人気アプリ『ポケコロ』などを手がけるココネ株式会社。アバターアプリのリーディングカンパニーが、「cocone my time / my day」という、水曜日は家族や自分のために自由に過ごせる制度を1月から導入し、新たな働き方の方向性を示した。そこで、執行役員の柏熊成幸さんにココネ株式会社の魅力と、企業成長と労働環境のバランスがとれた「働きたくなる環境づくり」の秘訣について話を聞いた。

ココネ株式会社 執行役員 柏熊成幸さん
ココネ株式会社 執行役員 柏熊成幸さん【撮影=樋口涼】

アバターアプリのリーディングカンパニーとしての歩みと事業展開について


ーーまずは、これまでの歩みを含めて御社について教えください。
【柏熊成幸】ココネは、今年創業15年目になる会社です。大手IT企業を立ち上げた創業会長が、「次に会社を作るなら、もっといい会社を作りたい」という想いで立ち上げた会社です。最初は、英語学習のWebサービスからスタートしました。当初は高収益化が難しい場面もあったのですが、アバターを用いた学習コンテンツが人気だったことから、そのアバターを活用したCCP(キャラクター コーディネイティング プレイ)と独自に定義して展開、『ポケコロ』という11年続くタイトルを中心に15タイトルを発表して成長してきました。

ーーどのような事業展開をされているのでしょうか?
【柏熊成幸】我々が生み出してきたアバターサービスのデジタルアイテムは、種類で100万種、流通数で160億個もあるんです。よくゲームでアイテムを入手すると、キャラが強くなるなどパラメーターが変化したりしますが、我々のアイテムにはそういう機能がありません。デジタルの衣服や部屋のコーデアイテムなど、見た目やコレクション性を高める方向でやってきました。メタバースというデジタル空間に、もうひとりの自分を生み出すイメージです。今、Web3やNFTといった新しい概念や価値が生まれていますが、我々はCCPサービスを通してずっと昔からやってきたと自負しています。

ココネ株式会社では、今年1年「目線を高く」「プロとして」「感動する仕事をしましょう」という3つのテーマを持って仕事に取り組んでいる
ココネ株式会社では、今年1年「目線を高く」「プロとして」「感動する仕事をしましょう」という3つのテーマを持って仕事に取り組んでいる【撮影=樋口涼】


ーー仕事において大切にしていることを教えてください。
【柏熊成幸】毎年、我々は3つのテーマを掲げています。今年のテーマは、「目線を高く」「プロとして」「感動する仕事をしましょう」という3つです。これは職種を問わず全員が心がけているテーマになります。弊社は常に2倍、3倍の成長を目指していくことが大切だと考えています。

【柏熊成幸】例えば、「今のサービスのDAU(毎日のアクティブユーザー)を3倍にしましょう」という目標があるとします。なかなか大変なことですし、容易に達成できるとも思いません。ただ、目線を下げずに続けていれば、1年で2倍にはならなくても、2年後のある日に振り返ったら3倍くらいにはなっているということもある。なので、決して目線は下げずに目標を高く持つということです。そして、各自の仕事にプロフェッショナルとしての気持ちを持つということ。「お客様にどうしたら感動してもらえるか?」そう考えながら取り組めば、2倍、3倍の成長もいつか必ず達成できるはずです。そんなことを今、社員に伝えています。

新たな働き方となる「cocone my time / my day」がスタート

ーー今年1月からスタートした「cocone my time / my day」は、どういう内容と狙いでスタートした施策なのでしょうか?
【柏熊成幸】「cocone my time / my day」は、もともと韓国のグループ会社が取り入れていた制度がベースとなっています。同社で「2日出て5日休んじゃダメか?」という話があり、それがもとになっているそうです。ただ休みたいというわけではなく、「クリエイティブに効率的にやれば十分できる」という前提での話のようですね。

【柏熊成幸】取り組みの概要としましては、祝日のない週の水曜日を終日フリーな時間と位置づけて、自分たちの自由な時間として使える日と決めました。フリーといっても、休日にしたのではなく”働いたこととみなす”という制度です。これも「いい会社をつくりたい」という背景から作られた取り組みです。

【柏熊成幸】もともと弊社には「報酬」「やりがい」「健康」「時間」という、4つのものを社員に還元していきたいという考えがあり、そのうちの「時間」にフォーカスを当てた施策になっています。週4日くらい働いて「給料」「健康」「やりがい」のある仕事がある。いい会社の定義は人それぞれでしょうけど、少なくともそれを受け取って嫌な気持ちになる人はいないと考えています。

