過去30年で生産量40%減....“ふじっ子煮”でおなじみのフジッコが取り組む「生昆布」は昆布業界の救世主となるか?

東京ウォーカー(全国版)

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「フジッコのおまめさん♪」でおなじみのフジッコ株式会社(以下、フジッコ)。主に大豆製品を販売しているイメージがあるが、フジッコのもともとの名称は「富士昆布株式会社」であり、昆布を使った商品が主流だった。現在でも多くの昆布商品をつくっており、昆布佃煮の「ふじっ子煮」シリーズは販売から昆布佃煮市場シェア50%、累計20億パックの売り上げを達成している。
 
そんな昆布のリーディングカンパニーであるフジッコが取り組むのは、昆布生産量の回復だ。ここ30年ほどで昆布の生産量はおよそ40%も下落するなど昆布業界は危機に陥っている。そんな昆布の取り巻く環境に変化を起こすためにさまざまな取り組みを行っていて、そのひとつが「生昆布」の原料を使用した商品づくりだ。今回はフジッコの昆布事業の取り組みについて、フジッコ コア事業本部 執行役員 昆布事業部長の紀井孝之さんにインタビューを行った。

フジッコ コア事業本部 執行役員 昆布事業部長の紀井孝之さん【撮影=後藤巧】

 

このままだと昆布が食卓から消える!?

ダシやおかずなど幅広く使用されている昆布。特にダシ文化である日本食にとっては切り離せない存在だ。そんな昆布の主な産地である北海道では、生産量が著しく激減しているという。その原因のひとつが地球温暖化による平均海水温の上昇。冷たい海水を好む昆布は海洋環境の変化に敏感で、そのため生育不良に陥っているものが増えているそうだ。
 
「そして、もうひとつの原因が生産者の高齢化です。北海道漁業協同組合連合会の調査によると、北海道における生産者数は減少傾向にあり、10年前比で約79%となっています。それに伴い、北海道における昆布の生産量も減っています。昆布事業に関わる弊社としては安定的な生産量の確保は必須なので、とても危険な状態です」

昆布事業の状況について話す紀井さん【撮影=後藤巧】

北海道における昆布の生産量【提供=フジッコ】

 
特に、昆布漁はとても重労働であるため、結果として後継者不足に陥ってしまっているという。地球温暖化による環境の変化、そして高齢化による生産者不足が重なり、昆布を取り巻く環境は一大事を迎えている。
 
そんな昆布生産の実態について、フジッコは「このままだと昆布を使った食品が食卓からなくなってしまう」という将来への危機感を抱き、新たな解決策を打ち出すことに。それが「昆布漁における負担軽減」そして「生昆布」を活用した商品づくりだった。

北海道における昆布事業者数【提供=フジッコ】

 

メジャーブランドでは史上初!乾燥させない「生昆布」とは

まずフジッコが昆布事業の解決に向けて取り組むのは、生産者の負担減だ。昆布漁は昆布を海から引き上げ、浜辺に並べて乾燥させ、その後に規定の長さにまとめて出荷するという流れ。そのなかでも水揚げ作業と乾燥作業に膨大な労力がかかるため、生産者にとって大きな負担が重なるそうだ。

【写真】昆布の水揚げ風景。力一杯引っ張り上げる重労働【提供=フジッコ】

 
特に、乾燥作業は天気がよい日にしかできないのも悩みの種。もし乾燥途中に雨が降ってきたらもう一度干し直したり、屋内で乾燥させたりなど手間暇がかかるという。また手作業で昆布を浜辺に並べていくのも重労働で、ここの作業負担の大きさが後継者不足の一因となっている。
 
「フジッコでは昆布漁師さんの負担軽減ができないかと思い、重労働である乾燥工程を省いた昆布の活用を試験的に実施しています。水揚げ後すぐに裁断・冷凍保管する生昆布は、生産者さんにとって負担軽減が見込まれます」

昆布を乾燥させているところ。この作業に一番手間暇がかかるそうだ【提供=フジッコ】

 
生昆布とは、文字どおり乾燥していない昆布のこと。一般的に昆布といえば乾燥された状態で売られているので、調理するには一度水で戻す必要がある。しかし、生昆布では獲れたその場で冷凍保存するために細胞が壊れにくく、フレッシュな味わいが楽しめることも大きな特徴だ。
 
「生昆布は弾力のある食感とハリツヤのある見た目が特徴です。そのため、昆布をおかずとして食べる幅が広がります。弊社はこれまで通り乾燥昆布を使用した商品と、生産者に寄り添った生昆布を使用した商品の両方に力を注いでいく予定です」

生昆布の生産の様子。水洗いして裁断し、冷凍作業に入る【提供=フジッコ】

裁断した生昆布。乾燥させていないためにハリツヤがある【提供=フジッコ】

 

昆布の未来を考える「MIRAI」シリーズ

フジッコが生昆布の事業に取り掛かっておよそ2年。生昆布と野菜を一緒に煮たものをはじめ、「ふじっ子煮」ブランドでさまざまな商品展開を行ってきた。今回、フジッコは「ふじっ子煮MIRAI 梅入り生昆布」を新発売。そして「ふじっ子煮MIRAI おやさい生昆布」を同シリーズとしてリニューアルした。
 
「生昆布を食べてもらう提案として、まずは野菜と一緒に佃煮にしたもの、そして梅入りの佃煮を発売しました。乾燥昆布では出すことのできなかった歯切れのよい独特な食感を、佃煮として味わってもらうために開発しました。また、商品名にはMIRAIの文字が入っていますが、生昆布が昆布業界の未来を切り開く存在になってほしいという願いが込められています」

「ふじっ子煮MIRAI」シリーズの説明をする昆布事業部の胡麻崎柾徳さん【撮影=後藤巧】


生昆布は通常の昆布と比べハリツヤがあり弾力のある食感が特徴。「ふじっ子煮MIRAI」シリーズはそのまま食べてもおいしく、ちょっとしたアレンジレシピもできるのが利点だ。フジッコは生昆布を更に知ってもらうべく、今後も生昆布を使用した新商品開発やオリジナルレシピを公開して、さまざまな世代に訴求していく予定だ。
 
「昆布は日本人にとって欠かせない食べ物です。そして世界に和食が広がっていくなかで、昆布の重要性はさらに高まっていると言えます。そこで私たちは昆布業界のリーディングカンパニーとして、北海道の昆布漁を支えていく活動が大切だと考えております。現在、生昆布の生産はテスト段階ですが、少しでも生産者さんの負担軽減になれるように努力していきたいです」

「ふじっ子煮MIRAI おやさい生昆布」【撮影=後藤巧】

「ふじっ子煮MIRAI 梅入り生昆布」【撮影=後藤巧】

 
紀井さんは「生昆布の可能性は無限大!」と話す。今後、世界でさらに和食が注目されていくなかで、生昆布も新しい食材としてさらなる価値を高めていくことだろう。フジッコは生昆布をはじめとした昆布生産に携わるすべての人々と協力し、昆布事業を盛り上げていくことが今後の野望だ。これからのフジッコの活躍に期待が止まらない。

「MIRAI」の文字には昆布の未来という意味が込められている【撮影=後藤巧】

 
この記事のひときわ #やくにたつ
・ビジネスのチャンスは危機にこそ眠っている
・作業を簡略化することで新しい商品ができることも
・現場の事業者を第一に考えるのがビジネスマンの役目
 
取材・文=福井求(にげば企画)

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