10年後の2032年、20年後の2042年に発売される限定ビール、その予約方法は大切な人と未来の約束をすること。そのビールの名前は「約束のよなよなエール」。あいかわらず(いい意味で)「ぶっ飛んだ企画を立てるな」と思い、このアイデアが生まれたワケ、さらには、こうした自由な発想が生まれる源泉について、担当者に話を聞いてみた。

約束のよなよなエール
約束のよなよなエール


――早速ですが、「約束のよなよなエール」という企画について教えてください。そもそもどういった企画となりますか?
【塚本大司(たいしょ)】「約束のよなよなエール」がなんなのか、というところからお話しすると、10年後・20年後に発売される限定ビールです。購入には予約が必要で、その予約方法は「自分の大切な方と未来の約束をしてもらう」こと。その予約をどう証明するかというと、“タイムカプセル缶”の中に大切な方との約束を入れていただいて、10年後、20年後まで取っておいてもらう。それが予約の証となります。

塚本大司(たいしょ)さん
塚本大司(たいしょ)さん


【塚本大司(たいしょ)】そのタイムカプセル缶がどうやってもらえるかというと、ひとつはポップアップストアに大切な方と来ていただくワークショップ形式。約束を書いて缶の中に詰め、ご自身で“巻締機(まきじめき)”で閉じてもらう。缶切りを使わないと開かないので、それを10年後、20年後に開けていただきます。このポップアップストアは2022年8月24日に東京ソラマチ、8月26日~28日にららぽーと豊洲で開催しました。

ポップアップを8月24日に東京ソラマチ(R)ソラマチ広場で開催
ポップアップを8月24日に東京ソラマチ(R)ソラマチ広場で開催

ポップアップを8月26日~28日にららぽーと豊洲で開催
ポップアップを8月26日~28日にららぽーと豊洲で開催


【塚本大司(たいしょ)】両方とも東京での開催で来られない方もいらっしゃいますので、オンライン上でもタイムカプセル⽸への応募ができる特設サイトを設け、募集をかけました。当初、2週間くらいで先着2000人の枠が埋まることを想定していたら5時間で売り切れてしまって。急きょ、1000缶追加で抽選という形をとらせていただいて皆様の手に渡るようにしました。ただ、抽選で漏れた方もたくさんいらっしゃるので、それだけが予約方法というわけではなく、Twitter上で「#2032年の飲み約束」「#2042年の飲み約束」のハッシュタグをつけて、「大切な方とこういう予約したよ」と投稿していただくことで予約代わりになるという企画です(※予約締め切りは2023年8月17日)。

【河津愛美さん(まるちゃん)】途中で1000缶追加するという判断をしたのですが、実は約7000名の方に応募いただいて、大盛況でうれしくもあったのですが、すべてに応えきれなかったのが心苦しくもあり…。今後も大きくやっていけるように頑張りたいなとあらためて思いました。

河津愛美さん(まるちゃん)
河津愛美さん(まるちゃん)


――ポップアップの様子を拝見しましたが、約束の対象は恋人や親子など、どの層が多いとイメージしていましたか?実際、僕も手元にある缶を娘との約束にすべきか妻との約束にすべきか…。
【塚本大司(たいしょ)】ちなみに僕は家族で約束しました(笑)。

――それが正解な気がします(笑)。
【塚本大司(たいしょ)】実際に、恋人同士で来ているお客様もいらっしゃいましたが、ほとんどが親子、家族のお客様でしたね。でも、正解はないです(笑)。

――発売日が10年後、20年後という驚きの企画ですが、このスパンは、どういった背景から生まれたのでしょうか?
【塚本大司(たいしょ)】「未来の約束っていいよね」っていう話からまずスタートしていて、それが1年後、2年後だと普通じゃない?っていう。我々はブランドキャラクターとして“知的な変わり者”を掲げているので、「みんながやらないことをやりたいよね」ということで、ちょっと先の区切りのいいところで10年後、20年後を設定しました。

【塚本大司(たいしょ)】この企画に参加していただける方のインサイトとして、お子さんが大人になったら一緒に飲みたいという気持ちがあるのではないかと思っていました。なので、20年後を設定すると今年生まれたお子さんも法律上、一緒に飲めるということも考えて設定しました。また、ファンの方、インナーに向けても「20年後まで、よなよなエールをつくり続けよう」というブランド側からの約束も含まれています。

――ありがとうございます。では、ポップアップも含め、プロモーション施策や企画全体の狙いについても教えていただけますか?
【塚本大司(たいしょ)】企画全体の狙いからお話しすると、我々のメインのお客様が30代〜40代のお客様になると思っています。30代〜40代というとお子様もまだ小さくて、プライベートや仕事の面も考えることがとても多く、しかも最近この暗いニュースがある中で、多少なりとも将来に向けての不安を抱えている方たちでもあると思っています。

