ーー現在は通販だけでなくカフェなどの実店舗経営にも参入されていますね。
【平川大計】はい。現在は嬉野市、武雄市の店舗、商業施設への出店が2店舗で、計4店舗です。ただ、これで飲食業界に打って出ようということではなく、あくまで通販事業をさらに伸長させるための広告宣伝費としてチャレンジしています。実際に参入してみて、自社商品を使ったメニューを提供できるので通常の飲食店より利益が出やすいメリットは感じていますが、通販事業に結びつかないことはするつもりはありません。店舗があるとお客様の安心感が違いますし、商品に込めた思いを直接伝える場所・機会を増やすこともでき、ブランド力の向上を狙えればという考えです。


【平川大計】もちろん飲食業にチャレンジするのは初めてですし、2010年に嬉野で店舗をやると決めたときはものすごく周囲から反対されました。ただ、私は必ず通販事業にいい影響を与えるという確信があったので、説得しましたね。このあたりは、目先の利益というよりも長期的な視点で事業を見るという官僚時代に培った経験が生きたかなと思います。飲食事業は3代目として初めて私のカラーを出した一手だったかもしれません。最初はとても苦労しましたが、徐々に軌道に乗ってきました。通販だけだとどうしてもリーチできる客層は固定化してきてしまうのですが、店舗があることで幅広い年代にアピールできていると感じています。今では店舗で提供しているメニューをSNSでも話題にしてもらえるなど、時流に合った展開に成功しています。

ーー知名度をより全国区にするために、今後はどのような計画がありますか?
【平川大計】豆腐屋としてはスーパー依存を断ち切らないことには厳しいままだと思います。BtoCへのシフトはますます必須になると考えていて、今後もウェイトを高めていく予定です。今年、弊社は「平川食品工業」から社名を改め、「佐嘉平川屋」として新たにスタートを切りました。これを機に、温泉湯豆腐の知名度はもちろんですが、佐嘉平川屋、そして創業の地である武雄市の名も広めていきたいと考えています。日本の人口がどんどん減っていくなかで戦うには、インバウンド需要に目を向けることも大切です。飲食業だけを大きくするつもりはありませんが、ブランドの知名度アップにつながるのであれば、日本だけでなく世界を見据えて、観光産業に進出するなどの展開も視野に入れたいですね。
インターネット黎明期にいち早く通販に着目するという、先見の明が光る平川社長。その後も時代の波を乗りこなし、廃業の危機にあった家業を今では地元有数のブランド企業に成長させた。その手腕は、官僚時代に身につけた「全体を長期的に見る力」ももちろんだが、かつての「都市計画に携わりたい」という夢への原動力もどこか感じさせる。今後の佐嘉平川屋の展開も、大いに注目したい。
この記事のひときわ#やくにたつ
・顧客へのチラシやDMには、売り手の思いが伝わる“ストーリー”が大切
・メイン事業である通販事業の成長やブランド力向上のために、サブとして飲食事業も展開
・通販事業だけではリーチできる客層が固定される。飲食事業や観光事業も視野に入れ、客層の幅を広げる
・目の前の利益だけでなく、事業を長期的に見る力を養う
取材・文=渕上文恵