ーー社員にしっかり「cocone my time / my day」を利用してもらううえで、何か工夫していることや心がけていることはありますか?
【柏熊成幸】まだ課題は多く残っていますが、この「cocone my time / my day」との上手な向き合い方や雰囲気などを、文化としてつくっていくことが大事かなと考えています。というのも、この制度が一口に“休み”として浸透すると、制度本来の意図からズレてしまうんですよね。そう理解されてしまうと、水曜日が事業や会社の勝負どきとなった場合、水曜日が稼働日としてカウントできなくなってしまうので。この制度を開始するにあたっては、そこの重要性を浸透させることに気をつけました。もちろん、この先も周知していかなければなりません。

ーー休日ではなくて、あくまでフリーな時間という位置づけですね。
【柏熊成幸】そうですね、時間は自由に使えるけれど、勝負どきにはみんなで一丸となれる強さを失ってはなりません。これから入社してくる社員に対し、制度への向き合い方や理解が、「なんとなく週休3日」みたいな言葉になってしまうと、我々の想いとは違う使われ方になってしまうので、そうならないように工夫しながら取り組んでいます。

「cocone my time / my day」の意義を社員ひとりずつに浸透させることが大切と語る柏熊さん
「cocone my time / my day」の意義を社員ひとりずつに浸透させることが大切と語る柏熊さん【撮影=樋口涼】

ーースタートして日は浅いですが、社員のみなさんの反応はいかがですか?
【柏熊成幸】仕事に集中する時間にできたり、ちょっと家族と過ごす時間に当てたりとか。普段だったら、半休を取って病院に行かなきゃいけないような私用にも使えます。それこそ勉強などスキルアップの時間にも。まだ始まったばかりですが、このように自由な時間が増えたことに対しては、おおむね好評です。しかし、さまざまな意見や懸念もあります。

ーー開始してみて、プラスになった理想的な利用法など実例はありますか?
【柏熊成幸】実はですね、これを始める半年ぐらい前から、1日ではなく半日、つまり水曜日の”午後”を働いたとみなしてフリーに使える施策を試験的に導入していました。1月からその拡大版として本格スタートしたというのが、ここにいたるまでの流れです。そこから含めるといろいろな声があるのですが、「仕事に集中できる日はすごくいい」という声は多いです。その日は基本的に会議などを入れないので、個人の仕事に専念できる時間が作れました。そういう使われ方はよかったと思いますし、家族の時間や自由時間として満足してもらいリフレッシュするという意味でもよかったと思います。

【柏熊成幸】それと、部署同士の横のつながりも持ちやすくなったようです。ココネも規模の大きい会社になっているため、「あっちの事業部は何をやっているんだろう?」と、連携が取りづらくなっていました。事業部をまたいだデザイナーだけの勉強会やイベントなども水曜日に開催して、より一体感を高めたりもしています。ただ、会社行事も入れやすくなったのですが、あまり入れると制度として…。ギリギリのところなんですよね(笑)。だから、文化づくりが大切になってくるんです。

ーーそういう意味でも、社員さん一人ひとりが「cocone my time / my day」がどういうものなのか、まず深く理解することですよね。
【柏熊成幸】そうですね。「cocone my time / my day」との、正しい付き合い方は重要ですね。この制度がうまくいくか、単なる週休3日の言い換えになってしまうか、正しく意義を伝えていくことがすごくカギになっています。きちんと制度のメッセージングをしないといけないですね。

社員が働きがいがあると感じられる「いい会社」とは?

「会社の環境がよく、働いている社員がいい状態でサービスを作れ、お客様に喜んでもらえること」を日頃から考えている
「会社の環境がよく、働いている社員がいい状態でサービスを作れ、お客様に喜んでもらえること」を日頃から考えている【撮影=樋口涼】

ーー貴社は働きがいのある会社にランクインされていますが、ランクインの理由についてどうお考えですか?
【柏熊成幸】この「cocone my time / my day」のような制度や、社員に健康を渡していきたいということで、社内に社員食堂やジム・マッサージを完備していますが、いい会社だったら普通にあるんですよね。これは当たり前のこと、設備があって当然のものなんです。だから、弊社では福利厚生という言葉では呼ばないようにしています。これがそろっているからいい会社とは思っていないんですよ。ちょっと禅問答のようになっちゃいますが(笑)。

【柏熊成幸】いい人が集まって、いい状態で仕事ができるから、そこからいいサービスが生まれるという、サイクルが成り立っていると弊社では考えています。社内でもよく「三方良し」という言葉を使っていますね。「会社の環境がよく、働いている社員がいい状態でサービスを作れ、お客様に喜んでもらえることが一番いいよね」とよく言っています。

