茨城県警・組織犯罪対策課(いわゆる「マル暴」)の課長として、日々、暴力団と向き合う立場にある小川寛之さんが制作した漫画「神様お願いです」が話題だ。世の中には暴力団を美化した漫画や映画が数多く存在するが、現実世界の暴力団には、いいことなんてひとつもない。主人公・茨城次郎の視点から、リアルな暴力団員の生活を垣間見ることができる話題作を紹介したい。

物語は、主人公・茨城次郎が過去を回想するシーンから始まる。スタートからバッドエンドを予感させる、漆黒の背景がもの悲しい。

生きていれば誰しも、壁にぶち当たることがある。奮起して壁を乗り越え、歩き続ける人もいれば、進むことをあきらめて自暴自棄になってしまう人もいるだろう。次郎は、残念ながら後者の道を選んでしまう。

暴走族「茨城愚連隊」のリーダーとして犯罪に手を染めるようになった次郎に目を付けたのは、暴力団・悪田組の「ヤスさん」。いい肉をおごってくれたり、こづかいをくれたりと気前がよい彼に、次郎はまんまと気を許し、悪田組に加入する!
前はやさしかった組長と兄貴たちだが、次郎が加入すると、徐々に粗暴な正体を現し始める。刺青を入れさせられたり、上納金稼ぎのためのニセ電話詐欺に加担させられたり…徐々に次郎の人生が変わっていく。

しかしある日、ニセ電話詐欺目的でかけた電話が、偶然にも自分と同じ名前の息子をもつ年配の女性につながる。「次郎、次郎なのかい?」という声に母を思い出したとき、彼の心のなかの何かが、目覚めた。

ニセ電話詐欺に失敗した次郎を待っていたのは、組長・ヤスからの非情な命令だった。次郎は銃を手に、ある使命を与えられて、ある場所へと向かい、そして…!
結末は悲しいものだが、作者の小川さんも「暴力団との関わりは、本人はもちろん、家族にとっても、社会にとっても、悲しい結末しか生みません」と語っている。「生きていたら、逃げちゃいたい、死んじゃいたいと思うくらい、嫌なことはありますよね。でも、決して犯罪という安易な道に逃げたり、死んだりしないでと伝えたい。何か目の前のことに一生懸命取り組んでみたら、得られるものがたくさんあるはずです」
1981年(昭和56)に警察官を拝命し、今年2023年に定年を迎える作者の小川さんは、40余年の警察官人生で、さまざまな事件に関わってきたという。組織犯罪の真実を肌で知る刑事が描いたという事実によって、「神様お願いです」は、一層の凄みをもって、読む人に訴えかけてくる。
本作は、動画として茨城県警の公式YouTubeでも公開中。少しでも気になったらぜひ視聴して、小川さんからの警告を、胸に刻んでほしい。
取材・文=仁田茜/取材協力=茨城県警