【塚本大司(たいしょ)】実際、暗いニュースというと、新型コロナウイルスの流行だったり、ウクライナの話だったり、日本だと高齢化社会で人口がどんどん少なくなって「老後に何千万円必要ですよ」みたいな。僕自身も不安を感じることが多くなったなと。そんななかで、我々よなよなエールが、“よなよなエールらしい”形で世の中に小さな希望を提供できないかと考えはじめた結果、それが「約束のよなよなエール」でした。

【塚本大司(たいしょ)】たとえば「週末、待ちに待った映画が公開される!友達と観に行こう」とか「来月、家族でキャンプに行こう」みたいな、そういう未来の約束ってなんか楽しくなる。ましてや大切な人との未来の約束は今に活力を与えてくれる、というのが企画の根本です。それが10年後、20年後のようなスパンだったら、もっとやる気につながるよね、という流れですね。

【塚本大司(たいしょ)】僕も実際に家族と「将来、一緒に飲もうね」と約束をしてみて、ほっこりしたというか、それを思い出すとそのときが楽しみになるんですよね。「早く来ないかな」「一緒に飲みたいな」と思って、その瞬間ちょっと活力が出る。小さいけど明るい光みたいなものが自分の前に現れる。そんな経験を自分でもしていて、この「約束のよなよなエール」というものを通じて、皆さんにもこういう気持ちを共有できたらいいな、というのが狙いです。そうなってくれたら、我々としては最高にうれしいですね。

――では、“タイムカプセル”に着目した理由は?
【塚本大司(たいしょ)】実はタイムカプセルがメインではなくて、約束のよなよなエールは「10年後・20年後に約束したよね」っていうことで楽しめる企画となっています。現時点を楽しんで、かつ未来も楽しめる、その今と未来をつなげるものがないか考えたときに、タイムカプセルが出てきたんです。しかも、缶をタイムカプセルにしたらずっと近くに置いてもらえてうれしいですし。

よなよなタイムカプセル缶
よなよなタイムカプセル缶

よなよなタイムカプセル缶に手紙を
よなよなタイムカプセル缶に手紙を


ーー確かに、そばに置いた状態で先がちょっと楽しみっていう距離感がいいですよね。喧嘩したときにこの缶がそばにあれば、将来に想いを馳せたりもできそうですし。では、あらためて企画の反響、手応えについて教えていただけますか?
【塚本大司(たいしょ)】そうですね、当初2000缶しか用意していなかったので、それが5時間でなくなり、さらに1000缶追加すると7000人の応募をいただいたことは、我々の読みが甘かったといえば甘かったのですが、そういう意味では予想以上の反響をいただいて…っていう定型文にありそうな感じなんですけど(苦笑)。でも、まさにそういう気持ちで、ありがたいなって、うれしい悲鳴みたいな感じでしたね。対応に追われたところもありましたので(笑)。

【塚本大司(たいしょ)】ただ、未来の約束が今に活力を与えるっていう話は普遍的なことだし、年代を問わないと思っていたので、「よかった、みんなわかってくれた」という気持ちでした。しかし、数としては本当に予想以上でしたね。

――ここからはクラフトビールの市場についてお伺いさせてください。まさに日本のクラフトビールの市場を牽引する立場だと思いますが、クラフトビール全体の市場についてはどう見ていますか?
【河津愛美さん(まるちゃん)】コロナ禍で、ご自宅でちょっといいビールを飲まれるようになった方が非常に増えたというのも追い風としてあったと思っています。重ねて、言葉として「クラフトビール」という呼び名が一般のお客様にもだいぶ浸透してきた感覚もありますし、醸造所数もすごく増えているんですよね。“マイクロブルワリー”と言われるような地方の小さなブルワリーもすごく増えているので、ブームが来ていてとってもうれしいなと私たち自身も受け止めています。ただ一方で、やっぱりビール市場全体で見るとすごく小さいっていうのはまだまだ現状だなとも思っています。

【河津愛美さん(まるちゃん)】コロナ禍で打撃を受けて撤退された醸造所もありますし、クラフトビールの業界の中でも品質維持のための横のつながりもまだまだ薄くて、あとは酒税が高いという事情もあるので、これからさらに成長させていくために、我々自身が矜恃を持ってさらに成長させていきたいという想いを持ってこれからもやっていきたいと思っています。

――コロナ禍で、家飲みに移行する中でちょっといいお酒を飲む方が増える一方で、毎日に近い頻度で飲むとなると値段が安いお酒を選んで飲むようになった方も増えたと思います。新しい習慣が生まれたことと、家飲みの頻度が上がったこと、いい点と課題、その両方がありそうですね。
【河津愛美さん(まるちゃん)】確かにそうですね。

