一級建築士の資格を持つ女優・田中道子の夢。「地図に載るような建物を設計したい」「かっこいい女優になりたい」

2023/02/20 17:30
SHARE

テレビドラマやバラエティへの出演に加え、昨年(2022年)は舞台で初の主演を務めるなどさまざまなジャンルで活躍する女優の田中道子さん。昨年12月には、合格率わずか9.9%という最難関の国家資格のひとつである一級建築士試験に合格。そんな田中さんは、どのような幼少期を過ごし、どのようなシゴト観を持っているのか。ご自身のキャリアへの考え方を語ってもらった。

女優・田中道子さん/オスカープロモーション所属【撮影=阿部昌也】
女優・田中道子さん/オスカープロモーション所属【撮影=阿部昌也】【撮影=阿部昌也】


“無限の欲”で「ずっと満足することがなかった」学生時代

――田中さんはピアノ、ハープなどの楽器演奏、絵やスポーツも得意と、実に多彩ですが、子どもの頃はどんなお子さんでしたか?
【田中道子】母からよく聞くのですが、今振り返ると変な子どもだったなと思います。まず、すごく内気でした。視力も悪く極度の近視で、瓶底みたいなメガネをして。本を読み始めると声をかけられても絶対に返事をしないくらい世界に入り込んじゃう。だから『ファイナルファンタジー』とかも好きなんですよね、ファンタジーの世界というものが。

【田中道子】特に変だなと思うのが、母が「本当に手のかからない子だった」とよく言うのですが「みっちゃん、大人しくしてるな」って覗いてみたら、ビニールテープを玄関のドアに挟んで編み込みしながら廊下を後ろに進んでいくという遊びを毎日していたらしいんです(笑)。何となくは覚えていて、「何が楽しいの?」と聞かれるのですが、毎回違う編み込みになっているんです、私の中では。どんどん綺麗な編み目になるのが楽しかった。一つのことをやりだすと止まらないという感じの子どもだったと思います。

――確かに手はかからないですが、見方によっては一瞬不安になるかもしれませんね(笑)。
【田中道子】そうだと思います。しかも目が悪いから、うつむいて近い距離で手元を見ていたので、その様子を見た親は怖かったんじゃないかな(笑)。

――では少し成長した10代、20代のころについて、やっておけばよかった、またはやっておいてよかったことはありますか?
【田中道子】やっておけばよかったと思うことは、うーん……何だろう。私、趣味がたくさんあって、それって一長一短というか。いろいろ興味があって器用にやれても、裏返すと一つをやり込んだことはあまりないんです。ある程度できたなと思うと次の楽しいことを探してしまうんですよ。今振り返るとすごくもったいなかったと思っていて、やり込んでいたらもっとちがう才能があったかもしれないのにって。でも、そのころの私はいろいろなことができる人になりたいと思っていたので、一つをやりこんでいたら、それはそれでいつか「いろいろなことをやっておけばよかった」と思うんでしょうね(笑)。

【田中道子】それから、やっておいてよかったのは、静岡の浜松駅から車で1時間くらいかかる自然豊かなところで育ったのですが、昔からずっと東京やニューヨークに意識を置いていました。行ったこともないのに、変だなと思われるかもしれませんが……。“ここだけが世界じゃない”って、もっと上がいて、もっとすごい人がいて、もっと魅力的な人がいる、というふうに考えるようにしていたんです。そうすると、まだ足りない、もっともっと、という欲望が出てきていたので、その意識の持ち方は10代の自分に「偉かったね」って言いたいです。

――今いるこの空間だけがすべてじゃなくて、もっと高みがあるという意識がずっとあったということですね。
【田中道子】はい。高校生のあるとき、インターネットで “デニムを買うと慈善団体への寄付になります”という活動のモデル募集のページを見つけて、そのころちょうどボランティア活動に興味があったので、静岡市でオーディションを受けてみました。その際、モデルには選ばれなかったのですが、担当の人がこう言ってくれたんです。「いずれ何かを成し遂げたいと思うなら、今いる範囲だけじゃなく東京やニューヨークにはすごい人材がたくさんあふれているということを常に意識しておくといいよ」って。

【田中道子】東京やニューヨークというのは、私にわかりやすいようにそう言ってくれたと思うのですが、それが私にはすごく刺さったんですよね。そのとき「私、一生ここで過ごすのかな」という漠然とした疑問を持っていて、かつ世界中を回るお仕事がしたいとも思っていたので。それでもミスコンの世界大会では、まだまだ世界が狭かったなと感じたのですが、でもそういう意識を10代で持てたのはよかったなと。ずっと満足することなく上を目指せたので。無限な欲がよかったのかなと思います。

