円安による生活コストの上昇や、老後資金問題など、お金に関する漠然とした不安を抱えている人も多いはず。一方で、これまでにも「お金を貯めたい」と考えてきたにもかかわらず、なかなかうまくいかないという人も少なくないだろう。ここでは、『年収300万円でもラクラク越えられる「貯蓄1000万円の壁」』の著者でもあるファイナンシャルプランナーの飯村久美さんが、お金を増やすコツを伝授。

貯蓄1000万円の壁を越えていくためには、とても大切な5つのコツがあります。貯蓄1000万円は、このコツを理解することからスタートします。お金が貯まる5つのコツとは、次のものです。
❶計画性を持つ
❷夢を持つ
❸我慢しない、無理しない
❹手間をかけずに時間をかける
❺お金が貯まらない人の特徴を知る
今回フォーカスするのは、❹「手間をかけずに時間をかける」です。いま銀行にお金を預けても、お金はほとんど、いや、まったくといっていいくらいに増えません。利息なんて、まさに雀の涙という感じです。その間に物価が上がれば、お金の価値は下がってしまいます。
現在、メガバンクといわれる大手銀行の定期預金の利息は0.002%。100万円を預けても、1年後の利息は、税引き前でたった20円にしかなりません。かつて6%もあった夢のような時代なら、12年後には利息が100万円ついて元金は倍になりますが、いまは12年預けてもたった数百円の利息しかつかないのです。
そのような時代、運用は「貯蓄1000万円の壁」を越えるには特に重要になります。お金を増やすには、家計にあるお金を運用する必要があるのです。このお金を運用するときの基本スタンスが、「手間をかけず時間をかける」というものです。
お金を増やすには、銀行や郵便局の口座にただお金を預けるだけでなく、お金を、株、債券、投資信託などかたちを変えて保有する必要があります。これを、「投資」といいます。そして、投資でお金を安全に増やすのです。
この“安全に”というところがポイントです。投資経験のない人は、「投資」という言葉を見ただけで抵抗を感じるかもしれません。「そんな危ないことに大切なお金を使いたくない、まわしたくない」と考える人もいるでしょう。なかには、家族や友人から「そんなギャンブルのようなことは考えないで、真面目に働いてコツコツ貯めなさい!」といわれた経験を持っている人もいるはずです。
「投資=ギャンブル」。投資が根付いていない日本では、そのように捉えている人も多いものです。でも、それは大きな誤解です。
投資とは、金融商品を長期保有することで利益を得るものです。ギャンブルのイメージを持つのは、投資と似た「投機」と混同しているからではないでしょうか?投機は投資と異なり、同じようにお金を金融商品などに変えて保有したとしても、短期間の売買で大きな利益を得ようとする行為です。
メディアでよく見る、「大儲けした」とか「大損した」というニュースの多くは、この投機による大成功であり、大失敗です。投資と聞いて及び腰になるのは、おそらくその印象が強いからだと思われます。投機的なFX(外国為替証拠金取引)や暗号資産(仮想通貨)などはおすすめできません。リスクとリターンの関係を無視したマネーゲームの世界であり、あまりにギャンブル要素が強すぎるからです。特に暗号資産は、法定通貨ではないため、素人が手を出すと危険です。投機で利益を得るのは、よほどのプロでない限り想像以上に難しいものです。
よって、貯蓄1000万円を目指すなら、投機ではなく、投資を軸にしていくことが絶対条件となります。
もちろん、投資だってリスクがまったくないわけではありませんが、わたしがおすすめする方法は、比較的、安全な投資方法です。わたしがおすすめしているお金の増やし方は、手間をかけず時間をかける「長期・積立・分散」投資です。お金を安全に増やしたいなら、なんといっても時間をかけること。そして、コツコツと積み立てることです。
長期で時間をかけるメリットは、リスクを限りなく抑えられることにあります。テレビやネットなどで、株価が上がったり下がったりするニュースを聞いたことがありますよね?価格が日々変動するのが金融商品ですから、それは当然のことです。今日1000円で買った金融商品が明日1100円になることもあれば、明後日には900円になることもあります。
