サービス開始わずか3年で通算利用100万回超!飲食店負担0円の「ごちめし」のアイデアの源とは!?

2022/12/22 13:00 | 更新 2023/04/16 23:32
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飲食店負担ゼロ!飲食店のための「ごちめし」「さきめし」の発想の源について聞いた
飲食店負担ゼロ!飲食店のための「ごちめし」「さきめし」の発想の源について聞いた

2020年4月7日、東京や大阪、福岡などで初めての緊急事態宣言が発令され、さらに同月16日に宣言は全国に拡大。新型コロナウイルスによって、経済はストップし、特に飲食店は多大な影響を受けた。

コロナ禍において、今できる飲食店への応援方法として注目を集めた
コロナ禍において、今できる飲食店への応援方法として注目を集めた【画像提供=Gigi株式会社】

社会全体が先行きの見えない不安に包まれる中、テレビや新聞など各種メディアにて、あるプロジェクトがスタートしたことを多く目にした。それが「さきめし」だ。外出自粛などで今は行けない自分のお気に入りの飲食店に食事代を先払いし、新型コロナウイルスが落ち着いた時期に食べに行くという活動を支援するプロジェクトで、コロナ禍に即時対応したのは言うまでもない。

2019年(令和元年)10月に開始した「ごちめし」
2019年(令和元年)10月に開始した「ごちめし」【画像提供=Gigi株式会社】

しかも、「さきめし」が開始されたのは2020年3月9日と、緊急事態宣言前。なぜ、そんなスピード感でプロジェクトをスタートできたのか。その理由は、オンラインで飲食店のメニューを贈れるギフトサービス「ごちめし」の存在にあった。そもそも「ごちめし」はなんのために生まれたサービスなのか。今回、さまざまなフードテックサービスを運営するGigi株式会社の代表取締役の今井了介さんに、わずか3年で通算100万回超で利用されている「ごちめし」に込めた思いを聞いてみた。

音楽プロデューサーが仕掛けたフードテックは“贈る”がキーワード

今井了介さん。作曲家・音楽プロデューサー
今井了介さん。作曲家・音楽プロデューサー【画像提供=Gigi株式会社】

――音楽の世界の第一線で活躍している今井さんがフードテックサービスを手掛けた理由を教えてください。
【今井了介】きっかけとなったのは東日本大震災です。震災によって住む場所を奪われ、食べ物が届かなくて困っている人たちの存在に触れ、音楽では助けられない無力感を味わいました。音楽やエンターテインメントの前に、最低限の衣食住を確保する必要がある。それを体感したことで、“食”というジャンルで何かできることがないか模索し始めました。

【今井了介】もちろん音楽は私にとって欠かせないもので、時として飲食、IT、Webなどさまざまな職種の方々と出会うきっかけを作ってくれました。ただ、音楽というフィールドだけで活動していると、そういったご縁に恵まれても、それ以上の広がりを作ることは難しい。「音楽以外の何かを始めることで、そういった方々とのつながりをもっと広めていけるのではないか」と考えたのもフードテックサービスに挑戦した理由のひとつです。

――ズバリ、「ごちめし」とはどんなサービスでしょうか?

ギフトを贈る人が品代+手数料10%を支払い、飲食店側は手数料ゼロ
ギフトを贈る人が品代+手数料10%を支払い、飲食店側は手数料ゼロ【画像提供=Gigi株式会社】

【今井了介】簡単に言うと、オンラインで飲食店のメニューを贈ることができるギフトサービスです。自分のおすすめの店や相手の好きなレストランなど、全国1万7000(2022年12月現在)の登録店舗からメニューを検索することができ、「おめでとう」や「ありがとう」 など誕生日、記念日のお祝いやお礼のメッセージとともにメールやLINEで手軽にチケットをプレゼントすることができます。サービスがスタートしたのは2019年(令和元年)10月31日です。

――「ごちめし」のサービスをスタートする際、工夫した点を教えてください。
【今井了介】工夫という意味では、ほかにはないサービスであることを目指しました。私自身、食べることが好きですし、何より“食”は日本が世界に誇れる文化だと思っています。さらにさまざまなフードテックサービスが存在し、私もインターネットからレストランを予約したり、スマホひとつで料理をデリバリーしたり、さまざまなサービスを便利に使わせていただいています。ただ、“便利さを享受”している私は何ひとつ手数料をお支払いしていない。つまりそのサービスが成り立っているのは、飲食店側が利用手数料を支払っているということで、それってそもそも逆なんじゃないか?って思ったんです。便利に使わせていただいている私たちが利用手数料を支払うのが当たり前の仕組みを考えたとき、「ギフトだ」とひらめきました。贈り物をする際、商品そのものの料金はもちろん、送料なども贈る側が負担しますよね。「ごちめし」の贈る側から手数料の10%をいただく仕組みも、そんな発想から生まれたものです。

――サービスを開始するにあたり、苦労した点はありましたか?