――企画がユニークというか、いつも「ぶっ飛んでるな」と思いながら見ているんですが(笑)、アイデアや企画はどういうふうに生まれてくるものなのでしょうか?
【塚本大司(たいしょ)】僕は転職組でして、もともと映像業界でプロデューサーをしていました。CMのプロデュースをやっていたりしたので企画畑ではありましたが、ヤッホー(ブルーイング)のやり方は全然違いました。とはいえ、何か特別なことをやっているわけではないんです。普通の企画打ち合わせではあるんだけど…。

【塚本大司(たいしょ)】今回のタイムカプセルは「部署横断企画」といって、いろいろな部署の人たちでチームをつくって、「じゃあ今回はどんなことをやろうか」というところから始まるんです。集まったメンバーは僕みたいにクリエイティブの仕事をしていた人間もいるし、全くそういうことをやったことのない人間もいる。我々はチームで仕事をすることを第一に考えているので、そのなかでも一番大事にしているのは、みんなの意見をちゃんと聞き、目線を合わせながら、みんなの合意を取りながら進めていくこと。いわゆる広告業界でいう、クリエイティブディレクターがいて、「この企画はおもしろい、おもしろくない」みたいなジャッジメントをしながら進んでいくようなやり方ではないんです。その分、ものすごく時間がかかる作業で、おそらくは無駄も多いと思います。ただ、合意をとって進んでいくことで後戻りをすることなく、みんながすごく納得感を持って企画を進められます。たとえば、今回も途中から佐藤ねじさんという外部のクリエイティブの方に入ってもらったんですけど、そのときも我々のジャッジメントがぶれないっていうところがすごく我々らしいやり方なのかなと。

【塚本大司(たいしょ)】まず「否定をしない」という約束事があって、心理的安全性をいかにつくるかを大事にしています。だから、僕自身も新卒2年目の方とかから「たいしょの企画のここがすごく面白いよね。でもここはロジック的に成り立っていないよね」みたいなことを言われたりするんです(笑)。そういう感じで進んでいくと、若い人とかもすごく意見が言いやすくなる。若い人のフレッシュなアイデアを吸い上げるっていう環境がヤッホーにはあると感じています。

【塚本大司(たいしょ)】ユニークな企画を考えるために特別にやっていることはないのですが、みんなが意見を出し合って面白いものを積み重ねていくっていうやり方をしていますね。それで最終的なジャッジとして「よなよなエールらしいのか」というのを常にみんなが問う、そういう作業をしていった結果がそういう“ぶっ飛んだ”ものになっているのかなという気がします(笑)。

【河津愛美さん(まるちゃん)】たいしょが言ってくれたことも含めてうちの特徴として3つあると思っています。1つ目が事業のそもそもの目的のところ。弊社ってビール会社なのに変じゃないですか(笑)。どうして変かというと、ビールメーカーではなく、自分たちで「ビールを中心としたエンターテイメント事業」と名乗っているんです。事業の根幹が「人を楽しませること」であることが全社員に浸透しているので、単純にビールをつくって提供すればいいというだけではなく、「どう人を楽しませるのか」を常に考えるDNAが流れていると思います。

【河津愛美さん(まるちゃん)】2つ目は、イノベーションが起こりやすい風土があること。みんながニックネームで呼び合っていて、私とたいしょは10歳くらい歳が離れていますが、「たいしょ!」と呼んでいます。気軽になんでも言い合える、意見を出し合えるようなフラットな組織になっているので、イノベーティブなアイデアが出やすい環境になっています。

【河津愛美さん(まるちゃん)】そして3つ目は、私はこれまでいろいろな業界でプロモーションをやってきているのですが、意思決定が社長や管理職ではなくて、メンバーの合意で決めることです。一番大事にしているのが、「お客様が楽しめるんだったらいい」「顧客が正解を持っている」という考え方なので、「これで本当にお客様は楽しんでくれるのか、楽しんでくれるのなら誰が反対してもちゃんとやろう」という筋が一本通っている。これが、突拍子もない企画を世の中に出せている理由ではないかと感じています。

――確かに、「●●さん」という呼び方にはどうしても多少の上下関係が紐づいてしまうことを考えると、かといって名前呼び捨てにされるのはちょっと…と思うと、ニックネームというのは見事ですね。
【塚本大司(たいしょ)】壁を壊しますよね。ちなみに我々の社長は“店長(てんちょ)”と呼ばれています(笑)。