この価格の変動に大きな影響を与えるのが、世界や日本の経済を揺るがすような出来事です。かつては、ITバブルの崩壊もありましたし、リーマンショックもありました。東日本大震災のような自然災害も、株価に大きな影響を及ぼします。最近では、新型コロナウイルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻なども、世界経済に多大なる影響を与えています。こうしたことが起きると、一部を除いてほとんどの株価が下がります。それこそ投機であれば、大損するケースです。
しかし、これまで株価がずっと下がり続けることはありませんでした。大幅に下落した株価もしばらくすると上昇しはじめます。5年、10年、20年、30年……という長いスパンで見ると、上がったり下がったりを何度も繰り返しながら、世界の経済成長とともに少しずつ株価は上昇していっているのです。下がったからといってジタバタせずに持ち続ければ――もちろん、「絶対」はありませんが――世界や日本の経済を揺るがすような出来事が起きたとしても、あなたの大事なお金はしっかりと増えていくでしょう。
「株価が急落した。どうしよう……」「株価が急上昇したから、利益確定してしまおう」。そのように日々の株価に一喜一憂するのは時間の無駄です。ちょっとドキドキするかもしれませんが、しっかりと分散して積立投資ができていれば、そのままほうっておけばいいのです。上級者なら話は別ですが、焦りや気分の高揚から短期で株を売買するのは、失敗するリスクが高い投資方法です。
コツコツ積立することのメリットは、少額からはじめられることです。「投資でお金を増やすのはお金持ちがすること」「元手がないとはじめられない」と思い込んでいる人も多いようですが、いまでは、商品によっては100円や500円といったワンコインではじめられる金融商品もたくさん存在します。しかも、金融機関と積立契約の手続きさえ済ませてしまえば、あとはほったらかしにすることができます。
最近は、銀行や証券会社などの窓口だけでなく、ネット上で手軽に契約が完了できるようになりました。インターネットバンキングサービス、ネット銀行(インターネット専業銀行)、ネット証券(インターネット専業証券会社)などを利用すると、窓口より割安の手数料で投資をはじめることができます。そうすることで、自動的に毎月口座から引き落とされたお金が投資にまわされ、時間をかけて貯蓄が増えていきます。引き落とされる金額はいつでも増額、減額することは可能ですが、投資にまわせる余裕が出たとき以外は、そのままほうっておけばいいと思います。あとは、あなたの貯蓄が増えていくのを待つだけです。
そして、分散の重要性も忘れてはなりません。分散とは簡単にいうと、投資先を複数にすることです。投資先を複数にしておけば、ひとつの投資先のお金が減ったとしても、他の投資先のお金が増えていれば、マイナスをカバーできます。投資先によっては、Aという投資先とBという投資先が統計的に逆の値動きをするものがあります。例えば債券と株式は一般的に逆の値動きをするといわれています。どちらか一方に投資するよりも、両方に分けて投資をすることで、大損してしまうリスクがかなり軽減できるのです。分散は、お金を安全に増やしていくためには欠かせない戦略だといえます。
「投資信託」という金融商品なら、投資対象が「債券」「株式」とパッケージになってカテゴライズされています。運用のプロにお任せすることができるので、初心者でもはじめやすく、おすすめです。手間をかけずに時間をかける。このスタンスを守れば、あなたの貯蓄が増えていく確率はぐっと高まります。

この記事のひときわ#やくにたつ
・お金を増やすには、家計にあるお金を運用する
・投機ではなく、投資を軸にする
・手間をかけず時間をかける「長期・積立・分散」投資がおすすめ
・投資信託で運用のプロに任せる
編集協力=岩川悟(合同会社スリップストリーム)、洗川俊一、横山美和、撮影=樋口涼