人との出会いを大切にするのも今井さんのモットー
人との出会いを大切にするのも今井さんのモットー【画像提供=Gigi株式会社】

【今井了介】強いて言えば、「ほかにはないサービス」ゆえに理解されるのが難しく、創業時から融資を受けられなかったのが苦労した点でしょうか。フードテックサービスなのに事業者である飲食店から手数料を取らないなんてあり得ない、利用者だけが手数料を払う仕組みなんて成り立たないといったことはたくさん言われましたね。ビジネスモデルとして前例がないので、アゲンストの風が吹くのは想定していましたが、まさかの融資ゼロからのスタートに。

【今井了介】銀行や国庫からは「飲食店側から利用手数料を少しでも取る仕組みに変更いただけたら、融資を検討できます」とも打診されましたが、飲食店側から一銭でも利用手数料を取ってしまうと、ほかのフードテックサービスとの差別化も困難になりますし、飲食店側からは手数料を取らないことが「ごちめし」のアイデンティティですから、そこを妥協するという選択はありませんでした。

――「ごちめし」に対して、飲食店側の反応はいかがでしたか?
【今井了介】初期費用、サービス利用料、決済手数料すべて0円ですから、おもしろがってご参加いただいた飲食店はサービスを開始した直後から結構ありました。もちろん全国展開しているようなチェーン店の場合、オペレーションの問題等もあるので、即決でGOというわけにはいかず、最初はほとんどが個人経営の飲食店でしたね。それこそ、私や「ごちめし」の創業メンバーのツテも使いつつ、という感じで地道に少しずつ登録店舗を増やしていきました。

「困窮している飲食店の手助けに」。人を思う心が世の中を動かした

――2020年(令和2年)3月9日、コロナ禍によって影響を受ける飲食店を応援する「さきめし」がスタート。コロナ禍になってすぐ、しかも「ごちめし」を始めてから4カ月強でのスピーディーな展開でしたが、素早く次のステップを踏めた秘訣や理由を教えてください。

先進的な取り組みから、多くのメディアで取り上げられた「さきめし」
先進的な取り組みから、多くのメディアで取り上げられた「さきめし」【画像提供=Gigi株式会社】

【今井了介】理由は簡単で、「ごちめし」の仕組みをそのまま転用できたからです。「ごちめし」は贈る人(Aさん)が、贈られる人(Bさん)に好きな飲食店のメニューをプレゼントするもので、Bさんはもらったギフトチケットを好きなとき(※1)に使えます。飲食店はAさんがギフトチケットを購入した時点で着金手続きが進みますから、Bさんがいつそのチケットを使ってもなんら影響はない。飲食店を応援する「さきめし」も同じことで、コロナ禍で来店客数が激減した飲食店のメニューを先に購入しておいて、コロナ禍が落ち着いた時期にそのチケットを利用して食事を楽しみましょう、というもの。「さきめし」は自分用として飲食代を先払いするケースを想定していましたが、もちろん「ごちめし」と同じように誰かへのギフトにも使えます。つまり、「ごちめし」と「さきめし」は呼び名こそ違えど、仕組みとしてはほぼ同じなんです。
※1…チケットは購入日から6カ月間利用可能

【今井了介】また、それにプラスして当社がスタートアップ中のスタートアップで、クイックに決断できたというのもありますね。その当時、創業メンバー4人と、社員+パートで1〜2人ぐらいしかいなかったので、「どうにかして困窮している飲食店の力になりたい」という思いを、「さきめし」という想いで即反映できたのは大きかったと思っています。

――なるほど!「さきめし」のサービス開始以降、テレビや新聞、雑誌などさまざまなメディアで取り上げられ、多大な影響があったと思いますが、実際のところいかがでしたか?
【今井了介】「さきめし」を始めたことで、まず登録店舗数が激増しました。「さきめし」スタート前の登録数は200店舗ぐらいでしたが、多くのメディアで取り上げていただいたおかげで、すぐに1000店舗を超え、2020年(令和2年)5月末時点で9000店舗にまでなりました。これは本活動にご賛同いただいたサントリーホールディングスさんのお力もあってこそですが、結果的に「さきめし」が「ごちめし」の認知を広める意味でも転機になったといえると思います。

2019年(令和元年)には初の書籍『さよなら、ヒット曲』を上梓
2019年(令和元年)には初の書籍『さよなら、ヒット曲』を上梓【画像提供=Gigi株式会社】


この記事のひときわ#やくにたつ
・世の中の当たり前を、違った視点で見たときにゼロからイチが生まれる
・人を思うマインドが、“三方よし”、“ウィンウィン”の事業を生む、

取材・文=諫山力

Profile|今井了介(いまい・りょうすけ)
1971(昭和46)年、東京都生まれ。作曲家・音楽プロデューサー。1999(平成11)年に手がけたDOUBLEの「Shake」、安室奈美恵の「HERO」、TEE/シェネルの「ベイビー・アイラブユー」など、多くのアーティストの楽曲・プロデュースを手掛ける。30代前半で作家・プロデューサーのエージェンシー「タイニーボイスプロダクション」を創業・主宰。チーム全体でCD8000万枚以上、配信では1億ダウンロード以上のセールスを上げる。2019(令和元)年には初の書籍『さよなら、ヒット曲』を上梓。

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