「変な子どもだったなと思います」と、笑いながら幼少期を振り返る田中さん
「変な子どもだったなと思います」と、笑いながら幼少期を振り返る田中さん【撮影=阿部昌也】


芸能と建築の両立、さらなるチャレンジへ

――そんな意欲的な10代、20代を経て2016年に俳優転身を表明されましたが、もともと抱いていた俳優への想いを教えてください。
【田中道子】中学生のころ、家族で洋画にハマった時期があり、みんなアンジェリーナ・ジョリーさんとかミラ・ジョボヴィッチさんとかを観て興奮していたんです。そのときから漠然とした憧れはありました。家族にそれを言ったら「知ってる?この人たちサラダしか食べられないんだよ」と言われて「えーっ、そうなの⁉︎じゃあ無理かも!」って(笑)。どのみち地元に芸能事務所とかもなく、目指す手段もなかったので、遠い雲の上の存在としか思えなくて、明確に目指すというよりは憧れていた時期があったという感じです。

【田中道子】いざ二級建築士の資格を取ったあとに事務所に声をかけていただいたときは、そういう世界を目指す権利をいただけたのがうれしくて、それまでは目指す道もなかったので、せっかくそんな道を提示してくれたなら建築のお仕事は何歳になっても挑戦できるから、と思い二つ返事で「目指したい」とお答えしました。こうやっていろいろとお仕事させていただいていることも、声をかけていただけて小さいころからの夢を叶えようとしていることも、大学のころの建築士という夢も今叶えようとしていて、周りの方々に感謝しかないですね。

――アクション方面にも興味があると伺いました。
【田中道子】アクション俳優になりたかったんです。事務所に入ったときもそれはお伝えしていて、ずっとアクションレッスンに通っていました。お仕事に生かせるかなと思い中型二輪免許も取ったりしましたが、やっぱりアクションドラマ、特に女性がメインというのは日本だと数が多くないので、生かせる機会は少ないですが、たまに今でも任侠ものなどで出番があったりします。アクションのお仕事は、もっともっとやりたいですね。

――ご自身のキャリアを考えていくうえで、大事にしていることはなんですか?
【田中道子】とにかく選択肢を増やすことを考えるようにしています。そのときに何をすべきか、頭では理解できていても心が追いつかないこともありますが、そこは理性的に割り切って行動します。例えば「アクション俳優をやりたいならバイクの免許を持っていたほうが有利だよな」とか、たとえ使わなかったとしても選択肢は増えると思うんです。今回の一級建築士の受験に関してもそうで、なぜあきらめなかったかというと、資格を取れたら絶対に幅が広がると理解していたから。心が追いつかないこともあるけど、理性でがんばれたという部分は大きいと思います。選択肢を狭めないように、それが心がけていることですね。

――選択肢は多いほうがいい、そう考えながらも厳しくてあきらめてしまう人も多いと思いますし、理性で自分を律するというのはすごいことだと思います。
【田中道子】心の平穏が一番なので、限界のラインは決めたほうがいいとも思っています。先ほど「1年で取れなかったらあきらめていた」と言ったように、無理しすぎる期間が長いのは人として幸福じゃないと思うので。今回やってみて、無理が効くのは半年が限度だなと思いました。

――集中したり、注げる時間は限界があるということでしょうか?
【田中道子】短期の集中は1時間くらいと言われますが、長期の、寝る間も惜しむほどの集中というのは私の場合は習慣化するまでは半年。それ以上は体力と心がきつかったです。

――では、田中さんがシゴトにおいて大事にしていることを教えてください。
【田中道子】常に俯瞰的に見るというか、クライアント側、相手側の気持ちに立つよう意識しています。自分が人をもし採用するとなったときに求める人物像があり、それが私の理想なのかなと。それを実現するために最低限どうすればいいのかを普段から考えています。理想は、例えばユーモアがあって、挨拶ができて、あとは“自信がある”とか。私が仕事を頼むのであれば、絶対自信がありそうな人に頼むので。自信がなさそうな人には頼まない。だから多少はハッタリでもいいので自信を持とうと決めています。

――試験のときに出題者側の気持ちを考えると仰っていたことと共通している気がします。
【田中道子】確かに。今回の試験で、これまでは出ていなかった“杭基礎”(※1)が初めて出題されたんです。土台のところですね。条件が“20メートルの軟弱な液状地盤(※2)です”となったときにべた基礎(※3)しか勉強していない場合が多く、学校ではやったことがないことを無理してやらないよう教わるので、べた基礎を描きますよね。

【田中道子】でも、どうみても出題側は杭基礎を求めていると感じたので学科の試験勉強でチラッとみた杭基礎の映像を思い出して、描いたこともなかったので「これは杭基礎です」と注釈を入れて提出しました。でも、それが結果よかった。言われたことだけを守るのではなくて、判断力も大事だったと思いますし、何を求められているかを考えられたことがよかったのかなと。普段から、どんな人が求められているのか考えていたことが功を奏したのではないかと思っています。

仕事において大切にしていることは「とにかく選択肢を増やすこと」と「相手側の気持ちに立つこと」
仕事において大切にしていることは「とにかく選択肢を増やすこと」と「相手側の気持ちに立つこと」【撮影=阿部昌也】


