これから副業で法人向けのビジネスを検討しているのなら、まず大切なことは「意識改革」。会社の看板もなく、実績もない状態から企業に仕事を任されるには、あらゆる手を尽くして「この人は期待できそうだ」と感じてもらう努力が欠かせない。そこで、副業を成功させるためのセルフブランディングについて著した『副業は自己PRがすべて』(プレジデント社)を上梓した野呂エイシロウさんに、クライアントに期待され、信頼されるためのテクニックを聞いた。
※【第1回】サラリーマンの副業は、「本業で磨いたスキル」で実現できるはこちら。
※【第2回】「自分は役に立つ人間だ」と発信せよ。副業戦略における最高効率の営業手段はこちら。
「会社の看板」がなくても信頼される自分を演出する
有名企業にいた人や、社内で高いポジションにいた人が会社を辞めてフリーランスになると、すぐに廃業してしまうことがあります。能力は確かで人脈も広いのに、仕事のチャンスを得ることができないのです。その原因がわかりますか?
単純な話です。ただ、「印象が悪いから」です。会社員時代のスペックの高さを鼻にかけたり、かつての取引先に営業をかけて「長年の付き合いじゃないか」と甘えた姿勢で接したりした結果、印象を悪くしてしまうのです。サラリーマン時代の「慣れ」を捨て、謙虚さを持ち、「信用をゼロから積み重ねなければ」と考える慎重さが大切です。
これは、みなさんが副業をはじめるときにも注意すべきことでしょう。これまで取引先や得意先とあなたが対等に接してこられたのは、あなたの後ろに「会社の看板」があったから。会社の存在が、あなたの信用を底上げしていたのです。
副業は自分の力で自由にビジネスをできる反面、あなたの信用を担保するものがありません。実績を積み上げれば信頼の根拠となりますが、実績が足りないうちは、いかに相手をあなたの演出力(セルフブランディング)で、「期待させ、信頼させるか」が重要なのです。
相手に期待と信頼を感じさせる5つのテクニック
では、具体的になにをすればいいのかというと、「自分だったら、どんな新規取引先の人を期待し、信頼するか」を洗い出してみるのがいいでしょう。まずは、愚直に「そういう人を体現する」ことです。そのうえで、私が実践している具体的なアクションを紹介しますので、参考にしてください。
1. シャツは3カ月、ジャケットは毎年買い替える
「第一印象」を軽視してはいけません。最初の印象が悪いと、その印象を改善するのは至難の業です。まず、肌や歯のケア、ヒゲやうぶ毛の処理など、努力でできる身だしなみは確実に整えましょう。
さらに、私が心がけているのは服装です。印象において重要なのは、「おしゃれ」よりも「清潔感」にあります。そして、清潔感の演出において「新しい白いワイシャツ」の右に出るものはありません。私はワイシャツを3カ月程度で買い替え、ジャケットもヨレがないよう毎年一斉に買い替えています。これを徹底していれば、服装で不興を買うことはまずないはずです。
2. 夕方以降の面会・会食では、男性も「お化粧直し」
サラリーマンの場合、退勤後の夕方以降に副業の面会や会食に行くケースも多いでしょう。そんなシチュエーションにおいて、女性はお化粧直しの習慣があると思いますが、男性の場合は無頓着な人がほとんどです。誰だって半日も経てばヒゲは伸び、汗と脂でシャツや髪は乱れて汚れています。必ず事前にメンテナンスをし、できればシャツも着替えを用意しましょう。
3. 自慢の「行きつけの店」をつくる
クライアントや仕事仲間、あるいは、その紹介で会う人を接待するとき、「どんな店を選ぶか」は重要なポイントです。食事がおいしく、接客や雰囲気のいい店で時間を過ごせば、その喜びがあなたの印象にプラスされます。それに、接待や幹事が上手な人には、「仕事もうまくやってくれそう」と期待するものです。
そこで私は、定期的に新しい店を発掘し、「いい店だな」と思ったら足繁く通いその店の「常連」になるようにしています。常連になってお店の人とも懇意にしていれば、「今日はすごく大切なお客様との会食なので、十分なおもてなしをお願いしますね」と伝えても、悪いようにはされないからです。
4. 陰口を言わず、むしろ褒めまくる
会話で相手の信頼を得るには「誰かを悪くいう」トークは厳禁。「このあいだ、こんなお客さんがいて困っちゃって……」などと笑い話のつもりで話しても、愚痴や陰口というのは相手の信頼を損ないます。陰口を聞くと、「こうやって自分のこともどこかでネタにされるのかな」と思ってしまうからです。
