リモートワークの普及により、オフィスのあり方も大きな転換点を迎えつつある。2020年3月にオフィスを渋谷スクランブルスクエアに移転したMIXIと、2022年11月から大崎ガーデンタワーの新本社にて業務を開始したLIXIL、コロナ禍にあってオフィスを刷新した両社のオフィス環境や位置づけはどのように変化したのか。3月、株式会社MIXIと株式会社LIXILが開催したメディア向けトークイベント「企業活動の変化と未来を考える。」のなかで、両社の担当者がリモートワーク下のオフィスと今後についてトークセッションが行われた。

リモートワーク下でのオフィス環境の変化と今後についてトークセッションが行われた
リモートワーク下でのオフィス環境の変化と今後についてトークセッションが行われた


コロナ禍に本社移転したMIXIとLIXIL、そのオフィスの方向性

同イベントでは、戦略総務研究所所長で「月刊総務」代表の豊田健一さんをモデレーターに、「採用」「働き方」「オフィス」の三部構成でMIXIとLIXIL各担当者が登壇。第三部「リモートワークがもたらしたオフィス環境の変化とこれからのオフィスのあり方」では、株式会社MIXI はたらく環境推進本部 せいかつ環境室MGRの嵯峨勇さんと、株式会社LIXIL コミュニケーションズ&CR部門リーダーのJohn Shortさんが両社の取り組みについて語った。

【写真】株式会社MIXI はたらく環境推進本部 せいかつ環境室MGRの嵯峨勇さん(写真左)と、株式会社LIXIL コミュニケーションズ&CR部門リーダーのJhon Shortさん(写真右)
【写真】株式会社MIXI はたらく環境推進本部 せいかつ環境室MGRの嵯峨勇さん(写真左)と、株式会社LIXIL コミュニケーションズ&CR部門リーダーのJhon Shortさん(写真右)


トークセッションの冒頭では、移転した両社オフィスの現状が説明された。

渋谷スクランブルスクエアへのオフィス移転プロジェクトを担当したというMIXIの嵯峨さんは、今回の会場にもなっている同オフィスを「町を作る」というデザインコンセプトで、渋谷の街をイメージした多様な雰囲気の空間を配したという。全9フロアはすべて内階段で接続し、執務エリアは「従業員が日々暮らす場所」というイメージで自席だけでなくフリースペースも多く用意することで、気分に応じて働く場所を切り替えられるようなオフィス作りを行っている。

「町を作る」をコンセプトにしたMIXIのオフィス
「町を作る」をコンセプトにしたMIXIのオフィス


そうした新オフィスのコロナ禍における変化では、MIXIでは「マーブルワークスタイル」と呼ぶ出社・リモートの複合型の働き方に移行したことに合わせ、完全固定席ではなく、グループアドレス化で座席リソースの効率向上ができるような仕組みの導入を進めているという。

さらに、個人ブース席のニーズが増加したのもコロナ禍での変化に挙げるMIXIの嵯峨さん。「現在はミーティングはオンラインがほとんどを占めていると思っていて、その際、小人数で部屋を使うのがちょっと無駄が多いのかなと。そこで、ひとりで気軽に使えるブースを今まさに増やしていこうというところです」

一方、コロナ禍の真っ只中でオフィスを大崎に移転したLIXILでは、移転のコンセプトに「第二の家」という考えがあったとShortさんは話す。

「オフィスはもはや『執務をするために毎日来なければいけない場所』ではなくなってきていると思っています。オフィスはコミュニケーションやコラボレーションをする場であり、また、さまざまな刺激を受けてイノベーションを生み出す場であると考え、大崎への移転でもそうしたコミュニケーションなどを奨励することができるようなスペースを設けたいと思いました」

大崎に移転したLIXILの新本社は「第二の家」をコンセプトにしたオフィスに
大崎に移転したLIXILの新本社は「第二の家」をコンセプトにしたオフィスに


同社では本社に在籍している従業員の出社率は約8%と在宅勤務を基本とする働き方に移行したこともあり、新オフィスは「生産性」「ウェルビーイング」「柔軟性」「エンゲージメント」の4つの要素に注力。用途に応じて使用できる会議室やワークスペース、ソロワークできる執務エリア、イベントやセミナーにも使用可能なスペースを多数設ける一方、執務席数そのものは約500席と本社従業員数に対して大幅に削減する形を取っているという。

