株式会社MIXI(以下、MIXI)が2015年より開始した子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」(以下「みてね」)。子どもの写真や動画をかんたんに共有し整理ができるこのアプリは、リリースから今年(2023年)で8周年を迎える。今回はMIXI Vantageスタジオ みてね事業部 BizDev・CSグループ マネージャーの佐藤僚さんに、サービスを始めたきっかけや世界進出の展望などについて話を聞いた。

MIXI Vantageスタジオ みてね事業部 BizDev・CSグループ マネージャー/佐藤僚さん
MIXI Vantageスタジオ みてね事業部 BizDev・CSグループ マネージャー/佐藤僚さん【撮影=樋口涼】

 
 ーーはじめに、「みてね」とはどのようなサービスでしょうか?
【佐藤僚】当社が提供する子どもの写真・動画共有アプリ「みてね」はママやパパが撮影した子どもの写真を、親戚や祖父母など招待をした家族だけにクローズドに共有できるサービスで、写真・動画共に無料・容量無制限でアップロードができます。非常に多くのユーザーにご支持いただいていて、現在では1500万人ものユーザーに利用されています。また日本語をはじめ英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、韓国語、繁体字中国語と7言語で展開をしていて、世界175の国や地域にアプリをリリースしています。
 

子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」
子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」【画像提供=株式会社MIXI】


ーーサービスを立ち上げた背景やきっかけについて教えてください。
【佐藤僚】MIXIの創業者で事業部長でもある、株式会社MIXI取締役ファウンダーの笠原健治が育児を経験したことがきっかけでした。子どもが産まれると驚くほど写真の枚数が増えますよね。一方で、たくさん撮った写真・動画を簡単に家族間で共有するサービスをいろいろと使ってみましたが、どれもしっくり来なかったんです。またLINEをはじめとしたメッセージツールで送ることもできますがどんどん流れていってしまいますし、ママやパパが撮った写真はそれぞれ別のデバイスに保存されていることが多いため、写真をどのような形で共有するかといった課題がありました。「ここに需要があるのではないか」と思った笠原が社内のパパ・ママに声をかけて、同じように課題を抱えていた人たちと作り始めたのが「みてね」です。
 
【佐藤僚】自分が撮った写真もパートナーが撮った写真も、それらをアップロードするだけで自動的に整理されて、共有されて、保存される。そのような機能にニーズがあるのではないかと思い開発にいたりました。またアプリをリリースする前にはさまざまなインタビューやアンケートを行って利用者の需要を確認し、それを踏まえた上で2015年にサービスをスタートさせました。
 
ーーアプリはスタート当初から無料で配信する予定だったのですか?
【佐藤僚】そうですね。2015年当時、すでに他社のアプリが無料で利用できていたということが大きかったです。また、入り口で課金すると利用意欲が削がれてサービスを始めるハードルがグッと上がるため、まずは気軽に始めてもらうことを目標として、無料で配信を開始しました。
 
ーー先ほど利用ユーザー数を聞いて驚きました。海外展開においてはプロモーションなどはされているのでしょうか?
【佐藤僚】もちろん広告も出していますが、基本的には国内でも海外でも知り合いや友人の口コミで始めるユーザーが多いのが特徴ですね。海外でサービスを配信するうえでは、国によって写真を共有する家族の範囲や家族構成などが異なるため、その国ごとに合わせてプロダクトそのものを磨いていくことが重要になります。例えば日本では伯父(叔父)・伯母(叔母)は2種類の表記しかないですが、台湾では父方か母方か、兄弟か姉妹か、その配偶者かによって表現が異なります。国によって家族の表記方法や関係性が違うので、それに合わせていくといった感じでローカライズにも力を入れています。
 
【佐藤僚】また、日本だと同性カップルがパートナーシップを結んでいる例はまだまだ少ないですが、海外だと同性婚をしている人も多くいます。同性婚をしているカップルだと「ママとママ」や「パパとパパ」の間でアプリを紹介し合う場合もあります。そのため性的マイノリティへの配慮も含めて「パートナー」という言い方に対応していくなど、「みてね」でも任意の関係性に表記を変えられるようにしました。各国の多様な家族の形態やあり方に合わせて調整していくことがとても大切です。
 

海外展開においては「国ごとに合わせてプロダクトそのものを磨いていくことが重要」と語る佐藤さん
海外展開においては「国ごとに合わせてプロダクトそのものを磨いていくことが重要」と語る佐藤さん【撮影=樋口涼】