【河津愛美さん(まるちゃん)】すごく気さくですよね、「てんちょー!」って(笑)。オフィスでうろうろしているてんちょを見つけて、特に相談事項もないのにあいさつ代わりに「てんちょー!」って声かけたりします。てんちょも気さくなので、そのまま雑談で立ち話したり、とても心の距離が近いですね。

――ビールというより、楽しませるというのが大事なのですね。「いい会議の在り方」とか本にしたら売れるんじゃないですかね(笑)。
【河津愛美さん(まるちゃん)】ぜひやらせていただきたいです(笑)。

――一方で、そのやり方だと会議が長時間におよぶこともありそうですね。
【塚本大司(たいしょ)】【河津愛美さん(まるちゃん)】めちゃくちゃ時間かかりますよ。

【塚本大司(たいしょ)】僕が企画の沼にみんなを引きずり込むみたいな、“沼のヌシ”って呼ばれている感じで…。それをまるちゃんが「はい、出てきなさーい」って引き上げる(笑)。

――ユーザーを楽しませるという面でいうと、ユーザーの方へのヒアリングなど直接触れ合う機会を定期的に取られているんですか?
【塚本大司(たいしょ)】ユーザーインタビューはかなりやらせてもらっています。もちろん我々につながっていない方にインタビューすることもありますが、ありがたいことにファンの方がいらっしゃるのでその方たちにお聞きすることもありますね。インタビューは仕事の一部です。

――ちなみに、会議はちょっと飲みながら、それこそよなよなエールを飲みながら行ったりはしないんですか?
【塚本大司(たいしょ)】シラフでやってます。

【河津愛美さん(まるちゃん)】シラフでも、ばかなこと言うんですよみんな(笑)。

【塚本大司(たいしょ)】今回の企画で「アルコールを入れてやるか」って話も少し出たんですが、まあ最初はいいかもしれないけど、止まらない気がしますよね(笑)。あとはコロナ禍ということもあって、なかなか対面で打ち合わせできる機会がなかったんですよね。

――すごく勉強になりました。ありがとうございます。最後に、ファンの方へのメッセージをお願いします。
【塚本大司(たいしょ)】今回の企画につなげてお話しすると、我々はもう約束してしまったので(笑)、「20年後までよなよなエールをつくり続けます」と。まず我々が約束を守らなければいけないと思っているので、そこはもう安心してください、一生懸命やります。それから、20年後まで健康でいていただいて、いつまでもよなよなエールを飲んで楽しんでいただけると、我々としてはそれが本当にうれしいと思っています。20年後、一緒に乾杯しましょう。

約束のよなよなエール
約束のよなよなエール

「20年後、一緒に乾杯しましょう」とたいしょさん
「20年後、一緒に乾杯しましょう」とたいしょさん


――日々の仕事でも、終わったら「今日も頑張った」と缶のフタを開けよう、そういったことも日常の小さい未来ですが、活力だと思うので、その時間の概念を広げていくこの企画は、普段御社が届けているもののまさに延長線上にあるんだろうなと思います。
【河津愛美さん(まるちゃん)】弊社って独特だなと思っています。田舎の一ビールメーカーがどうしてここまで成長してきたのかというと、やっぱりファンの方に支えていただいて、まさに一緒に成長してきたという感覚があります。いわゆる大手様のような大きなプロモーションや、驚異的なCMみたいなことは一切できていないんですが、ファンの方が「おいしいよ」ってたくさんの方に勧めてくださって、飲んでくださる方や好きになってくださる方がどんどん増えてきました。ここまで私たちが成長することができたのはファンの皆様のおかげですし、「これからクラフトビール業界をもっと盛り上げます!」と言いましたが、それも一緒に助けてくださるのはファンの皆様だと思うので、本当に大事にしたい存在であり、仲間だなと思っています。

「ファンの皆様は本当に大事にしたい存在であり、仲間」と語るまるちゃん
「ファンの皆様は本当に大事にしたい存在であり、仲間」と語るまるちゃん


――やっぱり、受け取ってくれる方がいなければ成り立たないものですからね。
【塚本大司(たいしょ)】本当に、ミッションを共有する大切な仲間ですね。

今回の取材はリモート形式で行ったのだが、インタビュー当日、画面の向こうに登場したおふたりの表示名は「塚本大司(たいしょ)」と「河津愛美さん(まるちゃん)」。「なんとお呼びすれば…?」という最初の質問に「ニックネームで!」と即答いただきインタビューはスタート。イノベーティブなアイデアが出やすい環境への約束事には、インタビュー取材の空気感もいち早くなごませる効果があった。

この記事のひときわ#やくにたつ
・ニックネームで呼び合うなど心理的安全性を高める方法を考える
・みんなの合意を取り納得しながら物事を進めると後戻りしない
・企画に対してブレない軸を持つ

取材・文=浅野祐介、山本晴菜