逆に「私は本当に人に恵まれています。先日仕事をした方も……」と、人を褒めるトークをすれば、相手は自分もそう思ってもらえる可能性を感じ、あなたに安心感を抱きます。
5. 言い方で「売れっ子」の印象をつくる
「空いているヒマな飲食店」と「混んでいる忙しい飲食店」があったら、きっと「忙しい店のほうがおいしいのかな」と思いますよね。これはお店に限らず人間だって同様です。忙しい「売れっ子」を印象づけたほうが、「そんなに仕事を任されているなら信用できる人だな」と感じてもらえ、仕事を頼みたくなるものです。
例えば、「なにか仕事はありませんか?」とか、「いつでも予定を合わせられますよ!」といった「ヒマ宣言」は避けましょう。むしろ、本当はヒマでも「7日の午後と8日の午前は空いています。あとは可能な限り調整します」と伝え、「後ろにも予定があるので、申し訳ありませんが20時には失礼します」といった“価値付け”をすることで「売れっ子」の印象を与えられます。
ただし、間違ってはいけないのは、仕事に真摯に取り組み、成果を出すことが大前提だということ。仕事がいいかげんなのに、予定が取りづらいだけでは逆に敬遠されてしまうでしょう。
楽しい時間を演出するカギは「聞く力」にある
最後に、最強のセルフブランディングをお伝えします。それは、「会話が楽しいこと」。あなたの実務能力への期待と信頼ももちろん重要ですが、さらに「あなたとまた会いたい」という相手の気持ちが加われば、長期に渡って仕事の依頼が途切れることはありません。
実は、「楽しい会話」に必要なことは、「あなた自身の面白さ」ではありません。「楽しいかどうか」を決めるのはあくまでも相手なので、あなたがどんなに「自分は面白い人間だ」と思っても、興味や関心が合わなければ仕方ありません。
それよりも大切なのは「相手の会話を引き出す力」です。質問や相槌、リアクションで相手により多くの話をしてもらいましょう。比率でいえば、3対7で相手が多く話していることが理想です。
相手の会話を引き出すためには、日頃から幅広いジャンルで雑誌や書籍を読み、「浅く広い知識」を持つことが大切です。例えば、野球の話がしたい相手に対して「実はルールもよくわかってなくて……」といってしまうと、会話が成り立ちませんよね?「お、そこそこ知っているね。でも、これは知らないでしょう?」と相手がウンチクを語りたくなるような“フリ”ができる程度の知識は必要です。
これからの副業は、「Webで完結させないサービス」が価値になる
ここまで、相手と膝詰めで対面する機会の多い、法人向けビジネスを前提にお話ししてきましたが、いまや副業のあり方は多種多様です。例えば、あなたの検討している副業が個人向けの「Excelのレクチャー」なら、Webのスキルシェアサービスなどを活用することで、ほとんどオンラインで完結できてしまうかもしれません。
私もコロナ禍では、多くの契約企業とのコンサルティング業務をオンラインで済ませることが多く、とても効率的だと感じていました。しかし一方で、「相手との関係性が深まりづらく、ビジネスが広がらないな」とも感じました。それが、コロナが落ち着いてクライアントに直接対面したら、どんどん会話が弾み、なかなか決まらなかった案件をスムーズに受注することができたのです。
オンラインよりも直接会って話したほうが、より強く喜びを感じ、相手への信頼やつながりを深めることができます。リアルのほうが、お互いを感じ取る情報量が多いこともありますし、コロナ禍を経て、「直接会うこと」の価値が高まっているのかもしれません。
そこで、オンラインで完結できるビジネスも、リアルで会う工夫を取り入れるといいと思います。オンラインをベースとした「Excelのレクチャー」を例にあげるなら、あえて「訪問指導」や「団体への集団研修」といったコンテンツを加えるのです。直接、クライアントに会うことでオンラインでは曖昧だった人物像が明確になり、「今度、知り合いの会社でも研修をやってみませんか?」といった新たな声がかかり、より高収益なビジネス展開につながることだってあるはずです。
この記事のひときわ#やくにたつ
・実績が足りないうちは、いかに相手を「期待させ、信頼させるか」が重要
・会話が楽しいと思ってもうらうために必要なのは「相手の会話を引き出す力」
・オンラインよりも対面のほうが、より相手への信頼やつながりを深めることができる
構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム)、取材・文=吉田大悟、撮影=塚原孝顕