ーー国ごとの文化や習慣にアジャストした形で展開をしているのですね。
【佐藤僚】そうですね!実際に社員がユーザーインタビューのために現地に飛んだり、オンラインでアンケートを行ったりして、国ごとの家族の写真共有やライフスタイルについて調査することもあります。さまざまな方法でリサーチをしてその結果をフィードバックしています。また言語を追加する際には、まず現地の言語と文化に精通している人材をチームに採用してから、各種の調査や翻訳を通じてプロダクトを調整し、各国の文化や感覚にあわせて最適化しています。
 
【佐藤僚】またアプリは日本以外では「FamilyAlbum」、台湾では「家家相簿」という名前で展開しています。フランスやドイツでは英語名でも問題ないのですが、台湾では英語名だとおじいちゃん・おばあちゃんたちが「難しい」と感じて利用してくれないという問題がありました。そのためアプリの名前も国に合わせて変えています。
 
ーー「みてね」という名前は日本だけなのですね。
【佐藤僚】そうなのです。また、アプリの仕組みそのものは全世界共通ですが、アプリ内でユーザーを活性化させるために、日本では5月5日のこどもの日が近づくと「お子さんの写真をアップしませんか」など通知を送ります。そのような年次のイベントは地域ごとに違います。例えばサンクスギビングがある国とない国などですね。ハロウィンはだいぶ世界に普及しましたけれど(笑)。このような家族行事も国によって違ってくるので、国や文化ごとに合わせたユーザーとのコミュニケーションを実施しています。
 
ーーサービスには動画や写真をつなぎ合わせたムービーを自動作成する「1秒動画」や、写真・動画をプログラムで自動判定して表示する「人物ごとのアルバム」など人気の機能が多くありますが、それらのアイデアはどのように生まれましたか? 
【佐藤僚】アプリで保存されていった写真は貯めていくうちに段々と家族の財産に変わっていくと思います。この財産をなんらかの形で振り返れるようにしてみようというのがアイデアの根底にありました。昭和生まれの方にとっては実家にアナログの写真アルバムがあることが多いですが、このようなものを帰省したときに見るのと同じような体験ができることが、このアプリならではの優れたUXだと考えています。スマホひとつでいつでもどこでも子どもの成長や家族の思い出を見返すことができるという価値を提供することで、よりアプリの利用頻度が高まったり共有するメディアの数が増えたりなど、利用促進にもつながっていくと思います。入り口では整理して共有して保存するというところから、写真を見返すことで新しいサイクルを生んでいく。そういったサービスのバリューチェーンを意識して作った機能が、「1秒動画」や「人物ごとのアルバム」でした。
 
ーーアナログの写真に比べてデジタルのものって、意外と振り返ることが少ないですものね。
 【佐藤僚】物理的に残っていると見返すタイミングがあると思いますが、デジタルはどうしても撮ったら撮りっぱなしになることも多いと思うので、「1秒動画」や「人物ごとのアルバム」という形で振り返ることができるというサイクルを生み出せたことがとても新しいと思います。そこがユーザーから支持されたポイントのひとつだと考えています。
 
ーー「みてね」の機能のアイデアを生み出すのは、主に子どもがいる社員でしょうか?
 【佐藤僚】事業部全体で全員に子どもがいるわけではないですが、その傾向はあるように思われます。機能のアイデアや着想は自分たち自身の課題から出てくることが多く、ユーザーと作り手が一致していることが強みだと思います。ただ「このニーズって本当に顕在化しているのか」や「多くの人が価値を感じているのか」、「お金を払ってでも機能を使いたいと感じるか」などを必ず検証します。インタビューやアンケートでニーズを深掘りし、これであれば支持されるだろうと確証のあるものを作り上げていきます。
 

「インタビューやアンケートでニーズを深掘りして、必ず検証するようにしています」
「インタビューやアンケートでニーズを深掘りして、必ず検証するようにしています」【撮影=樋口涼】


ーー有料プラン「みてねプレミアム」が始まって3年半が経過しましたが、加入者の増減などはいかがですか?
【佐藤僚】アクティブユーザーの契約者率は、2019年に「みてねプレミアム」が開始された当初と比べると5倍くらいに増えていて、非常に多くのユーザーにお使いいただいています。リリース当初はサービスや機能の数はそこまで多くなかったのですが、段階的に機能拡充を行ってどんどんとユーザーが積み上がっている状況です。また、プランを解約する人があまり多くないので基本的には純増しています。
 
