お味噌汁の具といえば、わかめを一番に思い浮かべる人も多いのではないだろうか。今でこそ乾燥わかめをひとつまみし、お味噌汁に入れるのは当たり前のことだが、この食文化をつくったのは「ふえるわかめちゃん®︎」や「わかめスープ」といった商品を販売する理研ビタミン株式会社(以下、理研ビタミン)だ。

理研ビタミンはさまざまなわかめ商品を発売してはヒットに導いている。だが、理研ビタミンはもともとは「理化学研究所」という研究機関が母体だ。そんな理研ビタミンは、なぜわかめの商品に力を入れ続けているのだろうか。今回は理研ビタミンの食品企画開発部 海藻企画グループの宮林久美子さんに、わかめ事業への取り組みについて話を聞いた。

理研ビタミン 食品企画開発部 海藻企画グループの宮林久美子さん
理研ビタミン 食品企画開発部 海藻企画グループの宮林久美子さん【撮影=福井求】


理研ビタミンが「わかめ事業」を始めたワケ

理研ビタミンのルーツである理化学研究所は1917年に創設された組織。ノーベル賞学者の湯川秀樹氏をはじめ、多くの優秀な人材を輩出している。戦後に一旦解散するまでに多くの研究成果を製品化し、その収入を研究財源としていた。その製品のひとつがビタミンAのカプセルで、現在の理研ビタミンの社名に受け継がれている。

「ビタミンAの製造には原材料として魚の肝から取った肝油を使用します。そのため理研ビタミンは創業当初より水産業とのつながりが深い企業でした。弊社がわかめ事業を行っているのは、いち早く養殖わかめの市場が有望であると判断し、参入したことがきっかけです」

【写真】宮林さんはヒット商品「ふりかけるザクザクわかめ」を開発した第一人者
【写真】宮林さんはヒット商品「ふりかけるザクザクわかめ」を開発した第一人者【撮影=福井求】


わかめはもともと沿岸部を中心に食べられていた食材で、現在のように全国で食べられているものではなかったという。だが、理研ビタミンが研究を重ねて「生塩蔵わかめ」の製造法を開発し、1965年に「生わかめ わかめちゃん」を発売。その後、さらに使いやすくするために研究開発を行ってできたのが乾燥わかめの「ふえるわかめちゃん」だった。

「わかめ事業は理研ビタミンの柱であると同時に、さまざまな意味で社内外へ数多くの影響を及ぼしました。弊社が家庭用食品業界への参入を決意したのもわかめの商品でした」

「ふえるわかめちゃん 三陸わかめ 16g」
「ふえるわかめちゃん 三陸わかめ 16g」【画像提供=理研ビタミン】


その後は、韓国のわかめスープを参考にほたてダシで日本人好みに仕立てた「わかめスープ」を発売。通年30億円の売り上げを記録する大ヒット商品に成長した。この商品を発売した背景には「わかめは健康によい!」を訴求し、お味噌汁以外の食べ方でも味わってほしかったという理研ビタミンの思いがあった。

大切にしているのは地域とのつながり

国産のわかめは、岩手県や宮城県にまたがる三陸で採れるものが7割を占める。そして採取の時期は1年のうちで2〜4月頃と短い期間だけ。この時期に1年分の出荷量を採取するという。そのために安定的な生産量は必須の問題だ。しかし、国産わかめの養殖生産量は減少傾向で推移しており、ピンチを迎えているそうだ。

「私たちがわかめ事業を続けられるのは、生産に携わる漁師さんたちが頑張ってくれているからです。ですが、事業者の高齢化や気候変動による海水温の上昇など、さまざまな理由で生産量は年々減少しています。それをなんとしても食い止めるべく、私たちも生産に関わるための努力をしています」

「わかめスープ3袋入」
「わかめスープ3袋入」【画像提供=理研ビタミン】


そこで、わかめの種苗の選抜といった研究を行い、生産者を支えていくことを目的に事業をしている。生産者が『わかめを作りたい!』と思う環境作りが、結果的に安定的な供給を生み出し、地域との密接な関係を深めていく。理研ビタミンはこのサイクルを作るために日々研究や開発を続けている。

また、主な生産地である三陸は、2011年に起こった東日本大震災で最も被害の大きかった地域。震災当時はわかめ漁のシーズンだったこともあり収穫量は激減したそうだ。またグループ会社の理研食品が所有する工場設備や原料に甚大な被害を受け、従業員の生活にも大きな影響があったという。そこで、宮城県が進める「広域的な防災体制の構築」の趣旨に賛同し、企業版ふるさと納税制度を活用した寄付を実施するなど、地域支援も積極的に行なっている。

「わかめスープ わかめとたまごのスープ 3袋入」
「わかめスープ わかめとたまごのスープ 3袋入」【画像提供=理研ビタミン】