ハード面・ソフト面それぞれの「いいオフィス」の形

ともに働き方の転換に対応したオフィス作りをいち早く取り入れている両社。オフィスの在り方が多様化している現状を踏まえ、豊田さんから「いいオフィスとは?」という質問が投げかけられた。

MIXIの嵯峨さんはハード面として「立地のよさ」を挙げ、移転の際も渋谷という立地にこだわったと振り返る。

「出社するのか家で働くかは目的意識を持ってやるべきだとは思いますが、それはあくまで理想論的な部分があると言いますか。業務パフォーマンスを上げるうえで実は本来出社するほうが適切だと思っている人も、雨が降っていたり疲れているとか業務とは直接関連しないことでリモートを選択されることもあると思うんです。そういうとき、立地がよければストレスなく出社しようという気持ちを起こせると考えると、なかなか無視できない要素なんじゃないかなと思います」

さらに、ソフト面では「自宅ではできないことができる」ことがいいオフィスの条件ではないかと話す嵯峨さん。

「チャットツールなどオンラインで誰といつでもコミュニケーションをとれるようにも思えるんですけれど、やっぱりちょっとした雑談をデジタルで対応するにはまだハードルがあると思っていますし、オフィスに来たら顔を合わせて話すみたいな他愛のないことが会社への帰属意識につながるのかなとも思います。また、業務への集中という意味でも自宅の環境でオフィス同等のそれを求めるのは難しい部分も当然あると思うので、資料を机に広げられたり、どっしり腰を据えて集中したいというときにオフィスならできるよ、という環境を提供していきたいと思っています。自宅との差別化をきちんとできているのがいいオフィスなんじゃないかなと思います」

他方、LIXILのShortさんは「その会社の存在意義や文化、雰囲気を伝えるという役割、その会社で仕事をするということはどのような価値を持っているのかというメッセージを伝える場にもオフィスはなっていると思っています」と話し、「オフィスでのコミュニケーションやコラボレーションの重要性とともに、会社とのつながりを感じていただくというのは非常に重要なことであると思います。それが、オフィススペースを介してエンゲージメントや生産性を高めていくサポートになるというふうに思っております」と、単に働く環境という以上の価値を提案できることを、いいオフィスのあり方のひとつに挙げた。

働く場所以外の役割をオフィスが担うようになっていると話すShortさん
働く場所以外の役割をオフィスが担うようになっていると話すShortさん


出社・リモートの今後は主従ではなく「差別化」へ

トークセッションの最後には、新型コロナウイルス感染症の5類感染症への変更を控え、今後働く場の主流はオフィス・リモートのどちらになると考えているのか両名から意見が述べられた。

Shortさんは、LIXILではハイブリッドワーク・リモートワークを中心に、コミュニケーションとコラボレーションを行う新オフィスの形を今後とも継続していきたいと話す。

「LIXILはこれまでよりずっとダウンサイジングされた、ひとつのフロアしかない非常にオープンスペースな環境のオフィスに移転いたしまして、出社率約8%という今の事業人数にあったスペースになっています。ですので、オフィスはコミュニケーションをとる場であるというような働き方のメッセージを今後もしっかり伝えていきたいと考えています。一方、従業員の方々の働き方のニーズやライフスタイルに対してはやはり柔軟性を持ってサポートできるようでなければいけないとも思っていますし、(出社率などの)将来のニーズの変化にも俊敏性・柔軟性を持って対応するということが重要であると思っております。ですので、今のハイブリッドワーク・リモートワークの取り組みは今後とも続けながら、D&Iも大事にしながら進めていきたいと考えています」

MIXIの嵯峨さんは、今後も働く場の主流は「多数決的な意味で言えば自宅と言っていいのではないか」としながらも、オフィスの縮小や投資の削減という方向はとらないと話す。

「我々の場合は、マーブルワークスタイルと呼んでいるハイブリッド型の働き方で、オフィスがよければオフィスで、在宅がよければ家でと委ねているというところがあります。出社率約40%の中にはやっぱりオフィスに来たくて来ている人もいるなかで、それは主流じゃないからオフィスに投資をしないということではなくて、在宅との差別化をより図るために 『家じゃできないことってなんだっけ』『今オフィスでできてないことってなんだろう』ということを考えていきながら、今後も改修や投資をし続けていきたいと考えています」