ーーすごく多くの方が利用しているのですね。無料プランとの違いはどのような点でしょうか?
【佐藤僚】プレミアムはさまざまな機能の詰め合わせなので、一人のユーザーがすべての機能を使っているわけではないのですが、代表的なものでは3分以上の動画のアップロードがあります。無料版ではアップロードできる動画の長さは3分までになっています。ほとんどの家庭で撮影される動画は3分を超えることはあまりないのですが、例えばお遊戯会やピアノの発表会などは3分ではカバーできないことが多いです。そのような長めの動画をストレスなくアップロードするためにはプレミアムに加入するととても便利です。
 
【佐藤僚】また「1秒動画」も非常に人気で、無料版では3カ月ごとに届くのですが、プレミアムでは毎月届きますし、年始には1年分をまとめた「年間版1秒動画」が届きます。通常の「1秒動画」では20~30秒くらいの短い内容なのですが、年間版は1年まとめるので数分間の長いムービーをアニメーションも含めてお楽しみいただけます。それもプレミアムであれば1月2日以降に順次配信されるので、お正月におせちを食べながら家族や親戚と振り返ることができます。そのため12月は1年で最もプレミアムに加入するユーザーが増える月です。
 
ーー有料プランだけでなく「みてねみまもりGPS」など関連サービスも生まれていますが、このような機能を新規で生み出そうと思った背景やきっかけを教えてください。
【佐藤僚】GPSサービスが始まったのが2021年ですが、ちょうど「みてね」がスタートして6年の時期でした。当時0歳だったお子さんも6歳になって小学校に入学するというタイミングで、ユーザーの話を聞いてみると子どもの登下校がとても不安だという声が8割ほどありました。その中でも9割以上の人がどこにいるかを知りたいと答えていました。そこで子どもの居場所がわかるハードウエアがあれば不安の解消につながるだろうということで、GPSの開発がスタートしました。「みてね」に関連する新規事業やサービスは、基本的には子育て世代が持っている課題やニーズの中で、ビジネスとして成立すると思ったものを実現して提供しています。

「みてね」にはさまざまな機能があり、ユーザーが抱える課題やニーズが反映されている
「みてね」にはさまざまな機能があり、ユーザーが抱える課題やニーズが反映されている【画像提供=株式会社MIXI】

 
ーー「みてね」の事業全体で、今後の野望などはありますか?
【佐藤僚】一番大きな野望はやっぱり「世界一になること」ですね。「みてね」は国内では多くの方に支持されていて、2021年に生まれた子どもの数から割り出すとおよそ半数の家族が登録しており、日本で最も利用されている家族向けサービスに成長したと思っています。一方で国内の出生数は年々下がっているのも現状です。日本は年間80万人くらいの出生数ですが、グローバルマーケットに目を向けるとアメリカは年間約360万人が生まれていて、また中国やインドなどではもっと子どもが産まれています。現在私たちが主要ターゲットにしている7言語の地域だけでも日本の9、10倍の市場があります。そのため世界中の家族にサービスを使ってもらうのが現在チャレンジしていることですね。
 
ーー日本だけをみると市場は縮小していますが、世界規模でみると人口は増加していますよね。
【佐藤僚】日本では子どもの数は減っている一方で、子ども一人にかける養育費が増えているという一面もあったりするので、単純に市場が縮小しているとは言い切れませんね。ただ伸び代という点では圧倒的に海外にチャンスがあるかなと思っています。海外市場における現在の課題は認知拡大で、日本では7年の歳月をかけて認知を広げてきましたが、アメリカでは日本の4.5倍の市場があるので、仮に日本と同じような推移で利用者数を伸ばしたとしても認知度はまだまだ低いことになります。そのため、いかにもっと早くサービスを知ってもらうかが解決すべき点です。
 
【佐藤僚】私たちはITの領域でビジネスをしているので、日本の感性や技術を用いて世界に飛び出せるようなプロダクトを作っていきたいと思っています。日本で作られたサービスが世界中で使われているという状況を創造していくことが、私たちの一番の目標ですね!

「日本の感性や技術を用いて、世界に飛び出せるようなプロダクトを作っていきたい」
「日本の感性や技術を用いて、世界に飛び出せるようなプロダクトを作っていきたい」【撮影=樋口涼】

 
この記事のひときわ#やくにたつ
・ユーザーのニーズをさまざまな調査で確認する
・「家族」という全世界共通の市場で勝負をする
・ユーザーの持つ課題の解決がビジネスにつながる

取材=浅野祐介、取材・文=福井求、撮影=樋口涼