――ちなみに、仕事で苦手なことはありますか?
【田中道子】けっこうあります。趣味が多いと言ったわりにダメなこともすごく多くて、ファッションセンスに自信があるわけじゃないですし、昔から食が細いのでグルメも好きですが、あまり量が食べられないんです…。他の人から見て「好きそうだよね、このジャンル興味あるよね」って言われることが当てはまらないこともありますね(苦笑)。

【田中道子】それから、苦手とは違いますけど、気にしているのは失言です。バラエティとかで「バチバチやってください」って言われると、期待に応えたい反面、どこまでがOKなラインなのかわからなくて不安になります。言ったことは取り戻せないから、そこのバランスにはいつも悩まされている気がします(苦笑)。「言い過ぎちゃったな」ってこととかをけっこう引きずっちゃいますね。

――失敗したな、というときにリフレッシュする方法や立ち直る方法はありますか?
【田中道子】もう、考え方を変えるしかないと思い込むことにしています。「強いこと言っちゃったな」ってときは「こんなこと言ってくる人もいるんだ」っていう経験になっていたらいいな、とか。ちょっとでもポジティブな意見を探して、自分のことを全否定はしないようにしています。どんなに落ち込んでも。

――では、次に挑戦したいことを教えてください。
【田中道子】建築の流れでいうと、実務を合計で2年積まないといけないので、いよいよ芸能と設計の両立になってくるというのは新境地なので、それはチャレンジですね。事務所も応援してくださっていて、この資格をせっかくなら生かしたいと思うので、その両立がまずひとつ。

【田中道子】芸能のお仕事は、毎年新しいことに挑戦させてもらっていて、去年は主演で初舞台をやらせていただいたり、あとは今回、資格をとったことで建築系のお仕事をいただくことも増えて、やりたいことを突き詰めている人にそういうお仕事も来るんだとあらためて実感しました。日々いただくお仕事が楽しいと感じているので、このまま得意分野を増やしていけたらと思っています。

【田中道子】それからもうひとつ、すごくゲームが好きなんですよ。漫画も好き。だから自分の好きな作品の実写化とかをやれたらと思っています。ファンタジーが好きなので、大ブームを起こしている異世界転生モノとか、感染系でアクション要素もある漫画『ジャガーン』とか、『怪獣8号』とか。

――最後に、田中さんの野望を教えてください。
【田中道子】野望というか理想なのですが……。大学の専攻が建築だったということもあり建築系のお仕事をしている友人が多かったけど、結婚して子どもができると復帰がなかなか難しい業界なので、女性が働きやすい女性集団の建築事務所をつくりたいなと。子育てしやすい環境とか、託児所がついているとか。そういった方面で社会貢献をしたいと思っています。

【田中道子】それから、地図に載るような建物を設計したいという思いがあります。特に学校を作ってみたかったので、いつか所属しているオスカープロモーションの子役が通うレッスンスクールを建てたい。そして、やっぱり本業としては、かっこいい女優さんになりたいと考えています。

「地図に載るような建物を設計したい」「かっこいい女優さんになりたい」と、さらなる野望を語ってくれた
「地図に載るような建物を設計したい」「かっこいい女優さんになりたい」と、さらなる野望を語ってくれた【撮影=阿部昌也】


※1 杭基礎:建物の下に杭を打ち込み、杭の先端を支持地盤まで届かせ、杭の摩擦力と支持地盤による反力により建物全体を支える基礎工法
※2 軟弱地盤:建物の安定と沈下に問題がある軟らかい地盤。
※3 べた基礎:建物の底面全体に鉄筋コンクリート造の床版(垂直方向の重量を受ける水平面)を設けた基礎(上部構造からの荷重を地盤に伝える構造)。

この記事のひときわ#やくにたつ
・今いる範囲で満足せず意識を高いレベルに置く
・相手が求めていることを考え、理想の最低限をクリアできるよう意識する
・失敗してもポジティブな面を探し、全否定しないようにする

取材=浅野祐介、文=山本晴菜、撮影=阿部昌也

※1:長谷工コーポレーション
(https://www.haseko.co.jp/hc/technology/kodawari/framework/pile.html)
※2、3:住宅建築専門用語辞典(http://www.what-myhome.net/)

田中道子(https://www.oscarpro.co.jp/talent/michiko_tanaka/profile.html)
2013年「Miss World Japan 2013」で日本代表としてグランプリを受賞。2016年に俳優デビューし、テレビ朝日ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」4代目秘書・白水里果役(レギュラー)で俳優デビュー。2017年フジテレビ「貴族探偵」鑑識員・冬樹和泉役でレギュラー出演。2022年、テレビ朝日ドラマ「六本木クラス」に理沙ガルシア役で出演。また、舞台「赤羽焼肉劇場」で主演デビュー。

あわせて読みたい

人気ランキング

お知らせ