ーー社員さんのパフォーマンス、モチベーションアップにつなげるために、どんな取り組みを行っていますか?
【柏熊成幸】弊社には、先ほどお話しした当たり前にある設備のほかにも、育児フリータイム制度や5年完走休暇、保健室・女性対象相談窓口などの設備・制度があり、社員たちに喜んでもらえています。外国籍の社員もそれなりにいるので、彼らのためにビザ申請のサポートも行っています。通常は個人で定期的に更新を含めた手続きを行わねばならないのですが、弊社では代行できる部分はサポートしています。

ーー社員さんの特徴としては、どういう方が多いのでしょうか?
【柏熊成幸】まず社員の構成は、男女比は半々ぐらいで、平均年齢は34歳。デザイナーがすごく多い会社です。全体の職種の4割強がデザイナーなので、すごく多いですよね。そして3割弱がエンジニア。残りがいわゆるビジネス社員や広報など、ざっくりこういう割合になっています。デザイナーの男女比は、9割以上が女性と圧倒的に多いですね。ある新入社員が、「エンジニアとデザイナーの関係がフラットなことに驚いた」と言っていました。他社ではどちらかの上下があるそうですね。弊社には、そういった話しやすい雰囲気があって、結果的に一緒にモノを作っていこうという姿勢が強いのだと思います。クリエイティブでアカデミックな雰囲気がある会社です。

ーー貴社が考えるいい会社とは、どんな会社でしょうか?
【柏熊成幸】ココネという会社は、とにかくいい会社を作りたいという考えから始まったんですね。先ほど話に出た「4つの渡したいもの」や「三方良し」の話もそうです。また、「こんな制度あります、あんな社内設備あります」というそれだけで、いい会社になれるとも思っていません。制度・設備の充実だけではなく、これらの届け先である社員に、その意図の理解と共感を持ってもらえることがセットになっている必要があると考えています。

【柏熊成幸】弊社では、ミッションやビジョンバリューのことを、最高位の目標であることを明らかにするために「召命」と呼んでいます。ホームページにも記されていますが、召命とは、ココネの核心にある変わらない目標であり、会社とサービス全体に普遍的に適用される言葉なんです。いい会社とは、こういう自分たちの大事にしているものを共感できる仲間たちと一緒に仕事ができて、共に充実した生活を享受できるということだと思います。よく「会社にジムがあってすてきですね」と言われますが、決してそれだけではいい会社にはならないと考えています。

事業の成長と時間を返す労働環境の整備という、相反することにも挑戦するココネ株式会社。柏熊さんは、勝負どきに一丸となれる連帯感が必要だと言う
事業の成長と時間を返す労働環境の整備という、相反することにも挑戦するココネ株式会社。柏熊さんは、勝負どきに一丸となれる連帯感が必要だと言う【撮影=樋口涼】


ーー会社であるので事業成長の継続と、社員の方の労働環境の両立を図るときに、バランスを取らないと相反する側面が生ずると思います。この両方をしっかり両立していくうえで工夫していることはありますか?
【柏熊成幸】「cocone my time / my day」を開始しましたが、これに該当する日が2023年に何日あるかを数えると、41日あります。41/365日と、けっこう多いですよね。土日も除いてカウントすると、正規の勤務日は年間200日ぐらいになります。おっしゃるとおり、事業の成長と時間を返していくこと、相反するところのバランスを取ることは挑戦だと思っています。

【柏熊成幸】これから先も壁にぶつかったり苦労もあるはずですが、やはりここぞという勝負どきには、みんなで力を合わせることが大切だと思います。1年に何回もそういうときがあるとは思いませんが、でも絶対に個人だったりチームだったり、そういう場面で一丸となることはやっぱり必要。いざというときのために、ちゃんと馬力が出るようなメッセージングは大事ですよね。一方で、制度が形骸化していくのもよくないと思いますので、そこは各リーダーが無駄なことの見直しをするなど業務の効率化が必要です。そういった部分を浸透させることが課題ですし、工夫して取り組んでいる部分でもあります。

ーー最後に、貴社が成し遂げていきたいと考えていることを教えてください。
【柏熊成幸】これまで国内のお客様に向けたサービス作りを一本にやってきていました。今後のビジョンとしましては、日本からグローバルを目指していくことです。「川から海へ出ていこう」という言い方をしています。経営陣のスピーチからも、我々の目的地として「デスティネーション」という言葉がよく聞かれるようになり、その準備がやっと整ってきました。事業としても、今まで日本を中心にやってきた事業ビジネスを、海外のお客様にも届けられるように取り組んでいきたいと考えています。

記念のトロフィーを授与
記念のトロフィーを授与


この記事のひときわ#やくにたつ
・目線を高く、プロとして、感動する仕事をする
・制度は文化づくりが大切

取材=浅野祐介、取材・文=北村康行、撮影=樋口涼