子が媒介することによって深いコミュニケーションができたりするんです。実際にテストした際には「チームビルディングにすごく役立つ」と言っていただきました。

――研修の場の空気を盛り上げてくれるというのは、場を回す側の人はすごく助かると思います。
【佐々木春】研修となるとかたくなりすぎてしまったり、あまり積極的な空気になりにくかったりするので、こうした場を和ますことのできる時間があるとその後のコンテンツへの入りもすごくよくなります。ゆくゆくはすべての研修の前座としてこれを使えるようになったり、4月の部署入れ替えの際などに一旦このサイコロを振ってお互いのことを知ろう、みたいになったらいいなと考えています。

【佐々木春】サイコロの中にもお菓子が詰まっていて、最後にこれを持って帰っていただき研修に出ていない方ともお菓子を交換したりしながらコミュニケーションが取れますよ、といった仕掛けなどもご用意しています。現在はテスト段階ですが、オーダーがあればすぐご用意できますのでこの新生活の時期にぜひお試しいただきたいですね。

サイコロの外側にお題が書いてあり、転がして出た目をテーマにチームで会話をする。世代を超えても「おやつ」というキーワードで盛り上がることのできるアイテム
サイコロの外側にお題が書いてあり、転がして出た目をテーマにチームで会話をする。世代を超えても「おやつ」というキーワードで盛り上がることのできるアイテム【撮影=三佐和隆士】


――ワンストップで企画立案からプロダクト開発までされているとのことですが、佐々木さんはもともとそういった領域のお仕事をされていたのですか?
【佐々木春】実はもともとバリバリの営業で、12年間ほど営業を担当しておりました。ただ、営業だったときも商品を売るだけではなく店頭でのイベントをさせていただくことが多々あり、例えば「デコビス」といってビスケットにチョコペンなどで親御さんの似顔絵を描こう、といったイベントなど、ほかにもたくさん企画をする機会があったので、そういったイベント作りの経験がプロジェクトにも生きていると思います。

――マルチタスク力や企画力は営業の仕事を通して培われたものだったのですね。ホテルの内装だけでなくお土産などプロダクトの細部にいたるまでこだわりが詰まっていますが、チームの規模は何名くらいでしょうか?
【佐々木春】このプロジェクトは私だけでやっています。そのため大変なこともありますが、逆にひとりだからスピード感を持って進められているかなと思います。また、相談に乗ったり助けてくださる方はたくさんいるので、自分がリーダーとして立ち、周りを巻き込みながら事業を行っているイメージです。

【佐々木春】例えばマーケッターにお客様心理について相談した結果を内装に反映したり、営業の若手に企画の相談をして「今こんな企画をしていますよ」とアイデアをもらったり、ホテルのプロジェクトの際は社外のデザイナーさんにずっとチームとして入っていただいて、その方々がいないと仕事にならなかったくらいお力添えいただいているので、みんなのおかげですね。

――社内外問わず連携されているのですね。スムーズに進める秘訣はありますか?
【佐々木春】目的や目指すゴールが共有できている状態であるというのが大切だと思います。社内で言えば、みんな自社の商品が好きで楽しいことをもっと広げたいという思いがあるので、部署や職種が違っても快く協力してくれます。東急リゾーツ&ステイ様とのプロジェクトでも企業の文化や扱う商品の規模は大きく異なりますが、「たのしさをお客様に届けたい」というゴールは一緒だったため、違う部分があってもそれをどうしたらいいか一緒に考えられたことがすごくよかったと思います。

お菓子の軽やかさを生かして、世の中の“たのしさ”の総量を増やしたい

「森永製菓のお菓⼦を嫌いな⼈はほとんどいないと思う。みんなが好きで、みんなの共通言語だからこそできることが絶対ある」
「森永製菓のお菓⼦を嫌いな⼈はほとんどいないと思う。みんなが好きで、みんなの共通言語だからこそできることが絶対ある」【撮影=三佐和隆士】


――事業を今後どのように展開していくのか、お考えを教えてください。
【佐々木春】「DREAM SWEETS HOME」のような非日常の空間プロデュースに加えて、研修事業のようにワークスペースという日常の空間でのコニュニケーション課題を解決するような取り組みも進めていく予定です。東急リゾーツ&ステイ様での事例のようなプロジェクトは1年近くかかるためお客様にご提供できる価値は大きいけれど時間がかかってしまうので、研修事業のような短いスパンでできる新しいことをご提案して、長期的な事業と短期的な事業を回していくようなプランを考えています。

――最後に、この事業に対する佐々木さんの思いを教えてください。
【佐々木春】コミュニケーションが希薄化していることが私はすごく悲しいなと思っていて、この社会課題を“たのしさ”で解決したいというのが「PLUS BUTTON LABO」なので、まだ事業の形が固まる前、模索をしながらという段階ではありますが、たのしさ×サービスで提供できる価値というのをちゃんと形にしていきたいですね。

【佐々木春】お菓子の持つおいしさとたのしさにとても可能性を感じていて、お酒やタバコだと同じ嗜好品でも楽しめる方が限られてしまったりするのですが、お菓子でしたら老若男女、誰でもお召し上がりいただけるし、仕事中でもいつでも食べられる。そういった、お菓子が持つ軽やかさを生かして、たのしさを広げることで、世の中のたのしさの総量が増えていったらいいなと思っています。

「単に製品を作るだけではなく、マーケティング力や広告力などを駆使しながら愛される商品を育ててきた。その強みを生かして、こういった別の事業やサービスで展開していきたい」と語る佐々木さん。終始、森永愛が溢れていた
「単に製品を作るだけではなく、マーケティング力や広告力などを駆使しながら愛される商品を育ててきた。その強みを生かして、こういった別の事業やサービスで展開していきたい」と語る佐々木さん。終始、森永愛が溢れていた【撮影=三佐和隆士】


この記事のひときわ#やくにたつ
・価値提供のアプローチを変えることで新たなサービスが生まれる
・ユーザー目線で何を求められているかを考える
・プロジェクトをスムーズに進めるには目的やゴールを共有することが大切

取材・文=山本晴菜、撮影=三佐和隆士

PLUS BUTTON LABO公式HP

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